【フォトグラファースギノユキコ with えんぶ WEB CLOSE to my HEART】22 秋月三佳
えんぶにて脚本家・演出家・俳優を撮り続けて約20年(長期中抜け有り)。
いわゆる非日常を創作する彼ら・彼女らの姿を
日常的でありながら、そっと風変わりな目でつかまえるスギノの写真。
このコーナーではえんぶ誌面では掲載しきれなかった
“スギノお気に入り”の写真達とともに演劇人を紹介。
インタビュー&写真から現れるその心にフォーカス。
File.22 秋月三佳
(2021年12月取材/撮影)
“王道のド真ん中”から、 “世界の涯”まで
2020年、ナンセンスな劇世界から世の中を照射するげんこつ団『ダイヤのモンド』公演の真ん中で、可憐で健気なヒロインを好演していた秋月三佳。アイドルの登竜門から歩み始め、数多くの舞台、映画に出演し、いつしか撮る側へ……。初の監督短編映画『熱海モンスター』では、謎多きヒロインを自ら演じ、自然に熱海が、そして人間が好きになるキュートな映画を完成させた。今年は、主演映画2作品の公開を控え、さらに監督2作品目を構想中! そのバイタリティーとスマートさを携えて世界の話題をかっさらえ!
始まりはスペイン坂
――中学生の時に、渋谷のスペイン坂でスカウトされたそうですね。そんなことって、マンガの世界だけだと思っていました。
確かにマンガっぽいですね(笑)。ちょうど十何年やっていたクラシックバレエをやめて、長い髪をショートカットにした次の日、友達とパジャマを選んでいたときに、プロダクションの方に「目がギラギラしてた」って声をかけられました(笑)。
――買い物で目がギラギラしていたわけですね(笑)。
(笑)。それで全然悩まずに「やります」と。
――え、自分で即決めたんですか?
結構すぐ決めました。それまで全身全霊を注いでいたバレエをやめて、挫折というかこれからどうしよう? という状態だったんです。で、バレエで一番好きだったことって、役を演じることだなと気がついて。だから、やってみようと思って始めて、10年以上経った感じです。
――目立つところからお聞きしていくと少年誌のグラビアも?
はい。ミスマガジンに選ばれて、少しグラビアをやったり映画に出たり。
――忙しかったんですか?
忙しかったですね。選ばれてから1年間、DVDとかカレンダーの販売、キャンペーンなどで日本各地を回って、合間に誌面の撮影もあって、と盛りだくさんな感じでした。
圧倒された舞台
――それから映像と舞台の両方で活動されていますね。
そうですね。割と色々やってます。舞台は年に少なくても1本、2、3本やってた時期もあります。14歳でこの仕事を始めてから舞台をやってない年はないって感じです。
――プロフィールを拝見すると、色々な舞台に出演されていますが、中でも中屋敷法仁さんの『暴走ジュリエット』(2014)とか映画監督の本広克行さんが演出された『転校生』(2015)、あとは音楽劇『レミング~世界の涯まで連れてって~』再演(2015)の松本雄吉さん。
そうなんですよ! 松本さん。もう衝撃でした。
――『レミング』にはどうして?
舞台を観に行ったときに、チラシ束の中にオーディションのチラシがあって、何これ面白そうと思って、受けたら運良く受かりました。出演者の中で一番年下で、松本さんには「孫みたいだ~」とかわいがっていただいて。自分で出ていて、一番、客席で観たいって思った作品です。
――維新派はご存じだったんですか?
舞台は観たことなくて。維新派も『レミング』初演も映像で観て、面白くて。もともと寺山修司とか唐組、蜷川幸雄さん、宇野亜喜良さんとかの独特な世界観が好きだったんです。そこに自分が入ってみるとこんなにすごいんだって……圧倒されました。
ヘンテコな世界観が好き
――その頃、げんこつ団はもう観ていたんですか?
この頃はまだ。もう少し経ってから、別のお仕事で、げんこつ団団長の一十口(裏)さんに出会いました。しばらく一緒にお仕事をしてから誘われて、やってみたらヘンテコでした(笑)。でも、もう初めから「一十口さんついていきます!」みたいな感じで。ヘンテコな世界観が好きなんでしょうね、全然入り込める。
――まさに。2020年の『ダイヤのモンド』で、長い経験のある方たちの中に、パッと入って真ん中をおさえて、そこの空気に馴染んでいたのがすごいと思ったんです。あれは何なんでしょうね。
げんこつ愛です(笑)。
――(笑)。そんなに気に入ったんですか?
そうですね。やっぱりげんこつ団の人達って……普段は別にそんなに何て言うんだろう……普段は絶対に出会わないような人達なんですよ。でも明るく受け入れてくださって。皆が宇宙人みたいな人達だから何でもありっていうか。
――演出家の一十口さんはどうでしたか?
一十口さんは当て書きみたいなところもあるんですけど、作る前にどんな役をやりたいか聞きいてくれたり、色々なアイデアの引き出しが沢山あって。変な人達とそのおかしな四次元の引き出しで皆が何役もやるから、も~しっちゃかめっちゃかな。全員やるっきゃないってのがあるんでしょうね。その場で生まれる感じが面白くて。舞台の上でも笑わないように我慢して大変でした。
――そうは言っても、げんこつ愛だけじゃできないですよね。
一十口さんが私の正義感とかポジティブな面を、この脚本で突き通していいよと許してくれたので、演じやすかったです。
衝撃と憧れと
――げんこつ団に至るまで、インパクトのある出会いはありましたか?
舞台だと鵺的の『悪魔を汚せ』(2016)で主演させていただいて。3年後に再演もしたんですけど。あの作品は衝撃的でした。
――すみません、観てないんですけど、どんな感じですか?
昭和初期から続く日本の製薬会社の家族のドロドロがすごい話で、演出は寺十吾さん。本当に恐ろしいけどエンターテインメントな作品で、自分でも鳥肌立ちながらやってました。今でも自分の中の土台みたいな大きなものになっています。
――映像ではどうですか?
最近だと映画『青の帰り道』(2018)です。監督は映画『新聞記者』も監督された藤井道人さん。群馬県前橋市の仲良し高校生7人が、それぞれ卒業してから、東日本大震災とかとか日本の歴史的な瞬間をまたぎながらどういう風に成長していくのかを描いた作品です。それは楽しかったですね。やっぱり若い時って、青春物やっておきたいっていう憧れがあって。
――今はどうなんでしょう?
今の憧れはラブです。今度、初めてラブがテーマの作品をやるんですよ。今年公開される『恋愛終婚』という映画で主演します。
映画監督も!
――たくさんの作品に出演されていて、さらに2020年には『熱海モンスター』という映画を監督されています。きっかけは?
熱海怪獣映画祭の主催の方が知り合いで、「熱海を舞台にした映画を作りたい」と言っていたのを聞いて、立候補しました。ちょうどその頃、コロナで本当~に暇で、映画作ろうかなと思ってノリノリで脚本を書いていたんです。ずっと映画監督やりたいと思っていたので。好奇心が旺盛なんですよね。
――旺盛でもそんなに簡単できないですよね?
舞台の話に戻るんですけど、2020年の3月に劇団時間制作の『赤すぎて、黒』に出させていただいて。同世代の谷碧仁さんって方が演出なんですけど、一つの作品で色んな人を描くっていう気合いがすごくて。衝撃を受けて、私もやってみる! と思って『熱海モンスター』の脚本を群像劇にして書いたり、キャスティングの仕方も、こういう人がこの役をやったら面白いとか。そこからもらったものでほとんど作りました。
――出演者もご自身で、それぞれにオファーしていったと。
はい、舞台でお世話になった方々を中心に。
――それぞれのキャラクターの人間的な部分が出ている面白いキャスティングでしたね。
そうなんですよ。明るくてかわいい人を集めました。
――衣装も素晴らしかったですね。特にご自身の衣装が大胆で驚きました。
ありがとうございます。衣装も全部自分でやりました。自分のはちょっと浮世離れして、エイリアン感を出そうと派手な感じで選びました。
――ご当地作品ってなかなか難しいことが多いですけど、すごく素敵な作品でした。エンドロールもドラマ映像があって最後まで楽しかったです。
短い分数に詰め込んでやったんですけど。エンドロールはこだわりました。
――思ったようにできたんですか?
できましたね。制作費が少ないので、もっとこうできたらっていうのはあるんですけど。作ってる時は楽しさしかなくて。あったかい映画を作るのが目標だったので、そこは地元の方たちにもたくさんご協力いただいて、熱海の友達も増えました。熱海でずっと愛される映画になったら良いなと思っています。
――監督2作品目はあるんですか?
今年、一本また熱海でやろうよって誘ってもらっていて。
――監督で?
はい。本当は去年撮る予定だったんですけど、コロナで一回中止になっちゃったので、今年撮れたらなって思ってるんです。
――続編になるのですか?
舞台は熱海なんですけど、海洋ゴミをテーマにしようと思っていて。続編ではないです。
――先ほど今の関心は愛と言っていましたが?
一番大事なテーマは愛なんですけど、海洋ゴミと人間が心を通わせるみたいな話にしたくて。どういう風に表現したら伝わるかなと考えているところです。
――楽しみですね。
はい。ほんとにがんばります。
プロフィール
秋月三佳
あきづきみか○東京都出身。高校在学中に「ミスマガジン2011」に選ばれ、以来、CM、TVドラマ、映画、舞台など数多くの作品に出演。2021年には初監督・脚本の主演映画『熱海モンスター』を公開。2022年には主演映画2作品が公開。
【出演情報】
映画『エスパーX探偵社 〜さよならのさがしもの〜』
2023年4月29日公開
https://www.esper-x-movie.com/
フォトグラファー プロフィール
スギノユキコ
すぎのゆきこ○神奈川県出身。
日本女子体育短期大学舞踊科卒業。
在学中に演劇好きな友人に連れられ
初観劇。たまたまその公演後オーディションがある事をチラシで知り、
勢い余って受けた事がある為、今でも爆風スランプRunnerが耳に入るとゾワゾワする。
通信社等を回り、写真を学ぶ。
instagram▶https://www.instagram.com/sugino_yukiko/
【インタビュー◇坂口真人 文◇矢﨑亜希子 撮影◇スギノユキコ】