大和悠河のパリから贈るエトワール紀行 ~ロマンチックに紡ぐ魔法~③
もうひとつのジャン・バルジャン──パリ新演出が差し出した問いと、舞台の奇跡

パリ・シャトレ劇場──1862年、ナポレオン三世の近代化政策によって誕生したこの劇場は、芸術と市民が交差する舞台として、時代とともに息づいてきました。
赤い絨毯が敷かれた優雅なロビー。バルコンから眺める夕暮れのセーヌ川は、時さえも染め上げるような美しさを湛えていました。
その光景は、私にとって宝塚大劇場と静かに重なります。
花のみちを歩き、武庫川のきらめきに包まれながら、舞台の記憶を胸いっぱいに抱えて帰る、あの時間──
心の奥にふわりと残る、“余韻”。
私もまた、舞台の上から──何千という瞳に、その“ときめき”を映してきました。
宝塚が111年前に創り上げた“夢の劇場”という理念。
それは、パリという都市から受け取った、時代を超える贈り物だったのだと──
セーヌの風に吹かれながら、私は静かにその原点の香りを感じていました。
──休憩中、ワインを片手にふと思います。
「本役のフォンテーヌは、どんな声をしているのだろう?」と。
そして幕間の放送で知るのです。なんと、ジャン・バルジャンも2幕から代役で登場する、と。
その瞬間、客席にはどよめきと、拍手が広がりました。
2幕。
幕が上がり、登場したバルジャンは、1幕とはまったく異なる人物。
スキンヘッドで力強いバルジャンから一転、白髪で髭も蓄えている。声のトーンもまるで違う。
誰がバルジャンなのか、一瞬わからず──戸惑いながらも、その歌が始まった瞬間、空気が変わったのです。
このバルジャンは、祈りを宿した魂。
叫ぶよりも祈り、闘うよりも赦す。
異なる身体、異なる声、異なる解釈。けれど、決して揺るがない“作品の重心”。
これは偶然の代役ではなく、パリ新演出の意図そのものなのかもしれない──
そう思わせるほどの力が、その舞台にはありました。
演出家が、静かに私たちに問いかけてくるようです。
「今日の『レ・ミゼラブル』はいかがでしたか?」
この舞台は、まさに“今のパリ”を映す鏡のようでした。
多様な人種、多様な文化、多様な声が、確かにここに存在する。
ビクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』の魂が、フランス語によって語り直されたこの新演出──
それは、ミュージカルの進化であり、変化を恐れない“舞台への勇気”そのもののように感じられたのです。
そして私は、こう思わずにはいられませんでした。
「あのフォンテーヌを、もう一度聴きたい」
「本役が揃った舞台では、どんな『レ・ミゼラブル』になるのだろう」
偶然が生んだ──けれど偶然とは思えない、もしかしたらパリの遊び心?
それとも、舞台が起こした奇跡?
その一夜が、私の記憶に深く、そして静かに刻まれていきます。
舞台は一夜限り。
それは、パリが見せた夢の瞬間でした。
•
そして私は、それからというもの──
黒人のアンサンブルキャストの彼女が再び出演しているかどうか、そっとチェックするようになりました。
本人ですら「いつ出られるかわからない」と語っていた彼女。名前も、公式の代役リストには載っていないのです。
そして──
本役キャストが全員そろった回も、きちんと観ました。
どんな《レ・ミゼラブル》が立ち上がるのか。
そのうち私は、気づけばビクトル・ユゴーの家でお茶をするのが、日常になっていました。
物語は、まだ続きます。
次回も、どうぞお楽しみに──。
(つづく)

【文◇大和悠河 写真提供:(株)GOOGA】
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