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中村又五郎一家、三代勢揃いで初めての巡業へ!「松竹大歌舞伎」製作発表記者会見レポート

中村種之助 中村又五郎 中村歌昇
中村秀乃介 中村種太郎

芸術の秋。歌舞伎が、わが町の劇場にやってくる――!
全国1300館の劇場、音楽堂などを会員とする(公社)全国公立文化施設協会が主催する「松竹大歌舞伎」(いわゆる巡業)。すでに60年近く開催されている巡業が、10月31日から11月25日にかけて、北は札幌市(北海道)から岡山市(岡山県)までをまわって行われる。

今回の出演者は中村又五郎を筆頭に、その息子の中村歌昇、中村種之助の兄弟、そして歌昇の息子である中村種太郎、中村秀乃介の5人。祖父から孫まで、一家三代勢揃いでの巡業はおそらく初めてのこと。種太郎と秀乃介の2人にとっては、今回が記念すべき巡業デビューとなる。

演目は、まずは山本周五郎作の『泥棒と若殿』で、泥棒の伝九郎を歌昇、若殿の松平成信を種之助、家老の梶田重右衛門を又五郎がつとめる。『泥棒と若殿』は、中村嘉葎雄(当時は賀津雄)の若殿で上演されて以来、舞台にかからなかったが、亡き十代目坂東三津五郎のすすめで2007年5月の歌舞伎座で、三津五郎の若殿と尾上松緑の泥棒コンビで上演された。身分も立場も違う2人の間に、奇妙な同居生活のなか人間としての絆が生まれていく心温まる物語だ。そして『お祭り』は、江戸の粋な風情がただよう華やかな舞踊作品。家族総出での、にぎやかな舞台となる。種太郎、秀乃介は舞踊作品に出るのも初めてで、初めて尽くしの思い出深い公演となりそうだ。

8月中旬、都内でこの巡業の記者会見が行われた。会見には、岸正人公文協専務理事・事務局長、山根成之松竹株式会社副社長・演劇本部長、中村又五郎、中村歌昇、中村種之助、中村種太郎、中村秀乃介が出席した。それぞれから挨拶の後、質疑応答に移った。

中村又五郎

【挨拶】
中村又五郎 私の大好きな巡業。2017年以来、久々で行かせていただきます。亡くなった三津五郎君ともこの作品(『泥棒と若殿』)の話を何度かした覚えがあります。私も読んで、とても素敵な作品だなと思っておりました。この度、歌昇と種之助にやってもらう形になり、本当にありがたい。歌舞伎や舞台を初めてご覧になる方もわかりやすい作品です。『お祭り』は派手で、歌舞伎の艶やかさ、賑やかさ、江戸の風情が伝わればいい。巡業も昔は交通機関が大変でなかなか帰ってこられないとか、行ったら泊まることが多々ありましたが、最近は交通の便がとても良いので、その地方へ行ってより多くのお客様に観ていただき、そのお客様が「今度は東京へ歌舞伎を観に行こうかな」と思っていただけるように、家族一同、一生懸命つとめさせていただきます。

中村歌昇 私自身、巡業にたくさん出させていただき、たくさん育てていただいた印象があります。襲名の巡業では(二代目中村)吉右衛門のおじさまと『相撲場』をやらせていただき、大事な財産になっている公演もありますし、(松本)幸四郎のお兄さんとの『松浦の太鼓』では、お兄さんの松浦で自分が大高源吾をさせていただきました。今回その巡業に長男と次男が一緒に出させていただけて、本当にありがたい。ただ息子たちも私もそうですが、やはり公演なのでしっかり気を引き締めて、観ていただける方が純粋にお芝居として楽しんでいただけるよう精進したい。

中村種之助 世間が歌舞伎に注目していただいている時に、歌舞伎座では9月10月と歌舞伎の三大狂言である古典歌舞伎をやり、巡業ではこのわかりやすい『泥棒と若殿』を観ていただけるのは、とてもいいことなんじゃないかなと思います。私が慕っている嘉葎雄のおじがやったことのある『泥棒と若殿』をやらせていただけることに、とても縁を感じていますし、古典歌舞伎とは違った、素直な感情のわかりやすさを、初めて歌舞伎をご覧になる方にも楽しんでいただけたら。『お祭り』は華やかな作品になったらいいなと思います。私は女方で出演しますが、やはり主役は甥っ子たち。舞台のことは、厳しい厳しいパパがいるので、叔父ばかとしては、夏休みはもう終わりますが、一種の家族旅行と思い、体に気をつけて楽しんで舞台をつとめてくれたらと思います。この後の挨拶できるかな? よし、じゃあがんばってください!

中村種太郎 中村種太郎です! 今日はよろしくお願いします!

中村秀乃介 中村秀乃介です。きょうは、よろしくおねがいします。

【質疑応答】

──一家で巡業は初めてですが、この話を初めて聞いた時はどんなお気持ちでしたか?

又五郎 まず「巡業はいかがですか」というお話をいただき、「歌昇さんと種之助さんとご一緒でいかがですか」と徐々に。私から「もしよければ孫も一緒に連れていただくことは叶いませんか」とお願いして、会社の方から「いいですね、どうぞ」とご返事をいただきました。本当にありがたく、先ほど歌昇が言ったように、ただのお遊びの旅行ではないので、我々も、子どもたちも子どもたちなりに精一杯の舞台をつとめてくれなくてはいけない。嬉しさ半面、心配も半面が正直なところです。

──5人で舞台に立つ意味をどう考えていますか?

又五郎 5人で舞台に出ることは、子どもたちは大人ですので、特に孫は、やはり舞台へ出るという感覚を体で感じとってもらいたい。舞台に出るためにはいろいろなお稽古をして、いろんな方に教えていただかなくてはできないので、その積み重ねです。そういう意味では、やはり普段よりも一つ上のお稽古事をしないと舞台は出られないと僕は思っております。お父さんは厳しいですから、厳しくやって、この雰囲気を身に染み込ませてもらえたらいいかなと。

中村歌昇

歌昇 非常にありがたい。最近子どもたちも歌舞伎座などに出させていただき、それ自体すごくありがたいですが、『お祭り』は舞踊作品で、舞踊は子どもたちは今回初めてで、父親としてはすごく今から心配しております。ただ、すごくいい経験をさせていただけると思う。お芝居や踊りのことは、周りから言われるように厳しくしていきたい。まずそれ以上に、自分がしっかりしなければいけないので、子どもたちにしっかり言うから  には自分の姿を父親として見せながら、巡業をまわれたらと思いますし、1ヶ月地方(公演)に出させていただいたことはありますが、巡業はやはり毎日移動するので、体調管理はみんなでしていきたい。

種之助 兄と父と巡業に行くことは今までありましたが、子どもたちと巡業と言うと、去年7月に(中村)獅童さんのご家族と一緒に行かせていただきました。その時は長い移動の最中ずっと僕の膝の上に(中村)陽喜君がいて、4時間このままですか?と思いましたが(笑)、同じ小川(家)の親戚として、そういったことも我慢して、甥っ子たちが楽しんでくれればいいかなと思っております。

──種太郎さん、秀乃介さんにもお聞きします。今度5人で舞台に立ちます。どのように思っていますか?

種太郎 とてもうれしいです。舞台に一緒に出る人が一緒(の家族)だと、ちょっとほっとするので、お稽古もしやすいし、やりやすさも出るという感じです。

中村種太郎

秀乃介 まぁ~じいじといっしょにお舞台すると、おちつくっていうかんじがする。

──2人とも、どういうところが落ち着くんですか?

種太郎 家族で舞台に出るので、安心するというか…。

又五郎 誘導されてる(笑)。

歌昇 じいじのどこが好きですか?

秀乃介 やさしいところ。

中村秀乃介

──お子さんたちに、舞台に立つ、一緒に巡業に回るアドバイスは?

又五郎 彼らも初舞台を踏ませていただき、何度か舞台に出てます。やはり舞台へ対する姿勢は、巡業でも関係ないので、それはそのまま伝えていきたいし、父親が言った通り、体調管理だけはしていかなければいけない。

歌昇 ものすごく細かいことですが、やはり毎日劇場が違うので、目線とかは、劇場に入ってから「今日はここを見ようね」とか毎日確認しなければいけないと思います。我々(大人)ができることはそういうこと。舞台の心配はそんなにしてはいませんが、今回踊りが初めてというところが唯一心配だなと思っています。

種之助 そもそも僕は子役の時代に、巡業にもちろん参加したことはないので、単純に2人はすごいなと思います。大人の役をいただくようになってから、(中村)歌六のおじにいろんなことを教えていただきました。一般常識や歌舞伎の舞台のこと、そういったおじさんになりたいですが、まだまだ2人は子どもで、本当にお父さんは厳しいので、僕はアメ担当でしばらくはやらせていただきたい(笑)。

──『泥棒と若殿』は2人で息を合わせなきゃいけないシーンが相当多い。その上で、それぞれどういうお役で、どういうところがこのお芝居の魅力か、それをどう作り上げたいか。

歌昇 そもそも、これだけ弟とガッツリ組んでやるのはずいぶん久しぶりな気はしております。すごくありがたい。『泥棒と若殿』は、三津五郎のおじさまと松緑のお兄さんがなさった映像を最初に拝見した時、すごく涙が出てきて、こんなにいいお芝居があるんだなと感じました。僕は山本周五郎の作品がすごく好きで、『さぶ』や『樅ノ木は残った』などは読んでいましたが、『泥棒と若殿』は知らず、慌てて買いました。その作品を弟とつとめられることもすごくありがたいし、本当にお客様にわかりやすいお話だと思います。身分の違う2人が心を通わせ合いながら絆が生まれていくところ、その後に起こるドラマをぜひお客様に見に来ていただければ。兄弟ですから、息は勝手に合うものだと思いますが、やはりしっかり作り込まなければいけない。今回演出に大場(正昭)さんが入っていただける。大場さんはここのところずっとこの作品を演出されているし、新しいことをするより、我々兄弟でしっかりとこの作品に取り組み、お客様にそういう感動を与えられる作品にできたらと思います。

種之助 兄も言いましたが、兄弟なので、嫌でも息が合ってしまう部分があるので、そこに甘えないように。こういう新しい作品は、古典歌舞伎と違い、役と役のキャッチボール、台詞の応酬がやはり細かくて、相手がこうくれたらこう返すの繰り返しが多いので、そういうところをしっかりと3人で組み立てて作り上げていけたら。幽閉されて命も狙われている、孤独な生活を送って今にも死にそうななかに現れた泥棒の明るさ、自分とはかけ離れた人間性を感じて、若殿は若殿で自分の人間らしさを得ていく、泥棒は逆に、また違った人間らしさをといった作品だと思います。その感情の変化が、この作品でもとても大切な部分だと思うので、細かく表現して、お客様に感じ取っていただけたら。

中村種之助

──さっきから、お父さんがすごく厳しいという話が出ていますが、お子さんたちはどうですか?

種太郎 きびしいです。お稽古のなかで難しいところが、1回ではできないと、お父さんはそんなですが、2回3回やって、全然できなくなっていくと、だんだん厳しくなっていくっていう感じです。

秀乃介 きびしい。すごくきびしいです。(どういう風に注意されるか聞かれて)2回か3回ちゅういされると、だんだんおこりがつよくなってるって感じです。

──大人の皆さんへ、地方巡業で北海道から岡山まで行かれます。特に行くのが楽しみにしていることは?

又五郎 結構長い期間、公文協さんの巡業に行かせていただき、昔は文化庁の巡業もありました。いろんな土地へ行かせていただく。正直なところ「ここは初めてだな」と思って、駅に着いて会館へ着くと、「ここは来たことあるぞ」みたいなことは多々あります。あとは美味しいものや、何が楽しみかは、その時の滞在時間にもよります。昔は芝居を終えて、旅館へ泊まって、あくる日帰るみたいなことはありましたが、最近は電車の便がよく、芝居が終わったら東京へ帰ることが多くなり、だんだんそういうのも薄れてきた。ただその土地の方に、何か美味しいものがあったらと伺うことはあります。

歌昇 僕は今回でいうと、やはり後楽館。芝居小屋で公演させていただくのはいつもすごく嬉しい。11月の康楽館に行くのは初めてなので、またいつもと感じが変わるのかなというところも含めて楽しみです。また、自分が『刀剣乱舞』に出していただき、やはりいろんな刀のルーツなどがすごく気になっていて、もし調べて何かそういうところがあればちょっと巡ってみたい。

種之助 やはり巡業の楽しみは食ですね。父と一緒だと、父はアンテナがすごくて「この店はうまい」と言って入ると本当に美味しいことが多いので、そこは信頼して、父の金魚のふんのように後ろからついていって、食を楽しみたい。

──先ほどからお父さんが厳しいという話が出ていますが、名誉回復のためにも、こんなところが優しいというところも教えていただけますか?

歌昇 あるかなあ~~~(焦)。

種太郎 自分ができたっていうときに、お父さんも喜んでくれるところが一番好きです。

秀乃介 パパのいいところは、遊んでくれるところです。

歌昇 よかったです(笑)。

【公演情報】
令和7年度 (公社)全国公立文化施設協会主催
『松竹大歌舞伎』
●10月31日(金)~11月25日(火)◎藤沢市民会館ほか(巡業)
山本周五郎 作
矢田弥八 脚色
大場正昭 演出
一、泥棒と若殿
伝九郎 中村歌昇
松平成信 中村種之助
梶田重右衛門 中村又五郎

華競芝居賑(はなくらべしばいのにぎわい)
二、お祭り
鳶頭 中村又五郎
鳶の者 中村歌昇
鳶の者 中村種太郎
鳶の者 中村秀乃介
芸者 中村種之助
〈問い合わせ〉
〈公式サイト〉https://www.kabuki-bito.jp/theaters/jyungyou/play/944

【取材・文/内河 文 写真提供(C)松竹】

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