トップコンビが醸し出す幸福感の残像 宝塚花組公演『アルカンシェル』~パリに架かる虹~
宝塚花組トップコンビ、柚香光&星風まどかの卒業公演である花組公演ミュージカル『アルカンシェル』~パリに架かる虹~が、東京宝塚劇場で上演中だ(5月26日まで)。
ミュージカル『アルカンシェル』~パリに架かる虹~は、ナチス・ドイツ占領下のパリを舞台に、ミュージックホール「アルカンシェル・ド・パリ」(アルカンシェルはフランス語で「虹」)の看板歌手と、人気ダンサーが、ぶつかり合いながらも、レビューの灯を守ろうと奮闘するうちに、心を通わせていく様を軸に、パリ解放までの長い道のりを描く小池修一郎のオリジナル作品だ。
【STORY】
現代のパリ。キーボード奏者のイヴ・ゴーシェ(聖乃あすか)は、自分の祖父と、曾祖父がドイツ占領時代を生き抜いた、困難多きかつてのパリを振り返る──
ナチス・ドイツ占領下のパリ。ミュージックホール「アルカンシェル・ド・パリ」では、ドイツ軍の進駐を前にユダヤ系演出家コーエン(紫門ゆりや)と振付家ジェラール(舞月なぎさ)が亡命。残された看板歌手カトリーヌ・ルノー(星風まどか)が演出を、天才ダンサーと謳われ人気急上昇中のマルセル・ドーラン(柚香光)が振付を、共に急遽任されることになった。振付の経験がないマルセルは、カトリーヌともしばしば意見が対立し、稽古は難航する。
そこにドイツ軍文化統制官のコンラート・バルツァー(輝月ゆうま)が、副官のフリードリッヒ・アドラー(永久輝せあ)や部下たちを連れて現れ、高圧的な態度でジャズの禁止とウィンナ・ワルツを使った上演を指示する。おおいに戸惑う団員たちだったが、コンラートが去ったあと、フリードリッヒは戦いに疲れたドイツ兵たちが求めているのはジャズだと伝え、高官たちの目をかいくぐりジャズ場面を作ることを提案してきた。
意外な提案にとまどいながらも、決意を固めたマルセルとカトリーヌは、ウィンナ・ワルツとジャズ、二つのバージョンの制作にとりかかる。衣装も楽曲も振付も二倍用意しなければならない創作は容易に進むものではなかったが、占領下のパリの人々を勇気づけたいという思いが原動力となり、二人は次第に意気投合していく。カトリーヌのパートナーで、スター歌手のジョルジュ(綺城ひか理)はその状況が我慢ならず、次第にナチズムに傾倒するようになる。一方ダンサーのロベール(帆純まひろ)、ピエール(侑輝大弥)、ダニエル(希波らいと)、そして稽古ピアニスト兼アレンジャーとしても活躍しているポール(一ノ瀬航季)は、ナチス・ドイツからパリを取り戻すべく、密かにレジスタンス活動に参加。また、演出家を兼ねるカトリーヌの稽古代役を務めるアネット(星空美咲)は、パリ市民に課せられた午前0時以降の外出禁止にあやうく抵触しそうになったところをフリードリッヒに助けられ、ドイツ国防軍の一員として戦いながらも、心の底ではエンターティメントこそが真に国境を越え、世界をひとつにする手段だと信じているフリードリッヒの思いに心を開いていく。
「アルカンシェル・ド・パリ」の人々がそんな、それぞれの思いのなかで重ねた日々を経て、新作のウィンナ・ワルツバージョンが初日を迎え大成功を飾る。ドイツ文化がパリで熱狂されたのは、フランスがドイツに順応している証だと喜ぶパリ占領軍総司令官オットー・フォン・シュレンドルフ(羽立光来)は、コンラートの功績を称え、ポンパドゥールホテルで開かれるドイツ帝国に友好的なパリ市民を招くパーティで、アルカンシェルのメンバーにアトラクションを披露させるよう命じる。求めに応じたマルセル、カトリーヌをはじめ団員たちは、劇場主のマダム・フランソワーズ・ニコル(美風舞良)と共にパーティに参加するが、その席でかねてからカトリーヌの美声に心酔していたコンラートが、彼女をホテルの自室へと引き込んでしまう。だがマルセルは咄嗟の機転でカトリーヌを救い出し、外へと逃れた二人は、外出禁止令の午前0時が迫るなか、マルセルのアパートで時を過ごし、舞台への情熱を語り合い、互いへの想いを確かめ合う。
そして、遂に完成したジャズバージョンの初日を前に、最終リハーサルが順調に進んだその刹那、銃声が鳴り響きコンラートたちが踏み込んでくる。情報が洩れていたのだ。全ては自分の責任だと1人罪を背負おうとするマルセルだったが、コンラートは聞く耳をもたずカトリーヌ、フランソワーズにも出頭を命じ、憤りのあまりナチス・ドイツへの反逆行為をしたとして、コメディアンのペペ(一樹千尋)も収監されてしまう。彼らは果たしてレビューの灯を絶やさず、パリ解放の日まで生き抜くことができるのか……
この作品の上演が発表された時には、これがトップスター柚香光とトップ娘役星風まどかの卒業作品になることはまだ周知されていなかった。特に2024年は宝塚が110周年を迎える各種記念行事も予定されていた為、個人的にもこの公演が二人を見送るものになるとは想像していなかった。芝居もとびっきりいいのだが、更に個性あふれる唯一無二のダンサーである柚香がその日を迎えるのは、まだまだ先であって欲しいという願いもあったし、そこではショー作品が用意されるはずだとの、勝手な思い込みもあったのだ。だから、結果としてこの作品が二人の卒業公演になったことには、まず驚いたのが正直なところだ。
けれども、ナチス・ドイツ占領下のパリで、レビューの灯を絶やさぬ為にあらゆる努力をする天才ダンサーという設定が、花組トップスターとしての年月が、コロナ禍以降に演劇界が、また宝塚歌劇団が直面した様々な闘いや模索の日々と、完全にシンクロしている柚香演じるマルセルが守り抜こうとするミュージックホール「アルカンシェル・ド・パリ」が宝塚歌劇を。その道を妨げ支配しようとするナチス・ドイツがコロナ禍の暗喩になっていることは筋立てからもすぐに理解できたし、役柄がレビュー劇場のスターダンサーという設定であれば、当然劇中に多彩なレビューシーンが用意されて、ショー的な楽しみ方もできる作品になるに違いないと思いもした。そして、その予想は覆されることがなく、黒燕尾にシルクハットにケーンの男役と、羽根扇にドレス姿の娘役が繰り広げる冒頭のレビューシーンはまさにパリからレビューの王道を学んだ宝塚歌劇そのものだったし、自身が目指すモダンダンスに拘り続けていたマルセルが、観客を楽しませるエンターティメントとしてのダンスに目覚め成長していく様や、クラシック音楽を学びオペラの舞台を目指していたカトリーヌが、大衆に寄り添うレビューの魅力に触れ、「アルカンシェル・ド・パリ」の門を叩いた心情は、宝塚歌劇へのオマージュそのもの。特にパリ市民の紋章に刻まれた、どんなにセーヌ河が嵐に見舞われ、船がたゆたおうとも決して沈みはしない、という「たゆたえども沈まず」の信念は、柚香に限らず先の見えないコロナ禍のなかで、劇場の灯を消すまいと歩み続けてきた宝塚歌劇と、この世界を愛する観客、そしてきっとパフォーミングアーツに携わる人たちはもちろん、あらゆる職業、あらゆる立場の人々にも共感を得られるテーマになっていると思う。この楽曲をテーマに据えた作・演出の小池修一郎の着眼点は、さすがにベテランの発想だなと感心させられる。
ただ、その一方でどうにも難しい題材を選んでしまったものだ、とも思わされるのが作品のなかでのナチス・ドイツの位置づけだ。第二次世界大戦終結から2025年には80年が経過することもあって、近年、ナチス・ドイツが掲げた全体主義(個人の自由を認めず、その権利や利益を国家全体の利害と一致するよう統制する政治体制)や、アーリア人種こそが世界を支配するに値するという思想から、ユダヤ人、ロマなどを中心に、民族そのものを絶滅させようとした背筋も凍る迫害の実態や、強制収容所の苛烈な現実などを取り上げる演劇や、映画が格段に増えている。それらは直接その時代を体験した人から話を聞き、この過ちを繰り返さない為に理解を深める機会が、極めて少なくなっている時の流れのなかで、事実を風化させてはならないという信念をもった意義深いものだ。なかでも、草彅剛主演の『アルトゥロ・ウイの興隆』。サルメカンパニーの『スウィングしなけりゃ意味がない』。宝塚OGの水夏希主演のミュージカル『HOPE』など、この数年に出たナチス・ドイツの蛮行を描いた演劇作品が、様々な角度からの鋭い切りこみのなかに、演劇ならではのファンタジー性や、エンターティメント性を加え、鑑賞から過度の辛さをやわらげつつ歴史を知らせた姿勢には、演劇だからできることの可能性が強く感じられている。
だが、宝塚もこの題材を真剣に描くべきなのか?と問われれば、おいそれと肯定できるものではない。それは宝塚歌劇というジャンルが、まさに劇中のマルセルの台詞である「この占領下で唯一の息抜きを求めて、劇場に詰めかけるお客さんのことを考えたら、自分の創りたいダンスなんてお預けにするしかない」「パリの人々が少しでも生きてて良かったと思えるショーを見せたいんだ」に通じる、現実をひと時忘れて三時間の夢を見せる、との理念を掲げ続けてきた劇団だからだ。その太い芯がある限り、暗黒の時代の描き方がマイルドになるのも無理はない。とは言え、この作品が採用したとしか思えない、SSのコンラートと、ドイツ国防軍のフリードリッヒを象徴に、あらゆる迫害はヒトラーの親衛隊SSを中心に行われ、ドイツ国防軍は国家元首であるヒトラーの命令に従っただけで、戦争犯罪に関する責任はないとされる「国防軍無罪論」が通っていたのは1970年代に入る前までで、様々な議論を経た2000年代以降は、ドイツ国防軍もホロコーストになんらかの形で関わっていたことは既に議論の余地がないとされている。現在のパリから過去を見ているイヴを語り手として登場させているだけにこの齟齬は痛いし、ドイツのハンブルグで自由の象徴として熱狂され、スウィングジャズを踊ることで抵抗運動を続け「スウィングキッズ」と呼ばれた若者たちの多くが、学業継続を禁じられ、刑務所や強制収容所送りとなる事態に至った経緯があるスウィングの禁止を、ドイツ国防軍のフリードリッヒに「みんなジャズを聞きたいんだよ、パリで!」と言わせているのもさすがに苦しい。こうした劇団の理念と題材の乖離が、後半イヴの解説にのみ頼って、一つひとつが大変緊迫感のあるはずの出来事を、紙芝居的に進めざるを得ない展開を招いたのは、ある意味当然の帰結だった。さらに盆やセリ、銀橋、花道といった劇場機構はもちろん、クレーンやゴンドラで劇場空間までをも使いつくす小池演出ならではのダイナミズムが影を潜め、全体がほぼ本舞台とカーテン前の仕切りで進行するのも、時代感を大切にしたのだろうがやはりもったいないと感じる。「アルカンシェル・ド・パリ」の団員たちの間で起こる、音大でクラシックを学んだ、オペラ座バレエ学校でバレエを学んだ、という確固たる出自のあるメンバーの自意識と、「夢を売る劇場」として目指すものの論争部分が非常に面白いだけに、「芸術」か「大衆文化」か?というテーマに絞った等身大の物語として描いても、作品が十分成立したのではと思われ、惜しむ気持ちがどうしても残った。
だが、そんな難しさを抱えた作品のなかで、稽古期間、ひと月半の大劇場公演を経てなお、東京公演通し舞台稽古の前日に、「この場面の心理はこういう解釈もできるかもしれない」と一から台本を読み返した、という趣旨の話をまるで当然のことのように囲み会見で語っていた柚香と星風のトップコンビをはじめ、キャスト全員がポンポンと飛ぶ場面、場面で役柄に命を吹き込む様には、胸を熱くさせるものが満ち満ちている。
その筆頭マルセルの柚香光は、自分のダンスのスタイルに拘り、「アルカンシェル・ド・パリ」に50年以上続く人気演目にも、自身のダンスを盛り込もうとする、天才の鬱屈と希求を前面に出した芝居部分のはじまりから、突然大きな責任を託され、ここに集う観客は何を観たいのか?に思いを致し、情熱の全てをその視点に注ぐようになるマルセルの成長を、細かい表情、目線、仕草の全てで伝えてくる。様々に展開されるダンスでも、過酷な尋問からようやく戻ったばかりの時には、舞台のセンターを支えながらも、片足が効かないという踊り方を見せる一方、遂にジャズが解禁されるとの報せを受けた後、静止するポーズの美しさはため息もの。あくまでもマルセルが踊っているので、常の柚香のキメるところは誰よりもしっかりとキメるのに、不思議なヌケ感がありどこまでも自由なダンスを見られるのは、フィナーレナンバーを待つ必要があるが、それだけ深い芝居をする人だということが改めて証明されたのは誇るべきことだ。あくまでも舞台人であるマルセルが、パリを守る為とは言え、人に銃を向けることの慟哭が伝わる表情の緊迫さも息を呑むほどで、前任花組トップスター明日海りお時代のショー『シャルム!』で見せたレジスタンスシーンとの明らかな違いに、この人が果てしなく大きくなっていく成熟の過程を観る思いがした。
分けても、カトリーヌへの気持ちの繊細な変化は、芝居全体の大きな見どころ。お互いが気持ちを伝え合えていない段階での、マルセルの部屋でのやりとりなど、観ていてさえどこかで照れてくるような絶妙さがあり、ひたすらに甘やかな名コンビだなと感じる。そこから柚香光という男役をまだまだ観ていたかったという切なさと共に、芝居の細やかさ、深さで役柄を押し上げる、柚香光の探求心はきっとこれからも続くのだろうという夢も芽生えた。
対するカトリーヌの星風まどかは、コロラトゥーラソプラノの名曲も歌うディーバに説得力を与える、堂々とした演技と歌唱で充実を感じさせる。基本的にとても強い女性の役柄だが、マルセルに対しては初々しさもにじませる、つまりは宝塚のトップ娘役としての瑞々しさをこの時まで手放さなかったのが、星風の面目躍如たるところ。宝塚人生のなかで、トップ娘役として過ごした時間の方が長いというキャリアのなかで、柚香とコンビを組み、どんどん自然体の愛らしさや、コケティッシュな面も覗くようになった相性の良さを、この舞台でも終始感じさせていた。マルセルの手が意外にも熱いという表現が、二人の歩む道程のなかで非常に重要なポイントになってくるので、そもそものはじめをウイットにしなくても良かったようにも思うが、そんな作劇の注文もちゃんとこなして、二人のドラマを高めた姿に万雷の拍手を贈りたい。
フリードリッヒの永久輝せあは、この人物がドイツの文化統制官とギリギリの折衝を繰り広げるフランス側の人間であれば、グッと話は通りやすいのだが、ドイツ国防軍の一員であるだけに、果てしもない難役になっている役柄を、エンターティメントの力を信じ、性根が楽天家なのだろうと思わせる明るさで立たせた力量を讃えたい。おそらくこれだけ失敗を繰り返せば左遷では済まないだろうが、そうした現実でなく次期トップスターの永久輝が様々に流転していくどの立場のなかでも、パッと目を引く存在感を維持し続けたのが貴重で、次代にも期待を抱かせた。フリードリッヒに心を寄せていくアネットの星空美咲も、カトリーヌの台詞を借りれば「すっかりスターの貫禄がついたわね」の趣があり、コンビがどう成長し、変化してくのかも楽しみだ。
全体の語り手であるイヴの聖乃あすかは、ほぼ出ずっぱり、解説しっぱなしの状態でありつつ、あくまでも現代人で、他の登場人物たちと一切関わりがない、というこれもあまりに難しい役柄を、喜怒哀楽を全身ににじませて演じている姿に頭を垂れる思いがする。劇中に登場する彼の祖父にあたる少年イヴの湖春ひめ花が、素晴らしい好演を見せてくれているので、それはそれとして讃えた上で、劇中のイヴの年齢をもう少しあげて、聖乃が自分で演じたとしたら、狂言回しだけではない面白さが出ただろうし、一樹千尋のペペとの親子関係のバランスもよくなったと思う。けれどもここで踏ん張った経験は聖乃の未来の財産になるに違いないし、ペペの一樹千尋が歌う「フルフル」に、個性が溢れシャンソンの香りが匂い立つのも味わい深い。
コンラートの輝月ゆうまは、ヒトラーへの心酔と狂気を双肩に担いつつ、どこかとぼけた可笑しみも残している、最早力技と言うしかない絶品の演技を披露。この人が専科から特出した意義は極めて大きく、ここが押さえられているからこそ、フリードリッヒはもちろんパリ占領軍総司令官オットーの羽立光来や、部下のマックスの紅羽真希、エミールの峰果とわの演技にも自由度が加わっている。カトリーヌとの関係が自身の想いとは食い違っていき、その屈折がコンラートへの傾倒になっていくジョルジュの綺城ひか理は、その行動の起点になっているプライドと、恋心の双方を折られた悔しさが、人生を狂わせていく様を的確に表現して、演技巧者ぶりを発揮している。同期の永久輝時代を支える、重要な存在になっていくに違いない。また前述の峰果は、戦況が悪化してから赴任してくる新たな総司令官コルティッツも二役で演じていて迫力十分。芝居部分への復帰がこの東京公演で叶ったことが嬉しいし、早い回復を待っている。
また、花組期待の男役・娘役陣はいずれも、「アルカンシェル・ド・パリ」のダンサーとして躍動しているが、中でもマルセルの信頼篤いロベールの帆純まひろが、チームを引っ張っていることがよくわかる求心力を発揮。惜しくもやはりこの公演がラストとなるが、新人公演時代に柚香の役柄を非常に多く演じている縁の深さが、マルセルの台詞「ずっと同じ舞台に立ってきた仲間じゃないか」を自然に支えて、人物造形もしっかりしている。美貌の男役の集大成への餞の台詞としても心に残った。ポールの一ノ瀬航季はピアニストとしての一面が印象的だし、ピエールの侑輝大弥は、アンヌの凛乃しづかと共に、ダンスキャプテンを務めている力量、ダニエルの希波らいとは「モンマルトルのピエロ」の粋な中尉さんと、素の弟分的なおおらかさと、それぞれがグループ芝居のなかで役柄を膨らませている。同じく「モンマルトルのピエロ」で柚香のピエロに恋されるコゼット役に扮するシルヴィーの美羽愛の愛らしさはやはり貴重。ほかにもジェローム役で引っ込みの盛大な拍手も起きる舞月なぎさをはじめ、この公演で退団の愛蘭みこ、美里玲菜ら、大勢口の芝居でも、一人ひとりが役として舞台に生きている熱量が伝わってくる。組長の美風舞良が劇場主として、副組長の紫門ゆりやが、演出家とレジスタンスのリーダーの二役で、全員を守り立てる姿も印象的だった。
そんな舞台に虹がかかり、目の覚めるほどピンクの衣装が似合う永久輝のせり上がりではじまるフィナーレは、ダンサー柚香光の真骨頂があますところなく発揮されて心躍る。娘役な対した時の包容力、男役に対した時の粋なパッションがそれぞれに魅力的。わけても星風とのデュエットダンスは、それ自体が一篇のドラマのようで、乗る方もあげる方も、この瞬間しかないという完璧なタイミングでの美しいリフトの披露と共に、劇場中が幸福感に満たさせる全体の白眉だった。更に男役・柚香光が舞台の板の上に思いを残すソロダンスへと続く場面は、全てのものが浄化される気持ちにもさせられたほど。
だからそこからのパレードはもう言うなれば夢のかたみ。思えば柚香が初めての大羽根を背負ったトップ披露公演『はいからさんが通る』のフィナーレで、誰もが風圧がかかり難しいという銀橋から本舞台に戻る瞬間を、まるで舞うように軽やかに見せた柚香が、この『アルカンシェル』の銀橋で大羽根を背負いつつ回転する様に、これまでの全てが蘇る思いがした。
そんな柚香光と星風まどか以下、いまの花組の笑顔が横溢するフィナーレがあることで、どんな悲劇を描いた作品だったとしても幸福になれる、宝塚の美点が凝縮された美しい時間の残像が、いつまでも残る幕切れになった。
【公演情報】
宝塚歌劇花組公演
ミュージカル『アルカンシェル』~パリに架かる虹~
作・演出:小池修一郎
出演:柚香光 星風まどか ほか花組
●4/14~5/26◎東京宝塚劇場
〈お問い合わせ〉宝塚歌劇インフォメーションセンター[東京宝塚劇場]0570-00-5100
〈公式サイト〉https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2024/arcenciel/index.html
【東京公演ライブ中継・ライブ配信情報】
★全国映画館でのライブ中継
【東京宝塚劇場公演】
■日時:5月25日(土)15:30公演[サヨナラショーあり]
■料金:4,700円(税込/全席指定)
■会場:全国各地の映画館
■配給:ライブ・ビューイング・ジャパン
【東京宝塚劇場公演 千秋楽】
■日時:5月26日(日)13:30公演 千秋楽[サヨナラショーあり]
■料金:5,200円(税込/全席指定)※来場者特典「メモリアルチケット」付き
■会場:全国各地、台湾・香港の映画館
■配給:ライブ・ビューイング・ジャパン
★ライブ配信
【東京宝塚劇場公演】
■日時:5月25日(土)15:30公演[サヨナラショーあり]
■販売期間:5月18日(土)10:00~5月25日(土)16:00
■視聴方法:「Rakuten TV」「U-NEXT」「Lemino」にて配信
■視聴料:3,500円(税込)
【東京宝塚劇場公演 千秋楽】
■日時:5月26日(日)13:30公演 千秋楽[サヨナラショーあり]
■販売期間:5月19日(日)10:00~5月26日(日)14:00
■視聴方法:「Rakuten TV」「U-NEXT」「Lemino」にて配信
■視聴料:4,000円(税込)
詳細 https://www.tca-pictures.net/haishin/live/#arcenciel-tokyo-last
【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】