若い世代が“天翔ける心”を受け継ぐ!スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』取材会レポート

市川團子、中村隼人、中村米吉©松竹_

スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』が新橋演舞場で来年2月に上演される。

1986年2月、いにしえの英雄・ヤマトタケルの伝説をもとに、梅原猛(哲学者)が書き下ろし、二代目市川猿翁が三代目猿之助時代に主演・脚本・演出を手がけたスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』は、新橋演舞場で初演された。「3S(ストーリー・スピード・スペクタクル)」をコンセプトに生み出された『ヤマトタケル』は、初演以降も何度も再演され、2008年には累計100万人の観客動員をなしとげた記念碑的作品である。

このスーパー歌舞伎の第1作『ヤマトタケル』が、本年9月に亡くなった猿翁の思いを受け継ぎ、初演当時の演出・構成に原点回帰して、2024年2月4日から3月20日まで新橋演舞場で上演される。その後、5月に御園座、6月に大阪松竹座、10月に博多座でも上演される予定だ。

1998年09月『ヤマトタケル』二世市川猿翁:ヤマトタケル©松竹_

主役の小碓命(おうすのみこと)のちにヤマトタケルと、その兄の大碓命(おおうすのみこと)の2役は、中村隼人と猿翁の孫である市川團子のダブルキャスト。ヤマトタケルの妻の兄橘姫(えたちばなひめ)と弟橘姫(たちばなひめ)の2役は中村米吉が早替りで演じる。

そのほかに、中村福之助や中村歌之助といった若手俳優、中村門之助やかつてヤマトタケルをつとめたこともある隼人の父・中村錦之助、初演から10回にわたり『ヤマトタケル』に出演した米吉の父で人間国宝の中村歌六、そして猿翁のもと腕を磨いてきた澤瀉屋一門などが脇を固める。

隼人×米吉 ©松竹_
團子×米吉©松竹_

12月中旬、都内でこの公演の取材会が行われた。中村隼人、市川團子、中村米吉が出席し、挨拶のあと質疑応答が行われた。

【挨拶】
中村隼人 この作品は、歌舞伎が本当に大変だった、1986年に生まれたスーパー歌舞伎です。時を経て、また新たなキャストで上演させていただきます。この作品は、スーパー歌舞伎ですが、父がヤマトタケルをつとめて、親子で新作歌舞伎を再現できる数少ないもので、本当に嬉しく思っております。

市川團子 私が初舞台で出演させていただいた『ヤマトタケル』を来年させていただきます。『ヤマトタケル』にかける思いや意気込みなどをしっかりと伝えさせていただきます。

村米吉 兄橘姫と弟橘姫の2役を1人でつとめさせていただきます。ここ何回かでは、この2役は今の河合雪之丞さんと(市川)笑也さんがなさることが多かったのですが、中村児太郎(現・福助)のお兄さんが2役をなさった、初演に非常に近い形での上演です。

──今回、若い世代で新たな上演となる意気込みは。また、この作品が30年以上経っても繰り返し上演されていますが、その魅力は?

隼人 この作品が生まれた時、また父がヤマトタケルをつとめた時、僕は生まれていなかったので、『ヤマトタケル』を観たのは、映像または再演のものだけでした。改めて作品を映像で見直したり、当時のパンフレットや芸談を拝見しました。亡くなった猿翁のおじさまが、古典歌舞伎に当時足りないものということで、「3S(スペクタクル・ストーリー・スピーディー)」を大事に作った作品。38年前の作品とは思えないぐらいの内容の濃さ、今でも通じるような派手なシーン、最後はお客様が涙する内容などが魅力だと思うので、これを若い我々世代がどう演じていけるか、それがどうお客様に伝わるかは挑戦でもありますが、楽しみにしています。

團子 初舞台も『ヤマトタケル』のワカタケル役で、当時から祖父のビデオをたくさん見て、本当にこの演目に憧れていました。まさか自分が小碓命、大碓命のお役をさせていただけるとは思っていませんでしたが、これまで他の作品でも取り組んできたのと同じく、とにかく頑張って自分なりに研究をして、稽古をしてつとめたい。祖父も著書などでよく「歌舞伎はスター芝居である」と言っておりますが、それと同じように、ヤマトタケルという人物のスター性は、劇作品として素晴らしい。とにかく、本当に自分がタケルになったような気持ちでお客様も見て、その人生を体感して楽しむ。現代語で作られた作品ですし、心に響くものがあります。格好良さなどが一番ダイレクトに伝わるところが『ヤマトタケル』の魅力かなと思います。

米吉 『ヤマトタケル』はスーパー歌舞伎第1作ですが、父の歌六は初演にタケヒコ役で出演させていただいていたので、日頃から『ヤマトタケル』の初演がどれだけ大変なもので、猿之助(猿翁)のおじさまがどれだけすごいことをなさったか、耳にタコができるぐらい聞いています。そんな作品で、兄橘(姫)弟橘(姫)の2役をつとめさせていただけるのは本当に嬉しく、ご縁を感じます。『ヤマトタケル』があるからこそ、昨今の新作歌舞伎がいろいろ作られていると、僕は感じていました。作品の魅力は、今2人が仰ったことももちろん、梅原猛先生の“滅びゆくものの美学”のようなものが描かれています。團子さん、隼人さん、また福之助、歌之助という、私より年下の同世代の5人に加えて、錦之助のおじ、門之助のおじさま、澤瀉屋一門の皆様がご出演いただいて、非常に層も厚い。そういった出演者の魅力もぜひお感じいただけたら。

──演じる人物をどう捉えていますか。

隼人 小碓命ことヤマトタケルは、兄(大碓命)が謀反を企てているのを、帝に言われて抑えるために、はずみで兄を手にかけ、父親の帝から怒りを買って熊襲征伐などをしていきます。最後の伊吹山で、人間は傲慢の病にかかるというところが作品のキーだと思います。小碓命は、最初は心優しい美麗な少年ですが、成功体験を重ねていくにつれて、どんどん自信がついて、その自信が傲慢になっていく。本当に紙一重だと思います。自信がつくから、いろんなこともこなせるようになるけど、独りよがりになって、結果として、伊吹山で、草薙の剣を持たずにできるという傲慢から足元をすくわれてしまう。これはある種の戒めとして神話のような形で残っていますが、こういうものは、僕が今30歳、團子君はまだ10代で、若いからこそお客様にも伝わりやすいのではないかと思います。

團子 ヤマトタケルの役は、祖父の人生だと考えています。本当にどこを切り取っても祖父が浮かぶようなセリフが多く、祖父も芸談で、この作品は骨太だから、どんなに葛藤してもその美学や伝えたい哲学的なものが必ず出ると仰っていました。自分のなかでは、「天翔ける心、それがこの私だ」も好きですが、その前にある「何か途方もない大きなものを追い求めて」「それは何か、よくわからぬ」というセリフに、この作品の魅力が詰まっていると思っています。

米吉 兄橘姫と弟橘姫の2役は、ヤマトタケルの奥さんとなる役。元々は大碓命のもとにいた姉妹、帝に献上されるはずの姉妹でしたが、彼女たちも運命に翻弄されながら、とにかくヤマトタケルを愛し、そのために命を落とす妹、そして愛する人の子どもを守るために、自分の国で必死に子どもを守り育てていくという姉妹です。元々は上演すると9時間あった(台)本をカットして今の形になっていますが、そちらでは、2人の姉妹はヤマトタケルのヒロインという部分を超えて、非常に人間らしく、女性の怖いところやすごいところが描かれています。ただただ美しく、主役を支え彩っていくにとどまらない、人の業みたいなものが描かれていて、それも魅力の1つなので、意識してつとめたいです。

──お父様は、どんなようなことをおっしゃっていますか?

隼人 古典歌舞伎では共演の機会がありますが、新作、そしてスーパー歌舞伎での共演は初めて。父がつとめた役を僕がやるのも、新作では初めてで、本当に喜んでくれて、「ちょうどお前ぐらいの年にやっていた、本当に『ヤマトタケル』ができるまでは大変だった」という思い出話をいろいろしていただきました。また、父が最初につとめたのも(今回演じる)熊襲弟タケルで、今回はもう60歳過ぎですから、あんなに重たい衣裳を着て、対等に立廻りをするので、心配もありますが、歌舞伎はなにより経験が生きるので、きっといろいろ教え、支えてくださると思う。親子だが、歌舞伎の先輩後輩としてぶつかっていきたいです。

米吉 父はスーパー歌舞伎、特に『ヤマトタケル』『オオクニヌシ』など梅原先生が書かれたもののお話は、子どもの頃からよくしてくれた。僕の一番古い記憶は『カグヤ』で、それに出ている父を観ました。それから『三国志』も拝見したり、子どもの頃から親しんできたので、今度の出演にあたり、しかも2役をやることをすごく喜んでいると同時に「栄ちゃん(福助)も大変そうだったし、よくよく気をつけなさい」と酸っぱいほど言われています。錦之助のおじが熊襲弟タケルに出ることを、一番心配しています(笑)。

──猿翁さんが亡くなったなか、今回新しい世代で上演します。猿翁さんへの思いをのせて上演することについては?

隼人 コロナ禍までは、毎年父と一緒にお年始の挨拶でしかお会いしたことがないのですが、やっぱり近年、新作歌舞伎がたくさん生まれている礎を築いたのはスーパー歌舞伎だと思います。それを、その時代に生み出したおじさまは、本当に大変な思いをされたと思うし、「天翔ける心」を大事につとめてらっしゃいましたが、スーパー歌舞伎を生む前は、本当に古典作品にたくさん出ていらした。下積みが長いなか、スーパー歌舞伎を作って羽ばたかれたんだなと思う。すべてを踏襲することは難しいかもしれませんが、幸い父も本当にずっと(猿翁の)そばにいましたし、澤瀉屋のみんなもまだ元気でいるので、いろいろ伺って、精神性みたいなものを継いでいけたら。

團子 私が歌舞伎を好きになったのは、やはり祖父の存在が本当に大きい。今年の9月に亡くなりましたが、祖父はどんな時も「頑張れ」と仰る方なので、本当にただただ頑張ります。ヤマトタケルは、祖父のビデオがたくさん残っている。祖父はよく「学ぶは真似る」と仰ったので、本当に真似をして、1つ1つ忠実に、どのように演じていたのかをしっかりと研究して、祖父に似せてこの作品に挑めたらと思います。

米吉 この3人の中で、猿翁のおじさまと一緒にお芝居をしたことがあるのは私だけだと思います。私の初舞台は、猿翁のおじさまのお芝居で、猿翁のおじさまが私を歌舞伎役者にしてくださった。父がずっとお世話になっていたこともあり、お亡くなりになったことが本当にショックで、悲しいですが、おじさまが亡くなる少し前にこの『ヤマトタケル』のお話をいただいたので、何とも言えないご縁を感じています。亡くなられた次の年に、しかもお孫さんの團子君がやるということですから、天翔けられたおじさまに届くように、我々もしっかりつとめたいと思います。

──作品の見どころの1つに宙乗りもあると思いますが、意気込みは?

隼人 私は、9月に南座で上演した『新・水滸伝』で、実は宙乗り400回を飛んでいます。今までは、僕は馬に乗ったり凧に乗ったりで(宙乗りを)していましたが、やっぱりヤマトタケルの白鳥は全然違います。衣裳も本当に重たいし、小さい頃に観て「この衣裳で飛ぶのか」という衝撃がありました。それを自分がさせていただけるので、当たり前ですが安全第一に、舞台で3幕つとめてきた思いが昇華して羽ばたけるようにしたい。

團子 初舞台をさせていただく前から『ヤマトタケル』のDVDは本当にたくさん見て、本当に憧れて、初舞台の後も、あの最後の白鳥の絵をたくさん描いて、祖父に見せたこともありました。子どもの時から、多分一番憧れているシーンで、そこにかける思いは本当に大きいので、1回1回、祖父の雰囲気を大切にしながらしっかりつとめたいです。

【公演情報】
スーパー歌舞伎
三代猿之助四十八撰の内『ヤマトタケル』
●2024年2月4日(日)~3月20日(水・祝)◎新橋演舞場
【2月休演】13日(火)・22日(木)・29日(木)
【3月休演】4日(月)・11日(月)・18日(月)
昼の部 午前11時~/夜の部 午後4時30分~
■上演演目
梅原 猛 作
石川耕士 監修
二世市川猿翁 脚本・演出
スーパー歌舞伎 三代猿之助四十八撰の内『ヤマトタケル』
■出演者
小碓命後にヤマトタケル/大碓命 中村隼人・市川團子(交互出演)
兄橘姫/弟橘姫 中村米吉
帝 市川中車
皇后/姥神 市川門之助
タケヒコ 中村福之助
ヘタルベ 中村歌之助
犬神の使者/琉球の踊り子 嘉島典俊
ヤイラム 市川青虎
老大臣 市川寿猿
倭姫 市川笑三郎
国造の妻 市川笑也
熊襲兄タケル/山神 市川猿弥
帝の使者 中村隼人・市川團子・市川青虎(交互出演)
尾張の国造 中村錦之助
熊襲弟タケル 中村錦之助・中村歌之助(交互出演)
〈料金〉1等席16,500円 2等A席9,500円 2等B席6,500円 3階A席6,500円 3階B席3,000円 桟敷席17,500円(全席指定・税込)
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/play/842


〈クレジット〉
写真
文/内河文

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