
今回は17歳の頃の原点に戻ったような感じがします
2025年劇団☆新感線45周年興行・秋冬公演 チャンピオンまつり いのうえ歌舞伎『爆烈忠臣蔵~桜吹雪THUNDERSTRUCK』に参加する早乙女太一。
2009年、17歳のときに『蛮幽鬼』で新感線に初参加してからはや16年。すっかり準劇団員的な存在になっている。
クールなイメージのある早乙女だが、今回の製作発表では粟根まことと高田聖子が夫婦役で髪型を似せてきたと言うと、息子の役として「僕も似せればよかった。教えてください(笑)」と場を盛り上げた。早乙女にとって新感線とは。(このインタビューは「えんぶ10月号」より転載。)
ふざけた作品のようで、蓋を開けてみれば意外といい話
──劇団☆新感線とはもう長いつきあいになりますが、新感線との出会いが早乙女さんの人生を変えたというような感覚はありますか。
人生が変わったというか、世界が広がったみたいな感じです。例えば、殺陣の技術に関しては、新感線で学んだことがすごく大きくて、育ててもらったというような意識があります。最初の頃は川原正嗣さんと前田悟さんに教えてもらっていました。僕が舞台でアクションをするときの土台はおふたりに作ってもらったと思っています。
──早乙女さんは肩甲骨の可動域が広くて。あれは新感線に出る以前からのポテンシャルだったように記憶しますが。
あれは自分で意識してやり始めたことでした。誰よりも動きを大きく見せたいなとか、ほかの誰もできない動き、自分特有の表現の仕方というものを探していた結果ですね。
──最初のうちはいのうえ歌舞伎のかっこよさや陰のキャラを担っていた早乙女さん。この『爆烈忠臣蔵』の製作発表で、はじめて人を殺さない役だとおっしゃっていましたね。
これまでは闇や業を背負っていたりすごく孤独だったりする役が多かったですが、今回は本当に様々な個性豊かな皆さんが大暴れするなかで、一番さっぱりしている役です。いままで新感線で演じた役のなかで一番責任がなくて気楽なので、一ファンとして劇団☆新感線の記念公演を楽しもうと思っています。新感線の皆さんのコメントを聞いていると、めちゃめちゃふざけた作品にしか思えないですが、蓋を開けてみれば意外といい話なんですよ。役者たちの話で、役者たちがどうやって芝居に向き合っていくかが描かれていて。同じ役者としてはちょっと気恥ずかしいところもありますが、新感線をこれまで見てくれたお客様への感謝を込めた作品なのだと感じます。
──女形の役をやることはいかが思いますか。
思えば、初めて新感線に出させてもらったとき、女性に化けて潜入している殺し屋の役でした。そういう意味で今回は原点に戻ったような感じがします。それに、これまで女形として踊りはやってきましたが、芝居をすることがなかったので、今回、それを学べるのが楽しみです。
振り幅を広げたいと思っていたときに新感線と出会った
──新感線のいのうえ歌舞伎の中にも重厚なものと今回の『爆烈忠臣蔵』のような喜劇的なものがあります。早乙女さんには笑いに対する興味はありますか。
大衆演劇の芝居にもいろいろな役があって、いろんな役ができてこその役者だと僕は思うので、どんな役もできるようにしたいという意味では、笑える芝居もできるようでありたいです。それこそ自分の劇団ではあまりかっこいい役をやらないようにしていました。かっこいいとかきれいとかイメージを固めてしまうのがいやなんです。殺陣をはじめたのも女形と真逆のことをやりたかったからで。ちょうどお芝居の振り幅を広げたいと思っていたときに新感線と出会いました。
──本当に振り幅が広い人になられましたよね。劇団朱雀の公演を見ても、器用だしエンターテイナーですよね。
自分ではできているかわからないですけれど……。
──朱雀公演でも中島かずきさんに脚本を依頼したりしています。かずきさんの脚本の魅力をどこに感じますか。
僕のことをとてもよく知ってもらっているという信頼感もありますし、時代劇にも詳しくて、既存の時代劇を題材としていろいろなアレンジをするプロだと思うんです。大衆演劇のお芝居は、昔から伝承されている時代劇を題材にしているものが多くて、その題材を知っていることを前提で観ることが多いんです。例えば、『忠臣蔵』がベースにある芝居だとしたら、『忠臣蔵』とはどういうものかは劇中で説明しない。でも『忠臣蔵』に出てくる登場人物や有名なエピソードが出てきます。説明がないから、知らない人にはなんのことか分からないんですよね。清水の次郎長とか遠山の金さんとか鼠小僧などもそうです。最近の朱雀のお客さんは大衆演劇を昔から知っている人もいますが、知らない新しい方たちが観に来てくれることが増えてきているので、知らない人でも楽しめるようにどんどん改善していきたいと思っていて。そういうときに、かずきさんに力を貸してもらいたいと思ってお願いしています。
──いのうえひでのりさんの演出はいかがですか。稽古場でいのうえさんが見本で見せるものが一番おもしろいと昔から言われていますが、早乙女さんもいのうえさんの動きをなぞっているのでしょうか。
自分から違うことを提案することもありますけれど、まずはいのうえさんの動きを見て再現しています。まだ稽古がはじまったばかりですが、この間、橋本じゅんさんと小池栄子さんのシーンを見たらほんとうにおもしろかったですよ。
──今回、じゅんさんと小池さんが親子役で、早乙女さんは粟根まことさんと高田聖子さんと親子役になります。この親子はどんな感じでしょうか。
じゅんさんと小池さんが演じる父娘は、親子のDNAをしっかり感じさせるし、親の思いと夢を背負った娘ですが、粟根さんと高田さんと僕の家族はただ一緒に劇団をやっているというさばけた関係です。そこは僕の現状に近いかもしれません。僕の場合、芝居一家ではありますが、みんなそれぞれ独自の方法論でやっているので。
芝居を続ける上で立ち向かわなければいけないことがある
──『忠臣蔵』はいままでやったことがありますか。
一度だけあります。子役のときだったのであまり覚えていないのですが。浅野内匠頭が松の廊下で吉良上野介に斬りかかったときに立ち会う家臣の役でした。まだ小学生だったし、何か難しい話だなと思って、あまりやりたくないと思っていた記憶しかないんです。そもそも大衆演劇には侍ものは少なくて、舞台は下町であったり長屋であったり、庶民的な人たちや任侠の世界の話が多いのですが、『忠臣蔵』で珍しくちゃんとしたお侍役をやることになって気が乗らなかったんですよね(笑)。
──早乙女さんご自身の、役者として女形でいるための精神性や大事にしていることを教えてください。
僕はどちらかというと反抗的にやってきました。本来の歌舞伎の方たちの女形と同じようなことをしても勝てないから、僕なりの女形というものをずっと探してやってきたんです。あえて違うものを目指してきたから一概にいわゆる女形とは言えないというか、ちょっと特殊なケースだと思います。
──そこが面白いですよね。反抗的に違うものを目指してきたっていうのがいいですよね。女形に限らず、決まったものごとに対するアンチテーゼは常に考えていますか。
アンチとまではいかないですが、同じことをやってもなぞるだけになってしまうし、性格的に人と同じことをするのがいやなんでしょうね。もちろん今までこういった文化や芸能を伝承してきてくれた方たちが残したものを引き継ぎつつも、いかに新たなジャンルとして自分という役者を作れるか目指していて。それには誰かの真似になっちゃいけないというふうに思います。
──ちなみに歌舞伎の女形の半生を描いた映画『国宝』は観ましたか。
まだ観てないです。興味はあって、観ようと思っているのですが、いつも満席だから。
──やはりああいう役者ものは役者として気になるのでしょうか。
いや、単純に話題になっているからです(笑)。映画が好きなので、話題のものはチェックしています。
──最近見て、面白かった映画はありますか。
最近は『F1/エフワン』を観ました。話的にはそれほど大きなストーリーがあるわけではなくて、しっかりした音響がいいところででっかいスクリーンで観ると迫力あって楽しめると思います。ドキュメンタリーを観ているようでした。それとブラピはずっとかっこいいなと思いました。
──ブラッド・ピットやトム・クルーズは還暦過ぎても現役でアクションものをやっています。早乙女さんもそれくらいの年齢まで体を駆使した芝居をやりたいと思いますか。
古田新太さんが今年、60歳なんですよね。僕はいま33歳で、あと30年もの間、そんなに体を酷使したものをやりたいとは思ってないですね。
──そうなんですか。
役者一筋というような感覚がなくて。でも作ることは好きで、何かしらもの作りをやり続けていければいいかなと。演出はやれるのなら年をとってもやっていきたいです。役者は……少なくともいま、自分がやっていることは絶対60歳ではできないことだから。
──だからこその価値はありますよね。
身を削りながら生きていくのはしんどいですよ。やっぱり平和に暮らしたいですよ。
──じゃあ、今回、人を殺さない役というのは念願でしたか。
いやいや、そういう希望はなかったですけれど(笑)。いまはまだ削るだけ削っておいた方がいいと思っています。やれる間は削りたいですね。
──何年くらいまで削りますか。
考えてないです。ただ、そろそろ抗わないといけない年齢になってきたんで。これまでと同じようにやっていても絶対に肉体は衰退していくだけなので、ここからはいままでやってこなかったトレーニングや練習が必要になってくるんじゃないかなと思っています。いままでとは別の頑張り方を楽しめるようになりたいですね。
──ストイックですよね。言わない美学ですかね。
ただ抗っているだけですよ。
──先ほど『爆烈忠臣蔵』は「役者とは何か」というようなことが書かれている物語とおっしゃっていました。書かれたことに共感するところはありますか。
やっぱりいつの時代も芝居を続ける上で立ち向かわなければいけないことがあるのかなと思います。『爆烈忠臣蔵』は江戸時代のお話で、幕府の規制によってやりたい芝居ができなくなったとき、どうやって芝居を続けるのかと、知恵をしぼり考えを巡らせる役者たちの物語です。僕たちだと、コロナ禍のとき、エンタメはまず不要不急として外されました。そういうときどう向き合うのか考えたこともあって。エンタメに関わっている人達はみんなそのことを考えていると思います。そして、それを全面には出さないにしても、思いはちゃんと抱えていたいなと思うんです。でもそういうのってちょっと恥ずかしいですね、役者が役者を演じるっていうのは照れくさいです。多分みんなもそうで、だからこそ照れ隠しのようにいっぱいふざけるのだと思うんですよ。

【公演情報】
2025年劇団☆新感線45周年興行・秋冬公演 チャンピオンまつり いのうえ歌舞伎
『爆烈忠臣蔵~桜吹雪THUNDERSTRUCK』
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:古田新太 橋本じゅん 高田聖子 粟根まこと 羽野晶紀 橋本さとし/小池栄子/早乙女太一/向井 理
右近健一 河野まさと 逆木圭一郎 村木よし子 インディ高橋 山本カナコ 礒野慎吾 吉田メタル 中谷さとみ 保坂エマ 村木 仁 川原正嗣 武田浩二 ほか
●9/19~23◎松本公演 まつもと市民芸術館 〈公演終了〉
●10/9~23◎大阪公演 フェスティバルホール
〈問い合わせ〉キョードーインフォメーション 0570-200-888(12:00~17:00/土日祝休)
●11/9~12/26◎東京公演 新橋演舞場
〈問い合わせ〉新橋演舞場 03-3541-2600(10:00~18:00)
〈公式サイト〉https://www.vi-shinkansen.co.jp/bakuretsu45/
【インタビュー◇木俣冬 撮影◇中村嘉昭 ヘアメイク◇奥山信次(B.SUN) スタイリング◇八尾崇文】