【特集】#回遊ファンタスティック
近藤良平が埼玉を回遊!!
『埼玉回遊』とは、彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督である近藤良平が、文字通り「県内各地を回遊する」企画。これが、単なる「視察」にとどまらず、時にエアガンを構え、時に農作物を収穫し、東へ西へと移動すること25件! それらを素材に映像作品化し、更に舞台化にも挑むという、近藤らしい自由なプロジェクトとなった。正に回遊ファンタスティック!! その魅力がたっぷり詰まった公式ホームページを紹介しつつ、回遊の張本人・近藤良平に話を聞いた。
この企画の発案者は僕です。言葉も「埼玉回遊」という4文字がいいなと思って。「回遊」という言葉は、巡って、また戻ってくるニュアンスが気に入りました。劇場から出発して、各地を巡り、また劇場へ戻ってくる。回遊先の候補は他薦スタイルをとっていて、色々な人のおすすめを聞きたかった。当初は、訪れた先々で「私も紹介したい人がいる」みたいに、数珠つなぎの形が回遊っぽいとイメージしていて。
ーー正に回遊ですね。
でしょ!? 「近所に面白い場所があるよ」とか「面白い人がいるよ」とか。結果的には県内の様々なエリアへ行くことになり、教科書的に埼玉を紹介するのではなく、あまり知られていない場所や人と巡り会えた気がします。
ーー回遊しながら、埼玉県の広さを感じることは?
それは広いですよ(笑)、本当に広い。県内を回遊しながら気付いたことは沢山あって、まず電車の路線が多い。ローカルなものも含め色々な電車が走っています。それから、道路は川越市に向かって整備されている。これは江戸時代からずっとそう。更に川もいっぱい流れていて、埼玉は河川数が最も多い県なのだとか。多様な文化が川の近くで栄えている。埼玉は、本当に広いです。
ーー回遊時間も相当必要では?
片道2時間半とか平気でありました(笑)。
ーー近藤さんが彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督に就任されて1年半ほど経ちました。ご自身の内面などに変化はありますか?
ポジションが上がったとか、芸術に関して詳しくなったとか、そういうのは一切変わらないし、ある意味変わりようがない。そうだなぁ……。こんなことを言うと怒られるかもしれないけれど、僕は所属することがあまり好きじゃないんです。所属した途端に「全責任を負う」みたいな思考になってしまうので。でも、埼玉の人たちと沢山出会い、埼玉のことを考えない日はないんですよ。埼玉に関する様々な夢を日々思い描きます。その辺はすごく変わりました。『埼玉回遊』もそうですけど、さいたま芸術劇場と関わることで、「開封前の付録」みたいな、今後の楽しみが沢山できました。
ーーその、思い描いた夢のひとつが、24年3月上演の『埼玉回遊〈特大号!〉』と言えるのかも。
これは……、すごく悩ましいです。色々なことを考えます。現時点で具体的な内容は言えないけれど、「埼玉には美しいものが沢山あります」と、あまり説明っぽくなり過ぎないよう気をつけようと。いま舞台公演と並行して創っている『モドキとヤギのあてどない旅』という映像作品がありまして。
この映像が糸口になりそうだし、舞台版へ繋がっていくと思います。「ヤギは自由だから舞台上にあげにくい」とか(笑)、色々な悩みがあるけれど、それも含めて「どうぞお楽しみに!」と言わせて下さい。この企画の過程で感じるのは、回遊し続けることでアイテムが増えていく感覚なんです。例えば、僕が裸で回遊したとして、染物工房へ行くと服が出来上がる。次は足袋工房で足袋を履く。どんどん増えていきます。回遊先で手に入れた25個のアイテムを持っていれば、どんな舞台創作も大丈夫! という気持ちがありますね。
近藤良平
こんどうりょうへい◯東京都出身、南米育ち。振付家、ダンサー、コンドルズ主宰。彩の国さいたま芸術劇場 芸術監督。1996年にダンスカンパニー「コンドルズ」を旗揚げし、以降全作品の構成・演出・振付を手掛ける。2022年4月より彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督に就任した。
『埼玉回遊』公式ホームページ
『埼玉回遊〈特大号!〉』24/03/09〜10◎彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
ダンスブリッジ2023 近藤良平×マドモアゼル・シネマ『記憶の住人』23/12/23〜24◎神楽坂セッションハウス
コンドルズ
彩の国さいたま芸術劇場
構成・文◇園田喬し 撮影◇山崎伸康(近藤撮り下ろし)
【特集】#回遊ファンタスティック
SPAC秋→春のシーズン2023-2024 #1 観光演劇『伊豆の踊子』と回遊する旅
SPACが文豪・川端康成の短編小説『伊豆の踊子』を舞台化し、静岡県内5会場を回遊するツアー公演を行う。この情報を知った時、構想段階にあった特集#回遊ファンタスティックの輪郭が見えた気がしました。ぜひ取材したい! と思いたち、オファーを経て、いざSPAC-静岡県舞台芸術センターへ。電車で、現地で、作品で、それぞれ旅情を感じつつ、その「回遊取材」の様子をお届けします。
SPAC秋→春のシーズン2023-2024 #1
『伊豆の踊子』
台本・演出◇多田淳之介
作◇川端康成
映像監修◇本広克行
出演◇大内智美 春日井一平 加藤幸夫 河村若菜 桜内結う 鈴林まり 舘野百代 ながいさやこ 布施安寿香 三島景太 山崎皓司 渡辺敬彦(五十音順)
23/10/7、29、11/11〜12、18〜19◎静岡芸術劇場、12/15◎下田市民文化会館 大ホール、12/23◎修善寺総合会館 大ホール、24/2/10◎浜松市浜北文化センター 大ホール、2/25◎沼津市民文化センター 大ホール
ーーまずは実際の上演を観た多田さんの雑感から聞かせて下さい。
想像を超える盛り上がりを見せています。(旅芸人一座が登場する)『伊豆の踊子』なのでお座敷のシーンがあるのですが、観ている人が「お座敷の客」感覚で盛り上がれるようになっていて、鞄からペンライトを取り出して振っているお客さんも。
ーーええ!? 自主的に?
そうです。リピーターの方とか、SPACファンの方とか。演劇の客席でなかなか起きないことが起きていて、僕自身も「今日はどうなるかな?」と楽しんでいます。
ーー舞台上と客席の一体感。
すごいですよね。「こんなことある!?」と思いました。
ーー多田さんから見た、今作の見所は?
まず、やはり原作です。これでもか! というほどしっかり原作を踏襲していて、原作の物語が分かることを大切にしています。中高生鑑賞事業公演を沢山やっていて、「お話が分かり易かった」という感想が多く、とても好評です。かつ、いわゆる現代化というか、原作に描かれていない要素もかなり盛り込んでいます。大正を時代背景にした『伊豆の踊子』を今に置き換えるとこうなるのでは? みたいな。衣装も、大正当時の着物をイメージした役もあれば、原宿にいる若者のような服を着ている役も。そういう所も楽しんでもらっています。あとは、先ほどお話したお座敷シーンも見所のひとつかな。
ーー上演台本も多田さんが手掛けたそうで。執筆は久しぶりですか?
それこそ『歯車』(2018年/SPAC)以来かもしれない。宮城(聰)さんには毎回難しいオーダーを頂いています(笑)。
ーー今作は「観光演劇」と銘打たれています。「観光と演劇」は今後も盛り上がりを見せるテーマだと思いますが、観光演劇を創作する上で意識されたことは?
この上演を観ると伊豆を観光している気分になれること。原作がロードムービーの構造になっているので、登場人物たちと一緒に旅をしている気分に浸って欲しくて。それから、観劇後は実際に伊豆へ行きたくなって欲しい。そのふたつを成立させたいと考えていました。今回は本広(克行)さんに映像監修で入って頂き、上演中は常に映像が流れていると言えるほど、本広さんの映像をふんだんに使っています。僕も俳優たちと一緒に何度か現地を訪れたのですが、やはり良かった。大正時代からあまり変わっていない風景も沢山ある。旅館の方に話を聞くと、コロナもあり、伊豆の観光客は減少傾向にあるらしいのですが、いやいや、伊豆いいじゃないかと。この上演をきっかけに伊豆へ旅行してくれる人が増えるといいですね。物語が「ある」と「ない」では見え方が全く変わります。例えば、市民参加型のパフォーマンスを創る際、地元の人たちにとって日常だけれど、特定の思い出がある場所を劇にするんです。毎日バス停へ旦那さんを迎えに行き、手を繋いで帰宅する……みたいな話を聞くと、そのバス停自体が聖地に見えてくる。僕たちも、稽古前に行った現地と稽古中に行った現地では、全く解像度が違って見えました。
ーー今号の特集にちなみ、「回遊」と絡めて作品を語って頂けますか?
演劇を創る際、お客さんが移動しながら何かを観る「回遊型パフォーマンス」がありますよね。僕の作品にもそういうものがありました。『伊豆の踊子』とは関係ありませんが、Rhizomatiks × ELEVENPLAY が虎ノ門ヒルズでパフォーマンスをやっていて、それも回遊型でしたね。お客さんとパフォーマーが同じ空間にいて、360度どこからでも、自由に移動しながら鑑賞できる。あれも新しい回遊型パフォーマンスだと思います。ある程度の広さの劇場なら、そのスペース内を回遊していくのも面白いし、街へ出て歩く回遊の面白さもある。サイズ感を変えれば、東京から静岡へ移動する、みたいな回遊も可能かもしれない。移動することで何かを得る、体験することは、やはり面白いですよ。それから、フレーミングせず、お客さん自身が自由に選択して観られることも演劇の特徴であり、ひとつの回遊と言えるでしょう。
ーーなるほど、興味深いです。
『伊豆の踊子』に話を戻すと、今回は構造的に「舞台があり、客席がある」という機構なので、お客さんは回遊できません。ただ『伊豆の踊子』自体がロードムービー調であり、ずっと移動し続ける物語なので、いかに舞台上で移動するか? にチャレンジしています。
ーー移動シーンも多く、「歩くこと」は今作の特徴のひとつと言えます。そして、上演会場も一箇所にとどまらず、静岡県内を回遊する。
修善寺や下田は『伊豆の踊子』のご当地なので、面白い上演になると思います。浜松と沼津は原作に出てこないので、どう受け止められるか楽しみです。
ーー観劇と県内観光を組み合わせたり、ご当地再発見の機会になりそう。
はい、ぜひ旅行とセットで観に来て頂けたら。
ーー最後に。多田さんの「創作上の関心ごと」、これは沢山あると思うのですが、今日の回答として、ひとつ教えて頂けたら。
そうですねぇ……。お客さんの体験をどう創るか? について、ずっと考えてきたし、いまだに関心があります。コロナを経て、リモートで色々なことができるようになった昨今、「では、生の体験とは?」について改めて興味が湧いています。それこそ、家を出てから劇場までの道のり、とか、そういう体験そのものに興味がありますね。
多田淳之介
ただじゅんのすけ◯76年生まれ、千葉県出身。演出家、東京デスロック主宰。01年に東京デスロックを旗揚げし、以降全作品で演出を務める。創作活動と並行して、公共劇場の芸術監督や自治体のアートディレクター、フェスティバルディレクターなどを歴任。大学の非常勤講師を務めるなど、創作と教育、双方の現場で活躍する。
SPAC-静岡県舞台芸術センター
構成・文◇園田喬し 撮影◇三浦興一(舞台) 平岩享(人物)
【特集】#回遊ファンタスティック
ツアー型演劇『むかしむかし、あるお家に in 八王子芸術祭 ~アイコとユウスケのだいぼうけん~』
会場は高尾駅よりバスで10分程度。自然豊かな敷地内には様々な建物があり、更に劇場もある。この、ちょっと不思議な環境で上演された、観客参加型のツアー演劇『むかしむかし〜』は、小さなお子さんと一緒に「非日常」を楽しめる一作。観客が自由に回遊できるツアー演劇に「ファンタスティック!!」と拍手を送りつつ、その魅力をギュッと凝縮して紹介します。
ツアー型演劇『むかしむかし、あるお家に in 八王子芸術祭 ~アイコとユウスケのだいぼうけん~』
作・演出◇中村大地(屋根裏ハイツ)
出演◇上埜すみれ(鮭スペアレ) 本田椋(劇団 短距離男道ミサイル)/ 奥山樹生 久保田めい 齋藤龍之介 椙田航平 寺原航苹 野口沙希 堀慎太郎 箕浦妃紗 宮本尚和 森口夏希
23/9/23〜24◎星槎国際高等学校 八王子学習センター
まず最初に劇の説明を聞きます。みんな揃って舞台に上がるのもちょっとドキドキしました。自分が出演者側にまわるというか。
この回の参加者はお子さん連れの家族がほとんど。ここまで子どもメインの回遊型上演は珍しいかも。
この「ぬりかべを起こそう」というミッションが、いわゆるチュートリアルになっていて。
そうそう。みんなでダンスをして、ぬりかべを起こす。
ミッションをクリアして、妖怪たちからキーワードを集めていく。ここで「この上演はこういう風に遊ぶんだよ」という遊び方を教えてもらいました。
各ミッションを巡って行くと分かるけど、特徴的な場所が多かったよね。ここは和室というか、障子があって。
色々な建物があって面白いですよね。雪女さんとは影絵遊びをしました。
シチュエーションを活かしたゲームが各所で用意されている。
普通に楽しかったです。真面目に考えて回答しちゃいました。
クモ女さんはキャラが良かった!
マダム風、みたいな。
キャラがしっかりしていると楽しさが増しますよね。やっぱり非日常になりますし。
アヒルを助けるミッションは、子どもが絶対好きなやつ。
そう思います。でも「血の池からアヒルを救い出す」という設定が斬新。
「なぜ大量のアヒルが血の池に迷い込んだのか?」を想像すると……。
ちょっとホラー感ありますね(笑)。
進行役の俳優が「箱を開けてみたい人は手を挙げて!」と言ったら、子どもたちがこぞって手を挙げて。
キーワードを揃える時も「分かる人!?」と言うと、子どもたちが一斉に「はい!はい!はい!」みたいな。みんなの知識を集めて、共同作業で箱を開けるのが面白かった。
観客参加型の演目として、すごく成功している。
序盤に「妖怪が見える魔法を観客にかける」という設定があり、おしまいにその魔法を解くんですけど、子どもたちは寂しい気持ちになっちゃう。
「解かないでー!!」とお願いする子もいたね。
魔法をかけた瞬間に妖怪たちが現れて、魔法を解くといなくなる。そういう演出をしっかりしてくれたことも良かったです。
個性豊かな「妖怪たち」を演じた出演者の皆さまからコメントを頂きました!
Q1.公演を終えて一言
Q2.「ツアー型演劇」の感想・思い出
上埜すみれ(俳優/鮭スペアレ)
Q1.高尾の山奥にある学校で妖怪になれるなんておもしろそうすぎる! とわくわくしてプロジェクトに参加しました。学校に泊まり込んで稽古していたのですが、水の入っていない廃プールや大きなログハウス・劇場に囲まれ、食堂でみんな一緒にごはんを食べたりして、いつかの夏休みへトリップしてしまったような毎日でした。
Q2.影絵クイズで遊ぶ雪女をやっていたのですが、お客さんの反応に委ねる部分が大きかった分、何が起こってもなんとかするぞ~位のゆったりとした、「上演する」というよりお客 さんと「おしゃべりする」ような心持ちでいました。最初そっけなかった子が、帰り際ピタっとくっついてくれて、雪女の凍てついた心も融けました…。
本田椋(俳優/劇団 短距離男道ミサイル)
Q1.ぱちぱちの若いメンバーと一緒に合宿しながら作品を作ることができて、とても良い刺激を頂きました。会場の空間も時の流れを感じる非常に面白い場所で、パフォーマーとして遣り甲斐を感じる企画でした。雨でプランの変更などを余儀なくされたところもありましたが、無事にお客様に楽しんでいただけてホッとしています。
Q2.河童に扮して、お客様と皿回しに挑戦するという役どころだったのですが、皿回しに真剣に挑戦してくれたり、二日目にもう一度チャレンジに来てくれたり、ジャグリングの技に素直に喜んでくれる子どもたちの姿が印象的でした。コロナが明け、お客様と直接やり取りすることのできるツアー型演劇の素晴らしさを改めて実感しました。ただ、若干、大道芸人だと思われていましたが、私は俳優です(笑)。
[information]
劇団 短距離男道ミサイル39発目 改参公演「みちのく超人伝説Ⅱ奥州藤原篇『黄金黎明伝TSUNEKIYO X The Golden Dawn』-Episode 0- 愛、千年後のあなたへ」24/1/19〜3/16◎東北6県ツアー
奥山樹生(劇作家・演出家・俳優/企画山)
Q1.役を「演じる」という自覚はありながら、参加者のみんなと見えないものを信じて、遊んだ瞬間は紛れもない真実だということが強く感じられました。それは他の舞台でも同じことかもしれません。
Q2.「つまんない」「気持ち悪い」と、常にとげとげしい態度を取るお子さんが参加されていました。ほぼ一対一の状況でしたから、こちらが手を抜いては見抜かれてしまうと思い、より一層本気で遊びました。すると、向こうも楽しそうに応えてくれました。親御さんも嬉しそうで、やりがいがありました。
[information]
企画山『でかくまくべすのはなし(仮)』(王子小劇場 演劇ショーケース 見本市2024参加作品)24/1/5〜9◎王子小劇場
久保田めい
Q1.本当に妖怪たちが住んでるかもしれないと思えるような自然の中でお芝居ができてすごく楽しかったです! ツアー型観劇ということで、観劇してくださった人たちもそれぞれ違う思い出がきっとできたんじゃないかと思います。
Q2.ツアー中に自分のところに来てくれた子が、エンディングのときに私の名前を呼んでくれていてとても感動しました!
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八王子ユースシアター2023『すいもあまいもハみわけて』23/12/23◎八王子市学園都市センター
齋藤龍之介(劇団片倉天国)
Q1.公演がこんなにも満員御礼の成功を納めたことが嬉しかった。観に来てくださった方の中には雨のなかで行われた回にいらっしゃった方や、宿泊をされて会場を十二分に楽しんでくださった方がいたのだとか。それを公演終了後に知ってとても嬉しかったのを覚えています。
Q2.ならではなのかはわかりませんが、「妖怪が気持ち悪いから一緒に遊びたくない」と言った女の子がいて、まずい! 何とかしなくては! 僕は咄嗟に満面の笑みを浮かべて、何を思ったのか「たしかに~」と口にしてその場を去る。という失敗エピソードが…。それでも最後には楽しそうに参加してくれていて、ほんとにホッとした回なんかが。
椙田航平(俳優)
Q1.お客さんそれぞれが好きなペースで作品に参加できるシステムだったので、「自分たちで作品を前に進めるんだ」という緩やかで無理のないモチベーションがあったように感じました。そこに自然に乗っかる形で楽しく役を演じることができ、“お客さんと一緒に作品を完成させる”という演劇の基本的な在り方を再確認できました。
Q2.作品の前半で一度コンタクトをとったお客さんと後半で再会してお土産話を交わしたり、作品が進むにつれて少しずつ打ち解けていったりと、作品の中でお客さんと同じ時間を積み重ねながら関係性が親密になっていくような感覚が非常に新鮮でした。
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片隅企画『壁(仮題)』24/1/20〜21◎山小屋シアター(広島)、3/9〜10◎善通寺市民会館講堂(香川)
寺原航苹(小屋+kop)
Q1.普段子どもと会う機会がないので、正直ちょっと舐めてました。大人が用意した様々なルールを理解できるのか? と。ですが、理解できるのはもちろん、むしろ子どもの方が大人より能動的に楽しもうとするから、普段劇場の客席にいるような“大人”より、とても良いお客様でした。
Q2.終演後に「お客さんにバレないように移動する」ことが、普段舞台に立つときにはないことなので不思議な感覚、緊張感でした。人間に本当は見えてはいけない「妖怪」を演じていたこともあり、自分が星縒の森や自然と同じもので、いるんだかいないんだかフワフワするような……。
[information]
COoMOoNO『つかえない』23/12/13〜17◎ギャラリールデコB1
野口沙希(明治大学1年)
Q1.過ごした時間がとても楽しく、いい思い出です。高尾の、駅からも少し遠い会場だったので、泊りがけの公演期間は半分修学旅行のようでした。お客さんがそれぞれのびのびと楽しんでくださっていたのが毎公演嬉しかったです。
Q2.私の担当のミッションは必ず通られる場所ではなかったので、しばらくお客さんが来ないときもあり。そんな時はどうすればもっとお客さんが参加しやすくなるか、段取りの相談などをしていました。
[information]
八王子ユースシアター2023『すいもあまいもハみわけて』23/12/23◎八王子市学園都市センター
堀慎太郎(俳優)
Q1.お客様との会話が多い芝居ということもあり、芝居以外の部分(例えば一対一の会話や挙動、ジョークなど)でどのようにお客様を楽しませることが出来るか、お客様に無理を強いずに楽しんでもらうにはどうしたらよいのだろうか、ということに思いを巡らせた演劇作品でした。
Q2.お客様との距離が近い芝居ということもあり、度々、作品の本筋から外れた会話や質問をさせて頂いたのですが、その中でも「この豆腐小僧さん(私)、良い人っぽいから…」と小さな女の子から相手役の女優へ、私のフォローが入ったことが一番の思い出です。
[information]
片隅企画『壁(仮題)』24/1/20〜21◎山小屋シアター(広島)、3/9〜10◎善通寺市民会館講堂(香川)
箕浦妃紗(俳優・衣裳・メイク)
Q1.とても挑戦的な作品づくりだったなと感じている。負担が大きいこともあったが、だからこそ仲間たちとのコミュニケーションを自然と沢山とることが出来たと思う。作り方や作品の内容をバージョンアップしていきながら、このような公演を続けていくべきだと思うし、続いてほしいと強く思う。そして参加してくれる人たちがどんどん増えてほしいと願う。
Q2.普段舞台上で公演を行う時と比べて、観客の皆さんの表情をより近くで見ることができたことで、直に感情が伝わってきた。また、観客の皆さんとフラットな状態でお話しながら公演できたことは、ツアー型演劇ならではだなと強く感じた。
[information]
いわきアリオス演劇部U30本公演 24/3/16〜17◎いわき芸術文化交流館アリオス
宮本尚和
Q1.山奥での公演だったのでどうなることやらと思っていましたが、びっくりするほど大盛況で、やりがいがありました。一緒に稽古してきた人たちが、それぞれ本番の日のメイクで妖怪へと様変わりする感じが面白かったです。
Q2.ある程度セリフとお話の流れが決まっているミッションを担当していたのですが、きてくれるお客さんによってその場で展開が変わることが多々あり、面白かったです。特に、子供たち相手のときには、毎回どうなるのか楽しみでした。
[information]
八王子ユースシアター2023『すいもあまいもハみわけて』23/12/23◎八王子市学園都市センター
森口夏希
Q1.作品の一部となって演劇を楽しめるので、お客さんは五感をいっぱい使って作品を受け取めてくださったのではないでしょうか。私自身もお客さんとのコミュニケーションを通して役の一面をたくさん引き出してもらいました。毎公演何が起きるかわからないワクワク感がたまりませんでした。
Q2.お客さんが行きたい場所を選ぶので、自分が演じる場所に全く人が来ないという状況もありました。来てもらうために段取りにない事をして「ここで面白いことをやっているよ」とアピールするなど本番中も工夫の連続でした。
吉見茉莉奈
よしみまりな◯90年生まれ、愛知県出身。大阪、名古屋、東京の小劇場で活動後、現在は映画やCMを中心に出演。出演作『ナナメのろうか』『啄む嘴』『INTERFACE 知能機械犯罪公訴部 -ペルソナ-』など。
構成・文◇園田喬し 撮影◇鏡田伸幸(舞台) レポーター・イラスト◇吉見茉莉奈
【特集】#回遊ファンタスティック 場所の力を借りて創作する「スイッチ総研」
今号の特集において、象徴的な存在の一団体だと思っています。全国各地を回遊し、その土地ならではのオリジナル演劇を創作・上演する団体「スイッチ総研」。上演形態も回遊スタイルが多く、自由に観て、何度でも楽しめることが特徴です。今回はスイッチ総研のYouTube動画を元に、所長・光瀬指絵による「スイッチ解説」をお願いしました。スイッチ上演を擬似体験する気持ちでご一読ください。
「スイッチ総研とは?」の前提として、まず「スイッチとは?」について申し上げると、「お客様がスイッチを押すと『何か』が起こる3秒から30秒の小さな演劇」と説明しています。この場合のスイッチは物理的なものではなく、そこに書かれている「お願いごと」をお客様に実行してもらうことで発動する一瞬の演劇です。そういう演劇を創っているチームが「スイッチ総研」です。固定メンバーは、所長の私、光瀬と副所長の大石(将弘)の2名、そして契約所員と呼んでいる常連メンバーもいて、その全員が俳優なんです。創作や準備なども全て俳優が行っていて、呼んで頂いた各地様々な場所へお邪魔して、そこにある、もの、景色、歴史などの力をお借りして、そこでしか上演できない演劇を創作しております。
これは、浅草にある遊園地「浅草花やしき」での上演映像です。先ほどお話した「お願いごと」と、スイッチが発動した様子をご覧頂けると思います。この日は貸切ではなく、遊園地に遊びにいらした方ならどなたでもスイッチ演劇を観られるというおおらかなイベントでした。花やしきに限らずどの会場でも同じことですが、その場所にいらっしゃった方々の本来の目的の妨げにならないよう演劇上演を成立させることに心血を注いでいます。乗り物に乗ろうとしたらスイッチが発動しちゃって「??」とならぬよう気をつけつつ、「演劇って意外と面白いね」「俳優って素敵だね」と思ってもらえたら嬉しいです。内容も、場所と無関係のものではなく、花やしきの歴史や目の前の風景、乗り物の特徴などを取り入れています。
この動画は、私たちが「商店街型」と呼んでいる上演をいくつかまとめました。下北沢での上演は、普段のスイッチより「演劇に寄っている内容」が多めですね。大山はきゃらぶきが名産なのでそれを取り入れたり、景観を利用したり。豊橋でのスイッチは、加藤啓さん、柴幸男さんなど、愛知県出身の方々にご出演頂きました。やはり、その土地に縁のある方に出て頂きたくて。この時は劇場にもスイッチを設置しましたが、地元の商店街さんにもご協力頂き、より街に密着した上演になりました。
スイッチは大きく分けて3つに分類しています。スタンダードなのは「点在型」。公園のような一定の敷地内に複数のスイッチを点在させ、好きなものを好きな順番で観て頂くもの。次は先ほどの「商店街型」。これも自由に観て頂けますが、スイッチの設置場所をお知らせして、スタンプラリーのように観て頂くスタイル。その際は地図などもお渡ししています。最後は「ツアー型」。スタートとゴールがあり、グループで移動して頂きます。肝試しみたいな感じで、途中にスイッチがあり、それらを押しながらゴールへ到達する。ツアー型上演はスイッチ全体がひとつの物語で繋がっていることが多いです。「回遊」という言葉で分類するならば、点在型と商店街型は正に回遊ですね。
スイッチ総研を始めた頃は、今のように全国各地へ呼んで頂けると思っていませんでした。行く先々で場所の力を借りて創作するので、オリジナルのスイッチは700〜800種くらいあると思います。総数は途中から数えるのを止めました(笑)。誰もが知っている有名な特産品・名所から、「このビルの隙間、面白いよね!?」みたいな、誰も知らないようなスポットまで、あらゆるものが私たちの創作対象になります。地元の方々は特に面白みを感じていなくても、私たちには面白いので、そういうものもスイッチにしています。その土地の人たちと一緒に創らせてもらえるのはすごく楽しいし、これからも色々な場所へ行きたいです。
お客様が各スイッチに集まってきて、俳優が各所で上演する。それを観たお客様が笑ったり喜んだりする。その同時多発的風景を、私が俯瞰で見ることがあります。その景色自体が本当にクレイジーで、かつ最高にピースフル! よくスイッチ自体がクレイジーだと言われるし、私自身もそう思いますが、そのスイッチを押して下さるお客様方も十分クレイジーでかっこいいですよ!! と思っています。
自分は押さなくても、遠巻きに観て楽しみたいお客様もいらっしゃるし、「自分はいいよ」と言って離れた方が、少し経って「……やっぱり押してみたい」と戻ってきて下さることもあります。通常の演劇公演はお客様と目を合わせることはないのですが、スイッチ演劇はお互い丸見えなので、「いま押してくれたあなたのためだけにやります!」という上演になり、出てくれた俳優も、とてもハードな現場にも関わらず「すっごく楽しかった!」と言ってくれます。そういうことが同時多発的に起こり、「なんてクレイジーでピースフルな光景だ!」と、拍手を送る気持ちで見ています。
よくお客様に「これ何ですか?」と聞かれるのですが、私は「演劇です。全員俳優です」と答えます。「俳優は、自身の身体と心のみで一瞬にして世界を構築することができるんです。かっこいいですよね? 狂ってますよね!?」と心の中でいつも思っています。一瞬の演劇に触れて下さった方が「演劇って結構面白いなぁ」と感じて下さるなら、本当に嬉しいです。私たち自身、演劇を信じているので「演劇に恥をかかせる訳にはいかない」と常々思っています。同時に、全ての方が演劇を好きな訳ではないと思っているので、想像力、配慮、そして覚悟を持って、創作や上演を続けていきたいと考えています。
光瀬指絵
みつせゆびえ◯俳優。「ニッポンの河川」メンバー、スイッチ総研所長。舞台を中心に幅広い表現の場で活躍する。2006年に福原充則らと共に「ニッポンの河川」を旗揚げ。2015年には大石将弘と共にスイッチ演劇を上演する団体「スイッチ総研」を結成した。
構成・文◇園田喬し
【特集】#回遊ファンタスティック アンケート企画/回遊するさんぴんを「さんぴんと回遊」する
俳優の佐久間麻由が新米編集者に扮して、これまで様々な土地で回遊しながら作品を創ってきたさんぴんの皆さまと、これまでのさんぴんの軌跡を「回遊」することで、さんぴんの魅力に存分に迫りたいと思います! 4人4様の言葉で綴っていただいた軌跡、隅々までお楽しみください!
1人目のQ&A回答者は、板橋駿谷さん
「さんぴんとは?」を読者へ分かり易く説明するとしたら…?
A.
“君の人生の断片は、誰かの人生の本編だ”がコンセプト。色々な土地に滞在し、その土地で生活している方々にインタビューをし、思い出を引き出す。そして、その思い出をお借りし、様々な表現方法で舞台に立ち上げる。その時、その土地でしか生まれない物語を紡ぎ、その土地にプレゼントする気持ちで活動しています。生きている事自体が物語になるので、否定せず全てを肯定し、思い出を物語としてお祭りにして昇華したい。メンバー全員で脚本、演出、出演、照明音響のオペレーション、客入れ誘導もします。メンバーは、それぞれ違う劇団に所属してるので、色んな表現方法で溢れているのも特徴です。法被姿の俺たちとゴザがあればどこでも舞台になる!!
創作の場で出逢ったさんぴんの皆さんには、それぞれ違った優しさや繊細さを感じています。板橋さんを通して見る、福原冠さんの優しさや繊細さについてお聞かせください。
A.
冠ちゃんは否定をしない。何でも楽しむ力を持っていて、ゆっくりと物事を見つめ、思いもよらない発想で作品を作る。ギリギリまで台本と表現方法も粘って、作品を色濃くしていく。他のメンバーの作品を見て「俺には思いつかなかった」と、いつも言っているけど、冠ちゃんが一番突飛な発想してる(笑)。さんぴんのアイデアマンです。
さんぴん旗揚げ巡業公演『NEW HERO』で起こった珍事件や、一番印象に残っていることを教えてください。
A.
印象的だった物語は、東京タワーの下で路上演劇(しかもアングラ演劇)をやった人の話。その人に、演劇の内容を聞いたが、物語は滅茶苦茶。でも、こんな感じかもね。とメンバーで話し合いながら作りました。舞台で披露した時、ご本人が見てくれたので「どうでした?」って聞いたら、「その通り!」って、言われました(笑)。港区のナウシカが、怒って赤くなってる東京タワーを青くして怒りを鎮めようとするところに、謎の組織が乱入してくるって内容です(笑)。でも、この作品を作れたおかげで、誰かのお話しがきっかけになり、お祭りなんかも、作られていったんじゃないかと思えるような体験ができました。メンバー全員、見てきたものや、経験し、感じたものが同じなので、圧倒的に作ってる時が楽しい。この箇所は、野田さん(野田秀樹)みたいに! 快快みたいに! ままごとみたいに! など、それぞれがやりたい事が沢山ある事が俺らの武器だと、旗揚げ公演から感じる事ができたのがとても心に残っています。
板橋駿谷
(俳優/劇団「ロロ」所属)
2人目のQ&A回答者は、北尾亘さん
様々な土地を回遊したことで得た「気付き」があれば教えてください。
A.
訪れたそれぞれの土地には人々や歴史と実に沢山の魅力があります! さんぴんをやってて面白いのは、その方の記憶や土地に対する想いが、インタビューさせてもらう中でどんどん色鮮やかになっていく感覚がある事です。その方と一緒に想像の中で過去も現在も巻き込んだその土地を回遊するような楽しさがあります!
創作の場で出逢ったさんぴんの皆さんには、それぞれ違った優しさや繊細さを感じています。北尾さんを通して見る、板橋駿谷さんの優しさや繊細さについてお聞かせください。
A.
声もカラダも思いやりも視野も、とにかくデッカいアニキ! いつだって場の空気や展開を見極めて嫌われ役をかって出て、でもポジティブな方向に持ち上げます。優しさと力強さ、繊細さと情熱と、すごい振れ幅を使い分ける懐の深さが魅力。
日本縦断!秋祭り巡業公演『NEW HERO〜突撃!隣のプレシャスご飯、デリシャス!!〜』で起こった珍事件や、一番印象に残っていることを教えてください。
A.
久しぶりのさんぴん! そして初の巡業公演という事で相当に意気込んでおりました。そして同じぐらいに賑やかにテンパっておりました(笑)。特に最初の巡業先「北海道」では上演空間の特殊さも相まって、執筆・演出・稽古・台詞と段取り暗記とギリギリの闘いが続きました(それでも笑いと大声は絶やしませんでした!)。中でも、執筆に一際時間を要する冠さんは睡眠時間も削りまくり背水の陣。迎えたゲネプロ30分前。手前の稽古でセリフも段取りもてんやわんや過ぎたせいか、恍惚の表情でギターを弾き始めました。この時ほど「休め!!!」と思った事はないです(笑)。これがさんぴんstyleです!
北尾亘
(振付家・ダンサー・俳優/ダンスカンパニー「Baobab」主宰)
3人目のQ&A回答者は、永島敬三さん
さんぴん流「回遊の魅力」を教えてください。
A.
演劇の巡業として色々な土地にお邪魔するのですが、滞在し演劇とは直接関係ないと思われることをすること(陶芸を学んでみたり、資料館に行ってみたり)で、奇跡のような出会いが今までいくつもあり、結果それが作品に大きく影響してきました。単純に作品を上演するだけでなく、その土地に生きる人、生きてきた人、今もあり続ける場所やモノを色んな角度から知ることは、さんぴんの創作の特性上とても大切な行動です。方々を回遊し、上演だけではない思い出が自分たちの中に蓄積していって、行ったどの土地も特別な場所になっていくことが魅力だと思います。
創作の場で出逢ったさんぴんの皆さんには、それぞれ違った優しさや繊細さを感じています。永島さんを通して見る、北尾亘さんの優しさや繊細さについてお聞かせください。
A.
北尾くんが凄すぎる振付家・ダンサーであることは当然として、さんぴんで作る北尾くんの作品の手触りが僕はとても好きです。インタビューをした方への敬意や、優しさに対して、絶対に嘘をつかず、取りこぼすことないようにと創り上げる北尾くんの作品は、どれも心に響くものばかりでした。常に人との間に優しい余白を残してくれるのが、北尾亘という人なんだと思います。
劇作家・演出家の福原充則さんとタッグを組んだ『東京キャラバンin岡山』での、創作期間や本番で起こった珍事件や、一番印象に残っていることを教えてください。
A.
創作から上演までとにかくバタバタだったので、正直記憶の大部分が飛んでしまっているのですが…。覚えているのは、本番だけでも一日で3回上演というタイトなタイムテーブルにも関わらず、その合間に30分ほど倉敷の美観地区をチンドン屋として練り歩くという本当に休みなしの状態でした。そのチンドン屋の時に、皆それぞれ不可思議な仮装をしたり楽器を持ったりしていたのですが、一人の俳優さんが生のサバを持つことになって、最初は「面白いじゃーん!」なんて盛り上がっていたのですが、日が暮れるにつれ徐々にその生臭さに皆んなが気分を悪くしていったのが良い思い出です。創作上としては、さんぴんの作り方を福原さんと一緒にできたことは大きな経験でした。福原さんも一緒にインタビューに行ったり、書いてみたものを一緒にブラッシュアップしたりと、4人だけでは出来なかったことをできたことは有り難かったです。
永島敬三
(俳優/劇団「柿喰う客」所属)
最後となりますQ&A回答者は、福原冠さん
様々な地域に出向いて開催しているWSの活動も魅力的ですが、WSを開く上で大切にしていることがあれば教えてください。
A.
さんぴんの創作方法を紹介しながら実際に演劇を作り演じてもらう「聞く、話す、物語る!さんぴんの演劇創作ワークショップ」を2022年から各地で行っています。さんぴんを始めていろんな方にお話を聞く中で、どんな人にも生活はあって、それは些細なことでも祝福すべき物語なのだと知りました。誰かの記憶を形にして残すということは難しくもありますが喜びと感動に溢れています。そのことを上演とは違う形で共有したいと思い始めました。また、台本がなくても演じたい人がいれば演劇は作れるという体験をしてもらいたいということもあります。記憶とは宝物であり、責任も持って扱わなくてはいけないということを大切にしながらWSをすすめるよう心がけています。
創作の場で出逢ったさんぴんの皆さんには、それぞれ違った優しさや繊細さを感じています。福原さんを通して見る、永島敬三さんの優しさ・繊細さについてお聞かせください。
A.
アイディアも、違和感も言語化できて、極めてフラットに、とても自然に対話をしながら創作をする永島敬三。素朴に素敵だなあと思います。優しさとは遠慮することではなく、きちんと向き合うことなのだと教えられている気がします。話しかけやすいということはそれだけで才能だなあ…。それに加えての脳みその回転の速さと出力の大胆さ、そして瞬発力。ため息でます…、すごい!
『ドリーム夢街道★夏祭り巡業 2022「ALL TIME HERO‘S ~東西南北プチョヘンザッ‼」in三重』で起こった珍事件や、一番印象に残っていることを教えてください。
A.
4年ぶりということもあり、やれること全てやろうという気持ちで臨んだ巡業でした。毎日動画を上げて、それをつなげたら一本のドキュメンタリー映画のようになるとか、公開稽古や色んなワークショップを開いたり、陶芸体験をしたり、舞台上のやぐらに車で突っ込んでみたり、思いついたことは全てやりました。何よりも忘れがたいのは本番の3時間前から始まるロビーでのお祭りです。特設ステージを設け、さんぴんがMCとなり一般の方々のちょっとした自慢や特技を披露していただく『すごくなくて全然いい!アナタのおはこ、少々Show me ショー!!』はとにかく盛り上がりました。思い付いたはいいものの、コロナ真っ只中ということもあり果たして参加してくださる方はいるのかと不安でしたが、蓋を開けたら気合の入った歌や踊りや音楽のオンパレード!! 沖縄で出会ったエイサーのチームの方が急遽参加してくださったり、このままこれでお終いでいいんじゃないかという盛り上がり。エイサーに感動して泣いている敬三を見たのも忘れ難い瞬間です。
福原冠
(俳優/劇団「範宙遊泳」所属)
特別動画!
『さんぴん15minutes会議』
さんぴん
2015年3月、板橋駿谷、北尾亘、永島敬三、福原冠の4人の表現者によって結成。『君の人生の断編は、誰かの人生の本編だ』という考えのもと、「土地」に着目しながら「人」を描く。その土地に滞在し、その土地の空気を吸いながら、その土地でしか生まれ得ない「物語」を伝える、オルタナティブ且つアクティブな現代版旅芸人チーム。日本各地に散らばるささやかで特別な人生の“断片”を集め“ひとつの人生”を紡ぎ出す。フィールドワーク、インタビュー、台本の作成、演出、作詞、作曲、振付、音響・照明の操作、本番の受付、会場整理も4人で行う独自のスタイルで東京を飛び出し、仙台、三重大学、札幌、那覇、北千住と巡業を続け、2019年には東京キャラバンin岡山に参加、2022年には今までのエピソードのオールタイムベスト版を上演した。
[information]
さんぴん:KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『ジャズ大名』
23/12/9〜24◎KAAT神奈川芸術劇場 ホール
24/1/7〜8◎神戸文化ホール
24/1/13〜14◎刈谷市総合文化センター
24/1/20〜21◎高槻城公園芸術文化劇場
さんぴん:ワークショップ『聞く、話す、物語る!さんぴんの演劇創作ワークショップinキビるフェス』
24/2/3〜4◎ぽんプラザホール
福原冠:ワークショップ『演劇の手前』
24/2/2◎ぽんプラザホール
【編集後記】演劇ターンvol.3で、初めて新米編集者として1つのコーナーに関わらせていただいたのですが、有難いことに、「今号も…」と嬉しいお声かけをいただきました。ちょうど『ジャズ大名』という作品のお稽古でさんぴんの皆さんと創作を共にしていた私は、皆さんの魅力に日々触れるうちに、回遊する「さんぴん」の魅力に迫りたくなり、この企画を発案させていただきました。どうかたっぷりと届きますように。(佐久間)
佐久間麻由
俳優/新米編集者
16歳より、表現の世界に身を置く。近年は、俳優だけでなく企画・プロデュースの立場としても演劇公演に携わる。2022年には、脚本家・演出家の福原充則らとスリーピルバーグスを旗揚げ。主な舞台作品は、爍綽と『デンジャラス・ドア』、画餅『ホリディ』、贅沢貧乏『わかろうとはおもっているけど』、スリーピルバーグス『旅と渓谷』、劇団かもめんたる『宇宙人はクラゲが嫌い』、ベッド&メイキングス『墓場、女子高生』『こそぎ落としの明け暮れ』、ハイバイ『て』、HEADS『を待ちながら』、など。
[information]
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『ジャズ大名』
23/12/9〜24◎KAAT神奈川芸術劇場 ホール
24/1/7〜8◎神戸文化ホール
24/1/13〜14◎刈谷市総合文化センター
24/1/20〜21◎高槻城公園芸術文化劇場
企画・構成◇佐久間麻由 構成◇園田喬し
さんぴんプロフィール写真(団体・各4名)撮影◇朝岡英輔
【特集】#回遊ファンタスティック 劇場へ行こう 〜都内回遊編〜/土屋杏文(青☆組)
今号の「劇場へ行こう」は特別編です。特集にちなみ「都内の劇場を回遊してみよう」と、シンプルな発想から実現した回遊企画。劇団「青☆組」の俳優・土屋杏文にモデルをオファーし、幾つかの劇場の近隣を散策してみました。
そこへ行くと、何かが、起こり、変わり、感じとれる。劇場はそういう場所です。今回は1日かけて土屋杏文と都内劇場を回遊します。さあ、劇場へ行こう!!
土屋 あうるすぽっとは、私が青☆組に入団して初めて出演したミヒャエル・エンデの『モモ』という作品で、舞台に立たせて頂きました。「子どもに見せたい舞台」という企画で、2016年夏のことです。広々としたステージと楽屋が思い出深く、ロビーではかわいいフクロウがお出迎えしてくれたり、遊び心に溢れた劇場という印象があります。
土屋 シアターグリーンって、劇場へ行くまでの道のりや帰り道で、考えごとをしたり、余韻に浸ったりできるのがいいですよね。ちょっと静かな立地で、作品の余韻に浸りながら帰る……みたいな。
土屋 東京芸術劇場は学生時代に最も通っていた劇場。いまだにそのことを思い出します。特に観劇目的じゃなくても、作品を観た気分になれるというか、「今日は劇場へ来た」という感覚をしみじみ味わえる場所だと思っています。開放的な雰囲気も好きです。(撮影協力◇東京芸術劇場)
土屋 この階段を見て、「ここ登ったなぁ〜」と懐かしくなりました。シアター風姿花伝は私の人生において分岐点となった劇場。当時通っていたENBUゼミナールの卒業公演で舞台に立ち、それを観に来た(吉田)小夏さんから「青☆組のリーディング公演に出ませんか?」とお誘いを受けました。その後、青☆組のワークショップオーディションを受け、劇団員になった……といういきさつです。
土屋 学生時代の私にとって、本多劇場は「奮発して観に行く劇場」でした。早く着きすぎて、よく劇場下のヴィレヴァンで緊張しながら時間を潰していました。やはり、誰しも一度は憧れるのが本多劇場だと思います。中学生の頃、『下北サンデーズ』というテレビドラマを観て、本多劇場が映る度に「絶対ここに立つんだ!」と思っていました。
土屋 こまばアゴラ劇場には「ここに来れば誰かしら知人に会える」という安心感があります。私自身は組員歴が浅いため、青☆組がアゴラで行った公演に参加していないのですが、稽古場を使わせて頂いたり、やはり、すごく身近な場所です。
土屋 改めて「都内にはこんなに沢山劇場があるんだ!」と思いました。街中を歩いていると、劇場がポンッと現れる。その感覚はやっぱり楽しいです。もちろん劇場の場所は知っているけれど、歩いた先に劇場を見つけるワクワク感も「回遊」の魅力かもしれません。劇場によって、上演される演目はもちろんのこと、街の雰囲気や場所の雰囲気も全く変わるので、それも好きですね。
土屋 私の次回出演作は、青☆組 vol.26『十二月八日』になります。日米開戦の一日、昭和16年12月8日を切り取った作品で、ある街に住む主婦を演じます。戦争をモチーフにした一作ですが、辛い側面だけでなく、その時代を懸命に生きる人々の明るさ、強さなどを大切にした作品創りを心がけております。どうぞご期待ください。
土屋杏文
つちやあずみ◯91年生まれ、静岡県出身。俳優、劇団「青☆組」組員。学生演劇を経て、上京後は都内で活動。15年より青☆組に参加し、以降多くの劇団公演に出演する。特技は歌・空手。
構成・文◇園田喬し 撮影◇山崎伸康(人物)
#ココカラリスト
2023年12月中旬から2024年2月中旬の公演リンク
【特集】#回遊ファンタスティック 実例「ファンタスティック!!」回遊プラン
#ココカラリストに掲載した公演情報を元に、編集部おすすめのファンタスティック!!な回遊プランを考えてみました。皆さまの観劇が豊かに彩られることを願いつつ、よろしければ「回遊(はしご観劇)」してみて下さい。
【23年12月16日(土)】
MWnoズ『人ぐらむ人』13時~
青☆組『十二月八日』18時~
【23年12月17日(日)】
MWnoズ『人ぐらむ人』13時~
果てとチーク『グーグス・ダーダ』17時~
横浜&都内で観劇するプラン。天気が良いと移動も気持ちいいので、当日はぜひ晴れて欲しい。桜木町駅へ向かい、『人ぐらむ人』を観て、終演後は周辺を散策するのも楽しそう。次に向かうのは、青☆組なら小竹向原駅、果てとチークなら北千住駅。個人的には17時開演『グーグス・ダーダ』を観て、北千住の立ち飲み屋さんで一杯飲んで帰りたい(笑)。上記3演目を想定しているので、小竹向原&北千住のプランもオススメです。
【23年12月24日(日)】
ZURULABO『SUZUKA博士の異常な』15時~
近藤良平×マドモアゼル・シネマ『記憶の住人』18時~
ギュッとコンパクトにまとまった優良プラン。中野駅からテルプシコールへ。15時開演なので、のんびり中野ランチを堪能できます。終演後は東西線で神楽坂駅へ。時間に余裕があれば、神楽坂のカフェで一息。セッションハウスで観る近藤良平は絶対にエモいです。メリークリスマス!!
【24年1月8日(月・祝)】
20歳の国『長い正月』13時~
劇団チャリT企画『ネズミ狩り 2024』17時~
駒場東大前駅が最寄りのこまばアゴラ劇場と、池ノ上駅、又は下北沢駅が最寄りのスズナリをはしご観劇。井の頭線沿線なので、乗車時間2〜3分ほどで到着します。健脚の方なら徒歩移動も十分可能。こちらは30分強、くらいでしょうか。ただし、目印が少ないルートのため、地図アプリ片手にのんびり歩くことを推奨。下北沢は老若男女が集う活気ある街なので、終演後のお楽しみも沢山ありますよ!
【24年2月7日(水)】
ほろびて『センの夢見る』13時~/19時~
KAAT『箱根山の美女と野獣』『三浦半島の人魚姫』14時~/18時半~
東京芸術劇場とKAATを行き来するプラン。副都心線に乗ると直通できちゃう有り難さを噛みしめつつ、どちらを昼公演にするか? は皆さまのご判断で。移動時間に、いま観劇した作品をゆっくり反芻するのも有意義です。電車内で折込チラシをチェックして、次の観劇プランを練るのもgood。
構成・文◇園田喬し
#えんぶ☆TOWN
本格始動!
(株)えんぶが運営する
“行動する”エンターテインメント情報サイト
『えんぶ☆TOWN』が本格始動!
そんなコンセプトの当サイトは4つのコンテンツを軸に運営中!
②プロジェクトのPR効果抜群の
「クラウドファンディング☆ファーム」
※現在鋭意改装中!
#アンケート企画/『わたしの出番です!』
娯楽溢れる世界の片隅…
わたしを照らすのはわたしです!
自身の活動、趣味、その他なんでもアリ!で、
アーティストが“自ら”魅力を(てんこ盛り)発信!
意欲あふるるアーティスト達に出逢いましょう!
#オーディション情報/『あなたの出番です!』
巷のちょっと気になったオーディション情報を編集部員がPick Up!
皆様のモチベーション、上がること必定でございます。
※クリックすると詳細がご覧になれます。
普遍的な人間関係における問題や可能性について考察する登場人物二人の短篇映像作品
【概要】
撮影:2024年1月末予定@神戸市内
【詳細】
https://cinepu.com/cast/de0kR5kcF6_/
【〆切】
2024年12/13
「妬みや憎しみ。後ろ向きな気持ちを許して前を向く」
“今を生きるエネルギー”を“演劇”を通し表現している団体。
【概要】
オーディション日:2023年10/27
公演:第3回公演 2024年7/4(木)~7/7(日)@四谷ブルースクエア
第4回公演 2024年11/6(水)~11/10(日)@シアター711
【詳細】
https://stage.corich.jp/bbs/192626
【〆切】
2024年1/21
「心に火をともせ。痛みと苦しみの翼を広げて僕らは飛び立つ」
アーティスティックな当劇団らしい作風に磨きをかけ、演劇の可能性と進化を追求する公演。
【概要】
オーディション日:詳細ページにてご確認ください
公演:2024年7/3(水)~7(日)@下北沢 駅前劇場
【詳細】
https://deview.co.jp/Audition/Overview?am_audition_id=34843&am_ko=twit&set_cookie=3
【〆切】
2023年12/24 23:59
ホラーちゃんねる主催、「怖い」をテーマにした1分未満の動画募集。
撮影、制作日不問!
【賞】
●大賞 賞金10万円
●審査員特別賞 賞金5万円
●ホラーちゃんねる賞 賞金5万円
●ニューホープ賞 賞金5万円
●観客賞 賞金5万円
【詳細】
https://www.snsdouga.metro.tokyo.lg.jp
【〆切】
2023年12/31
鹿児島県在住者、あるいは出身者限定
自作未発表の小説、文芸評論、詩を募集
【賞】
●部門賞(各部門1編) 賞状、賞金20万円
【詳細】
https://compe.japandesign.ne.jp/minaminihon-bungaku-2024/
【〆切】
2024年1/5 作品提出・応募締切、17:00必着
《身体の中の状態を素直に捉え、あるいは自分に起きている嘘に気付き、相手の空気を感じ取り、自分の欲求を伝えていく》池内風WS
【日程】
2024年12/18〜21、25〜27
【詳細】
https://stage.corich.jp/bbs/190778
【〆切】
定員に達し次第
独立行政法人日本芸術文化振興会(国立劇場)が、
歌舞伎振興のため、新しい優れた作品を求め、広く一般から脚本を募集。
【賞】
優秀作(1篇):賞状及び賞金100万円
佳作(若干篇):賞状及び賞金各30万円
奨励賞(若干名):賞状及び賞金各10万円
※奨励賞は、入選作品とは別に将来を期待・嘱望される応募者に贈られます。
【詳細】
https://www.ntj.jac.go.jp/topics/kokuritsu/2023/648.html
【〆切】
2024年1/31 消印有効
◆総合情報サイト◆
STAFF
今号のスタッフ/info
板子マコト
小野寺ずる
鏡田伸幸
Q本かよ
佐久間麻由
園田喬し
高雄一徳
吉見茉莉奈
『演劇ターン』VOL.005 2024年2月発行予定
『演劇ターン』VOL.004
2023年12月9日発行
[表紙]近藤良平
[表紙写真]山崎伸康
[編集]『演劇ターン』編集部
[デザイン]Q本かよ
[編集人]園田喬し
[発行人]坂口真人
[発行]
株式会社えんぶ
〒164-0001 東京都中野区中野3-27-16
TEL:03-3229-2424
令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成