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(雑誌『演劇ぶっく』は2016年9月より改題し、『えんぶ』となりました。)
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舞台『醉いどれ天使』いよいよ開幕! 演出・深作健太インタビュー

黒澤明監督、三船敏郎主演により1948年に公開された名作映画の舞台版『醉いどれ天使』が、新たなスタッフ・キャストで11月7日より明治座で上演される。(23日まで。そののち愛知・御園座、大阪・新歌舞伎座公演あり)
戦争によって荒廃した東京の闇市を舞台に、必死に生きようとした人間たち。その1人で三船敏郎が演じた若いやくざの松永を、この舞台では北山宏光が演じる。そのほかにも渡辺 大や佐藤仁美、大鶴義丹など実力派のベテランから、若手の横山由依、岡田結実、阪口珠美まで多彩な顔ぶれが揃った。
この作品を演出するのは、映画にとどまらず演劇、オペラ、テレビドラマ、コンサートなど、ジャンルを越えて活躍の場を広げる深作健太。その深作に作品への思いや今回の演出について語ってもらった。

人にも土地にも不思議な縁のある作品

──まず今回の演出のオファーを受けたとき、どんなお気持ちでしたか?

やはり名作映画の舞台化ということでプレッシャーはありました。僕の祖母が女優でこの映画にダンサー役で出演していたんですよ。昔、僕自身、子役として一度だけハリウッド映画に出演したことがあって、三船敏郎さんの弟子の役だったんです。最近たまたま父の本を読んでいたら、17歳のときにこの映画を観たことで映画監督を志したと書いてあって驚きました。そういう意味では二重三重に不思議な縁のある作品だと思っています。

──そう伺うと今回の演出も必然という感じですね。

当時この映画を撮影した場所が、今成城にある東宝撮影所ではなく、東映がある大泉にオープンセットを作ったんだそうです。父はその大泉にある東映育ちですし、僕もそこで助監督として長くやらせていただきましたから、そういう意味でもこの映画を観ると、いろいろな感慨が浮かんでくるんです。

──人の縁だけでなく土地の縁まであったのですね。その舞台化ですが、今の時代を映し込むために、音楽もロックにするそうですね。

いつも「深作組」でドイツ演劇を一緒に作っている西川裕一さんが舞台上に立ち、音楽を全部生演奏でやります。彼は電子音楽の演奏だけでなく効果音も鳴らします。そのへんはブレヒト以来のドイツ演劇の異化手法なんですが、現代の若い人たちに、昭和の時代劇としてではなく、あくまでも今と地続きの話として観ていただきたいので、音楽もその入り口になってくれればと思っています。

ビルが崩れて瓦礫になっている闇市

──物語の背景は戦後まもない時代で、どこか今の日本のちょっと殺伐とした状況と通じるものがありますね。

以前タモリさんが「新しい戦前」とおっしゃっていたんですが、現代はアフターコロナの影響からさまざまな分断があり、経済的格差も広がっている。その中で政治的に先鋭化していく人たちもいて、憲法の解釈もあり、我々の親たちの世代が80年間守ってきた平和が崩れそうになっている。そういう意味では、この作品はあくまでもエンターテイメントとして作りますが、その中に戦後というたいへん困難だった時代を、必死で生きようとした人たちがいたことや、それを正面から見つめて描いた黒澤さんたち映画人の思いを、少しでも若い方たちに渡していけたらと思うんです。ちょうど今回出演してくれている(渡辺)大ちゃんも(大鶴)義丹さんも、偉大な昭和の父親の影と格闘している役者さんたちで、自分の立ち位置を探し続けながら、この作品と真摯に向き合ってくれています。

──テーマ的にはとても重みのある作品ですが、渡辺さんが製作発表で「稽古場は明るくて楽しい」とおっしゃっていました。

そうなんです(笑)。蓬莱竜太さんの脚本では、この物語に出てくる女性たちがとても明るく強く描かれている。演じる側もそんな女性像をしっかり自分のものにしてきらきら輝いています。そしてその中心には北山宏光さんが松永役としてしっかりと、魅力的に立っていてくださるので、僕としてはありがたいです。

──松永は闇市を支配する若いやくざですが、その闇市というもの自体は映画ではあまり出てきませんね。

映画が公開された1948年当時は、実際に観る人たちの生活に闇市があったわけです。あえて映画の中で闇市を色濃く描かなくても、米軍占領下だということも、未来が不安なことも、観る人たちは全部わかっていた。そこから20年以上経って、僕の父が「仁義なき戦い」を撮ったときは、すでに戦後は遠くなりかけていて、逆に闇市をちゃんと描かないと伝わらなかった。じゃあ今僕はどんな闇市を描くかというと、今回は鉄筋コンクリートのビルが崩れて瓦礫になっている現代のウクライナやガザの風景に重ねようと。そこに平和への祈りのようなものを重ねて見ていただけたらと思っているんです。

血の繋がっていない家族のために戦おうとする松永

──今回渡辺さんが演じる町医者の真田は、映画では志村喬さんが演じていました。舞台ではかなり若い設定で、松永の兄貴的な存在になるそうですね。

映画より若い設定になり、渡辺さんの持ち味もあって、今回は松永とバディ的な関係になると思います。

──大鶴さんは古い任侠の世界に生きるやくざで、新しい時代を生きようとする松永の前に立ちはだかります。

義丹さんなら、この役の重さをわかって表現してくださいますので、楽しみです。蓬莱さんの脚本は男たちの役割も重要なのですが、より女性たちの存在が大きくなっています。とくに映画では脇役だった「ぎん」という女性をヒロインにしてあって、松永に大きな影響を与えます。そのぎん役をダブルキャストで演じるのが横山由依さんと岡田結実さんで、2人はいい意味でまったくキャラクターが違うので、ぜひ両バージョン観ていただきたいです。それに佐藤仁美さんの美代も阪口珠美さんの奈々江も、この作品の女性たちはすごくエネルギーがあって、まさに太陽のよう。逆に男性が月で女性たちに照らされている。それによって北山さんの松永の繊細なところと真剣なところがすごく生きてくるし、三船さんの燃える松永とは真逆な作りになりますが、だからこそ北山さんの松永が最後に向けて輝いていく、という構図になっているんです。

──そういう構図も含めて、エンターテイメントとして新鮮な舞台になりそうですね。

そうなんです。音楽もロックの生演奏で表現し、ダンスの振付もアバンギャルディのakaneさんが現代風の振付で作ってくださいますから、ポップな要素が入ると思います。

──その感覚は戦争が終わったあの時代の解放感に通じるのかもしれませんね。

松永は、そういう戦後の明るさを人一倍求めていた人で、だからこそ自分の家族、焼け跡で出会って、身を寄せ合って生きる血の繋がっていない家族のために、戦おうとするんです。そういう意味でもこの作品は普遍的な人間ドラマですし、分断の時代にこそ観ていただきたいと思っています。

【プロフィール】
ふかさくけんた○東京都出身。2000年、父・深作欣二と共に脚本・プロデューサーとして『バトル・ロワイアル』を制作。03年、撮影中に逝去した父の跡を継いで『バトル・ロワイアルⅡ【鎮魂歌】』で監督デビュー。以降、舞台、オペラなど多様なジャンルの作品を演出している。『バトル・ロワイアル』にて第24回日本アカデミー賞優秀脚本賞、第20回藤本賞新人賞、『バトル・ロワイアルⅡ【鎮魂歌】』にて第58回毎日映画コンクール脚本賞を受賞。最近の主な舞台作品は、『フェードラ -炎の中で-』坊っちゃん劇場ミュージカル『新・鶴姫伝説〜鎧に白い花を〜』『真夜中に起こった出来事』(25 演出)、オペラ『さまよえるオランダ人』など。

【公演情報】
『醉いどれ天使』  
原作:黒澤明 植草圭之助
脚本:蓬莱竜太
演出:深作健太
出演:北山宏光 
渡辺 大 横山由依・岡田結実(Wキャスト) 阪口珠美/佐藤仁美 大鶴義丹 ほか
●11/7~23◎東京公演 明治座
〈チケットお問合せ〉明治座チケットセンター 03-3666-6666(10:00~17:00)
●11/28~30◎名古屋公演 御園座
〈チケットお問合せ〉御園座営業部 052-222-8222(平日10:00~18:00)
●12/5~14◎大阪公演 新歌舞伎座
〈チケットお問合せ〉 新歌舞伎座テレホン予約センター 06-7730-2222(10:00~16:00)
〈公式サイト〉https://www.yoidoretenshi-stage.jp


【取材・文◇榊原和子 写真撮影◇田中亜紀】

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