
年末年始恒例のミュージカルとなることを目指して!
ルネサンス時代のイギリスを舞台に、売れない劇作家が時代の寵児であり、スーパースターの劇作家シェイクスピアに対抗し、世界初の歌って踊る「ミュージカル」を書こうと決意することからはじまる大騒動を描いたミュージカル『サムシング・ロッテン!』2018年の日本版初演から7年、満を持した再演の舞台が12月に幕を開ける。タイトルの〝 Something Rotten! 〟サムシング・ロッテン! とは直訳すると「何かが、腐っている!」というシェイクスピアの『ハムレット』の一節を思わせるもので、随所に有名戯曲やミュージカル作品へのオマージュが散りばめられたコメディミュージカルとして、愛され続けている。そんな作品で初演から引き続き主人公の売れない劇作家・ニックを演じる中川晃教が、7年ぶりの再演に感じることや、シェイクスピア役で初登場する盟友の加藤和樹との共演への期待など、作品に臨む想いを語ってくれた。
面白くならないわけがない
──初演から7年を経ての再演ですが、再びこの作品に臨む気持ちから聞かせて下さい。
僕にとって初めての福田雄一さんの演出作品だったんですが、福田さんって稽古場ではずっと笑っている方なんですけど、演出家として笑っている時と、観客側の視点で観て笑っている時など、笑顔のなかに色々な顔がある気がしたんですね。特に幕が開いた時のお客様の反応を誰よりも大事にされているのが福田さんで、どうすればこの作品がお客様に受け入れてもらえるか?をいつも一番に考えていらっしゃるんです。生の舞台って同じことをやっていても、全く同じになることって絶対にないじゃないですか。そうしたLIVEだからこその醍醐味、その日生まれたものに対して、とことん誠実であろうとする演出家、もう一人の出演者というイメージだった福田さんが、この7年間お会いする度に「『サムシング・ロッテン!』もう一度やりたいね」と話されていた。それくらい思い入れの強い作品だとわかっていたので、僕はありがたいことに再演の機会がもらえる作品に多く携わらせていただいているのですが、今回は、再演が決まったんだ、頑張ろうだけではなくて、これだけの想いが結実するんだと思っているので、そこはかなり大きいです。
──そんな作品の魅力を改めて語っていただくとすると?
年越しから新年にピッタリの作品なんです。例えば日本では年末にベートーヴェンの「第九」を聞くというような、定番になっている文化があると思うんですけど、年末年始のミュージカルは『サムシング・ロッテン!』が恒例になったらいいなと思うくらい、家族で観ても面白いし、ミュージカルを全く知らない方がご覧になっても絶対に面白いと思います。楽曲もポップス寄りで、リズミカルでウキウキする、曲のなかにも笑いの要素がたくさんあって、全員で踊る華やかなタップシーンなど、ミュージカルならではの醍醐味もちゃんと押さえている作品なので、何も考えずに観に来て楽しんでいただけると思います。まぁ、敢えて言うならシェイクスピアの『ハムレット』を『オムレット』と聞き間違えて、一生懸命オムレツを作るミュージカルを創っちゃって、どんどんズレていくという話なので(笑)、『ハムレット』だけはちょっと知っていた方がより面白いかな?というところはありますが、基本は予備知識なしでも全く大丈夫なので!
──特に再演に際して、深めたいことは?
今回の再演では、僕と瀬奈じゅんさん以外のキャストが全て変わっていて、僕が演じる売れない劇作家のニックは、時代の寵児でスーパースターとして崇められているシェイクスピアが大嫌いで、ライバル心を剥き出しにしていているという設定なのですが、そのシェイクスピア役を数々の作品で共演してきた盟友の加藤和樹さんが演じる。もうこの組み合わせだけで、すごく面白いと思います。だって、普段の僕らの関係性からいったら全く真逆ですから。いつも相思相愛の(笑)僕らが、お互いをケチョンケチョンに言い合う役柄を演じるわけですから、面白くならないわけがないですよね。そこに石川禅さん、大東立樹さん、矢吹奈子さんが加わった新しいバランスのなかで、なんとかシェイクスピアを越えたいと焦るあまり、次々に間違ったチョイスをしていってしまうニックの人間臭さが絶対に深まると思います。
音楽とミュージカルは欠かせない両輪
──確かに中川さんと加藤さんがこうした役柄で共演されるのは新鮮ですが、お互いに作品についてはどんなお話を?
実は二人共ちょっとこの話題は避けてます(笑)。この作品におけるシェイクスピアってめちゃくちゃかっこいい存在で、僕は和樹さんが演じるのを想像というか、妄想?(笑)しながら既にワクワクしていて、話したいんですけど、「まだ決めつけないで下さい」みたいな反応が返ってきそうな気が勝手にしちゃって。やっぱりどこかこれまでの共演とは勝手が違うのかな。唯一「今年また共演できますね」と言ってきてくれたから「あ、今年だっけ?」「今年です!」みたいな会話をしただけですけど(笑)。今までの僕らの共演作品をご覧になって下さっている方には、より新鮮な二人を観ていただけると思うので、心して臨みたいです。
──その加藤さんとの共演だった『フランケンシュタイン』そして『ジャージー・ボーイズ』と愛され続けている作品が続いた今年、2025年がこの『サムシング・ロッテン』で締めくくられますが、中川さんにとってどんな1年でしたか?
来年、デビューしてから25周年を迎えるのですが、その節目の年を前にして、いま挙げてくださった再演作品が続いたことによって、自分の歩んできた道を振り返り、作品とともにこれから自分がどこに向かっていくのかも考えることができたありがたい年でした。同時に自分の原点である音楽、6年ぶりのバンド編成でのコンサートにも臨めて、やっぱり僕のなかで音楽とミュージカルは欠かせない両輪なんだと実感しました。この二つがしっかりと回ることで僕は前に進める。二つがあっての僕なんだと改めて感じているので、25周年に向けて、まずこの『サムシング・ロッテン』が今回だけでなく、年末恒例の再演を重ね続ける作品になっていけるように精一杯務めますので、是非劇場に遊びにきてください! お待ちしています。
プロフィール
なかがわあきのり〇2001年、自身が作詞作曲の「I Will Get Your Kiss」でデビュー。02年ミュージカル『モーツァルト!』でタイトルロールを演じ、第57回文化庁芸術祭賞演技部門新人賞、第10回読売演劇大賞優秀男優賞、杉村春子賞を受賞。16年にはミュージカル『ジャージー・ボーイズ』にて、フランキー・ヴァリ役を演じ、第24回読売演劇大賞最優秀男優賞を受賞。11月12日『City Pop Live』への出演が控えている。
インタビュー◇橘涼香 撮影◇中田智章 ヘアメイク◇松本ミキ スタイリング◇Kazu
公演情報

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』
作詞・作曲◇ウェイン・カークパトリック、ケイリー・カークパトリック
脚本◇ケイリー・カークパトリック、ジョン・オファレル
演出◇福田雄一
翻訳・訳詞◇福田響志
出演◇中川晃教 加藤和樹 石川禅 大東立樹(CLASS SEVEN) 矢吹奈子 瀬奈じゅん ほか
12/19~2026/1/2◎東京・東京国際フォーラム ホールC
2026/1/8~12◎大阪・オリックス劇場



