歌舞伎座「四月大歌舞伎」開幕!
歌舞伎座では4月2日に「四月大歌舞伎(しがつおおかぶき)」の初日が開幕した。昼夜ともに豪華顔合わせで、歌舞伎の魅力溢れる多彩な舞台を上演中。
《昼の部》
幕開きは、『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)』より「引窓(ひきまど)」の名場面。
歌舞伎三大名作『菅原伝授手習鑑』『義経千本桜』『仮名手本忠臣蔵』を手掛けた竹田出雲・三好松洛・並木千柳の合作による義太夫狂言の名作で、「引窓」の場面の舞台は中秋の名月を翌日に控えた、京都郊外。南与兵衛(中村梅玉)の家では、亡き父の後妻であるお幸(中村東蔵)と女房お早(中村扇雀)が、放生会(ほうじょうえ/捕らえられた生き物を解き放つ行事)の支度をしています。そこへ相撲取りの濡髪長五郎(尾上松緑)がやってきます。長五郎は訳あって人を殺めてしまい、この世の名残に母であるお幸に会いに来たのです。久しぶりに実子である長五郎に会ったお幸の無邪気な喜び、そして死ぬ覚悟を打ち明けられない長五郎の苦しみの対照が胸に響きます。
郷代官に任ぜられ、長五郎を捕らえる命を受けた与兵衛が手水鉢に写るその姿を見て気色ばむところから舞台は一気に緊迫、やがてお幸の気持ちを察して与兵衛は長五郎を見逃すために奔走します。南与兵衛後に南方十次兵衛という役が大好きだという梅玉は「今回は 12 年ぶりですし、親しいあらし君(松緑)が濡髪役。活きの良い後輩に負けないよう勤めたい」と公演に向けて語ります。梅玉は義理の母を思う与兵衛の優しさを丁寧に演じ観客の心を掴み、実子と継子の間に入って苦悩するお幸、夫を愛しながら母の心情を思うお早、そして与兵衛の情けを感じ縄に付こうとする長五郎というそれぞれの想いが繊細に描かれた胸に沁みる一幕となりました。
続いては、舞踊『七福神(しちふくじん)』。
室町時代末期ごろから始まったとされる七福神信仰を素材として作られた数多の作品から、平成 30 年に歌舞伎座で新たな台本と音楽、振付で上演された本作。この度は、中村歌昇、坂東新悟、中村隼人、中村鷹之資、中村虎之介、尾上右近、中村萬太郎という花形七人がいずれも初役で七福神勤める話題の舞台です。
富士山を背景に、宝船が七福神を乗せてやってくると、天下泰平を喜び、いつまでも平安な世が続くようにと願いながら、神々が酒を楽しんだり、恋の手習いの艶っぽい踊りを見せたりと、賑やかで愛嬌溢れる空気に包まれました。春の陽気に相応しく、花形たちが心躍る舞踊を魅せました。
そして、上方狂言の人気作『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』。
片岡愛之助が団七九郎兵衛と徳兵衛女房お辰を、尾上菊之助が一寸徳兵衛を勤めます。二人の競演は昨年 6 月博多座から引き続き、今年 2 月に芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した愛之助の受賞理由に『夏祭浪花鑑』の演技も挙げられました。公演に向けた取材会では、団七について「俠気(おとこぎ)に溢れ、一本気な上方の兄ちゃんですね」と話し、「今回も徳兵衛は、博多座でもご一緒させていただいた菊之助さん」と愛之助は喜び、菊之助も「こんなにも早く歌舞伎座で、またご一緒できてとても嬉しいです。徳兵衛は、俠気を見せる団七に惚れて、義兄弟の契りを結ぶ男なので、かっこいい愛之助さんの団七に食らいついて行きます」と話しています。息の合った二人の競演に期待が膨らみます。
罪人となっていた団七(片岡愛之助)の出牢の日。団七の女房のお梶(中村米吉)と伜の市松(中村秀乃介)は釣船三婦(中村歌六)と住吉社へやって来ます。髪や髭が伸び放題の団七が、身なりを整えて浴衣姿で現れると、その爽やかな佇まいが場内を魅了します。
団七は、大恩人の息子である玉島磯之丞(中村種之助)とその恋人琴浦(中村莟玉)の危難を救うため、一寸徳兵衛(尾上菊之助)とその女房お辰(片岡愛之助/二役)、釣船三婦らと奔走。立札を用いた団七と徳兵衛の息の合った立廻り、勢いある団七の花道の引っ込み、愛之助が一本気な団七と気風がよく筋の通ったお辰の二役を勤めるなど、みどころ満載。団七が泥にまみれながらの舅義平次(嵐橘三郎)殺しの場は、歌舞伎ならではの様式美で客席を魅了し、息を呑む展開が続くと幕切れには「大当り!」の大向うが掛かる盛り上がりとなりました。
《夜の部》
人間国宝・片岡仁左衛門と坂東玉三郎の競演が話題の夜の部。幕開きは、四世鶴屋南北の『於染久松色読売販(おせめひさまつうきなのよみうり)』 より、土手のお六と鬼門の喜兵衛に焦点を当てた人気作。
惚れた男のために悪事を働く“悪婆”と呼ばれる役柄の土手のお六を玉三郎、色気ある悪に満ちた喜兵衛を仁左衛門。昭和 46(1971)年に初めて二人で勤めて以来、上演を重ねてきた当り役で、「玉三郎さんとのコンビがこのときからスタートしたようなもので、思い出深いお芝居です」と仁左衛門は話し、「玉三郎さんのお六との呼吸は、自然に合います。強請りの場では、ちょっと間の抜けているところも見せます。そこが南北さんの芝居作りの巧さでしょう」と語ります。
凄味を見せながらも、二人の息の合った強請りの場は観客の心を引き込み、山家屋清兵衛(中村錦之助)に見破られ目論見が外れる件はユーモアある幕切れとなり、観客からは笑いと共に大きな拍手が起こりました。
続いては、仁左衛門・玉三郎が魅せる舞踊『神田祭(かんだまつり)』。
江戸の二大祭のひとつ「神田祭」を題材として、粋でいなせな鳶頭を仁左衛門、艶やかな芸者を玉三郎が勤め、華やかな江戸風情が場内を包みました。賑やかな祭囃子で幕が開くと、そこは祭り気分に浮き立つ江戸の町。仁左衛門演じるほろ酔い気分の鳶が登場し、江戸前のすっきりとした踊りを見せて祭りを盛り上げます。
続いて、玉三郎演じる芸者が自らの思いの丈をくどきで表現する場面、そして二人が揃って踊る場面では、その美しさに客席も華やぎます。鳶頭が大勢を相手にした立廻りでは、割れんばかりの拍手が送られました。
夜の部の打ち出しは、舞踊『四季(しき)』。
明治・大正時代に活躍した女流歌人の九條武子による本作は、日本の四季折々の風情を美しく描き出し、「春 紙雛」「夏 魂まつり」「秋 砧」「冬 木枯」を通した上演、また歌舞伎座での上演は実に 43 年ぶりとなります。
「春 紙雛」では桃の節句に飾られた尾上菊之助の女雛、片岡愛之助の男雛の紙雛の仲睦まじい恋模様が描かれ、「夏 魂まつり」は夏の風物詩である大文字の送り火を舞台に、中村芝翫の若旦那を中心に芝翫の長男・中村橋之助が若衆、三男・中村歌之助が太鼓持、甥・中村児太郎が舞妓を勤めるなど成駒屋一門が情緒豊かに舞います。
「秋 砧」は筝の音に乗せて、夫を想う片岡孝太郎勤める若妻の心をしっとりと描き出し、「冬 木枯」では尾上松緑と坂東亀蔵のみみずくが見つめる先で、木枯らしに吹かれ舞う木の葉の動きを群舞で鮮やかに表現。木の葉女を勤める尾上左近を中心に木の葉男の坂東亀三郎・尾上眞秀が軽やかに踊る姿、とんぼやアクロバティックな動きが盛り込まれた振付に拍手が起きました。情緒豊かな日本の四季の変化を描く優美な舞踊に、酔いしれるひとときとなりました。
【公演情報】
歌舞伎座「四月大歌舞伎」
4月2日~26日千穐楽
休演10日水18日木
昼の部 午前11:00
夜の部 午後16:30