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(雑誌『演劇ぶっく』は2016年9月より改題し、『えんぶ』となりました。)
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益岡徹インタビュー

いまだからこそ伝えなければいけないものの詰まった作品

満州開拓団として家族と共に満州にいた少年が、戦争孤児となって死線を彷徨い、なお生き延びていく半生を描き、いまも読み継がれている山崎豊子の大河小説「大地の子」初の舞台化となる同名作品が2月明治座で開幕する。国と国との争い、社会の大きなうねりに翻弄される人々。個人の力で抗うことは到底できない時代に飲み込まれた彼らは何を願い、何を思うのか。主人公・陸一心の実の父親、松本耕次役を演じる益岡徹に、いま新たに生まれる舞台『大地の子』への想いを聞いた。

忘れてはいけないことが、きっといっぱいある

──『大地の子』という作品全体の印象や、いま舞台化する意味をどう感じていらっしゃるか、教えていただけますか? 

 いまこの舞台をやる意義を演出の栗山民也さんは、はっきりと見定めて創られているんだろうと思いますし、山崎豊子さんの原作小説を読んだ時、いまから三十年前に岡崎栄さんが演出された、中国の俳優さんや、若い上川隆也さんが大変な努力をされた日中合作の素晴らしいドラマを、僕も心震わせ、何度も涙しながら観ていた一人です。三十年の時を経てもあの感動と記憶は色あせない。そんな作品の舞台化に携われることに身が引き締まる思いです。しかも巡り合わせと言いますか、誰かが何かを意図したわけではないと信じたいですが、ここにきて日本と中国の間に様々な緊張が走ってしまっている。僕はそのことを大変心配していますし、ここから如何にして脱していけば両方の国の国民が幸せなのか、そういうことを考えるという意味でも、この『大地の子』をいま舞台でやる意義は、とても深いのではないかなと、改めて思っているところです。いまだからこそ伝えなければいけない、忘れてはいけないことがきっといっぱいあるんだということを、教えてくれているように思います。

──そうしたなかで、演じられる主人公・陸一心の実の父親、松本耕次役についてはどのように?

 松本耕次という役を考える時、戦争が終わったとき、家族全員を亡くし、開拓団の仲間達もほぼ全滅してしまったという、あまりにも大きな大きな喪失感を抱えた彼の人生というものが、如何ばかりだったのか。「仕事に没頭することで哀しみを乗り越えた」という台詞があるのですが、そうしていないと生きてこられなかったのだろうと。戦争が続いていた時代の社会で、あらゆるものがすべて絡みあった結果なんですよね。その悲しさ、無念さが、自分のなかに積み重なっていくように、稽古に臨みたいと思っています。特にドラマ版ではこの松本耕次役を、僕の師匠の仲代達矢さんが演じていて、それがいまも強く記憶にあります。

──松本耕次役を、というオファーを受けた時に、感じられたことも多かったのでは?

 そうですね。やはり僕にとっては、先だって亡くなられた仲代さんとの縁、そういうものを強く感じました。仲代さんが松本耕次を演じている姿も強く残っていますし。心の中にはいつも忘れずやっていきたいと思います。

決して遠い過去のことではない

──また今回のカンパニーの皆様との共演で楽しみにしていらっしゃることは?

 僕はほとんどの方と「はじめまして」なのですが、皆さんと一緒にこの素晴らしい世界を創り上げることが何よりの楽しみです。井上芳雄さん、芳雄くんと呼ばせてもらっていますが、彼とは宮田慶子さんの演出で上演された『負傷者16人—SIXTEEN WOUNDED—』という作品でご一緒しています。僕はホロコーストを生き残り、オランダに逃れてパン屋をやっているユダヤ人という設定の役で、偶然芳雄くん演じるパレスチナ出身のアラブ人青年と出会い、挫折を経て、店で働くようになる。そこからぶつかり合いながらも、息子のように思いはじめて、そして訪れる悲劇。これもまた、今上演するべき作品ではないかと思うのですが、あれから14年経って再び、今回は本当の親子の役でご一緒します。しかも失ったと思い込んでいた息子が実は生きていた、急に目の前に現れた大人の息子に対して、松本耕次としてはどう対処していいのか分からないぐらいのことだったと思います。そして日本で一緒に暮らさないか、とやっと問いかけた時に、息子から「わたしは大地の子です」と言われる。その場面までがどう出来上がっていくのか、そもそも開拓団のほとんどが殺されたのは、なだれ込んできたソ連軍によってでした。それまで日本の軍部に散々苦しめられた中国の人たちのなかで、生き残った子供達は、この舞台の陸一心のように、大地の子として生きると決心するほど、中国の養父母に大切に育てられた人も多くいたわけです。それもまた山崎豊子さんは忘れてはいけないこととして描かれたと思いますし、この舞台を通して、芳雄くんと、そしてスタッフ・キャストの皆さんと心を通わせながら、稽古場で創り上げていくのはとても得がたい日々になるだろうと思っています。

──大切なことがたくさん詰まった舞台だということが、お話からも伝わってきますが、だからこそ心待ちにしている方、また重い物語だからと迷われている方と、色々な想いの方々がいらっしゃると思います。そうした皆さんにメッセージをいただけますか?

 戦後の運命の過酷さ、その出発点は戦後80年のそれより10年ちょっと前、今から90数年前の日本の社会が生み出したものだということを考えると、確かに重さを感じる方もいらっしゃるかもしれません。でもこれらの年月のなかで、解明されたこと、中国社会のなかで日本人の子であるという、当時マイナス要因であったものを乗り越えて生きようとした主人公や、慈しみ育ててくれた人、そういう人たちの想いが詰まった物語なので、おそらく皆様も共感できる部分があると思います。しかも、それは決して遠い過去のことではなくて、いまも続いているかもしれないものなんだ、という観点で観ていただきたいですし、そういう懸命に生き続ける人々を、芳雄くんをはじめ、キラキラ輝くような若い役者たち、とても素晴らしい方々が演じます。ですから決して重いだけではなく、彼らによって、素晴らしい劇世界が創り上げられると思います。ですので、是非明治座に足をお運びいただけたらと願っています。

(このインタビューは「えんぶ2月号」より転載)

インタビュー◇橘涼香 撮影◇中村嘉昭 ヘアメイク◇山内聖子

プロフィール

ますおかとおる〇山口県出身。早稲田大学卒業と同時に仲代達矢が主宰する無名塾に入塾。以後、舞台、映画、テレビ、ナレーションと多岐に渡る活躍を続けている。近年の主な出演舞台作品に『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー』『奇跡の人』『A・NUMBER』『ケイン&アベル』『反乱のボヤージュ』などがある。

公演情報

『大地の子』

原作◇山崎豊子「大地の子」(文春文庫)
脚本◇マキノノゾミ
演出◇栗山民也
出演◇井上芳雄 奈緒 上白石萌歌 山西惇 益岡徹 飯田洋輔 浅野雅博 ほか

2026/2/26〜3/17◎明治座

〈お問い合わせ〉
東宝テレザーブ TEL.0570-00-7777
(11:00〜17:00/ナビダイヤル)

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