KUNIO16『ゴドーを待ちながら』上演決定!
杉原邦⽣の主宰するKUNIO では、2019年の『グリークス』以来、約5年ぶりとなる新作公演・KUNIO16『ゴドーを待ちながら』を、6月にKAAT神奈川芸術劇場<中スタジオ>で上演する。
不条理演劇の代名詞として演劇史にその名を残す、Samuel BECKETT “EN ATTENDANTGODOT” を上演するにあたり、今回、KUNIO では、2016年に河合祥⼀郎⽒が主宰する“Kawai Project”での公演時に新翻訳を⾏った台本(未出版)を元に上演を⾏う。
出演は、ベテラン俳優の⼩⽥豊、外⼭誠⼆を中⼼に、所属する劇団「柿喰う客」にとどまらず幅広く活躍する⼤村わたる、杉原邦⽣演出・⽊ノ下歌舞伎『勧進帳』では弁慶役で強烈な印象を残したリー5世、という杉原邦⽣が信頼を寄せる俳優たちと、今回が舞台初挑戦となる中⼭翔貴まで、バラエティに富んだ顔ぶれが揃った。
《今回の上演にあたって》
『ゴドーを待ちながら』は、サミュエル・ベケットが1952年にフランス語で初出版し、その翌年にパリで初演されて以降、不条理演劇の代名詞として演劇史にその名を残し、今⽇まで多くの演出家によって上演し続けられている戯曲です。今回、KUNIOでは、2016年に河合祥⼀郎⽒が主宰する“Kawai Project”での上演時に新翻訳を⾏った台本(未出版)を元に上演を⾏います。
「──(前⽂略) 私はまよわず1952年のフランス語版を、ベケット⾃⾝の英語版を参照しながら、新たに訳すことにしました。但し、既訳とは異なり、1952年の初版ではなく同年に出た第⼆版を底本にしなければならないと判断しました。第⼆版こそが英語版の元になっており、ベケット⾃⾝が改定を加えた版だからです。この作品をどう解釈するかは、ベケットの書いた原⽂をどう解釈するかに⼤きくかかってきます。師を乗り越えることができるかどうかはわかりませんが、そう務めるのが弟⼦としての義務でしょう。シェイクスピアのみならずベケットにおいても、やらねばならぬ仕事が多々あると思うのは、最期の病床でベケットの本を求めたほどベケットを愛した師の思いを継いでいかなければならないと思うからです。 河合祥⼀郎 Kawai Project vol.3『ゴドーを待ちながら』(2016 年)挨拶⽂より⼀部抜粋──」
河合⽒は翻訳にあたって、1952年にミニュイ社が刊⾏したフランス語第⼆版を底本としています。その理由として1953年1⽉5⽇にパリのバビロン劇場で初演後、ベケット⾃⾝が英訳し1954年にニューヨークのグローヴ・プレス社から出版した英語初版が、フランス語第⼆版をもとにしているからで、細かな幾つかの表現において、ベケット⾃⾝が改定を⾏い第⼆版としたことが明⽩であるため、と記されています。河合⽒の翻訳には注釈が添付されており、フランス語版初版と第⼆版(英語版)との違いが詳細に記されています。KUNIO では今回、その注釈を頼りに、⾔葉の変化ひとつひとつを丁寧に⾒つめ直し、時に河合⽒とのディスカッションを交えながら、ベケットの思考の変遷を辿るようにして台本を整理していきました。この作業には、これまで『ハムレット』(2014)、『夏の夜の夢』(2017)、『グリークス』(2019)等、翻訳戯曲の新訳上演にこだわってきたKUNIO の創作スタイルが⼤いに⽣かされています。翻訳により原作のもつ⼒が最⼤限に引き出された上演台本とともに、現代の観客へダイレクトに届く『ゴドーを待ちながら』を⽬指します。ご期待ください。
【コメント】
演出・美術 :杉原邦⽣
とある公演の終演後、楽屋のベンチで雑談しながら、何の気なしに「今後演ってみたい戯曲ってあるんですか?」と尋ねたとき、⼩⽥豊さんは「死ぬまでに『ゴドー(を待ちながら)』を演りたい」と、即答してくれました。『ゴドーを待ちながら』は、僕⾃⾝いつか上演したいと思い続けていた作品のひとつでしたが、KUNIO の企画会議で何度か候補にあがっても、その度、いま(その時)ではない気がして、先送りになっていました。だから、なんだか勝⼿に運命的なものを感じてしまい、その場で「じゃあ、KUNIO で企画していいですか?」と⾔ってしまいました。こうして、今回の上演は思いもかけないきっかけからスタートしたのです。
僕たちは、忙しなく⽇常を動き続けているとき、〈動かぬもの〉に気づけないことがあります。その〈動かぬもの〉とは、物理的に存在しているものだけではありません。終わりの⾒えない課題、変えようのない事実、答えのない問い、⾃分の中にある感情、記憶もしかすると、僕たちはいつも、それら〈動かぬもの〉に気づけていないのではなく、気づけていないことにしている、、、、、、、だけなのかもしれません。なぜなら、そのものたちに真剣に⽬を向けようとしたとき、僕たちの思考もまた、忙しなく動き続ける⽇常の中で〈動かぬもの〉になってしまうからです。
⼩⽥さんと『ゴドー』を演ろうという話をして、さっそく戯曲を読み直してみたとき、なぜか、涙が溢れてきました。あの場から動かぬ⼆⼈の男たちは、必死に〈動かぬもの〉に対峙しようとしている、そう⾒えたからなのかもしれません。そして、あのとき何の気なしに聞いていた⼩⽥さんの「死ぬまでに」という⾔葉が、僕の中に〈動かぬもの〉として残っていたからなのかもしれません。
⽬まぐるしく動きつづける現代で、僕たちはいま、多くの〈動かぬもの〉にどう向き合うべきなのか。そんなことを考えながら、絶⼤な信頼を寄せるお馴染みのキャスト、スタッフと共に、KUNIO 版『ゴドーを待ちながら』をお届けしたいと思っています。
《あらすじ》
⽊が⼀本⽴つ⽥舎の⼀本道。⼣暮れ。
ヴラディーミルとエストラゴン2⼈の男がゴドーという⼈物を待ち続けている。しかし2⼈はゴドーに会ったことはないらしく、滑稽で実りのない会話を交わし続け、暇をつぶしている。だが、いつまで経ってもゴドーはやって来る様⼦はない……
【公演情報】
KUNIO16『ゴドーを待ちながら』
原作:Samuel BECKETTS “EN ATTENDANT GODOT”
翻訳:河合祥⼀郎
演出・美術:杉原邦⽣
出演:⼩⽥豊 外⼭誠⼆・
⼤村わたる リー5世 中⼭翔貴
●6/22~30◎KAAT 神奈川芸術劇場 <中スタジオ>