
宅間孝行が作・演出を手掛けるタクフェスの第13弾公演『くちづけ』が、11月24日より富山を皮切りに、東京、名古屋、大阪、福岡、札幌にて上演する。
本作は、宅間が主宰していた東京セレソンデラックスにて2010年に初演、2013年には映画化もされた名作で、今回が4回目の上演で、金田明夫の愛情いっぽん役はこれが見納めとなる。
初演から、漫画家の愛情いっぽんを演じてきた金田明夫と、作・演出を手掛け、うーやん役で出演してきた宅間孝行に本作への思いを聞いた。(この記事は「えんぶ10月号」より転載。)
今の福祉のリアルと乖離しないように
──5年ぶりの再演になります。改めて今回の公演へのお気持ちを聞かせてください。
金田 宅間さんから「5年に1回くらいやろう」と言われていたので、こうして節目節目で上演されるのは、ありがたいです。僕が演じる愛情いっぽんは60歳という設定なのですが、初演のとき、僕は55歳でした。なので、「老けなくちゃ」なんて話をしていたのですが、次に上演したときは「このままでいいね」、その次は「もう無理だな」って(笑)。でも宅間さんから「まだまだいける」と言われて65歳でもやって、その前回公演の後に「あと1回はいけるでしょう」と言われて今回になったんです(笑)。
宅間 本当は、僕も前回でうーやんは最後にしようと思ったのですが、コロナ禍で客席を半分にしなくてはいけなかったり、制限があったりして、すごく寂しい公演になってしまったんですよ。なので、今回、改めて最後の区切りをつけられたらと思います。
──今回はどのようなところをポイントにそれぞれの役を演じようとお考えですか。
金田 宅間さんはその場で起きていることをピックアップしてくれるので、毎回、新鮮に演じることができるんです。自分が考えてもいなかったことが起こる楽しさがあるので、新鮮に、ポジティブに演じていきたいと思います。先日、自分が演じた過去の映像を観たら、いまだに「まだまだ」というところがたくさんありました。面白いものだなと改めて思いましたし、日々、変化していく楽しみがあります。

──飽きることなく演じられる役なのですね。
金田 飽きる時もありますよ(笑)。でも、フラフラしているとすぐに「明夫さん、今日どうしたのかな?」と宅間さんに言われてしまうので(笑)。この年齢になると、遠慮なくズケズケ言ってくれる人が段々といなくなるんですよ。でも、宅間さんは遠慮なくぶつかってきてくれるので、僕にとってはすごく良い方向指示器になっています。
──そんな宅間さんの演出の魅力はどんなところに感じていますか。
金田 宅間さんには自分の図式がしっかりある。絵でいったら、デッサンをして段々と仕上げていくのではなく、一筆目から本番と同じタッチで描いていくタイプです。だから、稽古場に緊張感があって面白いんです。最初から宅間さんの中では完成形が見えているから、「今日はこのくらいにしておこう」という手加減がない。僕たちがその宅間孝行の世界観にどれくらい入っていけるかという面白さがあります。
──宅間さんは今回のうーやん役についてどんなことを考えていますか。
宅間 お相手のマコちゃん役の石田(亜佑美)さんが若いので、申し訳ないなと思いつつ、僕がうまくバランスを取らないといけないと思っています。僕が歳を取り過ぎてしまったので、お客さんが違和感なく観られるようにしたいですね。
──演出面ではいかがですか。
宅間 実はこの芝居、難しいんですよ。福祉のシステムがその時々で変わるので。あまり現実と乖離しないほうがいいなと思い、毎回、勉強をして、今の福祉のリアルを描きたいと思っています。福祉にまつわる事件も日々、起こっていますよね。そうした社会的な問題も含めて、この作品を観る方がきちんと身近なものとして捉えられるような情報は、足していけたらと考えています。芝居の作りとしては、キャストが変われば芝居も変わっていくので、根本的な方向は変わらなくてもまた違うものになるのだろうと思います。
よくぞこの世界にスポットライトを当ててくれたと
──初演から15年、これまでの公演での思い出や印象に残っていることを教えてください。
金田 たくさんあります。そもそも、僕は「演劇集団円」以外の作品に出演するのは抵抗があったんですよ。でも、宅間さんに出会って、何となく波長が合って。僕は人見知りなのですが、宅間さんは「明夫さん、ご飯食べない?」と何度も誘ってくれて、情報交換するようになって、それで「やらない?」と声をかけてくれたので、二つ返事で出演を決めたんです。そこから15年ですから、ここには書けないこともいろいろありました(笑)。でも、楽しくてあっという間の15年でした。

──宅間さんはどんな思い出がありますか?
宅間 初演のときは、懸念することもたくさんあった作品で…。
金田 ある意味、アンタッチャブルなところもあるからね。あえて福祉をしっかり描いているから。
宅間 障がい者を面白おかしく描いているとか、馬鹿にしているように見えるという意見もあったんです。稽古を見に来てくださった方の中には「笑えない」とか「当事者たちは嫌な思いをする」と感じた人もいたようで。僕たちはそうした思いで作っているわけではないのですが、みんながきちんとこの芝居のことを語ることができて、障がいを持っている人や福祉についてきちんと理解した上で演じなければいけないと思い、稽古以外に学ぶための時間をたくさん取りました。
金田 みんなでグループホームに見学に行かせてもらったり、当事者の方に話を聞いたりしたよね。
宅間 うん、グループホームの方たちと一緒にカラオケにも行ったりして。でも、実際に開幕してみたら、懸念していたことは何も起こらず、当事者の方たちからも非常に喜んでいただきました。「よくぞこの世界にスポットライトを当ててくれた」と。稽古場では笑えないと言われた芝居も、劇場で上演するとドッカンドッカン笑いが起きたんですよ。それは、障がい者だからかわいそうと見るのか、普通の人間として見るのかが違ったんだと思います。劇場に来てくださった皆さんは、普通の人として観てくださっていた。セレソン時代から、割と社会派と言われるような、切り込んだ作品をやっていましたが、その中でも僕にとってはこの作品は確実に分岐点になっている作品です。
金田 僕もこの作品を観てくれた方から「よくぞ上演してくれた」という声をたくさん聞きました。そういう意味でも、今回もたくさんの方に観てもらい、何かを感じ取ってもらえたらうれしいです。
【プロフィール】
たくまたかゆき○1997年に劇団「東京セレソン」を旗揚げ。01年「東京セレソンデラックス」に改名を機に主宰・作・演出・主演として活動。13年「タクフェス」を立ち上げる。役者・脚本家・演出家として活躍。劇団作品の映像化は、【ドラマ】『歌姫』『間違われちゃった男』『流れ星』、【映画】『くちづけ』『あいあい傘』など多数。その他、配信連続ドラマ『THE BAD LOSERS』シーズン1、2、ABC『素晴らしき哉、先生』、映画『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』、『THE RIGHTMAN 正義の男』脚本、監督を務めた。
かねだあきお○円演劇研究所を経て、1977年に演劇集団円会員に昇格。近年の主な出演作品に、【舞台】演劇集団円本公演『グレンギャリー・グレンロス』、『家政夫のミタゾノ THESTAGE レ・ミゼラ風呂』二兎社『鷗外の怪談』【映画】『おまえの罪を自白しろ』『THE RIGHT MAN 正義の男』、【ドラマ】『民王R』『科捜研の女』など。


【公演情報】
タクフェス第13弾『くちづけ』
作・演出:宅間孝行
出演:金田明夫 石田亜佑美
松本幸大 上田堪大 加藤里保菜/浜谷健司/
町田萌香 下川恭平 宮城弥生 神月柚莉愛 ヨスケ。(Wキャスト)河内宏大(Wキャスト)/
鈴木紗理奈/小川菜摘/宅間孝行
●11/24◎富山公演 新川文化ホール
●11/28~12/7◎東京公演 サンシャイン劇場
●12/12~14◎名古屋公演 アマノ芸術創造センター名古屋(名古屋市芸術創造センター)
●12/18~21◎大阪公演 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
●12/27◎福岡公演 SAWARAPIA、2026/1/8◎札幌公演 カナモトホール(札幌市民ホール)
〈公式サイト〉https://takufes.jp/kuchiduke2025/
【インタビュー◇嶋田真己 写真提供◇エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ(株)】



