韓国発のミュージカル「伝説のリトルバスケットボール団」吉高志音、太田将熙インタビュー

吉高志音
太田将熙

「本公演に向けて自信がついた」
韓国発のミュージカル「伝説のリトルバスケットボール団」が2024年2~3月に東京・大阪で上演される。韓国の二大ミュージカル賞である「イェグリーンミュージカルアワード」にて数々の賞を受賞するなど、笑って泣けるストーリーと美しく心躍る音楽が魅力の人気作だ。

2023年7月には一日限りのプレビュー公演があり、本公演を待ち望んだ声が多数寄せられた。プレビュー公演とは、舞台演劇において本公演を前に行われる試験的な公演のこと。舞台の完成度を高めるひとつの手法として欧米などでは広く用いられるが、日本では珍しい試みだ。

韓国発のミュージカルを、緻密に、そして丁寧に作り上げていくのは、橋本祥平、梅津瑞樹、糸川耀士郎、吉高志音、太田将熙、平野良という日本の新進気鋭のキャストたち。プレビュー公演で掴み取った手ごたえを、本公演ではさらにパワーアップさせて届けてくれるだろう。今回はジフン役の吉高志音(よしたかしおん)とサンテ役・太田将熙(おおたまさき)にインタビュー。プレビュー公演の感想や、それぞれの役柄の魅力について伺った。

「青春」は不可逆的で美しい


──演じられる役柄、そして本作品について、ご紹介をお願いします。

吉高 ジフンは熱血で仲間思いな学生の役です。15年前に亡くなった3人組の幽霊のうちのひとりです。一見、幽霊と聞くと怖いイメージもありますが、制服を着た高校生で時が止まっている彼らはとてもキラキラしています。彼らが成仏ができない理由は「バスケ」に関わることなんです。

──「青春」という誰もが知る学生のキラキラ感、そして「幽霊」という少し怖い面。このふたつのギャップも作品の魅力なのかもしれませんね。

吉高 幽霊ですが、怖かったり恨めしい感じというよりは、みんなで集まって楽しんでいるシーンが多くて。実際に自分も学生時代には仲の良い数人のグループで過ごしていたので、ちょっと懐かしくなるような感じもありました。あの頃の雰囲気を思い出すような感覚が楽しかったですね。

太田 サンテ役の太田将熙です。吉高くんが演じるジフンとは異なり、僕は生きている人間です。人に興味を持っておらず、おしゃべりしたこともすぐ忘れちゃうなど、なかなかドライな性格の持ち主です。でもその裏には人一倍強い感情が蠢いているので、実はすごく人間味があるキャラクターなのではないかと思っています。
韓国のミュージカルは重たいお話というか、心を抉ってくるような、考えさせられるようなお話を今まで多く拝見してきたのですが、本作はすごくさわやかなナンバーとともにお話もテンポ感良く進んできます。しかし学生時代特有の歯がゆさや、不器用で繊細な心を持つキャラクターたちが描かれていて。
幽霊3人組は皆亡くなっている設定ですが、彼らの方がすごく生き生きして感情を出してきます。一方、生きている人間のはずの橋本祥平くん演じるスヒョン、平野良さん演じるジョンウ先生、そして僕が演じるサンテのほうが立ち止まって、前に進むのがなかなかできないでいる……。繊細に描かれる人間性、そして心情にあわせたナンバーは心地の良いメロディーなのに歌詞が切なくて……。そんなギャップも素敵なミュージカルになっているのではないかと思います。

──プレビュー公演では「泣いた!」という感想もSNSで拝見しておりました。

太田 涙を流したということは彼らに対して何か自分に近いことを感じたのかもしれませんね。学生時代の部活動の青春や、今あまり会えていない友達のことを思い出したのかも。公演に影響を受けて、誰かを思い出してもらえるのは純粋に嬉しいですね。映画『スタンド・バイ・ミー』ではないですが、あの時の青春は戻ってはこないけれど、不可逆的だからこそ美しい光景なのかなと思っています。

──役柄の魅力、自分と似ているところなどはありますか。

吉高 ジフンは熱血で仲間思いの子です。演じていて自分も前向きになれるなぁということをすごく感じました。ポジティブに何かに取り組んでいこうという真っ直ぐさ、積極的に言葉を発していこうとする姿勢などなど。僕自身も前向きな性格ではあるのですが、彼ほどではありません。彼のことは眩しいなとも思うくらい強い光を発していると思います。

太田:サンテの好きなところは、ドライな人間に見えても実はすごく血の通った情の深い人間であるところです。僕はサンテと似ているところはあまり見つけられていないのですが、サンテのことはすごく魅力的に感じています。人付き合いが不器用ですが、心の奥ではすごく人が好き。彼なりに勇気を出してスヒョンに対して問いかけるシーンがあるのですが、そこでひとつまた彼自身の殻を破って前に進んだなと感心する思いでした。世間から見たら小さな一歩でも、彼にとっては大きな一歩をそこで踏み出せたのではないかなと。そういうサンテなりの不器用さがすごく魅力的だと感じています。

──本番で生バンド演奏があるミュージカルも珍しいですよね。こちらについての感想をお聞かせください。稽古中はバンドのみなさんと合流されるのはいつごろからなのでしょうか。

吉高 稽古の後半で合流した感じでしたね。音源と生バンドの違いで言うならば、生バンドでは僕たち演者に「あわせていただく」という感じでしょうか。安心感がありますね。音源には毎回変化がないのですが、後ろで生の演奏をしていただくことで一緒に作っているというチーム感を感じていました。音も人が奏でているものというのをリアルに肌で感じられたのは、とても好ましいことでしたね。

太田:過去にバンドさんが後ろについてくださるという形の舞台を経験したことがあります。音楽性が増すということもありますし、日によって人間の呼吸が変わるように、後ろの音も同じ音なのに変わるものです。後ろに居て見守ってくださるという絶対的な安心感もすごくあると思います。本当はもっと目を見合わせて呼吸を合わせて、リズムを取りながら一緒に音を作っていけたら嬉しいんですが、そういうわけにもいきませんね(苦笑)。

「新しい試みでクオリティーを高めていく」


──プレビュー公演という新しい試みをどう捉えていますか。

太田 海外ですとプレビュー公演と呼ばれるような形態はよくあることですが、日本ではあまりない印象です。コロナ禍になってこの制度が少しずつ入ってきたように思います。このような新しい試みに参加できるということが新鮮で嬉しかったですし、プレビュー公演をやった意味合いを本公演で実感したいです。日本でもこういう新しい形で、クオリティーをさらに高めていくということができたら良いなと思っています。志音の方がこういうところは詳しそうだよね。

吉高 えっ、そうかな? プレビュー公演をやるのは僕も初めてでした。実際にやってみて、より自信が付きましたね。稽古期間が約一か月ちょっとで、プレビュー公演は一日だけ。その日を経て本公演に移れることは、よりよいものを届けられるという圧倒的な自信につながるのかと体感しました。その安心感も、そしてお客さんの反応も期待も嬉しかったですね。

──プレビュー公演の反響や周りの関係者からの反応は?

吉高 プレビュー公演は一日だけでしたから、その一日だけじゃわからないという部分が、見ている側からしてもあったのだろうなと思います。むしろ、よりいろんな想像が膨らんでくれたんでしょうか。長い公演をして得られた感想ではないので、いつも以上に新鮮な感想を頂けて面白かったです。

──プレビュー公演で苦労されたことは?

太田 ミュージカルということは音楽、歌唱がある。そして今回は舞台で実際にバスケをする……。この作品では、稽古に入る前にバスケの練習をやらせていただき、こうしてプレビュー公演を通してクオリティーをさらに高めていくという、ありがたい環境の中でやらせていただいているなと実感があります。昨年のプレビュー公演ではその時できる最大限のことをやろうとは思っていましたが、今振り返ってみるともっとこうしたかったなとか、多くの場面でまだまだ高められるところがあると思うので、本公演ではアップデートしたものにできればと思いました。

──プレビュー公演から約半年。その間にもたくさんのお芝居のお仕事があり、多忙な日々をお過ごしのおふたりですが、台詞や内容はどのくらい覚えているのでしょうか?

吉高 先日台本を読み返しました。その時の景色は浮かんでくるので、流れは大体わかるなぁ……くらいの感覚でした。例えばもしこのまま稽古やるぞってなっても、不思議と口から台詞が出てきそうな感じはします。実際に稽古場に入ってみんなで合わせてみないとわかりませんけどね。

太田 台詞、僕はまだこれからです。でも歌唱のレッスンは現在でも月1くらいでやっているので、このミュージカルの曲も歌っていました。基礎の発声から改めて練習し、自然とこう歌っていたなとかこういう動きをしていたなという記憶をロジカルに理論化、言語化しながらレッスンしていました。それを身に着けて使い分けができるようになったら、本公演ではもっと良く歌えるんじゃないかなと思っています。なので楽曲には覚えているのですが、台詞に関しては忘れているところが多いかも。もう一回最初から覚え直しかもしれません。

吉高 うん、頑張ろうね。

──最後に、この公演の面白いところ、ココを特に見てほしい! という見どころを踏まえて意気込みをお願いします。

吉高 学生時代に感じてきたキラキラをめいっぱい表現しています。韓国ミュージカルならではので楽曲もすごく素敵です。みんなの感情が乗ってジェットコースターのような気持ちの浮き沈み、学生としての葛藤や喜怒哀楽がぎゅっと詰まった作品になっています。観たら明日も頑張ろうと思えるような作品になっていると思うので、ぜひ見ていただきたいです。

太田 プレビュー公演を経て、本公演という新しい試みにチャレンジしています。プレビュー公演をやった意味合いというものを、自分たちでも感じられるようにしたいし、プレビュー公演・本公演どちらにも来てくださる方にも、そして本公演で初めて見る方にもこのミュージカル「伝説のリトルバスケットボール団」が心に残る作品の一つになったらと思っています。
特に見てほしいのは終盤、サンテとスヒョンの距離が少しずつ近づいていって、不器用ながらも話をするシーン。ふたりの勇気でちょっと一歩進んだ瞬間。彼らの心の動きと表情。そんなところを特に注目してくださると嬉しいです。

──ありがとうございました。
(取材:松本 裕美)

【公演情報】
ミュージカル「伝説のリトルバスケットボール団」
作 :パク・ヘリム
作曲:ファン・イェスル
オリジナル・プロダクション:アンサン文化財団、IM Culture
演出・振付:TETSUHARU
日本語上演台本・訳詞:私オム
キャスト 
スヒョン役:橋本祥平、ダイン役:梅津瑞樹、スンウ役:糸川耀士郎、ジフン役:吉高志音
サンテ役:太田将熙 ・ ジョンウ役 平野良
バンドメンバー 
キーボードコンダクター:田中葵、ギター:朝田英之、ベース:澤田将弘、ドラム:足立浩
●2/15〜25◎東京公演 草月ホール
●3/23・◎大阪公演 松下IMPホール
〈料金〉10,800円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈公演に関する問い合わせ〉info@fabinc.co.jp
〈公式サイト〉http://littlebasketball.jp/
〈公式X〉@_littlebasket

(C)リトルバスケットボール団 製作委員会

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