写真をモチーフに人間ドラマを描く舞台『多重露光』上演中! 横山拓也・稲垣吾郎・真飛聖 インタビュー  

横山拓也の書き下ろし新作を俳優座の真鍋卓嗣が演出し、稲垣吾郎主演で送る舞台『多重露光』が、10月6日より日本青年館ホールにて上演中だ。(22日まで)

モボ・モガプロデュース公演では、稲垣はこれまで鈴木聡の作・演出による『君の輝く夜に~FREE TIME,SHOW TIME~』と『恋のすべて』に出演。2作とも音楽の入った洒落たラブコメディのステージだったが、今回の『多重露光』は久しぶりのストレートプレイで、人間ドラマの面白さで見せる舞台となっている。

物語のモチーフとなるのは、タイトルからもイメージできるように「写真」そして「カメラ」。主人公の山田純九郎は町の写真館を細々と営むカメラマン。戦場カメラマンだった父や、写真館の店主として人気のあった母から、子ども時代に期待を背負わされたことで、今も鬱々とした思いを抱えている。そんな純九郎の前に、かつて憧れた“お嬢様”が現れた。愛に溢れた家族写真を撮る裕福な一家に、自分の家族では叶えられない夢を見た子ども時代がよみがえり、幸せという未来の焦点がなかなか合わなかった純九郎の中で何かが動き始める──。

この作品の主人公でカメラマンの山田純九郎を演じる稲垣吾郎、憧れの“お嬢様”麗華を演じる真飛聖、そして作を手掛けた横山拓也が、稽古も始まったばかりという時期に『多重露光』の世界とお互いについて語り合ったインタビューをお届けする。

稲垣吾郎・真飛聖・横山拓也

何かが残る終わり方で、そこがすごく演劇的だなと

──稲垣さんは、モボ・モガの公演ではライトなコメディ作品に2作出演されてきましたが、今回はシリアスな人間ドラマですね。

稲垣 その2作は鈴木聡さんの作・演出で、真飛さんと以前出演した『恋と音楽』シリーズに近いものでした。その一方で、『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』や『No.9 -不滅の旋律-』のような、いわゆるスケールの大きな演劇にも出演していて、どちらも面白いのですが、そろそろ小人数でのストレートプレイもやってみたいなと。リアルな現代の人間ドラマをやってみたくなったんです。そこで横山さんにお願いすることになりました。

──その話を受けて横山さんはいかがでしたか?

横山 ずっとテレビや映画で拝見していた方なので、ご一緒できると聞いたときは、本当に僕でいいんですか?という思いでした。

稲垣 まずお会いすることになって、僕がやっているレストランでスタッフも一緒にお話をさせていただいたんです。そこで趣味の話とかプライベートの話が出たとき、写真の話も出て。

横山 稲垣さんの趣味だと知っていましたので、すでに僕の中ではそういう方向で組み立てていたんですが、改めてご本人の口からその話を伺えたので、どんどんイメージが広がっていきました。

稲垣 横山さんご自身も写真が好きだったそうですね。

横山 大学が芸術系で僕は他の科でしたが写真学科もあって、フィルム式のカメラなどに興味があったことでそれについて描いてみたかったんです。

稲垣 フィルム式のカメラの話ってありそうでないですよね。

──初めてお会いになったときの印象は?

横山 めちゃめちゃ緊張しました。僕は稲垣さんのラジオをよく聴いていて、イメージしていた稲垣さんよりわりと生っぽい感じを受けていたので、あ、ラジオのままだと。

稲垣 横山さんも垣根がないというか、いい意味で緊張させるようなところがなくて、おおらかで。何を話したかな…カメラの話はしましたね。

横山 出演された「開運!なんでも鑑定団」のカメラのこととか。

稲垣 そうだ(笑)。

──そして出来上がった台本を読んで、出演する稲垣さんと真飛さんはいかがでしたか?

稲垣 本当に繊細な人間たちの話だと思いました。自分はいつから無神経というか、鈍感になってしまったのかなと(笑)。

真飛 僕も優しくなろうって(笑)。

稲垣 そう思ったんだよね。純九郎は両親の言葉とかそういうもので自分を縛り付けてしまって、40歳すぎてもいまだにどう生きたらいいかわからないし、本当の自分を見つけられてない。そして自分の想像する家族のかたちで生きていくことができていない。そういう感覚は僕にはあまりなかったから。家族のこととかであまり悩んだことがなかったし、両親の愛情をいっぱい受けて、兄弟もいて、家の中に問題とかなかったし、寂しいとか不満に思うことがなかった。そういう意味では自分と重なるところはないんですけど、でもいろいろな人間を知っていきたいし、とても興味深い脚本だと思いました。終わり方もハッピーエンドとは言えないけど、何かが残る、そこがすごく演劇的だなと。

真飛 横山さんの会話劇って日常会話の言葉のチョイスがすごく面白いんですね。普通の人が喋るようなテンションで、あまり演劇チックじゃなくて。そのなかで私の役の麗華だけはちょっと違っていて、私個人としては、純九郎が近所の人とお互いにちょっかいを入れながら話しているほうに入りたいなと思いながら(笑)。麗華はお嬢様で育ったので、自己中なところがあると思いますし、息子への愛情のかけ方も偏っていて、ちょっと過保護すぎない?という部分があるんですよね。でもそれは麗華なりの一生懸命で、それが純九郎の写真館に行くうちに少しずつ変化していく。キャラクターとしては明るくてフレンドリーなんですけど、人との距離の取り方が難しい役で、昨日の稽古では、急に距離を詰めすぎと言われたので、時間をかけてそうなっていくようにしたいと思っています。

40代になって、うまく蓋できるようになった

──横山さんがこの作品で描きたかったことを伺えますか?

横山 僕は最近わりと親と子のドラマを、お互いに素直になれない部分とかそういうことをいろんな作品で書いていて、僕自身はそんなに親子関係に問題があったほうではないので、何にこだわってそこばかり書いているのか、まだ自分でも言語化できないですが。それにこの作品では親子のことも出て来ますが、40代になって、純九郎や麗華、僕自身もそうですが、自分が傷ついていることや淋しいと思っていることにうまく蓋できるようになった。そういう40代を迎えている人が多いんじゃないか、この時代とくにそうなのかなと思っているんです。その感覚を作品にしたことと、思い出を閉じ込めているという感覚がアナログカメラに似ているなと。デジタルカメラだと今撮ったものをすぐ見られるけれど、フィルムには閉じ込められている感覚がある。その要素と40代の我々が蓋をして傷つかないようにしてきたことがどこか通じるんじゃないか。それは起筆の段階で考えていたことなので、そこがうまく作品に出てきたらと思っています。

──純九郎という主人公ですが、社会性が全くないわけではないけれど、仕事をする人間としてはちょっと問題があるのかなと。

横山 そこは演出の眞鍋さんとも話したのですが、写真館の仕事も学校の撮影もそれなりにうまくやってきていたんでしょうね。それがこの年齢を迎えて、欠落しているものに対して埋めたい気持ちとか、自分で処理できない思いなどがだんだん発露しはじめた。そこからこの物語がスタートしているので、もともとそういう人物だったという描き方よりも、今こじれてる時期がきたということですね。我々は社会の中でなんとかこじらせずに生きていますけど、こじらせる人がいたら面白いなと思って書いたんです。

──稲垣さんは、たとえば麗華の息子に急に執着したり、写真を盗みに入ったりする純九郎の行動をどう捉えていますか?

稲垣 俳優が役のことをすべて理解できるとは思っていないし、理解しなくてもいいと思っているんです。それに横山さんの作品に登場するキャラって、一見普通なんですけど、みんなおかしいんですよ。純九郎のお父さんもお母さんもみんなヘンですから(笑)。そういう意味ではよくある人情ドラマでは全然ないので、そこの不思議さはとっておきたいと思っているんです。観る方も「わかるわかる!」だけじゃないからいいのかなと。だから僕も全然理解できてないけどそれでいいんじゃないかな。だからこそ演じて面白いわけで。もちろん自分の中での整合性とか理屈は通ってないといけないとは思います。でもすごいですよね、子どもの頃、写真を盗みに入っちゃうとか(笑)。言われると逆ギレみたいになったりするし(笑)。さっき横山さんが蓋をしておくとおっしゃいましたけど、本当だなと。僕は鈍感になったと表現しましたけど、とりあえず蓋をしておくことに器用になったんでしょうね。そのぶん過去の解決してないこととか、執着していることとか、人とのこととか夢に出てきたりするんだけど(笑)。そういうことはたぶん誰にでもあると思うので、観てくださる方にもすごく響くんじゃないかと思います。

ストレートプレイで人間を深く描いたものを

──稲垣さんと真飛さんにお互いの魅力を伺いたいのですが。

稲垣 真飛さんと初めて一緒に出た『恋と音楽』が2012年で。

真飛 もうそんなに経つんですね。

稲垣 当時の写真を見てみたんだけど、あまり変わってないですよ。僕はミュージカルに出るのは初めてで、真飛さんも宝塚を退団して初めての女性役で。

真飛 しかも吾郎さんにしか見えない役でした(笑)。

稲垣 僕は歌とか基本的に苦手で、でもその舞台は1人で歌うし、男女のハモりはあるしで、真飛さんに本当に助けられました。最初の印象はすごく真面目な方だなと。お芝居についてすごく考える人なので。でも初めの2週間ぐらいは僕も人見知りなほうなので、何も喋らないままで。

真飛 一言も喋らないでいましたね(笑)。

稲垣 あるとき役柄のことを相談されて。台本がとにかく難しかったし、真飛さんは幻影という役だったし。僕みたいに「わからないからかえって面白い」という人間と違って、このセリフはこういう気持ちでとちゃんと理解したい方なので。

真飛 不器用なんです。

稲垣 その『恋と音楽』のシリーズで、ミュージカルを3作一緒にやったわけですけど、そのあと真飛さんが草彅くんと一緒に出ていた映画の『ミッドナイトスワン』を観たら、あまりやってないようなエモーショナルな役をやってて。それまでわりとクールな役が多かったと思うけど、その作品での真飛さんは僕がよく知っている大好きな、こういうところに魅力を感じるんだよねという真飛さんで。最後に感情をむき出しにするお芝居がすごくよかったので、すぐそう伝えたよね。

真飛 はい。

稲垣 こういうお芝居を一緒にやりたいねと。ストレートプレイで人間を深く描いたものをやりたいねって。

真飛 話してたんですよね。

稲垣 ミュージカルでも音程とか僕が気にしていると、これはセリフだからそういうの気にしなくていいとか言ってくれて。それは芝居としてミュージカルを捉えているからで、本当にお芝居が好きな方なので、この作品を一緒に出来るのがすごく楽しみなんです。

真飛 吾郎さんは私が宝塚を退団して初めての舞台の相手役で、最初に聞いたときは、「ウソでしょ?」みたいな(笑)。それに私は、いろいろなところから集まった人たちと一緒に作品を作るのが初めてだったので、居方からわからなくて、どう居たらいいのか、迷惑をかけないだろうか、そして女子ってどんな?みたいな状態で(笑)。男を究めてきて女子の芝居をやったことのない人間が、どうやったらいいのかと。

稲垣 だろうね(笑)。

真飛 私が男役の延長で低い靴で稽古していたら、吾郎さんが「なんでヒールの高い靴はかないの?」と。私が「背が高いし可愛げなくないですか?」と言ったら、「女子の特権だよヒールは。高いヒールはいたほうが綺麗に見えるんだから、そんなこと気にしちゃだめだよ」と言ってくれて、なんて男前なんだろうと(笑)。背の高さがコンプレックスだったので、ちょっと泣きそうになりました。吾郎さんってクールそうですけど内面が優しいんです。その公演では心配して連絡をくださったこともあって。

稲垣 なんだっけ?

真飛 グループでの活動があまりにも忙しくて、あまり稽古場にいらっしゃることができなかったんですよね。でも私は初めてのことばかりのうえに、相手の方のことを知らないままお芝居をするのが不安で、そういう状態を吾郎さんが察してくださって、共演の大和田美帆さん経由で連絡をくださったんです。それで役のこととか、今置かれている状態とか、私が不安に思ってることを聞いていただいて、ある意味心が通じたので、役にもそれが乗って、これなら楽しくできるという感情が生まれたんです。それが1作目で、2作目3作目と調子に乗ってやっていたら、「ほんと、いつも元気だよね」って引いて見られたり(笑)。でもさっきの映画の話に戻りますが、一緒にやりたいねと言っていたところにこの作品のお話があったから、「本当に叶うんだね」って。

稲垣 そう。

真飛 とにかく大好きな方なので、またご一緒できるのが嬉しいです。

稲垣さんの生っぽさとかリアルな感じが舞台に上がれば

──横山さんから見てこのおふたりの印象は?

横山 真飛さんはカッコいいクールな印象なので、“お嬢様”みたいな記号的なところからスタートして、後半壊れていったら、たぶん僕の知らない部分が見えてくるなと思って、ああいう役を書いてみました。ただビジュアル撮影のときに、本当に距離をぐーっと縮めるのが上手で、簡単に飛び越えて来られて、めちゃめちゃ魅力的な人だなと。そして稽古がはじまったら、自分の役について引っ掛かることを素直に言ってくれて、それが僕がいつも小劇場でやっているようなコミュニケーションだったので、「あ、同じような気持ちで作品に向き合ってくれているんだ」と嬉しくなったし、真面目に作品作りに貢献しようとする信頼できる俳優さんだなと思いました。だからすぐに書き直して。

真飛 1日で書き直してくださったんですよね。

横山 言ってくださったおかげで、作家として気づけなかったことに気づいたし、僕にとってもいい機会を作っていただいたなと。稲垣さんについては、先ほど言ったように生っぽさを感じるようになってから、映画の観方も変わってきたんです。『半世界』では父親役をやっていらしたのが意外で、こんな役もやられるんだと思ったし、去年観た『窓辺にて』は、今まで観た中で一番素敵な稲垣さんを観たと思いました。あのミステリアスさはもともと持っていらっしゃったもので、でもああやってナチュラルな感じで出てくるのは今まで観たことがなかったのですごく衝撃的でした。それで今回の役にもああいう部分を参考にさせていただこうと。あの生っぽさとかリアルな感じとかは、こういうストレートプレイにこそ大事で、そこが舞台に上がったら、絶対に素敵だと思っています。

──最後に演出の眞鍋さんの印象を伺いたいのですが。

真飛 まだ稽古は本読み段階ですが、横山さんの書いたセリフについて、1行1行みんなで一緒に本を読み解いていって、他の人のセリフでもみんなで解釈するディスカッションの時間を作ってくださるのがいいなと。そして細かく歩み寄ってくださって、たとえば感情についてちゃんと流れているか、やりにくいところはないかなど聞いてくださったり、そういう時間を取ってくださるので、いろいろ聞きに行けるのがありがたいです。最初はあまり動きもつけずに自由にやらせたいとおっしゃっていて。

横山 眞鍋さんのスタイルは俳優が出してきたアイデアを自分の中で料理していくというやり方ですね。僕とは俳優座で3回、そして今回4回目ですが、劇場の大きさとか変わっても、根本的にやることはそう変わらないと思います。セリフの下にある見えていない部分を演出と俳優とで発見していく、そういう稽古なので、俳優さんは作業としては楽しいと思います。与えられたものをただ振付のようにやっていくのではなく、自分の中から探していくので。

稲垣 僕はあまり自分から自由に動いてというのは得意じゃなくて、できればスケッチをしてもらったうえで自分の芝居をしていくのがラクでいいなと(笑)。というか、ある程度縛りがあるほうが僕はおもしろいんでしょうね。そういえばセットの模型を見せてもらったんですが、けっこうリアルなセットになりそうだなと。昭和レトロ風のいい感じの。

真飛 あの中に吾郎さんが立ったらすごく似合いそうでしたね。

稲垣 そういうところも観る方は楽しめると思うし。横山さんと眞鍋さんならではの人間ドラマの舞台を楽しみにしていてください。

【公演情報】


モボ・モガプロデュース『多重露光』
●10/6~22◎日本青年館ホール
作:横山拓也
演出:眞鍋卓嗣
出演:稲垣吾郎/真飛聖 竹井亮介 橋爪未萠里/石橋けい 相島一之
〈料金〉S席 12,500円 A席 7,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)】
〈公式サイト〉https://tajuroko.com/
〈公式X〉https://twitter.com/tajuroko

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀 ヘアメイク/金田順子[June](稲垣)、yumi[Three PEACE](真飛) スタイリング/栗田泰臣(稲垣)、津野真吾[impiger](真飛) 衣装協力/DOUBLE STANDARD CLOTHING Sov.(真飛) 取材協力:シャングリ・ラ 東京】

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