【小野寺ずるの女の平和 WEB】06 俳優:和田光沙

お役者/糞詩人である小野寺ずるが表現の世界で闘う女達にインタビュー。
彼女達の過去現在未来を聞きだし、想いを馳せながら
私たちの平和は、女の平和は、表現の世界に身を投じる我々の望む世界はなんなのか。を夢見る連載。

俳優 和田光沙

炎天下・取材待ち合わせ場所。
和田さんはミニシアター宣伝Tシャツを着て首にタオルを巻き現れた。
そして満面の笑みで音程の狂った挨拶をかましてきた。
「和田光沙ってどんな俳優?」人に訊ねられたら私はいつもこう答える。
「天然モノの、ただのホンモノ」。
ヤマト運輸のドライバーを経て役者の道に攻め入り
今や多くの映画作品に重宝される唯一無二の俳優と成った和田さんは
事務所所属、結婚、出産、怒涛の30歳後半を経て今年40歳!
活動の幅を拡げる天然記念物俳優の現在を、ざっくばらんすぎるほど!

(※2023年7月取材/撮影)

明るい忍者、和田光沙

ずる 出会いは舞台の共演でしたね。
和田 初めて共演した時ずるちゃんすごい機嫌悪かったよね。
ずる 本当に恥ずかしい時代です。人生が荒れてて、何もかもが気に入らなくて。
和田 私もやりたい役あったけど、選ばれなくて「くそ~」って思ってたんだけど、大人だし普通気持ちを押し込めるのに…ずるちゃん…
ずる やめて。
和田 それなりにみんななんとなくやるのに、その中ずるちゃんは
ずる やめて。幼かったんですよ。
和田 一人でずっとキレてて本当に面白くて(笑)!
ずる やめてよ(笑)!最悪じゃん!
和田 いや、私あの時「この人すごい」と思って。
ずる ダメな意味でな(笑)。
和田 いや「そうだよな」って。みんな当たり障りなく演技しちゃうのにこの人違うんだってヒリヒリして。そこから私ずっとずるちゃんを追ってました。
ずる 和田さんが特異な人でよかった…。そのときの和田さんは私と真逆でしたね。稽古場での居方も飄々としてて、そして何より、和田さんが演じると出番が少ない役でもこんなに面白く膨らませられるんだってびっくりして。
和田 嬉しい。
ずる この人見るとワクワクするって尊敬しました。
和田 お互い気になってたんだね。
ずる だから念願叶っての取材です。和田さんって職人みたいな役者さんですよね。
和田 職人への憧れはありますね。役割をしっかり果たす、みたいな。
ずる 和田さん忍者みたい…そう、明るい忍者。
和田 ダメですね、明るくちゃすぐバレちゃう(笑)。
ずる 具体的に演じる時何をするんですか?
和田 単純な話「自分だったら」みたいなのは想像しますね。一瞬の出番でも、この人何でここにいて、どんなこと考えてるのかな、って考えます。そこに生きてる感じがした方自分が楽しい。自分がやってて面白いようにやるってことですかね、それが大きいかもしれない。どんな小さい役も楽しみたいので。
ずる だから和田さん見ててワクワクするのかも。
和田 自分が楽しくないと人を楽しませることもできないんじゃないかなっていつも思いますね。

お色気の謎

ずる 和田さんが出てるピンク映画見て思ったんですけど、和田さんの裸って不思議ですよね「なにこの人??」って。
和田 私もおかしいなって思って。
ずる 面白いですよね。エロっていうより「裸ん坊の魂」って感じ。自己顕示欲とか、お色気って感じでもなくて…。
和田 お色気したいんですよ(笑)!憧れはあるんですよ!
ずる え?セクシーに?
和田 うん。ピンク映画出たかったのも女性の裸の美しさに憧れがあったからで…でもやってみたものの…丸出しになっちゃうとやっぱり繕えないんですよね。お色気ってやっぱ持ってるもの…資質みたいなものだから。
ずる そうなの?ショック。
和田 その点私はちょっと…でも出してもらってるんだから「楽しもう、爪痕残そう」みたいな(笑)。
ずる でもね、私は和田さんに採れたての山菜のような不思議な色気をずっと感じていて…でも憤慨しないでね、それを感じるのが服着てる時なんですよ。
和田 (笑)!
ずる 主演されてた映画『岬の兄妹』の最後崖で振り返るシーンとかすごい色っぽかった。

映画『岬の兄妹』該当シーン


和田 色っぽいって言われたの初めて。
ずる それまで、和田さんの役を知的障がい者って目で見てたのに、あそこで「違う。この人そうだ、女の人なんだ」ってゾクゾクしました、普遍的な色っぽさというか。
和田 それも初めて言われた。あのシーン、そういうことなんだ。
ずる この人には障がいがある、自分とは違うって隔てた目で見てたはずなのに、和田さんの演技を見て「私と同じじゃん、社会的な見え方が違うだけじゃん」って打ちのめされました。
和田 そのときはそんなつもりでやってなかったのに。
ずる え?全てを読解してるのかと。
和田 いやいや。でも、結果自分がやりたかったことを実現してたというのがわかって嬉しい。というのも私、見た人に「これは自分だ」「自分をわかってもらえた」って、そう思ってもらいたいっていうのがあって…おごりかもしれないけど。
ずる あ、だから和田さんの演技には壁を感じないのかも。
和田 観客席と繋がりたいと言うか…。喋ってて気づいたんだけど、脱ぐって日常ではない分、気が張って心に鎧ができるのかも。脱ぐからって心まで脱げてないんだなって。逆に言ったら脱ぐ脱がない関係なく心を裸にするって方が色気に繋がるのかも。
ずる 結論、でた。
和田 ずるちゃんに引き出してもらった感じがする、ガッテンがいったよ。

映画制作での気づき

ずる 「今年40歳になり、自分が何者でもないことに気づいた」って言ってましたけど、あれは一体?
和田 20代は「自分は何にでもなれるぞ」って自分の可能性を信じていたけど、30代で自分を見つめて、今40歳になって「あ、何にもないんだな」って。
ずる 何もない?
和田 何もないっスね。結局たかが知れてるじゃないですか(笑)。それに気づいた時はきつかったけど、それで外に目を向けてみたら色んなことが楽しめるようになってきました。
ずる 外?具体的には。
和田 うーん、自分以外のものに興味をもちつつ…なんて言ったらいいのかな、前は自分を磨きたいって気持ちが大きかったけど、それはそうなんだけど、もっと自分を大事にしない方が楽しくなってきた。
ずる え?今まで自分を大事にしてたんですか?
和田 めちゃくちゃ自分を守ってた。
ずる 自分を大事にしてるようにも何かを守ってるようにも見えなかったよ!
和田 え?そうなの?変わってないの?こんなに変わったのに?
ずる ちなみに変わったと思うきっかけはなんだったんですか?
和田 私、旦那と映画で出会って結婚したんですけど、夫婦になっちゃったので映画制作に携わるようになったんです。『獣手』って映画で主演だけではなく、初めて作る側を手伝うようになって。それ、ですね。一つの作品を作るのを客観的に捉えるようになって、自分のエゴとか意見を曲げられないことに気づいたんです。色んな感性を持った人が一気に集まって色んな意見が出た時、自分の頑なさでうまくいかなかったことがあって。
ずる 裏方としての経験が気づきに。
和田 そう。周りに嫌な思いさせちゃって。主に旦那さんなんですけど(笑)。
ずる (笑)。
和田 和田被害者の会ができるんじゃないかくらい、他のスタッフさんにも迷惑かけて。
ずる そんなに?
和田 音楽とか編集にも口出しちゃって。その時「私一人でやってるわけじゃないんだよな」ってふと思ったんです。色んな感性が一つの作品になるっていう豊かさみたいなもの…それが、映画だったり演劇なのになって。それを経験して、周りの良さに気づきました。映画制作に関わって変わりましたね。
ずる その映画『獣手』はいつ公開ですか?
和田 2024年1月27日にユーロスペースで公開です。
ずる 和田さんの闘いの跡、観に行きます。
和田 ありがとう(笑)

映画『獣手』(2024年公開)監督:夏目大一朗

理想と相反する創作のテーマ

『映画(窒息)』(2023年公開)監督:長尾元

ずる 夢とかありますか?
和田 うわ、また難しい話を…。ありがちですけど、やっぱ一生芝居がしたいですね。
ずる シンプルで素敵。
和田 別にどこでとか関係なくですね、小さな街とか、畑いじるのも好きなので将来田舎暮らしをするかもしれないですし、畑の真ん中で近所のおばあちゃん相手に芝居するとかでもいいんですよ。
ずる 和田さんらしい。
和田 誰が見てるとか関係なくできたらな。
ずる なんでそんな芝居好きなんですか?
和田 え、なんでなんですか?
ずる いやこっちが聞いてるんですよ。
和田 (笑)。
ずる …和田さんは起用した側の負担にならない役者さんですよね。大らかで逞しくて…。
和田 そうかな?
ずる 私は神経質ですぐ文句言っちゃうからな「何待ちですか?」とか。
和田 (笑)私そういう人大好き。見てて面白いから。
ずる いやダメでしょ(笑)。
和田 逆に揉め事が私は苦手だから、
ずる いいよ、ぶつからない方が。
和田 でもお客さんが見たい作品はそっちじゃないですか。
ずる ヒリヒリした?
和田 そうそう。仲良しごっこ見たいわけじゃないですから。自分は全部を受け入れたいけど、それで果たして面白いことできるのかなって、せめぎ合いですね。相反する。自分のテーマだな。
ずる じゃいいじゃないですか、映画制作で被害者の会できるくらいぶつかったんだから。
和田 あ、じゃあそれは必要なヒリヒリだったのかもしれないですね。
ずる 『獣手』ますます楽しみになりました。

和田光沙

和田光沙の平和

あなたの平和を知ること。

プロフィール

和田光沙(写真右)
わだみさ○1983年東京都中野区生まれ。趣味・農作業、銭湯巡り。
映画『岬の兄妹』では知的障がいを持つ天真爛漫な妹、『菊とギロチン』では心身共に鍛え抜かれた女力士、『由宇子の天秤』『誰かの花』『やまぶき』 Netflix『サンクチュアリ聖域』等では、複雑な想いを抱える母親役を演じ、大胆かつ繊細で説得力のある人肌演技に定評がある。主演映画『映画(窒息)』2023年11月公開。
【SNS】
X@misawada▶︎https://twitter.com/misawada

【映画】『獣手』
夫・福谷孝宏と夫婦で主演プロデュースする
映画『獣手』(夏目大一朗監督)2024年1/27@ユーロスペース公開!
詳細▶︎https://twitter.com/ubKXFxZYvUoamdI?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor
予告▶︎https://www.youtube.com/watch?v=QGqqIqz7Br8

著者プロフィール

小野寺ずる(写真左)
◯おのでらずる◯気仙沼生まれの脚本演出、お役者、糞詩人、ド腐れ漫画家。
個人表現研究所・ZURULABO所長。
【SNS】X@zuruart▶︎https://twitter.com/zuruart
【漫画連載】日刊SPA!『小野寺ずるのド腐れ漫画帝国』
https://nikkan-spa.jp/spa_comment_people/小野寺ずる?cx_clicks_article=1_backnumber

構成・文・撮影◇小野寺ずる 

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