
2026年2月6日~3月1日日比谷のシアタークリエで『2時22分 ゴーストストーリー』が上演される(のち3月6日~8日愛知・東海市芸術劇場、3月12日~16日大阪・SkyシアターMBSで上演)。
この作品は、2021年8月BBCでホラーのポッドキャストのヒット作を持つ若手作家、ダニー・ロビンズの脚本で、ロンドンで初演されて以来、その斬新なストーリーが大きな話題を呼び、世界各地で上演が続いている濃密な会話劇。今回の上演は、気鋭の演出家・森新太郎のオリジナル演出による日本初演となる。
引越したばかりの家で毎晩2時22分に起きる不可解な現象に悩まされる妻ジェニーと、それを信じない夫サム。果たして幽霊なのか、或いは科学的に証明できることなのか。夫婦の家を訪ねてきた友人のローレンとベンのカップルと共に過ぎていく24時間をめぐる、スリリングなホラーサスペンスが展開される。
そんな舞台で、主人公サムとその妻ジェニーを、ガールフレンドのローレンと共に訪ねてくる建設業者のベンを演じる松尾諭が、念願だったという森新太郎演出の作品に臨む意気込みを語ってくれた。

人間関係が浮き彫りになる「大人のホラー」
──作品公式サイトで「ようやく念願叶って森新太郎さんとご一緒できる」とコメントされていますが、森さんの演出に感じている魅力から教えていただけますか?
人の動きにしても、台詞回しにしてもそうなのですが、計算され尽くした、とても完成度の高いものを出される方だなというのが、僕が森さん演出の舞台を観てきてずっと思っていたことだったんです。客席で拝見してきて、本当にどの舞台も素晴らしいものばかりで。それに加えて、これまで森さんの演出作品に出ていらした方々、本当に色々な人たちから「松尾さん絶対やった方がいいよ」と言われ続けてきたので、「一緒にやってみたい演出家さんはいますか?」という質問をいただく度に、森さんのことが頭にあったほどです。ですから「念願叶って」という気持ちには間違いないんですが、一方でいざ実現したいまは、自分にその森さん演出ならではの魅力が出せるだろうか、という怖さもあったりしています。
──そんな思いの叶ったこの『2時22分 ゴーストストーリー』、作品そのものの印象についてはいかがですか?
ホラーサスペンスと打ち出していますし、軸となるもの、結末を考えても実際にホラーはホラーなんですが、すごくよくできた人間ドラマなんですよね。人間同士の関係がホラーサスペンスのなかだからこそ一層深く浮き彫りになっている。すごく大人のホラーだと思います。
──わかりやすく怖がらせに行っている訳ではないということでしょうか?
そうですね。単純に人間ドラマとして楽しめるバックボーンがあるから、余計ホラー要素も楽しめる、相互作用がうまくできている本ですね。ちゃんとエンターテイメントなところもあるので、森新太郎演出の料理の仕方もより楽しんでいただけると思います。
──ひとつの家のなかでの24時間の話ということで、中心になる2組のカップルを演じる皆さんについてはいかがですか?
加藤シゲアキくんとは今回が初共演で、同じように語っていいのかはわからないんですけど、彼も本を書かれている人で、僕もちょっと本を書くので、以前から親近感と言うか、勝手にですがすごく関心を寄せてきた方でした。ですから今回一緒にやれるのがとても嬉しいですし、話されるのを聞いていても頭のいい人なんだなという印象が強いですね。葵わかなちゃんはプライベートでも知り合いで、気心は知れているんですが舞台でご一緒するのは初めてなんです。すごく頑張り屋さんで、周りをきちんと見て調和の取れる人なので、彼女がいてくれることですごく安心感がありますね。南沢奈央さんとは一度だけドラマで共演したことがありますが、それ以前に南沢さんと芸人さんが「はしご酒をする」という企画のテレビ番組をたまたま見たことがあって。どう考えても悪酔いしそうな酒を出す店を回るんですけど、それをすごく旨そうに飲んでるのを見て、それまではとても綺麗な人だな、という印象だったんですが、元気な人なんだなと、イメージが変わった瞬間がありました。ドラマの収録は1日だけで終わってしまったんですが、舞台では稽古から本番まで長い期間がありますし、そういう元気な姿も見られるだろうことも含めて、こんなに素敵な人とカップルの役柄ができるのがすごく嬉しいです。演じるベン役についても僕は自分でこうしよう、ああしようと考え過ぎてしまうと、それがうまくいかなかったときに焦ってしまう方なので、あくまでも皆さんとの関係性のなかでできあがっていくものを大事にしたいと思っています。ですから、どんな風になっているのかを楽しみに舞台をご覧いただきたいです。

霊には存在して欲しいという気持ちもある
──人間ドラマとホラー要素が相互作用を生む作品とのことで期待が膨らみますが、松尾さんご自身は科学で説明できないもの、例えば心霊現象などについては信じるタイプですか?
以前はむちゃくちゃ信じてましたけど、最近はあまり信じていないです。例えばパワースポットとかも、人間の身体ってほとんど水で出来ているから、磁場などに影響されやすくて、昔の人達が「ここすごくビリビリ来るぞ」みたいなことから「神様がいるんだ、お社(やしろ)を作ろう」ってなっていったんだと思うんですよ。だから僕もパワースポットに行くのは大好きですし、すごく信心深いので行ったらお参りもして、手も合わせますけど、何か願い事を叶えるというよりは、身体に大事なエネルギーをもらって、心を空っぽにするという感覚です。神頼みもね、昔はすごくやっていたんですけど、いまはあまりやらなくなりました。ただその一方で、やっぱり霊には存在して欲しいという気持ちもすごくあります。それがないとなると、自分が死んだときに全くのゼロになってしまうので。もともとすごい怖がりですが霊感は全然強くなくて、自分では霊かな?と思うものを見たこともないんですけど、死んだあとも霊になってちょっと子供の様子とか見たいな、という気持ちはありますね。
──自分の話で恐縮なんですが、私もこの間ふと、どう考えてもこれまでの観劇人生より、これから先の方が短いんだなと思った時に、もっとお芝居観たいな、客席にいたいなと思ったのでわかる気がします。
劇場ってまさにそういうことが起きそうな、まず暗くなることも含めて空間として特殊ですからね。お客様の緊張感も映画を観る時よりも、絶対に強いと思うし。
──確かにそれは感じます。目の前で人が演じているならではのものと言うか。
そうそう、やっぱりただ観るというより、体感している感覚ってありますよね。だから余計にこの作品が怖い、というところはあると思うんです。ホラーの舞台ってそんなに多くないでしょう?もちろんないわけではないですが、年間にかかる芝居の数からすると、内容がホラーというものは、たぶんそうでない作品よりは少ないですよね?
──そうだと思います。
そんなホラー作品が上演されている客席にいると、森さんの演出でどうなっていくかはまた別として、最初の暗転の時にお客さんの脳の中で、ものすごくいろんな反応が起こるんじゃないかなと思います。この作品が各国で大ヒットして、ロングランしているのは、もしかしたらそういうところにも秘密があるんじゃないかなと。物語を演じているのは舞台の上に出ている人達だけど、お客さんも一緒に体験している、もしかしたら途中からは本当にすぐそばで起きていることを見ているような気持ちになるかも知れない。そこがこの作品のホラー要素がもたらす醍醐味で、普通の感覚じゃない恐怖を刺激する、ものすごく面白い体験ができるんじゃないかと思います。

客席で体感したい芝居
──私もすごく怖がりなので、伺っているだけでちょっとゾクゾクしてきました(笑)。
だから僕ね、この芝居に出られるのは本当に嬉しいんですけど、そちら側で、客席で体感したかったな、という気持ちもすごくあるんです。特に怖いものを見た時って思わず叫び声が出たりもしますけど、映画と舞台だったらやっぱり舞台の方が声を出しにくくないですか?
──それはあります。無意識にみんなで共有している世界観を壊してはいけないというか、ブレーキはかかりますね。
その声を出しちゃいけないというところで、余計に「怖っ!」ってなるんじゃないかな。だからさっきも話に出た霊感も、強い人ってすごく感覚が鋭い人だと思うんですが、何を怖いと感じるかは人それぞれで「別になんともなかった」という方ももちろんいらっしゃると思いますが(笑)、特に怖がりの人にこそこの芝居は観に来て欲しいです。
──まさに「怖いもの見たさ」ですね。シアタークリエの濃密な空間ですから、余計に物語世界を近く感じられそうです。
ちょっと洋館っぽい雰囲気もあるシアタークリエにはピッタリの作品ですね。いい感じに怖さを捉えてもらえると思います。
──本当にゾクゾクしてきたので(笑)少し別の視点で、2matuo025年の暮れからお稽古がはじまり、2026年の2月に上演ということで、松尾さんにとって2025年はどんな年でしたか?
あっという間でしたね。うん、忙しかったです。でも新しいことに挑戦できて色々な学びのある1年でした。40代最後の年で失敗もたくさんしましたけれど、僕は40代って挑戦の年だと思っていたので、最後の年まで駆け抜けて、様々な経験をした、悔いの残らない40代最後の年だったなと思います。
──素晴らしいですね!ではそこから2026年はどんな年にしていきたいですか?
本当に40代は走り続けてきた感じがあるので、この勢いのまま走っていいのか、ただ走るのではなく、走るような気持ちで歩く50代になっていくのか、自分でもそこは未知数ですね。やっぱり歳をとってくると色々な機能がどうしても衰えていくでしょうし、例えばスポーツでもあまり心拍数を上げないものをやるようになっていくのかなと考えると、これまでとにかくカロリーを使う演技をやってきたので、またひとつ違うステージに自分を持っていけるようにするのが、もしかしたら50代なのかなと思っています。具体的には次の10年間をかけてゆっくりわかってくることだと思うので、そういう色々な発見のはじまりにつながる年だと思うと楽しみです。
──松尾さんの新しい面を見せていただける10年にも期待していますが、ではそのはじまりとなるこの舞台『2時22分 ゴーストストーリー』を楽しみにされている方たちに、改めてメッセージをお願いします。
怖がりな人ほど観に来て欲しいと言ってしまいましたが、怖がり方、怖いという感覚って人によってそれぞれに違うと思います。確かに怖い芝居ではあるのですが、決して心臓が止まるような怖さではなくて、最初にも言いましたが人間ドラマとしてもすごくよくできた本なんです。ですから気楽に、とてもよくできたお芝居を観にいくんだ、という気持ちで来ていただけたら。そのよくできたお芝居のエッセンスのひとつとしてホラーの要素があるというだけですし、その要素がいい作用をしている舞台なので、是非期待して観にいらして下さい!

【公演情報】
『2時22分 ゴーストストーリー』
作◇ダニー・ロビンズ
翻訳◇徐賀世子
演出◇森新太郎
出演◇加藤シゲアキ 葵わかな 南沢奈央 松尾諭
岡崎さつき 駒井健介
●2/6~3/1◎シアタークリエ
〈料金〉12,000円
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 0570-00-7777(ナビダイヤル)
〈公式サイト〉https://www.tohostage.com/ghost-story/
《全国公演》
●3/6~8◎愛知・東海市芸術劇場
●3/12~16◎大阪・SkyシアターMBS
【取材・文/橘涼香 撮影/中村嘉昭 ヘアメイク/結城藍 スタイリング/小泉美智子】



