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多和田任益インタビュー

モンテ愛の詰まったカンパニーとともに走り抜く!

多和田任益の主演による舞台『熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン2025』が、12月18日〜28日に紀伊國屋ホールにて上演される。つかこうへいの代表作『熱海殺人事件』は、1973年の発表から50年以上観客に愛され、その魂を届けてきた。多和田任益が演じる『熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』は、木村伝兵衛の妖麗で狂気的な演技が観客を圧倒する異色のバージョンで、2020年に幕を開けた。だがコロナ禍により途中で中止となり、2021年の再演も再び中止、そして昨年、2024年の公演で初めて全公演を完走、満席のスタンディングオベーションに包まれながら千穐楽を迎えた。そんな伝説の多和田伝兵衛が、1年の時を経て紀伊國屋ホールに甦る。

人生にとって大きなものをもたらした作品

──「昨年の『熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』(以下『モンテ』)の大成功を受けて、今年も『モンテ』が上演されることになりました。 

 初演から5年目になりますが、その間に積み重ねてきた僕たちの思いもありますし、上演できない期間にもお客さんの熱量を感じていましたので、今年もお届けできることが本当に嬉しいです。

──『モンテ』はかなり苦難の歴史を経た作品で、2020年の初演がコロナ禍で途中で中止になり、2021年の再演も全公演中止になりました。

 それだけに三度目の挑戦となった昨年の公演は、本当に特別な感動がありました。駆け抜けられることのありがたさを感じましたし、舞台はお客さんと繋がって出来上がるものだということを、改めて体感しました。とくに千穐楽の熱量は凄いものがあって、初演からずっと一緒の鳥ちゃん(鳥越裕貴)と「まるでオリンピックでゴールを切る選手みたいだね」と話したぐらいで、それまでの4年間の苦労が一気に報われたという感覚でした。

──その2024年のメンバーで今年また出来ることは嬉しいですね。

 そこから参加してくれた(嘉島)陸とか(木﨑)ゆりあも、僕たちの『モンテ』への並々ならぬ思いを知っていますし、もちろん演出のヤシキ(中屋敷法仁)さんや梅棒の先輩で振付の野田(裕貴)さんも『モンテ』愛が強い方たちなので、カンパニーの一体感は今回も凄いです。昨年の公演でも陸やゆりあは、『モンテ』は初めてなのにガンガンぶつかってきてくれるから、こちらもガンガン返せたし、思い切りやれたんです。だからこのメンバーと絶対にまたやりたいと思ったし、オリンピックではないけれど4年後でもいいからと思っていたら、なんとこんなに早く、しかもこれまでは『熱海殺人事件』(以下『熱海』)のスタンダード版とセット上演だったのに、単独公演として紀伊國屋ホールでやらせてもらえるなんてすごいことで、正直びっくりしました。

──嬉しい驚きですね。

 思わず、『モンテ』単体でですか?とプロデューサーの岡村(俊一)さんに聞き返しました。でもそれだけ『モンテ』が認めてもらえたのだと思いますし、逆につかさんの『熱海』そのものの面白さや凄さを、この公演で伝えていく役割もあると思うので、改めて気を引き締めていきたいと思っています。

──『モンテ』は1993年に、阿部寛さん用につかさんが大幅にアレンジした作品で、それだけに人を選ぶ作品ですし、いわば異端の『熱海』でした。その『モンテ』が多和田任益という俳優を得て、32年後に『熱海』のスタンダードと肩を並べるところまで大きくなった。それは多和田さんの力だと思います。

 僕はとにかく『モンテ』が大好きなんです。内容もですが、僕が演じることになってから歌とダンスが沢山入ったし、僕の好きがいっぱい詰まっているんです。いろんな意味で僕の人生にとって大きなものをもたらしてくれました。

全国に『モンテ』を持って行きたい!

──多和田さんはスタンダードの『熱海』でも、全役制覇という快挙を成し遂げています。

 僕は2017年に初めて『熱海』に出演させてもらったのですが、まさかそんな未来があるとは思っていなかったです(笑)。

──木村伝兵衛、熊田刑事、大山金太郎まではわかりますが、婦警・水野朋子まで演じました。1日だけのシャッフル公演で、運良く観られたお客さまには綺麗だったと評判でした。

 嬉しいです(笑)。『モンテ』でいつもドレスを着ていることで、やりやすかった部分はあったかもしれません。後で録画を観せてもらったのですが、けっこう堂々とやっているなと自分でも思いました(笑)。

──そんな深い関わりを持つことになった『熱海』ですが、この作品はなぜそんなに多和田さんを惹きつけるのでしょう? 

 まずたった4人で演じるという密度の濃さと、つかさんが書かれる言葉、どの作品でもそうですが、すごく深く刺さってくるんです。それは客席で観ているときも感じますし、舞台で自分が喋っていても俯瞰的に「このセリフいいな」と思ったり、共演者の誰かが喋っているのを聞いたときにも感じるんです。しかも喋る役者が変わるとまた刺さり方が違う。つかさんの言葉は本当に凄いなと思います。

──『熱海』で全役を演じたことで、また発見などはありましたか?

 大山金太郎を演じた2023年の公演の演出が河毛俊作さんだったのですが、自分のこれまでになかった何かを引き出してもらったという感覚があります。いわゆる「金太郎はこうだよね」というイメージをぶった切ってやらせてもらって、『熱海』をずっと観てくださっている方が、「こういう解釈もあるんだと思った」と言ってくださったり、「新しい金太郎像を観た」といろんな方に言っていただいたり。それはちょっと忘れられない経験になりました。

──ある意味、陽の当たるところが似合う多和田任益が、日陰で生きてきた大山金太郎を演じたことで、役者としての陰影が深くなったのかもしれませんね。

 金太郎をやったから2024年の『モンテ』の伝兵衛をより深く演じられたと思いますし、そこは確かに違っていたと思います。『モンテ』の伝兵衛は『熱海』の伝兵衛より闇があるんです。『熱海』で金太郎が愛しているからこそアイちゃんに卑屈になったり、わかっているのに言ってしまうところなどは、『モンテ』の伝兵衛が速水刑事に対して思っている部分と共通していたりする。そんなふうに考えると、つかさんってやっぱり凄いなと思いますし、人間への深い愛をすごく感じます。

──多和田さんはやっと30代に入ったばかりですから、『モンテ』はこれからライフワーク的に挑戦できますね。

 そうなれば嬉しいですけど、でも逆に僕の『モンテ』を観て、「自分もこの作品をやってみたい」といろんな俳優の方が思う、そういう作品にしたいと思っているんです。『モンテ』をもっと沢山の人に観てほしい。コロナ禍でダメになったのですが福岡公演の予定もあったんです。できれば全国に『モンテ』を持って行きたい。そのためにも今回の2025年版を、みんなと一緒に全力で駆け抜けたいと思っています。

プロフィール

たわだひでや○大阪府出身。2011年に舞台デビュー、ダンスエンターテインメント集団「梅棒」のメンバーとしても活動中。最近の主な出演舞台は、梅棒19th GIFT『クリス、いってきマス!!!』、『舞台小説 ついてる! 〜めぐりめぐる、おむすび〜』、『極めてやわらかい道』、朗読公演 三島由紀夫生誕100年記念「近代能楽集」より『邯鄲』。振付作品に『マッシュル-MASHLE-』THE STAGE、革命ミュージカル『新・幕末純情伝』など。

インタビュー◇宮田華子 撮影◇中村嘉昭

公演情報

『熱海殺人事件モンテカルロ・イリュージョン2025』

作◇つかこうへい 演出◇中屋敷法仁 振付◇野田裕貴(梅棒)
出演◇多和田任益 嘉島 陸 鳥越裕貴 木﨑ゆりあ
12/18〜28◎紀伊國屋ホール
〈問い合わせ〉MITT TICKET 03-6265-3201(平日12:00~17:00)