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(雑誌『演劇ぶっく』は2016年9月より改題し、『えんぶ』となりました。)
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石黒賢・一色洋平インタビュー

一色洋平/石黒賢

ホロコーストの時代に「生きた証」を残そうとした人々

ナチスドイツに併合されるオーストリアを舞台に、時代に翻弄されつつ懸命に生きる人々を描く感動作、舞台『キオスク』が、本年12月にパルテノン多摩・大ホールにおいて上演される。
物語の主人公となるのは、自然に恵まれた湖畔で育った17歳のフランツ。母親と二人暮らしだった彼は、ウィーンに働きに出てくる。だがその時代、1937年から38年は、ナチスドイツが台頭、全体主義や人種差別が人々を支配しはじめていた──。
そんな作品でフランツ役を演じる一色洋平と、フランツが働くキオスクの店主、オットー・トゥルスニエクを演じる石黒賢に作品や役柄を語ってもらった。

無知であることは罪に等しい。だから教養を知識をたくわえる 

──まずこの作品の印象から話していただけますか。

一色 ホロコーストについて扱った作品と聞いたとき、自分はホロコーストについて知ったのはどんな作品だっただろうと思い返してみたら、映画の「ライフ・イズ・ビューティフル」(1997年イタリア映画)だったんです。虐殺されたユダヤの人たちの死体が、山のように積まれているシーンは衝撃的でした。登場する人物などはほぼフィクションですが、それ以外のことはすべてノンフィクションで、同じ人間同士でああしたことが事実として起きていたということを知り、さらに大きな衝撃を受けました。今回、自分がその時代の人間を演じることになったわけですが、また新たな「あの時代との戦い方」に出会った感覚です。今もまだ戦時中である国が世界にある以上、生々しい手触りでお届けできる作品だと感じました。

石黒 なかなか言葉で表現しきれない作品ですよね。時代設定とかユダヤの人たちの受難ということなどは、私にとってはそんなに近いところにあることではなくて、映画で知っているというような話なのですが、演じる俳優がその内容をどこまで理解しているかというのは、舞台はフィルターなしでそのまま伝わってしまいますから、自分の底の浅さが露呈してしまうような恐怖感に今はとらわれています。一色くんの話のように今もその対立は続いていて、遡れば2000年前から今に続いている。ただそういったユダヤの方たちだけの問題ではなく、同じ人間としてどう演じていこうかというところを考えていきたいと思っています。

──演じる役柄についてはどう感じていますか。

一色 フランツは田舎で育った真っ白なキャンバスのような心を持った男の子で、都会に出ていろいろな大人と出会い、さまざまな色を、時には汚い色をもそのキャンバスに塗られるのですが、最後に彼はそのキャンバスを引きちぎって、真新しいキャンバスに自分で決めた色を塗る。「ライフ・イズ・ビューティフル」とはまた違った「時代との戦い方」が描かれていて、救いの無いような場面の中にも、僅かな希望を感じます。

石黒 僕が演じるオットーはキオスクの店主で、地方から出てきたピュアなフランツを彼の母親に託されます。そこにどういうリレーションシップがあったのかわかりませんが、本当はウィーンのような危ない都会に出てこないほうがいいと思いながらも、彼と母親の事情を感じとって、面倒をみることにした。そして、それなりの年齢を重ねてきた男として、オットーは何かを伝えてあげようとするわけです。彼の店には老若男女を問わずさまざまな人がやってくる。キオスクという小さな社会ですが、フランツにはそういう人たちを見て人間というものを学んでほしいと思っている。なによりも1人の狂信的な指導者によって全体が引っ張られていく時代に、無知であることは罪に等しい。教養を、知識をたくわえないといけない。だからオットーに端的な言葉で「新聞を読め」と言う。そこから始まって、人との付き合いを学んでいくことをフランツに教えるわけです。

──オットーはとても強い精神性を持った男性ですね。

石黒 物言いが乱暴で無骨ですが、フランツに何かを伝えて、フランツの中に何かを残すことができれば、自分が生きてきた価値があるのでないか、そうオットーは考えていたんじゃないかと僕は思っています。時代に流されない勇気を持って生きていて、ユダヤ人のフロイト博士にもリスペクトの心を持っていた、つまり人としての心を持っていた。素敵な男ですよね。

大勢の人間が流されていくけれど、自分は流されまいと

──一色さんの演じるフランツもとても魅力的な少年ですね。

一色 フランツは本当に何も知らないでウィーンに出ていろんな人に出会うわけですが、第三者視点で言うと「出会う人の運」はすごくいいですよね。

石黒 すごくいい!(笑) 

一色 大都会で生きていくことになった彼の一番近くにいる人が、オットーさんだったこと。そして悩めるフランツの相談相手は、あのフロイト博士ですからね!(笑)

石黒 俺も台本読んでいて、本物のフロイトが出てくるんだ!とびっくりした(笑)。

一色 そんなすごい人に少年ならではの図々しさで踏み込んでいって、友だちにまでなってしまうのは、フランツだからこそでしょうね。

──劇中に母親との手紙のやりとりが出てきますが、とても感性が良いですね。

一色 最初の頃の母親とフランツの手紙に、共通の言葉が出てくるんです。それが「慣れるしかない」という言葉で。僕はとても悲しい言葉だなと思って、「慣れるなよ、フランツ」と思いながら読んでいたら、フランツも次第にこの世界の異常さに気づいて、最終的には、慣れてはいけない、慣れてたまるものかというところに行き着くんです。そして大勢の人間が流されていくけれど、自分は流されまいと決心する。大きな気持ちの変化を丁寧に演じたいと思っています。

──とてもいろいろな問題を突きつけてくる作品ですね。最後にお客さまへのメッセージをいただけますか。

石黒 この芝居を観終わったあと、真っ直ぐ自宅に帰る前に、バーでもカフェでもいいのですが、なんかちょっと芝居の世界に浸る時間を持っていただくといいんじゃないかと。今の時代のことであるとか、人の命の軽重であるとか、人と繋がる、触れ合うというのはどういうことなのかとか、そういった人間の根源的なことを考えられる作品だと思います。そして、そういうものを求めている方に何かをお伝えできるように、我々も頑張りますので、ぜひ観にきていただきたいです。

一色 確かに題材が題材ですからヘヴィな要素もあるのですが、それでも今、戦後と言えない国がいくつもある以上、この作品の価値は逆に高まっていて、それも皮肉な話なのですが。物語の後半に「生きた証」という言葉が出てくるのですが、ヒトラーが人々から「生きた証」を消し去ろうとしていた時代に、懸命にそれを探し求め、残そうとしていた人々というのも確かに居た。その姿はぜひ見ていただけたらと思います。上演するパルテノン多摩は3年前にリニューアルしたとても綺麗な劇場ですので、その劇場に遊びにくるつもりで足を運んでください。

(このインタビューは「えんぶ12月号」より転載)

プロフィール

しぐろけん○東京都出身。1983年、テレビドラマ『青が散る』(TBS)で主演デビュー。以降、『振り返れば奴がいる』、『ショムニ』シリーズ、映画『ホワイトアウト』、『THE LAST MASSAGE 海猿』をはじめ、話題のドラマ・映画に数多く出演し、主要な役を演じている。最近の出演舞台は、『反乱のボヤージュ』(25年)、『青空』(25年)、朗読活劇『信長を殺した男2024』(24年)など。 

いっしきようへい○神奈川県出身。脚本家である父の影響を受け、幼少期から舞台観劇などに触れる。早稲田大学演劇研究会を経て、舞台を中心にドラマ、映画などで活躍中。最近の主な出演舞台は、音楽劇『くるみ割り人形外伝』(25・23年)、音楽劇『愛と正義』(24年)『朝日のような夕日をつれて2024』(24年)、『鋼の錬金術師ーそれぞれの戦場ー』(24年)、『斑鳩の王子-戯史 聖徳太子伝-』(24年)など。

構成・文◇宮田華子 撮影◇中田智章 ヘアメイク◇大宝みゆき スタイリング◇ゴウダアツコ

公演情報

『キオスク』

翻訳◇酒寄進一
演出◇石丸さち子
出演◇一色洋平 石黒 賢/壮 一帆 陳内 将 内田健司 小石川桃子/一路真輝 山路和弘
12/5〜10◎パルテノン多摩・大ホール
〈チケット問い合わせ〉パルテノン多摩共同事業体 042-376-8181(10:00~19:00休館日を除く)
https://www.kiosk-stage.jp

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