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(雑誌『演劇ぶっく』は2016年9月より改題し、『えんぶ』となりました。)
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杉野遥亮インタビュー

僕ができることは〝自分〟でいること

ヘルマン・ヘッセの小説「シッダールタ」と「デーミアン」を原作にした舞台『シッダールタ』で2度目の舞台出演となる杉野遥亮。自分とは何かを探求し続けるシッダールタ(草彅剛)を慕う青年・ゴーヴィンダを演じる。禅問答のように続くシッダールタとの対話の果てにどんな答えが導かれるだろうか。杉野の初舞台は、ユージン・オニールの『夜への長い旅路』で、NHKBSのドラマ「永遠についての証明」では孤高の数学の天才を演じるなど、シャープで知的なイメージがある。額のラインに知性が宿り、インタビューでも最短距離で端的な回答を選ぶ合理的なところを見せた。すぐに回答にたどりつき説明不要と考えるのは聡明さの現れと感じる。『シッダールタ』は真理にたどりつくまで長い長い試行錯誤が繰り返される物語だ。それを演じることで杉野のなかにどのような変化が生まれるだろうか。

ゴーヴィンダは見ている人が最も共感しやすい人物

──今日、お稽古があったそうですね。その感想をまず聞いてもいいでしょうか。

 今日は僕が出ないシーンの稽古が多かったのですが、最初に草彅さんと二人のシーンをやりました。僕と草彅さんだけ早めに稽古を始めて1時間半くらいやって。そのあとは皆さんの稽古を見ていることが多かったです。

──草彅さんとのシーンの稽古はどこをやりましたか。

 僕の役はゴーヴィンダともうひとり〝影〟という役があって。第二幕から登場してきます。この役が僕の中では難しいと感じていたのですが、今日はそこを稽古しました。共感しやすい部分が多いゴーヴィンダと比べると影のセリフは入りづらいんです。シッダールタに対してゴーヴィンダが奥底に抱いていた気持ちだというのは理解できるのですが、〝思念体〟として出てくるので、自分の中で二役として捉えるのか、ゴーヴィンダの一部として捉えるのか。もし一部として捉えるとすれば、どういう認識でいたらいいのか……まだまだ自分の中で模索中です。

──セリフも多いうえ二役あって大変そうですね。

 でも、皆さんも、いろいろな役を兼任しているんですよ。だから、僕よりもほかの皆さんのほうが大変そうだなと思って稽古を見ています。

──今日の稽古は出番が少なかったとのことですが、ここまでの稽古の中で印象に残った日はありますか。

 プレ稽古は印象に残っています。演出の白井晃さんと一緒に本読みをした時間はいい時間を過ごせたと思っています。自分がこの作品に出るにあたってどうあるべきか理解するうえでとても実りのある時間でした。本読みをしながら、ゴーヴィンダがどういう人なのか、白井さんが描こうとしている像と自分が思っていたもの、あるいはわからなかったところを一致させることができました。白井さんは演出家という意味でも、人生の先輩という意味でも、自分の台本の読み方とはまったく違っていて。はじめて知ることがたくさんありました。

──白井さんのお話で印象に残っている言葉はありますか?

 言葉にしなくても通じ合えているものがあるかどうかが大切な気がしています。そういうものが白井さんとの間にはあるように思えて、それが僕には心地いいなと感じています。

──白井さんとのプレ稽古を経て、現時点で『シッダールタ』という作品と、ご自分の役の役割をどう考えていますか。

 ゴーヴィンダがどういう人物でどういう役割なのかというのはまだ探っているところです。白井さんとの本読みでわかったこともありますが、これから稽古を積み重ねながらより深めていくものかなと。ただ、この作品の登場人物のなかでゴーヴィンダは観ている人が最も共感しやすいとは思います。現実世界と精神世界の橋渡しをしているような人なんじゃないかな。とても人間的ですよね。主にシッダールタとの関係になりますが、人付き合いにおいて相手に心酔しすぎたり、そのせいで絶望したり、そのときの反応が人間的な感じがしたりして、共感するところがとても多いと思うんですね。

──台本を読むとゴーヴィンダは素直で真面目な印象を受けます。シッダールタの影響でゴータマ(ブッダ)の教団に入ります。そういうところをどう思いましたか。

 そこの部分はすごく表層的なことかもしれないなと思っています。教団に入ったことはブッダを信じているということではなくて、自分が何かの共同体の一部になることを選択することで安心感を得たのだと思います。本来は、自分を知るためには自分の人生を歩む必要があって。シッダールタは旅立っていき、ゴーヴィンダは取り残されます。でも、誰もがシッダールタのようになれず、真理を求めるうえで、共同体に依存するのは人としてよくあることなんじゃないかなっていうのが自分の見解です。

──とても興味深いですね。

 そこは台本を最初に読んだときからそう感じていました。それもまたゴーヴィンダの人生だと思ってはいるのですが、物語が進むにつれてゴーヴィンダの考えも次第に変化していくんですよ。

草彅さんはとても〝無〟になっていてすごいなと

──たびたびシッダールタとの対話があり、それが見どころだと思います。草彅さんとやりとりしながら心が動いていく芝居をやってみていかがでしょうか。

 シッダールタへの感情を通して、自分が信じているもの、求めているもの、ひいては自分とは何かを知っていく話であると思います。やっぱりお芝居って、相手役と自分の感情が重なっていくもので、やるたびに自分の中に変化があって。それが面白いから俳優を続けているところもあります。今日、第2幕で草彅さんと語り合うシーンをやりましたが、まだまだそんなにしっかりやっている段階ではないので、これから探っていく段階です。舞台はこれが2回目ですが、終わってみないとわからないことがほとんどで。あのとき自分の中に何かが芽生えたと、明確にお伝えできることが稽古の段階ではあまりないんですよね。

──演劇ってそうで、本番をやる前に取材をすると確実なことが話せないですよね。少し、演じてみた段階で、草彅さんのお芝居の印象を教えてください。

 草彅さんはとても〝無〟になっていて。そういうところがすごいなと感じます。

──無とはどういう感じなんでしょう。

 集中しているのかなと思います。自分の役を模索されている段階なのかなと感じていて。ただ自分が一緒にやってそう感じただけなので、実際はわからないですよ。

──杉野さんは無になって集中する派ですか。

 場合にもよります。時と場合にもよるし。無になって集中できる日もあれば、つい雑念がわいてしまう日もあります。

──集中するための方法論はありますか。

 そういうことを考えた時点で無になれないと思います。無心になることはそれだけ簡単なことではないと思うんです。

──修行で瞑想するようなことをやってみたことはありますか。 

 瞑想はしたことがないです。自分の内側に入って自分の気持ちを聞くとか、そういうことは大事じゃないかとは思います。

──草彅さんとは何かいまお話しされていますか。

 いまはまだお話しするような余裕はなくて。まだ稽古は始まったばかりで、本番が始まるまでに1カ月以上ありますし。まずは自分の役を自分の中に入れて構築しないといけない段階だと思うので、お話するとしてもこれからですね。ひとつ、印象に残っているのは、以前ドラマ『罠の戦争』(フジテレビ系 23年)で共演したとき「次は舞台で共演できるといいね」と声をかけていただいたことです。それがかなったことが嬉しいです。

自分とは何か、それを深く考える『シッダールタ』の世界観

──2回目の舞台ということで、初舞台がユージン・オニールの『夜への長い旅路』という非常に文学的な作品で、今回はヘッセ。ご自身は文学的な作品を好んでいらっしゃるのでしょうか。

 それはあると思います。とはいえ『夜への長い旅路』の時は僕の好み以前に決まっていた仕事だったのですが、その体験を経て、中身の濃い質の高い舞台をやりたいと思うようになりました。

──初舞台の時に俳優として得たものはありますか。

 舞台を経験したことはひとつ自信にはなったと思います。僕は仕事をするうえで何かを得ることを目的にはしていなくて。結局、いま目の前にあることを一生懸命やっていくことの繰り返しで、そこに「楽しい」をはじめとしたポジティブな感情をいかに抱けるか、それのみだと思っているんです。ただ、例えば、10年くらい経ってから、あのときああいう経験をしたことがいまの自分にいい影響をもたらしたのかもしれないと思い返すことはあるとは思いますが。初舞台の思い出もありますよ。忘れもしない、コロナ禍明けで、演出家さんが目の前にいなくて、リモートでのやりとりというかなり厳しい状況下だったんです。少人数の芝居で、セリフ量も多くて、そういう環境のなかでの初めての舞台は、自分なりによく頑張ったなと思います。でも10年後、20年後のほうがもっと深く、そのときのことを思うのではないかなという気がします。

──この間、「しあわせな結婚」(テレビ朝日系 25年)の刑事役も面白かったです。共演した松たか子さんにドラマの取材をしたとき、杉野さんのリアクションに意外性があって面白いというようなことをおっしゃっていたのですが、ご自身では演技をするうえで意識していることはありますか。

 素直にリアクションをしているだけなので、どういうことなんだろうなぁって思いますけど(笑)。自分自身は何か意識してやろうとは思っていなかったですが、松さんをはじめとして、主演だった阿部サダヲさんと共演できる経験はなかなかないと思うので、一生懸命やるしかないと思ってやっていただけなんですけどね。

──『シッダールタ』の共演者の方々で、草彅さん以外で印象的な方はいますか。

 ノゾエ征爾さんとか松澤一之さんは舞台経験も豊富で、稽古場の佇まいが素敵だなと思っています。

──舞台でも映像でも素敵な先輩と共演して、そこから何かを取り入れようと思いますか。

 取り入れるというか、自分もこういうふうになりたいなと思うことはあります。でも、結局それは他者のものであって、僕ができることは〝自分〟でいることなんですよね。

──シッダールタが探求する自我とは何かに通じる考え方ですね。いままさにそういう物語を演じているからの発言か、それとももともとそういうことを考えていたのでしょうか。

 もともとそういうものかなと思っているところはあります。僕自身も、自分とは何か、自分にできることは何かというようなことを考えるので、それを深く考える『シッダールタ』の世界観に入れたことが嬉しいです。

──ゴーヴィンダが探求しながら年齢を重ねていくところまで演じることになりますね。

 そういう意味では盛り沢山なので、頑張りたいと思っています。これをやった後に何に気づくか楽しみです。

(このインタビューは「えんぶ12月号」より転載)

プロフィール

すぎのようすけ○千葉県出身。2017年、映画「キセキ−あの日のソビトー」で俳優デビュー。主な出演作品に、ドラマ「恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜」「ユニコーンに乗って」「僕の姉ちゃん」、大河ドラマ「どうする家康」、「罠の戦争」「ばらかもん」「マウンテンドクター」「磯部磯兵衛物語〜浮世はつらいよ〜」「オクラ〜迷宮入り事件捜査〜」、「永遠についての証明」、映画「東京リベンジャーズ」シリーズ、「風の奏の君へ」「ストロベリームーン」、舞台は『夜への長い旅路』など。

インタビュー◇木俣冬 撮影◇中田智章 ヘアメイク◇HORI(BE NATURAL) スタイリング◇佐々木翔

公演情報

舞台『シッダールタ』

原作◇ヘルマン・ヘッセ「シッダールタ」「デーミアン」(光文社 酒寄進一訳)
作◇長田育恵
演出◇白井 晃
音楽◇三宅 純
出演◇草彅 剛 杉野遥亮 瀧内公美/鈴木 仁 中沢元紀 池岡亮介 山本直寛 斉藤 悠 ワタナベケイスケ 中山義紘/松澤一之 有川マコト ノゾエ征爾 
11/15〜12/27◎東京公演 世田谷パブリックシアター
2026/1/10〜18◎兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

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