
みちとさせプロフィール
コロナ禍の2020年12月に、閉館すると決まった劇地下リバティの舞台に立ちたい佐瀬ののみが、急遽、友人だった川勾みちを誘い結成するも間に合わず、翌年5月にだいいっぽ公演『みちとさせのおしばい』をアトリエ5-25-6で上演。以降、だいたい年2回のペースで作品を発表。今回は池袋演劇祭に合わせ日程を9月に調整したが、スタジオ空洞は対象外会場と後で知る。そんな2人のユニットに、全公演でスタッフとして参加していたSHIENAが加入。2025年7月より3人体制となった。
(えんぶ2025年12月号掲載記事)

川勾みち
かわわみち○1995年生まれ、神奈川県出身。小学校時代に経験した全校集会でのひと言がみんなに受けた経験と、大きな場所で大きな声を出す気持ちよさが忘れられず、中・高迷わず演劇部に。桜美林大学に進学し在学中から小劇場公演に多く参加。劇団ガソリーナ所属。舞台上で気を抜くことが得意な俳優。
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出演予定◇あるいはエナメルの目をもつ乙女プロデュース『墓場、女子高生』2026/3/18〜22◎テアトルBONBON



佐瀬ののみ
させののみ○1997年生まれ、神奈川県出身。中学時代に参加した区民ミュージカルの舞台上で見た照明の綺麗さが忘れられず、高校演劇強豪校に進学するも先輩と馬が合わず退部。以降外部で演劇活動を開始。高校卒業後、文学座附属演劇研究所を経てフリーで活動。最近は脚本も担当する俳優。TikTok配信者。



SHIENA
しえな○1996年生まれ、静岡県出身。高校時代は演劇部に所属。俳優の後、スタッフに。尚美学園大学進学時に上京。大学では音響サークルと映像制作ゼミに所属。その頃より小劇場での演劇に参加。頑固。泣き虫。会社員。制作、音響、イベント運営、たまーに役者。広く浅く、時々深く活動中。
活動予定
◇みちとさせ×立体映画館『みちとさせと立体映画館のミー!ソー!カー!』12/30・31◎Theater Cafe & Dining Proscenium
◇2026年夏公演(脚本・演出◇屋代秀樹)
\ 詳細はみちとさせXアカウントへ /
絶妙なユルさが想像力をかきたてる。
“みちとさせ”の公演を見てこの原稿を書き始めてから、竹越ひろ子という歌手の「東京流れもの」がズ〜と頭の中を巡っています。(あくまでも私の頭の中でのイメージです。今回のお芝居の内容とは関わりはありません)
流れ流れて東京を〜
そぞろ歩きは 軟派でも〜
心にゃ硬派の 血が通う〜
花の一匹 人生だ(後略)
別に彼女たちが流れ者というわけではありません。というか東京に定住者という概念はいまや有りません。
今回は“みちとさせ”の「宝箱」公演を巡るレポート風のインタビューです。自分達のやりたいことを、仲間を募り知恵を絞って実現して、みんな幸せで終わりたい、という。もはや“演劇”の枠を超えて、生き方そのものを楽しんでいる、軟派で硬派な花の三匹です。
「こいつらおもしろいかもしれない」
——なにを見に行くかを決めるところから、見終わって劇場を出るところまで、ズーと楽しかったです。どうしたらあんな風にできるんですかね?
佐瀬 基本的に自分が好きな人たちを集めて、公演をみんなが幸せで終わるっていうことを目標にして私たちは活動をしているんですけども。
——なるほど、ではなんとなくその時間の流れでお聞きしていきますね。
三人 (なんとなく不安そうに)はい。
——見に行きたい公演を探していたら、このチラシがありました。


豪華短編2本立て!9/19〜21◎スタジオ空洞
SHIENA (佐瀬に向かって)彼女が作ったんです。
佐瀬 わたしが作りました。撮影は厚木拓郎さんにしていただきました。
——自分達の面白さはこんな感じねっていうのがうまく表現されていて「こいつらおもしろいかもしれない」って思いました。
川勾 チラシからだったんですね。
佐瀬 良かったです。
——ギリギリのところのチョイスが、「あ、もしかしたらお芝居もそういう感じなのかなと」思ったんですよ。そうしたらドンピシャでした。
受付の立派な対応にとまどう
——劇場は池袋の西口にあるスタジオ空洞でした
川勾 今までカフェとか、おうちを改造して演劇ができるようにしたみたいなところでやることが多くて。「一度こういう演劇を普段やってる場所でやってみたい」と思って冒険みたいな感じで取ってみました。
——劇場までの道筋もいいですよね。少しだけ猥雑な街からフッと抜けたような場所にあるビルの地下にあります。
佐瀬 駅からちょっと距離がありますけど、日常の自分をそっと置いて来るにはちょうどいい感じですよね。
——それで会場に行ったら、意外に立派な受付の対応でびっくりしました。
SHIENA えー、そうですか? 私とあと二人いたんですが。
——全然意外ですよ。だってこれ(チラシを見せる)見てきたんですよ。
川勾 私たちがこれだから、お客様への対応はちょっとしっかりした人間を集めてお願いしました。
SHIENA そうだったんだ。
——もしかしたらこのきちんとした人たちがそのまま舞台に出てくるんじゃないかって心配になって。だけど、ふにゃふにゃした人たちが出てきたから、ちょっとほっとして、よし!ってなりました。
SHIENA よかったです(笑)。
計算された絶妙な会場設定
——そして、客席は20席ぐらいですね、大丈夫ですか?
佐瀬 大丈夫なんですよ。ずっとちっちゃいところでやってたので、今回が一番お客さんが来てます。
——でもあの配置で20席というのはなかなかいい度胸だなと。
川勾 確かに……。あんなに舞台を広く使って、いらないものを置いて、20人しかお客さん入れないなんて(笑)。
SHIENA 制作的にはもう1列増やしたかったですね。でもなるべくゆったり見てもらいたいっていうのもあったので。
——舞台に一人で最初に立ってる、あの距離、客席と舞台の距離というのは、とてもギリギリでしたね。
佐瀨 最初の場面でわたしが一人で宇宙に向かって手紙を読むんですけど、あれより客席が近いと難しいですね。
——舞台の作りがね、横に広く使っていて、右側はいっぱい余っていて。みなさんの動きにもうまくスペースに合ってましたね。
SHIENA それに関してはスタジオ空洞でやるっていうのが決まった段階で、脚本家の方に依頼をしたので「あそこでやるんだったら」というものを書き下ろしてくださいました。
『親愛なる宇宙人へ』
脚本◇高村颯志(家のカギ)
演出◇奥田悟史(劇団ミックスドッグス)
出演◇川勾みち 佐瀬ののみ 矢島選手権
高校最後の試合を初戦敗退した翌日、バレー部エースの古河飛鳥(佐瀬ののみ)は宇宙人に恋い焦がれ、空に向かってラブレターを読み上げている。それを聞いている部内の変わり者で補欠の大平円(川勾みち)は、文脈がへんだと指摘する。そこに気のよさそうなマネージャー牛込宙(矢島選手権)が横断幕を持ってやって来る。飛鳥はこの3人で真剣にUFOを呼び出そうとするのだが…。


今年のバレー部のスローガン「負けたくない」に、いちゃもんをつけるバレー部のエース・飛鳥。
スローガンは成り行きでバレー部マネージャーの宙が考えたという。
オカルト研究部の副部長からUFOの呼び出し方を教わってきた飛鳥(佐瀬ののみ)は、嬉しそうに秘訣を2人に披露する。




飛鳥にミステリー研究部員に手伝ってもらうために渡すコーラを頼まれ買って来た補欠部員の円(川勾みち)。
空に向かって呪文を唱えUFOを呼び出そうとする3人




最後、鞄の中に宇宙人へのラブレターを見つけて戸惑う?炭酸が飲めない宙(矢島選手権)。
二人のテンションの高低をたのしむ
——一本目は佐瀬さんが中心の内容でとにかく引っ張っていく役だから、結構テンションを上げていかないといけない。
佐瀬 ははは。テンションを上げるのは得意なんですよ。
——(笑)。
佐瀬 最初に演劇やり始めた時はああいうテンションのお芝居が多かったので。
——そうなんですか。
川勾 ののみちゃんは割と元気でみんなを引っ張ってく力はある感じだったので、できるだろうなと思いつつ「私の役はどうしてもエンジンをかけられない役なので、ののみちゃん一人で頑張ってやってくださいね」って言って、彼女が「任せてよ!」って、やっていった感じです。
SHIENA 楽しいじゃないですか。
——逆に言えばみちさんの一本目の芝居を見ていたら、こういうキャラの人なんだなあと思いました。キャラとして似合っていたし、すごく素敵だったんですけれども、わざと作っているんですか?
川勾 そうですね。最初に台本を読んで脚本家さんとお話した時に、結構落ち着いてて、あんまりみんなとテンションを合わせないで、ぼそぼそ喋るみたいな感じでとすり合わせをしていたので。エンジンをかけないように頑張りました。
——なるほど。
川勾 いや、どうかな。それなりにかけていたのかな。
SHIENA かけなきゃ舞台に立てないからね。
川勾 それがばれないようにかな。
客演の矢島くんの役は宇宙人?
——客演の矢島選手権さんもとても良い佇まいでした。
川勾 そうなんですよね。
——全体的に軽いリズムのノリが作れて見やすくなったのは、彼によるところも大きかったですね。
佐瀬 大きいですね。
川勾 みちとさせは、わりとゆるゆるグダグダしながら、エンジンかけると一気に突っ走ってくみたいな感じだから、私たちが矢島さんを軸に飛び回っていられる形になって。とても良かったですね。
佐瀬 帰る場所が分かるからね。
川勾 そうそう、ありがたかった。
——矢島さんが演じたマネージャーが宇宙人ということなんですか?
全員 んん? どうですかね(笑)。
——だとすると彼の役割はさらに複雑ですよね。彼は宇宙人を呼ぶワークショップの後に転校してきたり、コーラが飲めなかったりしてますよね。宇宙人は炭酸飲料が飲めない。
全員 (笑)。
——ここのチームは「あ、どうですかね?」みたいなのがすごく気持ちいいですね(笑)。
佐瀬 それを楽しんでもらえたらと思います。
——彼はいいキャラクターでしたね。たぶん、宇宙人ということで。
全員 どうですかね(笑)。
丁寧な仕掛けでお芝居ならではのリズムに
——全体的に曖昧な内容で進んでいくなかで、ほとんど佐瀬さんがはじめにしゃべって、川勾さんと矢島さんの二人がそれについてフォローしていくのでとても分かりやすい。
川勾・佐瀬 うんうんうん。
——ダイアローグでどんどん進んじゃうと、観客が置いていかれる部分があると思うんですよ。佐瀨さんがひとつ言って、もう一人が答えて、さらにもう一人のリアクションがあると、余裕ができて面白い。どうでもいいような三人の会話がすごく面白いリズムになっていました。上手な脚本ですよね。
佐瀬 高村颯志くんです。
——ただの漫才的な掛け合いじゃなくて、お芝居ならではのリズムで、いかにもお芝居の良さが出るような演出もあってとても見やすかったですね。
川勾 演出家の奥田悟史さんにワチャワチャ直していただいて整えていけたのもよかったと思います。
SHIENA ほんとうによかったです。
『ヘンでもグレても』
脚本・演出◇窪寺奈々瀬(AURYN)
出演◇川勾みち 佐瀬ののみ 矢島選手権
ある夏の夜、廃校の地下室に忍び込んだ瀬里(川勾みち)と輝美(佐瀬ののみ)。インディーズバンドの熱烈なファンの瀬里は、聖地巡礼と言って、プロモーションビデオを撮影したとおぼしきこの場所で自分も同じように踊って録画をしたいと熱望している。派手な見た目と裏腹に真面目な輝美は不法侵入が嫌で早く帰りたい。はしゃぐ瀬里をなだめていると、床に落ちていると思われた毛布の下から一人の男・古田(矢島選手権)が現れた。身なりのキチンとしたサラリーマンで妹の思い出を探しているという。迷惑がる古田と帰りたい輝美を他所に、おもしろそうと言って一緒に探そうと張り切る瀬里だが…。


突然現れた男・古田に驚く輝美(左:佐瀬ののみ)と瀬里(右:川勾みち)。
ズカズカ他人の心に踏み込む瀬里に「もうやめて」と伝える輝美。
「でもそれが私だから」とこたえる瀬里。




地下室の明かりが急に消えた暗闇の中、真っ直ぐ本音をぶつけてくる瀬里と
なかなか本音を口にできない輝美。
古田(矢島選手権)が開けた缶ケースの中身を確認する瀬里と輝美。




瀬里が倉庫で見つけてきたガラクタの中から、妹が好きだったキャラクターの缶ケースを見つけた古田は、妹のことを思い出す。
楽しげにみえた緊張感のあるセッション
——二本目はちょっと外すと白けちゃいそうですよね。
佐瀬 いや、めちゃくちゃ難しかったです。
——池袋にある廃校の地下室に、インディーズバンドのプロモを撮った場所かもしれないということで、ファンの女性とその友人が忍び込む。
SHIENA はい。
——ファンの女性はそこでプロモみたいに踊って動画にしたい、というのが川勾さんの役で、それを止めたい人が佐瀬さんでした。セッションというのか、とても緊張感がありました。
SHIENA はい。
——一本目とは真逆の役柄で、川勾さんが能動的に引っ張ります。
川勾 そうですね。私に近い役ですけど、ギリ私ではないから、この子はどういう子なんだろうって、すごく1ミリ、2ミリでずらして合わせていくのが結構大変だったですね。
佐瀬 私の役は心の揺れ動きを自分で掴んでいくみたいな内面の繊細さがすごくて。そのつなぎ方や相手が今どう思ってる?みたいなののキャッチ力とかを試される時間でした。
——客席から見ていると楽しげにやってるなという感じがしました。
川勾 あれは私がエンジンを吹かしてやってました。そうしないと誰も動けないから。
——何かこれって嘘っぽいけど、みなさんがやっていると嘘じゃないという感じがすごくしてきて。書いた方も上手なのかなって。
SHIENA 二本目の脚本と演出をしてくださったのは窪寺奈々瀬さんで、開演してからもずっと二人に「大丈夫だよ、大丈夫だよ」と。
川勾 ここ最近あんまり私たちがそういう芝居をやってなかったのもあって。本当に演出家さんにはいっぱい言ってもらいました。「違うの、できるの。そんなキャラクターみたいな感じにしないで大丈夫だよ」って。
佐瀬 無茶苦茶お世話になりました。
ネバーエンディングな展開で無限の可能性を
——後半は矢島さんが不思議なサラリーマンとして登場して宝箱の話になりますが。
佐瀬 矢島さんがずっとあそこ(舞台の右端)の布の中にいるのって気がつきました?
——気が付かなかったので出てきたときにビックリしました。
佐瀬 よかった(笑)。
——宝箱の話も一本目の宇宙人の話と同じようによく分からないんですけど。別にそれはそれでおもしろいですよね。物語の結末を伝えたいという思って作っているわけではないですもんね。
(編集:矢崎)彼が最後、ドアから出て行くとき、二人に手をひらひら振って去るあのシーンすごくよかったですね。話を聞きながら、もしかしたら彼はお化けだったのかもしれないって、今思いつきました。
SHIENA 無限の可能性ですね。
——とても楽しい体験をさせていただきました。
三人 ありがとうございます。
二人がそれぞれ真逆の役を演りたかった?
——お芝居が終わった後に、お二人が別々のキャラクターをやりたかったのかと思ったんですね。
全員 ハハハハ。
——分かりやすい言い方をすると、ボケとツッコミみたいな。お二人の立場が二つの作品で明らかに変わりますよね。
佐瀬 そうですね。
——一本目を見て、こういうキャラクターの人たちのチームなんだって思ったんですよ。で、次の作品を見たらそれが真逆になっていたので、そういう自分たちをアピールしたいということがこの企画の一つの要素になっていたのかなと。
佐瀬 最初はそうじゃなかったです。
川勾 私とののみは俳優でそれぞれ活動しているのもあって、みちとさせでは「私たちはいろんなことができる」みたいなことを皆さんにお見せしたいなとは思っていて。なので、どっちもできる私たちを見ていただいた方がお客さんも多分楽しいし、私たちもこんなこともできますよ、フフフみたいな意図もなくはない。脚本をいただいた後に思ったことですけど。
——今回の公演は軽めの内容で短編二本立てでしたが、複雑でとてもたくさんの情報が詰め込まれていて、“みんなが幸せで終わる”という、そのみんなの中に入れていただけたような気がしています。ありがとうございました。
インタビュー◇坂口真人 写真提供◇みちとさせ
イベント情報






みちとさせ×立体映画館
『みちとさせと立体映画館のミー!ソー!カー!』
出演
・立体映画館
@rittaieigakan(池崎浩士・山田佳奈)
・みちとさせ
@michi_to_sase(川勾みち・佐瀬ののみ・SHIENA)
12/30・31◎Theater Cafe & Dining
★このインタビューは、えんぶ最新号に掲載されています▼!





