彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』開幕! 

吉田鋼太郎演出・上演台本、柿澤勇人主演による舞台、彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』が最終舞台稽古を終え、5月7日、彩の国さいたま芸術劇場で初日を迎えた。

前芸術監督・蜷川幸雄から同シリーズの2代目芸術監督を引き継ぎ、シェイクスピア全37戯曲の完全上演を成し遂げた吉田鋼太郎が、“第二章”の幕開きに満を持して選んだのが『ハムレット』だ。誰もが知る王道中の王道と言える傑作をトップバッターに据えたことに、覚悟の程が窺える。吉田自身も主演経験を持ち、シェイクスピア作品の中でも「ずば抜けて面白い」と明言するだけに、戯曲に対する思い入れはひとしおだ。極限まで装飾を排した潔いまでにシンプルな舞台空間の中で、俳優が戯曲の言葉と真っ向から対峙する舞台となっている。

タイトルロールを担うのは、ミュージカルでもストレートプレイでも人物の真情が鮮やかに伝わる柿澤勇人。劇中で「ことば、ことば、ことば」と語るように、膨大な台詞を操るハムレットはまさに言葉が命と言える役だ。柿澤は明晰な台詞術という武器だけに頼らず、本来快活だったはずのハムレットが怒涛のごとく運命に呑み込まれ歯車が狂っていく様を、高い熱量と緩急自在な語り口で一言一言粒立てるように表現していく。一本気で、激情に駆られやすく、復讐を誓ったのに逡巡し、恋人を心ならずも拒絶し、母への愛憎に揺れる一方で、親友や役者には惜しみない信頼と友愛を示す。不完全で不器用な、人間くさいハムレットが愛おしくも痛ましい。

演出の吉田は過去何度も演じている国王クローディアスとしてハムレットの前に立ちはだかる。情欲と権力欲に取り憑かれた男の狡猾さ、器の小ささはもはや自家薬籠中のもので、甘言と手練手管でガートルードを籠絡することなど朝飯前だったに違いない。その国王と一蓮托生である正名僕蔵演じる宰相ポローニアスの狂気じみた忠臣ぶりには、空恐ろしさを感じるほどだ。息子の憂いをよそに女としての幸せに無邪気に身を任せた高橋ひとみ扮するガートルードの艶と罪深さは、ハムレットが辿る悲劇の根本要因であることがよくわかる。

そんな国王一家の言わば家庭内のいざこざの巻き添えとなり、ハムレットに突き放され、夢見た幸せを打ち砕かれる北 香那のオフィーリアは、自分の意思もしっかり持った“溌剌としたお嬢さん”が壊れゆく姿に胸を抉られる。正気を失ったオフィーリアが意味深長な花言葉と共に色とりどりの花々を配る場面はよく知られているが、今回はとある花がオフィーリアの象徴として登場し、色彩を抑えた舞台上で忘れられない印象を残す。

徒手空拳で闘い、敗れ、ようやく永遠の眠りについたハムレットを悼むと同時に、師・蜷川幸雄に対するオマージュも感じさせる幕切れは、深い余韻と共に不思議な温かさに満ちている。やさしい王子様、どうか安らかに。

埼玉公演は2024年5月26日(日)まで彩の国さいたま芸術劇場 大ホールにて上演、その後、6月1日(土)~2日(日)宮城・仙台銀行ホール イズミティ21 大ホール、6月8日(土)~9日(日)愛知・愛知県芸術劇場 大ホール、6月15日(土)~16日(日)福岡・J:COM北九州芸術劇場 大ホール、6月20日(木)~23日(日)大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演。上演時間は本編3時間30分 (休憩15分含む)予定。 (文:市川安紀/撮影:宮川舞子)

【公演情報】

彩の国さいたま芸術劇場開館 30 周年記念

彩の国シェイクスピア・シリーズ 2nd Vol.1『ハムレット』

作:W.シェイクスピア

翻訳:小田島雄志

演出・上演台本:吉田鋼太郎 (彩の国シェイクスピア・シリーズ芸術監督)

キャスト:

柿澤勇人

北 香那 白洲 迅 渡部豪太 

正名僕蔵 高橋ひとみ

吉田鋼太郎 ほか

〈公式サイト〉https://horipro-stage.jp/stage/hamlet2024/

〈公式X〉https://twitter.com/Shakespeare_sss

 

(文:市川安紀/撮影:宮川舞子)

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