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(雑誌『演劇ぶっく』は2016年9月より改題し、『えんぶ』となりました。)
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キムラ緑子・松村雄基インタビュー

松村雄基・キムラ緑子

戦後日本に明るいパワーを届けた「ブギウギ」 

敗戦直後の日本に、明るい歌声で元気と勇気を与えた伝説的歌手、笠置シヅ子。その波瀾万丈の生涯を描いた舞台『わが歌ブギウギ-笠置シヅ子物語-』が、2026年の年明けに三越劇場と南座で上演される。音楽家・服部良一との出会い、大阪松竹少女歌劇団(後のOSK)のトップスター時代、戦争の影響や運命的な恋などを経て、日本を代表する人気歌手へ成長していく姿を、「東京ブギウギ」をはじめとする珠玉の名曲を織り交ぜて綴っていく。その作品で、笠置シヅ子役を演じるキムラ緑子と、作曲家・服部良一役を演じる松村雄基がこの作品について語り合う。

人並みはずれた爆発的なエネルギーの持ち主

──まず笠置シヅ子さんについてどんな印象を持っていますか?

キムラ いろいろなエピソードや生前を知る方のお話などによりますと、とにかく人並みはずれたとか、爆発的とか、そういう形容詞がつくような、特別なエネルギーを持った方だったそうです。歌声も、パワーがあるだけではなく、不思議なバイブレーションがあったり、歌い方も独特で、「東京ブギウギ」を他の歌手の方が歌っても、笠置さんのあの歌い方には絶対に近づけない、そういう何かがあるんです。

松村 僕にとっては、歌番組で審査員をされていた陽気なおばちゃんというイメージだったのですが、台本を読ませていただいて、なんてドラマチックな人生を生きた人なんだと。しかも不幸なことがあっても、それを全部はね返して、目の前に壁があったら全力でぶち抜いて進んでいく。信念がとても強い方だと思いました。

キムラ 本当にたいへんな人生ですよね。可愛がっていた弟さんが戦死したり、恋人が病気で亡くなってしまったり。しかも彼との間に生まれたお子さんを抱えて生きなければならなかった。きっとつらいことも多かったと思います。それを全部歌のパワーに変えて、100倍にして戦後の日本を明るくしてくれた。どれだけの人たちが笠置さんの歌声に救われたことか。でもご本人の心の中には、おそらく人には言えない寂しさとか悲しみがあったのではないのかと。

──歌手として成功した笠置さんですが、戦後10年ぐらいで突然引退してしまいます。

キムラ 理由は今もはっきりわかっていなくて、服部(良一)先生にも言わずに引退を発表したことで、先生もすごく怒ったそうですね。でも自分が決めたら誰がなんと言おうとそうするという強さが笠置さんらしいなと。

松村 潔さも感じますよね。ご自分の歌やダンスに自信とプライドを持っていらっしゃったぶん、たとえば最高のパフォーマンスが出来なくなったらやめるという思いもあったのかもしれませんね。

──松村さんは服部良一役を演じますが、彼は歌手・笠置シヅ子のどこに惹かれたのでしょう?

松村 やはりその音楽的才能でしょうね。服部さんは戦前からジャズに傾倒されていて、そのリズムを体現できるのが笠置さんだったんです。

キムラ 私も劇中で「東京ブギウギ」などを歌うのですが、すごく難しくて。服部さんがリズムも音域も笠置さんにあてて作られた曲というのが、よくわかります。

──服部良一さんは、戦後日本の音楽界を牽引した方としてよく知られています。

松村 ある資料に和洋折衷のパイオニアだと書かれていて、「山寺の和尚さん」という歌がありますが、あれは服部さんがジャズのリズムを取り入れて作曲されたものなんです。僕は日本古来の民謡だと思っていたのですが、ジャズだった。戦後の暗い世相に、明るい歌を作ろうと思って、敵国だったアメリカのリズムをいち早く取り入れて、日本の音楽と融合させた。そんな大作曲家を、音楽の素養もあまりない自分が、ちゃんと演じられるのかというプレッシャーはありますが、彼が笠置さんとともに、新しい音楽の世界を切り拓こうとしたパイオニア精神を、この役を通してお届けできたらと思っています。

生きるって満更わるいことでもないよねと

──おふたりは久しぶりの共演だそうですね。

松村 30年ぐらい前にドラマでご一緒して以来です。

キムラ 松村さんは全然変わらないですよね! それは内面が常にリフレッシュされているからで。いつも良い事があるように明るく振る舞うとおっしゃったのを聞いて、見習わないといけないなと。私はすぐ落ち込むほうなので。

松村 いや、僕も放っておくと暗いほうに行ってしまうんです。

キムラ えー! 実は同じタイプなのね(笑)。

──キムラさんは今回、舞台で歌を歌えるのが楽しみだそうですね。

キムラ 楽しみではあるのですが、一世を風靡した歌手の方ですから、カラオケみたいに歌うわけにはいかないし…笠置シヅ子の歌として、お客さんに届けられるものにしなくてはいけないので。それに笠置さんは歌がうまいというだけではなく、身体全体を使ったパフォーマンスで観る人を魅了した。そういう笠置さんの凄さを私がどこまで表現できるか、考えだしたら苦しさしかないのですが、でもやるしかないので(笑)。

──歌ということでは、松村さんもミュージカルへの出演が続いています。舞台上で歌うことは楽しいですか。

松村 いや、苦しいです(笑)。

キムラ また同じ!(笑)。

松村 名だたる俳優さんたちでも、舞台で歌っていて本当に楽しいと思えることはほとんどないそうです。観ていただくときは、本人はいつもギリギリなんですよね。そしてそのギリギリ感があるからこそ、訴えるものがあるんだと思います。「私を観て!」というような余裕は、たぶんお客さんにとって邪魔になるのかなと。泰然自若という境地に至ればまた別ですが。僕なんかとにかく必死でまだまだなので、人の10倍でも足りない、20倍、30倍努力するしかないんです。

キムラ 松村さんを見習って私もがんばらないと!

──そんな舞台を楽しみに観にいらっしゃる方へメッセージをお願いいたします。

キムラ この作品は戦後まもない時代のお話なので、笠置さんのことだけでなく、荒廃した暮らしの中で歯を食いしばって生きていた人たちのことが、物語のあちこちに出てきます。戦争から帰還した兵士とか、お酒で紛らわせながら体を売る女の人たちとか、ミュージシャンがお酒に溺れていく姿とか。でもそういう人たちを周りが放っておかずに、愛を持って接している。そして笠置さんの歌はそういう方たちを励ます力を持っていた。そんな笠置さんのパワーをどこまで届けられるかわかりませんが、とにかく必死にやりますし、共演の皆さんと本気であの時代を生きられたらと思っています。

松村 台本を読んだときにとても元気になったんです。僕が演じる服部良一さんのセリフに、「命が助かったのは幸せなことなのだから、この命で、戦争ですべてをなくされた方が生きていくための力になりたい」という言葉があるんです。時代は違いますが、僕ら役者の思いも同じで、「人生っていろいろあるけれど、生きるって満更わるいことでもないよね」ということを届けたい。ですから観にきてくださる方も日々いろいろあると思いますが、お正月の公演ですから、この舞台を観て元気になって、1年を始めていただきたいというのが、僕のささやかな願いです。

プロフィール

きむらみどりこ○兵庫県淡路島出身。マキノノゾミ主宰の劇団M.O.P.を経て、舞台だけでなく映画、ドラマでも幅広く活躍中。役者のみならず、Eテレ「グレーテルのかまど」(かまどの声)、Eテレ「未病息災を願います かしまし3姉弟より」などにも出演中。最近の舞台作品は、メイシアター開館40周年記念『MOTHER −君わらひたまふことなかれ』、PARCO STAGE『先生の背中〜ある映画監督の幻影的回想録〜』、ミュージカル『トッツィー』。2026年3月〜4月にリーディングドラマ『終わった人』で全国ツアーを予定。

まつむらゆうき○東京都出身。1980年、テレビドラマ「生徒諸君!」で俳優デビュー。84年の大映ドラマ「少女が大人になる時 その細き道」以来大映作品に欠かせぬ俳優と言われる。代表作は「スクール・ウォーズ」。俳優だけでなく歌手、ラジオ・パーソナリティー、書家として幅広く活動している。最近の舞台作品は、『祖国への挽歌』、ミュージカル『フランケンシュタイン』、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』、『ロミオ&ジュリエット』など。

インタビュー◇橘涼香 撮影◇中田智章 ヘアメイク◇松本ミキ スタイリング◇Kazu

公演情報

『わが歌ブギウギ-笠置シヅ子物語-』

作◇つかこうへい 演出◇中屋敷法仁 振付◇野田裕貴(梅棒)
出演◇多和田任益 嘉島 陸 鳥越裕貴 木﨑ゆりあ
12/18〜28◎紀伊國屋ホール
〈問い合わせ〉MITT TICKET 03-6265-3201(平日12:00~17:00)