アーサー・ミラー作、長塚圭史演出『アメリカの時計』KAATにて開幕!

KAAT神奈川芸術劇場で9月15日、長塚圭史演出で、『アメリカの時計』が開幕した。本作はアーサー・ミラーが描く、20 世紀初頭、大恐慌によって未曽有の混乱に落ちたアメリカと、ある家族の年代記(クロニクル)となっている。

今回、長塚が『セールスマンの死』に続く2度目のアーサー・ミラー作品として手掛けるのは、彼の作品の中でも非常に上演機会の少ない戯曲『アメリカの時計』。本作は、ミラーが1980年、65歳の時に発表され、同年、サウス・カロライナ州チャールストンのスポレット・フェスティバルで初演後、ブロードウェイでも上演された。1929年の世界恐慌を扱ったアメリカ史劇で、株の大暴落により富の頂点にあった“アメリカの貌(かたち)”が脆くも崩れ去っていく姿が描かれている。

2023年現在、パンデミックが収束に向かう中、アメリカでは、相次いで銀行経営が破綻し、莫大な資金が流出している。『アメリカの時計』が描くのは、100年近く前のアメリカとアメリカの家族の物語だが、現代を生きる私たちがどこに向かうのか、という問題に鋭い示唆を与えてくれる。「資本主義の弱体、崩壊」「失われる民主主義」など、多くの賢者・識者が語る中、改めて、人間の本質と社会のシステムに迫る戯曲がここにある。

翻訳は、昨年、小田島雄志翻訳戯曲賞を受賞した高田曜子。美術・映像はNHK連続テレビ小説『らんまん』の冒頭の映像も手掛ける上田大樹。力あるスタッフが長塚演出を支える。
また50数名に及ぶ登場人物を、たった13人の役者で上演するのも見どころのひとつ。多くの舞台作品で活躍する矢崎広、シルビア・グラブ、中村まことを筆頭に、魅力と情熱にあふれた俳優陣が集結した。


《あらすじ》
1920年代のアメリカは史上空前の繁栄をとげ、アメリカ人の誰もが、株さえ持っていれば金持ちになれると信じて疑わなかった。しかしこの状況に疑いを持った、アーサー・ロバートソンは、いち早く株から手を引き、親しい者に警告して回るのだが誰も聞く耳を持たない…。
そして1929年、株式市場を襲った大暴落は、裕福なボーム家にも大打撃を与えた。父親モウ・ボームは剛直な実業家であったが、株に打ち込みすぎて、市場の崩壊とともに財産を失う。母親のローズは、家族が生きるために、宝石類を現金に換える日々。息子のリーは、人々が職にあぶれて飢えていく様を目の当たりにしながら、自身の人生を歩んでいく。

【コメント】
長塚圭史[演出]
カタチのないものを信じ、多くを託し、預け、委ねている現在にこの戯曲がどう響くのか。またこの終わりなき資本主義社会にこの劇が今何を語るのか。初日が開けた今もまだ確かなことは言えませんが、なぜ今この劇を上演するのかと日々問い続けながら歩みました。どちらかというとアーサー・ミラー作品の中でもあまり注目されてこなかった、どちらかというととっつきにくい史実を扱った、どちらかというと歪な構造のこの『アメリカの時計』ですが、過去と現在とを結びつけ肉付けしてゆく俳優陣、柔軟で迅速なスタッフと共に丁寧に紡ぎました。社会劇としての魅力もありますが、ボーム家のように、近くこのようなことが我が身に降りかかるのではないかと夢想しながらSF劇として観るのもまた一興、いやちょっと恐ろしいか。

【公演情報】
KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース 『アメリカの時計』
作:アーサー・ミラー
演出:長塚圭史
翻訳:髙田曜子
出演: 矢崎広 シルビア・グラブ 中村まこと 河内大和
瑞木健太郎 武谷公雄 大久保祥太郎 関谷春子
田中佑弥 佐々木春香 斎藤瑠希 
天宮良 大谷亮介
●9/15〜10/1◎KAAT 神奈川芸術劇場<大スタジオ>
〈料金〉一般7,600円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※平日夜割・神奈川県民割引6,800円/24歳以下3,800円/ 高校生以下1,000円 /満65歳以上7,100円  
〈お問い合わせ〉チケットかながわ 0570-015-415(10:00~18:00)
https://www.kanagawa-arts.or.jp/tc
〈公式サイト〉https://www.kaat.jp/d/the_american_clock

 

【舞台撮影/宮川舞子】

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!