
長年培った信頼関係で夫婦役も息ぴったり!
柄本明主演の舞台『また本日も休診~山医者のうた~』が、10月11日に福岡・博多座公演で開幕した(15日まで)。
その公演を皮切りに、東京・明治座、栃木県総合文化センターメインホール、山形・やまぎん県民ホール大ホールで11月まで上演される。
見川鯛山が実際に体験した出来事をもとに、豊かな自然と人間の営みを描いたエッセイ『田舎医者』シリーズの舞台化で、2021年に上演された『本日も休診』に続いて2回目の上演となる。
今回も主人公・見川鯛山役を務める柄本明と、その妻・テル子役で本作へは初参加となる渡辺えりに話を聞いた。(このインタビューは「えんぶ10月号」より転載。)
鯛山先生も柄本さんも色っぽくて面白い!
──渡辺さんは今回初参加となりますが、出演オファーを受けたときのお気持ちを教えてください。
渡辺 初演は客席から観ていました。ラストシーンで、柄本さん演じる鯛山先生が妻のテル子と話しているところを観ながら号泣しちゃったんですよ。というのも、ちょっとテル子が角替(和枝)さんに見えちゃって。夫婦の愛情というか、色々な愛憎もあると思うんですけども、2人の姿にすごく感情移入しちゃいました。だから今回は自分がテル子をやらせていただけるということで、内容はまた違うものにはなると思いますが、ちょっと角替さんのイメージを頭に置きながら演じようかな、と思って張り切っています。
──今回お2人は夫婦役です。
柄本 えりさんとは、何回か夫婦役やってるんだよね。今回どんな風になるのかまだわからないですけど、鯛山先生の本には面白いエピソードがいろいろあるから、そんな感じで夫婦になれたらいいなと思っています。先生の奥さんというのが、とっても綺麗な方なんですよ。だから、えりさんにぴったり。
渡辺 またそういうこと言って(笑)!
柄本 いや本当に!
渡辺 テル子さんは自分でなんでもできるような自立した女性なので、頼りがいがあって、先生のことを愛してる、という基本線がしっかりあればいいのかな、と思っています。柄本さんと私はすごく長い付き合いなんです。2人でコンサートをやって、いろんなところを回ったこともあるですよ。皆さん知らないと思いますけど。
柄本 アハハハハ!
渡辺 ジャズを歌ったり、2人で踊ったりしてね。舞台『浅草パラダイス』の打ち上げで「忘れていいの」という歌をデュエットしたら、勘三郎さんがえらく気に入ってくださって「この2人は僕の友達なんだぞ」と自慢なさったエピソードがあるぐらいなんです。柄本さんは歌がうまいんですよ。
──お芝居での共演はいつ以来ですか。
渡辺 舞台は『浅草パラダイス』以来なので、だいぶ前ですね。テレビだと「ぶるうかなりや」というドラマで夫婦役をやっていますよね。
柄本 その後「坂道の家」でも喧嘩する夫婦役でしたね。
──既に夫婦役をやったことがあるということで、やりやすい感じはありますか。
柄本 まあ、付き合いが長いですからね。今回も恐らく、喧嘩したり、口うるさく言われたり、そういう感じになるんだろうけど、えりさんとならやれるだろう、と安心してます。
渡辺 柄本さんは、嘘の芝居を許さない人なんです。形だけとかうわべだけで芝居をやろうとする人に対して、非常に厳しい方なんですよね。でも、今回のメンバーは芝居に真面目に取り組んでる個性的な人たちがそろっているので、その点では大丈夫かなと思っています。
──鯛山先生について、どう思われますか。
渡辺 なんかこう、おしゃれで色っぽい先生ですよね。
柄本 (大きくうなずきながら)うん!
渡辺 すごく魅力的で、人間のどこが面白いか、という根本を見るような方なので、実際にお会いしてみたかったですね。柄本さんも色っぽい方なので、今回の鯛山先生もきっと色っぽく面白くやってくださると思います。

生きる目的は世界平和?!
──本作の見どころを教えてください。
渡辺 個性的で癖のある人たちが、舞台上で生き生きと活躍するというところが面白いと思います。大きな舞台作品になると、誰か一人が主役でスポットライトが当たっている、みたいな芝居が多いと思うんですけど、今回はいろんな人の個性が光って、その中心に柄本さんがいる、というような作り方になると思うんです。そういう作り方は、小劇場ではよくやるんですけど、明治座のような大劇場ではなかなかないと思うので、注目して欲しいですね。
──柄本さんと劇団東京乾電池でご一緒の江口のりこさんもご出演されます。
柄本 僕と、えりさん、笹野さん、B作さんたちがいるところに江口さんが入ってきて、どんなふうになるのかな。江口さんは、非常に反射するタイプの俳優なんですよ。例えば相手がじっと自分のことを見てきたら、江口さんもじっと見返す、という感じです。それぞれの俳優と向き合ったときに、どんな反射を見せてくれるのか楽しみですね。普段はとってもさっぱりした、気性のパキッとした人です。
渡辺 ぶれない人ですよね。私が以前、出演依頼が来た仕事を「これ出た方がいいかな」と悩んでいたら、江口さんに「それは出ない方がいいですね」とはっきり言われたんですよ。なかなか年上の人にそこまではっきり物を言うってできないじゃないですか。あれは忘れられないです。
柄本 わかる、わかる。そういうこと言うよね。
──お2人の元気の秘訣はなんでしょうか。
渡辺 柄本さんに笑われるかもしれませんが、「怒り」だなと思います。
柄本 怒りか(笑)。人を憎んで。
渡辺 憎んでなんかないです(笑)! 世の中に対する怒りみたいな感じです。だって考えたら、私は子供もいないし、独身だし、父と母も亡くなってしまって。この頃、何のために生きているんだろうと、思うようになってしまったんです。両親が喜ぶ顔を見たいという気持ちでやってきたんですよ。それが無い今、もう生きる目的は世界平和しかないなと。
柄本 ……政界へ出るか!
渡辺 いやいや、そういうのじゃなくて(笑)。世界平和のためには、人間の笑ってる顔が必要じゃないですか。だから、人が生きるための希望になるような、そういう芝居を作りたいと思っているんです。私の頑張る原動力は世界平和しかないのかな、とつくづく思う毎日なので、自分にとっては、演劇の仕事をすること自体が生きる目的になっているのかな、と思います。
──柄本さんの元気の秘訣はなんでしょうか。
柄本 まあ、どうしても年を取ってくれば色々あるわけだけど、なるべくゆっくりゆっくりいきたい、ということは思っているかもしれませんね。
【プロフィール】
えもとあきら○東京都出身。1976年、劇団東京乾電池を結成、座長を務める。98年、映画『カンゾー先生』で第22回日本アカデミー最優秀主演男優賞を受賞。映画のみならず、舞台やテレビドラマにも多数出演。2011年、紫綬褒章受章。2015年、第41回放送文化基金賞番組部門「演技賞」受賞。2019年、旭日小綬章受章。近年の主な出演作品に、舞台『朗読劇 今は昔、栄養映画館』、ドラマ「看守の流儀」、映画「少年と犬」など。
わたなべえり○山形県出身。1978年より「劇団3〇〇」を20年間主宰。劇作、演出、出演すべてを務め、多くの話題作を発表した。舞台と同時に映画やドラマでも活躍。83年『ゲゲゲのげ』で岸田國士戯曲賞受賞。95年「忠臣蔵外伝 四谷怪談」、97年「Shall we ダンス?」で日本アカデミー賞優秀助演女優賞受賞。近年の主な出演作品に、舞台『三婆』、映画「リロ&スティッチ」(声の出演)、主な作・演出作品に『鯨よ!私の手に乗れ』『りぼん』など。

【公演情報】
『また本日も休診 ~山医者のうた~』
原作:見川鯛山「田舎医者」シリーズ
脚本・演出:田村孝裕
音楽:パスカルズ
出演:柄本明 渡辺えり 江口のりこ 佐藤B作 笹野高史/林翔太 市川美織 松金よね子 花王おさむ 矢部太郎 星野園美 佐々木春香 大西多摩恵 ほか
●10/11〜15◎福岡公演 博多座
●10/23〜11/2◎東京公演 明治座
●11/6◎宇都宮公演 栃木県総合文化センターメインホール
●11/22◎山形公演 やまぎん県民ホール大ホール
〈公式サイト〉https://kyushin2025.com/
【インタビュー◇久田綾子 撮影◇門嶋淳矢】