サモ・アリナンズプロデュース『蹂躙さん』小松和重・平田敦子・久ヶ沢徹インタビュー

「サモアリらしさ」は、一緒に出ればいいんじゃない?
俳優の小松和重が座長を務めるサモ・アリナンズが、25年3月に7年振りとなる本公演『蹂躙さん』を上演する。しかも、サモアリとして「最後の本公演」と銘打たれ、旗揚げ時からずっと大切にしてきた「学園・勧善懲悪もの」だとか。
そのメモリアルな機会に向けて、旗揚げ公演に出演し、33年後も同じ役で出演予定の小松和重、平田敦子、久ヶ沢徹が集合。まず最初に「皆さんにとってサモアリとは?」という質問から訊ねてみると……。「えんぶ2月号」に掲載されたインタビューをご紹介する。
倉森くんと小松くんがすごく楽しそうだった
久ヶ沢 僕の場合、倉森(勝利)くんと小松くんがすごく楽しそうだったので、参加させてもらいました。
小松 当時「テンション」という、田口浩正くんと芋洗坂係長が組んでいたお笑いコンビがあり、彼らがオムニバス公演を企画して、その内の1本を倉森がやることになったんです。で、倉森が俺に「一緒にやろうよ」と。
久ヶ沢 最初はその為のユニットでした。
小松 それが学園番長もので、派手なメイクをして、長ラン(※丈の長い学生服)を着て、ワアワアやって、すごく楽しかった。そこから「またやりたいね」と話して、旗揚げを。
平田 旗揚げが『マリーラフォレはもう聞かせないで〜熱血暴れ太鼓編』。
小松 それに久ヶ沢さんと平田さんが出てくれた。
平田 サモアリは、学園ものだったり、ガッツ団は……何あれ?
小松 町を守る的な?
久ヶ沢 少年探偵団みたいな。
平田 そういうシリーズものが幾つかあるんですけど、内容が何であれ眉毛を描くようになり。
小松 なったねぇ。
平田 その眉毛を、私はいつも小松に描いてもらうんです。だから「サモアリと言えば眉毛」と連想する人はいそう。
小松 そうね、昔はね。
平田 昔は「(舞台上で)小松を笑かしたい」という思いがありました。小松が笑ったら私も楽しいなと。ただ、気付いたら小松の芝居がすごく上手になって。
小松 あははは。それは「覚えろ」と言われたんだよ、倉森さんに。
平田 やべえ、こいつ芝居上手くなって嘘笑いしてやがると気付いてから、ちょっと嫌になった。
久ヶ沢 嫌になっちゃったんだ。
小松 僕は素直に笑ってたんですけど、同じネタだとリアクションが薄いらしく。
平田 同じことをやると、もう笑わない。
小松 それで怒られて、それから常に新鮮なリアクションを心掛けようと。

アクシデント。アドリブとはちょっと違う
久ヶ沢 初めて悪役をやらせてもらったのがサモアリで、珍しくて面白かったし、自由にやらせてもらい、僕はサモアリに育ててもら……。
小松 いきなり良さ気なこと言い出すね。
久ヶ沢 いや、「育ててもらった」には無理があるか(笑)。
小松 嘘っぽいよ。
久ヶ沢 でも必死でしたよ。本当に独特の世界観だったし、倉森小松について行こうと頑張りました。サモアリは勧善懲悪ものが多くて。
小松 分かり易い。
久ヶ沢 その単純明快さをどう膨らませていくか? が面白かった。皆さん芸達者だから、それぞれ何かしらやってくるし。
——サモアリと言えばアドリブ合戦の印象があります。
平田 いや、アドリブじゃないんです。久ヶ沢さんとか自分で台詞を書いてきて。
小松 (上演台本の)行間に台詞を付け足しちゃう。
平田 久ヶ沢さん一人で喋る分にはいいけれど、一度「あっちゃん、これ覚えて」と初日本番前に言われたことが。
久ヶ沢 でもあなただって自由度高い人じゃない。
平田 本番前にいきなり台詞4行渡されてもさぁ。
久ヶ沢 えーっ!? 俺そんな無理強いした?
平田 スズナリで夫婦役をやった時に。
久ヶ沢 それは申し訳なかった(笑)。
——「俳優さんが仕掛けて、小松さんがそれを捌く」イメージでした。
小松 自分から仕掛ける人はいないんですよ。
平田 アクシデント。アドリブとはちょっと違う。
小松 ちょいちょい事故が起こるから。
久ヶ沢 上演中に大きめの数珠がパーンと弾け飛んで、もう芝居どころじゃなくなったり。
小松 事故が大好物の人が多くて。

稽古場で手の内を見せてくれない
小松 基本的にみんな芝居のできる俳優さんで、稽古場であまり見せてくれないんですよ。台詞が入ればいいや、という稽古しかしない。
平田 めっちゃ稽古してたよ。
小松 お前寝てばっかじゃねぇかよ。
平田 寝てないよ。
久ヶ沢 常にエアコンの温度を下げようとする。
平田 それはするね。
小松 稽古場で手の内を見せてくれない。僕も似ているところがあって、みんなお客さんの前でしか見せない。スタッフさんが下見に来ても省略しますから。
平田 やってるよー!
小松 でも流れだけでしょ? だから、みんなで「本番を楽しむ芝居」を創っている団体だと思います。それが他所と違うかな。
久ヶ沢 旗揚げが92年だから、何年前?
小松 33年前だって。
平田 全員20代だよ? 「久ヶ沢さんが50歳になったら再演しよう」みたいな話あったよね。
久ヶ沢 「誰かが50になる度にやろう」みたいな。
平田 とっくですよ50なんて。
久ヶ沢 昔観てくれた人が来てくれるかどうかも怪しい。
平田 「あんな面白かったのに」とか思われちゃうのが怖い。
久ヶ沢 美化されてるかもしれないから。
平田 そうなのよ。
小松 今はSNSで色々言われちゃうかもしれないな。
平田 ヤダねSNSって。悪口書かれたら二日目からできないかも。
久ヶ沢 検索するなよ(笑)。
小松 やっぱりサモアリが一番緊張します。体力的にも一番きつい。
平田 小松は喉を潰したりしますから。
小松 そうね。気をつけないといけないけれど、でも昔と同じ熱量でやるしかないと思っています。
久ヶ沢 こんな芝居をやっている団体が他にないから、目にする機会もないまま時間も空いちゃったし、やっぱり、ちょっと怖いですよね。

自由に、柔軟に対応する気持ちを大切に
——上演に向けて、皆さんが「楽しみにしていること」を教えて下さい。
小松 今のリアルタイムの芝居を楽しみにしています。きっとみんな変わらないのだろうなぁ、と思いつつ。
久ヶ沢 正直言うと、僕はちょっと不安です。年齢からくるパフォーマンスの衰えとか。
小松 (笑)。
久ヶ沢 舞台上でワードが出てこないとか、アクシデントが起きた時の反応速度とか。
小松 なるほどね。
久ヶ沢 昔は「アクシデント起こらないかな」と期待したけど、今は「正しく反応できるか?」という一抹の不安も。でも、こういう舞台はなかなかないので、勿論楽しみでもあり。
小松 全然やってないね、こういう芝居。
久ヶ沢 ノーガードで舞台に上がるというか、自由に、柔軟に対応する気持ちを大切にしないと楽しめないですから、サモアリは。
小松 サモアリがしっかり創り込んでもつまらないと思う。それを理解した上で八割位の気持ちで舞台に立つのかな、みんな。
平田 他所の公演で共演しても、舞台上で絡むことないものね。
小松 そうだね。
平田 一緒に出ると「サモアリみたい」と言われちゃう。
久ヶ沢 昔はよく言われたね。「サモアリになっちゃう」って。
小松 あ〜、言われてたねぇ。
——皆さんの共演自体が「サモアリ」ならば、この公演は正に「サモアリらしい」と言えますね。
平田 その「サモアリらしさ」が分からなくなってきている。
久ヶ沢 そうなんだよね〜。今のお客さんは何を期待して来てくれるのだろう。普通の芝居じゃないものを求めている?
小松 一緒に出ればいいんじゃない?
平田 ……ですって(笑)。
小松 平田さんは真面目に稽古やらないと怒るし、昔はよく怒らせた。打ち上げに参加しないで帰っちゃったこともあった。
平田 楽しい打ち上げになるといいな。
小松 この二人含めてみんながいてくれるから安心だし、それは今回も変わらない。だから、やっぱり「変わらないサモアリ」をやると思います。
【プロフィール】
こまつかずしげ◯東京都出身。俳優。92年、倉森勝利と共に「劇団サモ・アリナンズ」を結成し、座長を務める。04年にはサモアリ内劇団として「劇団ワンダフルズ」を結成。このほか、舞台・映画・TVドラマなど幅広く活躍している。
ひらたあつこ◯東京都出身。俳優。92年のサモ・アリナンズ旗揚げ公演に参加し、以降サモアリ公演に多数出演する。舞台作品を中心に、映像作品やCM出演など多方面で活躍中。
くがさわとおる◯福井県出身。俳優、ナレーター。92年のサモ・アリナンズ旗揚げ公演に参加し、95年の退団まで劇団員として活動。以降も客演としてサモアリ公演へ出演する。舞台作品を中心に、TVドラマへの出演やナレーターとして活躍する。

【公演情報】
サモ・アリナンズプロデュース 第28弾『蹂躙さん』
原作:倉森勝利
脚本・演出:小松和重ブラザーズ
出演:小松和重 家納ジュンコ 佐藤貴史 大政知己 月野木歩美 / 荒川良々
宮藤官九郎 久保田武人 平田敦子 久ヶ沢徹
●3/23〜31◎下北沢 ザ・スズナリ
〈お問い合わせ〉大人計画 03-3327-4312(平日11:00~19:00)
〈公式サイト〉https://otonakeikaku.net/stage/5489/
【インタビュー/園田喬し 撮影/田中亜紀】