赤いベルベットと金の煌めき──ベル・エポックの夜、ブロードウェイミュージカルCHICAGO

パリの芸術の心臓部として賑わう豪華絢爛なオペラ地区をほんの少し歩いた、パリ9区。
そこに佇む「カジノ・ド・パリ Casino de Paris」は、1730年に貴族の余暇の場として設立され、遊びと舞台芸術の境界が溶け合う華やかで官能的な空間として人気を博し、Mistinguett や Joséphine Baker をはじめとするスターたちが舞台を彩ってきた、パリでも特別な伝統と歴史を持つキャバレー/レビュー劇場。
最大2000人を収容しながら、赤いベルベットと金の装飾がきらめき、パリならではの妖艶さと歴史の深みが息づく、非日常へと誘う唯一無二の空間です。
そこで今、この由緒ある劇場で上演されているのが、ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』のパリ版。


フォッシーのミューズANN REINKINGアン・ラインキングと歴史的ロングランの礎を築いた演出家WALTER BOBBIEウォルター・ボビー
この二人のお名前があるだけでもぉ!胸が高鳴ります!正統派プロダクション‼︎
Broadway musicalCHICAGOパリ版

鏡に映し出された瞬間、時代の記憶と私がひとつになりました。ここでのミュージカル上演自体が格式の高い証。
かつて私も、CHICAGOではロキシー・ハート役としてニューヨーク・リンカーンセンターの舞台に立たせていただきました。リンカーンセンターは舞台も客席も広大で、クラシック舞台芸術の重厚さと圧倒的な存在感を世界に誇る劇場でした。
その『CHICAGO』のパリ公演初日を観劇しました──
カジノ・ド・パリのロビーに足を踏み入れた瞬間、赤いソファ、シャンデリア、グラスを傾ける人々。ゴージャスで、そしてほんの少し隠微。
パリという街が持つアダルトで美しい香りと、CHICAGOのクールで鋭い世界がぴたりと重なり、劇場全体がひとつの物語のように息づいていました。
「パリのCHICAGO、それはどんな表情を見せてくれるのだろう。」
期待を胸に着席。
開演のベル──そして下手からアクトレスが現れる。
ああ――これだ。
あのリズム、あの呼吸、あの決め事。
すっかり忘れていると思っていたのに、体の奥で眠っていた感覚が次々と呼び起こされ、ロキシーを演じていた頃の記憶が鮮やかによみがえっていく。
体に叩き込んだものは、こんなにも深く生き続けているのだとあらためて感じました。

New York公演の時からお世話になっている『CHICAGO』出演家David Hyslopさんと。



Boutique du théâtreブティック・デュ・テアトル
パリでもCHICAGOのグッズがたくさん販売されてます。

1920~30年代アメリカの光と影──その真実と虚飾を鮮やかに映し出す。
2025パリ版 CHICAGO 初日。フランスが誇る、最高のキャスト。
ロキシーハート ROXIE HART役
Vanessa Cailholさん



大和悠河New York 🇺🇸Lincoln Center主演ロキシーハート ROXIE HART役

開演前から置いてある舞台上のイス。

そしてこのセリフからはじまります
Mesdames, messieurs, bienvenus, vous allez assister à une histoire de meurtre, de
cupidité, de corruption, de violence, de manipulation, d’adultère et de trahison, toutes ces choses qui sont si chères à notre coeur…
「皆様、ようこそ。これからご覧になるのは、殺人、貪欲、腐敗、暴力、操作、不倫、裏切り、私たちの心に深く刻まれた物語です…」

『CHICAGO』は単なるミュージカルではなく、1920年代アメリカの犯罪/報道/セレブ文化を風刺する大胆な社会劇。

「殺人犯」「腐敗する刑務所」「報道屋」「メディアを操作する弁護士」「欲望に溺れる女たち」「犠牲になる男」──と、あらゆる社会階層・人間像をキャストが演じ分ける必要があります。
CHICAGOは無駄のない世界。
だからこそ、そこに自由が生まれる。
稽古場で自分をさらけ出していくあの感覚、積み重ねた日々──
客席に座っているはずなのに、肩が、手が、足が自然に動いてしまう。
観劇しながら一緒にロキシーを演じているような、不思議で心地よい幸福感に包まれました。
最高にスタイリッシュで、皮肉と笑いが同居するストーリー。研ぎ澄まされたフォッシーの振付。
英語とは異なるフランス語特有のエレガントさがCHICAGOに新たな質感とオシャレなニュアンスを添え、
パリの妖しさとベル・エポックの記憶が息づくことで、CHICAGOは官能と淫靡さをまとう “特別な舞台” へ。
またパリの魔法にハマってしまった──そんな思いで胸が高鳴りました。

フランス語のニュアンスって憎いな~と思わずニヤケてしまいます。

二幕《Me and My Baby》ロキシーは“赤ちゃん”という虚構をまとって、世間と運命を味方に変える魔法を歌い上げます。
終演後、赤ワインで乾杯しながら鼻歌まじりに帰路へ。
観客が鼻歌を歌って帰る、それは舞台が成功した証。
私は宝塚歌劇団のころから今まで、主題歌を口ずさんで劇場をあとにしていただけるように、心を込めて作品を届けてきました。
また今夜も、パリの魔法の世界に浸ってしまった。
良い一日でした。
ありがとう、パリ、そしてCHICAGO



CHICAGO🇫🇷Casino de Paris
住所 16 rue de Clichy, 75009 Paris(パリ9区) France
公演期間 2025年11月7日~2026年1月31日!
と、ちょっと前まではでてたのに!今、見直したら、、なんと!4月26日まで延長されたようです。さすが!!です。
乾杯!🍷🍷
私はこのあと、東京二期会オペラでご一緒した、世界的演出家 ペーター・コンヴィチュニー Peter Konwitschny さんの、ドイツ・ボンでの初公演初日に向かいました。
パリ・Opéra バスティーユ、シャンゼリゼ劇場を経て、フランクフルト歌劇場を巡り、そしてボン歌劇場 へ——。
文◇大和悠河 写真提供:(株)GOOGA

