ここにしかない感動が横溢する博多座25周年記念作品『新生!熱血ブラバン少女。』上演中!
九州最大級の演劇専用劇場である福岡・博多座が開場25周年を迎えたのを記念した、完全オリジナルの新作『新生!熱血ブラバン少女。』が上演中だ(21日まで。のち、26日~28日大阪・新歌舞伎座で上演)。
『新生!熱血ブラバン少女。』は、2017年福岡県出身で、同郷の博多大吉との漫才コンビ「博多華丸・大吉」として、また俳優として、更にはNHK総合『あさイチ』でのメインキャスターとしてもお馴染みの博多華丸の主演により上演された『熱血ブラバン少女。』を、2024年のいまに通じる新たな物語として立ち上げようと企画された新作。福岡が誇る吹奏楽の名門校である精華女子高等学校の吹奏楽部員との共演により大好評を博した前作と同じく脚本をG2が担当。演出には新たに花組芝居の加納幸和を迎え、精華女子高等学校吹奏楽部員が全編で生演奏を繰り広げる、熱い舞台が展開されている。
【STORY】
福岡にある西北女子学園吹奏楽部は、全国大会の常連校として名を馳せた名門校。だが、過去の栄光もむなしくとある事情から指導者が不在となっているいまは、部員の半数が退部してしまいほぼ休部状態に陥っている。
そんな吹奏楽部を立て直したいという生徒の熱意に打たれ、「教え子を全国大会へ必ず連れて行く」と評判の城門輝勝(博多華丸)は、吹奏楽部のコーチになることを引き受ける。
様々な思いを抱えた生徒たちに熱い指導を続ける城門。はじめは一見演奏になんの関係もないような指導に困惑する生徒たちだったが、いつのまにか散り散りだった音色もハーモニーを奏で始め、徐々に吹奏楽部は再始動に向けて着実な一歩を進みはじめる。
ところがそんな中、保護者たちが校長室に乗り込んでくる。実は城門はスポーツ専門のメンタルコーチで、吹奏楽に関してはずぶの素人。さらに過去に携わった部活動でもトラブルがあったというのだ。
果たして「新生」吹奏楽部は、城門の熱血指導により本当に全国大会へ出場できるのか?!
舞台全体に楽譜が大きく描かれた美術がひと際印象的な舞台は、精華女子高等学校の現役吹奏楽部員50人が奏でる迫力の生演奏から幕を開ける。しかもその大がかりな演奏者たちが全員舞台に乗ったまま盆が周り、やはり楽譜柄の美しい壁が立ち現れ、場面が「居酒屋シモジ」になっていくスピーディな展開にまず引きこまれた。これは歌舞伎もミュージカルも宝塚も上演できる、博多座の奥行き深い舞台機構があってこそ可能になる転換で、演出の加納幸和が寄せる博多座への信頼が見えるようだ。
そんな構成舞台(※木材や鉄材を幾何学的に構成することによって、立体性、抽象性を強調した舞台装置)を基本にしながら進んでいくドラマ運びもまた絶妙で、鈴木梨央演じる河合葵が中学生時代に出会った西北女子学園吹奏楽部に憧れて受験を決意。東京からはるばる九州福岡の高校に進学することに猛反対していた紅ゆずる扮する母・凛々子も、結局葵を一人下宿させるに忍びず、共に博多へとやってくる……という発端からひとつひとつ結ばれていく登場人物たちの縁が、次から次へと物語を広げていく流れに全く無理がない。そればかりかどの登場人物にも様々な悩みもあれば、抱えている思いがあるなかで、それぞれが一生懸命生きていて、考え方や立場の違いで対立することはあっても、本当に悪い人は誰もいない。互いのなかに人情があり、音楽があって、それがいつしか大きなハーモニーとなっていく。そんなG2の脚本の妙にうならされるし、博多弁のぬくもりが作品の温かさに真実味を加えていて、この作品が「九州発エンターティメント」である強みがしみじみとわかる思いがした。
そんな作品を支えているのが、多彩なキャストの面々だ。
スポーツ専門のメンタルコーチで、楽器演奏はおろか楽譜も読めないまま吹奏楽部のコーチに就任する主人公・城門輝勝の博多華丸は、一見奇想天外に思える設定をふんわりと包み込み、舞台に位置している自然体の姿が印象に残る。通常いくらなんでもそれは難しいのでは、と思うコーチ就任だが、「目標と目的はどう違うのか」「演奏が上達するには努力が必要。では努力すれば必ず演奏は上達するのか?」などなど、言われてみればと思うメンタルコーチとしての台詞の数々が状況を納得させていく。そこには俳優・「博多華丸」の演じることに極めて真摯な姿勢と、良い意味の軽みが同居している個性があって、役柄に大きな説得力を与えることに成功していた。これは誰にでもできるという技ではなく、2015年から隔年で、この人の座長公演が続いている意味と意義を感じる主演ぶりだった。
娘を案じて共に博多にやってくるピアノ教師・河合凜々子の紅ゆずるは、東京藝大在学中に全日本音楽コンクール優勝、ショパン国際コンクール2位受賞を果たし、世界で演奏活動をしていた、という華麗なる経歴の元ピアニストとしての立ち居振る舞いから、突然、出身地の大阪弁丸出しでまくしたてるカリカチュアされた表現との落差が捧腹絶倒。更に、そんな宝塚時代から他の追随を許さないコメディセンスで知られた「紅ゆずるここにあり!」の演技はもちろん、音楽トレーナーとして城門をサポートするなかで、二人が語り合う場面の静けさからにじみ出る情感の美しさにも、確かな進化を感じさせた。
その娘、河合葵の鈴木梨央は、そもそも彼女が西北女子学園の吹奏楽部に憧れたことから全てが動き出す役柄を快活に演じている。特に葵の一途さが決して押しつけがましくも、一人相撲にもならないのは鈴木の周りを巻き込むパワー溢れる演技の賜物。東京から飛び込んできた新入生が、先輩たちを説き伏せていく設定に無理を感じさせずに、作品のキーパーソンの任を十二分に果たしていた。
西北女子学園に産休代替え教員としてやってくる鈴江響の星野真里は、その3ヶ月だけこの学園に、博多の街にいることが、吹奏楽部と城門を結びつけてドラマを転がしていく、こちらも重要な役割をエネルギー全開で演じて惹きつける。思い込みで突っ走ってしまう表現にも可愛さがあるのが星野ならではで、喜怒哀楽の豊かな演じぶりが、舞台全体の大きなアクセントになっていた。
そんな面々が復活に力を注ぐ吹奏楽部に関わる女子高校生役の一人ひとりにも大きな個性があり、ピアノで芸大受検を目指していて、凛々子の弟子でもある手塚杏の森保まどかは、ピアニストとしての活動もしている力量を生かした日替わり曲でのピアノの生演奏をはじめ、ソロ楽器であるピアノとは全く異なる魅力を吹奏楽に見出していく杏の心情を丁寧に伝えているし、大人数で奏でるハーモニーの素晴らしさと同時に、自分のミスの責任が全員に及んでしまうことを憂う荒木唯の上西怜の訴えには、わかるわかる、と肩を抱きたいような気持ちにさせられる。そもそもなぜ西北女子学園の吹奏楽部から指導者がいなくなってしまったのか?に、観客の思いが至る橋口紬の古川あかりの、青春真っ只中ならではの潔癖さが刺さるし、とある出来事から声が出なくなってしまっている、元バスケットボール部員でフルートの名手の岩永澪の神田朝香が、フルートの音色に託して言葉を伝える様には、度々涙腺を刺激されたほどだった。
何より彼女たちをはじめとした俳優陣が役柄を演じる為にそれぞれ懸命に楽器に取り組み、一方、精華女子高等学校の現役吹奏楽部の面々が、芝居パートにも参加しているのに全く隔たりが感じられず、真の意味で「共演」を果たしている様を目の当たりにして、若さの限りない可能性が眩しいばかり。芝居のバックグランドミュージックも含めて精華女子高等学校の面々に生演奏を委ねた演出の加納の挑戦に、全員が応えた姿がここにしかない舞台の感動をより強めている。
彼女たちの父親役にも個性派が揃っていて、紬の父で旅行代理店を経営している橋口大吾の斉藤優が、博多華丸座長公演の欠かせぬ顔として伸び伸びと個性を発揮すれば、杏の父で弁護士の手塚岳斗の小林大介が、演出の加納と同じ「花組芝居」の中心メンバーらしい味わい深い演技で新風を吹き込み、『新生!熱血ブラバン少女。』の魅力を高めた。
そんな父親たちのなかで、声が出なくなっている澪の父であり、PTA会長兼商店会会長でもある岩永隆二の宇梶剛士が、登場時点から波乱含みの役柄をダイナミックに演じて目を引く。城門への敵愾心も無理からぬと思える展開が続くが、その対立に猛々しさばかりではない、心理の揺れや時には可笑しみも入れ込めるのが宇梶の強み。強面のなかから温かさがこぼれ出る個性が役柄に十二分に生き、終幕まで「次はどうなる?」という興味を舞台から発し続ける存在だった。
そして、西北女子学園の校長・海羽眞弓に浅野ゆう子が扮したことが、作品の大きな要になっている。吹奏楽部存続に対して厳しい条件を課す校長でありつつ、どこかクスッと笑わせる要素もある役柄が、浅野の存在感によってより一層大きく感じられるし、そんなちょっとしたひと言や、仕草で一瞬にして場を引き締める力量はさすがのひと言。舞台作品の出演に限って考えると、こうした現代を生きる普通の人の役柄は浅野にとってむしろ珍しい設定だったように思うが、だからこそ役者としての貴重さが改めて感じられる、役柄の心境変化が手に取るようにわかる好演だった。
他にも、地元の劇団で活躍していて方言指導も兼ねる「居酒屋シモジ」の女将の原岡梨絵子や、店主の下畑博史をはじめ、舞台にいる全員に必ず目立つ役柄や、見せ場が用意されているのが全体の温かさを強めていて、観客動員という観点、つまりは人口比率からどうしても東京一極集中になりがちのエンターティメントの世界で、地域に根差したオリジナル作品の創造という旗を掲げる博多座の理念が、まぎれもなくここからしか生まれない色と思いを持った作品を創り出しているのが嬉しい。
東京の大劇場が次々と建て替え、改修に入り劇場不足が懸念される昨今、どんな作品にも対応できる舞台機構と、大劇場でありつつ舞台と客席の距離がとても近い博多座の果たす役割はより大きくなっていくことだろう。そのネームバリューに比して25周年、四半世紀記念の年が、むしろ短く感じられもする博多座が展開する、九州発エンターティメントの未来に期待している。
【公演情報】
博多座25周年記念作品『新生!熱血ブラバン少女。』
作◇G2
演出◇加納幸和(花組芝居)
出演◇博多華丸
紅ゆずる 鈴木梨央 星野真里
斉藤優(パラシュート部隊)小林大介(花組芝居)
森保まどか 上西怜(NMB48)神田朝香 古川あかり
宇梶剛士
浅野ゆう子
精華女子高等学校吹奏楽部
伊藤卯咲 柴﨑凛々子 田中杏佳 牧野ひかり 弥和
仲道和樹 下畑博史(パタパタママ)木下貴信(パタパタママ)高須賀浩司 武市佳久(花組芝居)青井想
原岡梨絵子 下村結香 大野朱美
●4/6~21◎福岡・博多座
〈お問い合わせ〉博多座電話予約センター TEL 092-263-5555(10:00~17:00)
〈公式サイト〉https://www.braban-girl.jp/
●4/26~28◎大阪・新歌舞伎座
〈お問い合わせ〉新歌舞伎座テレホン予約センター TEL 06-7730-2222(10時~16時)
〈公式サイト〉https://www.shinkabukiza.co.jp/perf_info/20240426.html
【取材・文・撮影/橘涼香】