ピンク・リバティ『みわこまとめ』 稽古場レポート&インタビュー

”まとめ”のあとに感じる想いを共有したい

山西竜矢が作・演出をつとめる演劇ユニット「ピンク・リバティ」の新作公演『みわこまとめ』が、8月29日(木)東京・浅草九劇で開幕する。

本作は、恋愛に依存する主人公・実和子の半生を、悲喜劇として描き出す。近年、ワンシチュエーション作品を上演してきたピンク・リバティにとって、主人公の半生を描く回想録は、新鮮な試みである。

実和子役は大西礼芳がつとめ、彼女をとり巻く登場人物として、三河悠冴、村田寛奈、うらじぬの、長友郁真、大石将弘、池岡亮介、稲川悟史、斎藤友香莉、山本真莉が出演する。開幕まであと2週間ほどとなる8月中旬に、その稽古の模様を取材した。

見つめるより、潜る?実和子の恋愛まみれの半生

実和子の半生には、彼女の恋心を揺り動かすさまざまな男性が登場する。夢を追うフリーターや仕事のできるサラリーマン、売れかけのホストなど――彼らを、三河悠冴、長友郁真、大石将弘、池岡亮介が演じる。

その日の稽古も、多くの甘い会話が駆け巡っていた。落ち着いた声をした男性が、思わず口角があがるような口説き文句を実和子に語りかける。聞いている我々も思わず惹かれてしまうが、実和子が彼に惚れていくスピードはきっとその何百倍も速いであろう様子がすぐに伝わってきた。主演の大西演じる彼女の表情は、まるで禁断の果実を手にするような、しかしそれを誰も止められない、まっすぐで美しいものだったからだ。

恋をするそのたびごとに実和子は、悲喜こもごも多彩な表情をみせる。
じっくり考えればきっと二の足を踏むようなことをすーっとやってのける彼女は、非常に人間味にあふれていて、その清々しさに勇気をもらう瞬間がたくさんあった。一方で、それが見ているものをヒヤリとさせる瞬間もあり「実和子は次に何をしてしまうのか」と終始目が離せなかった。その絶妙な心情の移り変わりを、大西は見事に演じ切っていた。

演出面では、エアーでの表現が目を引いた。ある男とのデートシーンでは、映画鑑賞する人や食事をする人たちを、俳優がほとんど小道具を使わずに身振り手振りで表現している。映画館やレストランの実在風景をイメージしていたら、頭が想像でいっぱいになり実和子のデートを追体験しているような感覚を受けた。ひとりの恋愛模様をただ見つめているだけではない、むしろ、潜るような感覚。それは同じ空間で物語を共有しているからこそ体感できる、劇場で鑑賞することの醍醐味だと思った。

山西は、俳優たちが顔を向き合わせるタイミングや、セリフを発する間(ま)、手や指の仕草などを調整していた。それは巧みなスパイスを加えているようで、実和子が恋愛で受けた喜びや悔しさといった繊細な心の動きが、観客にひしひしと伝わるように変化していった。

伴走する登場人物たち

ひとりの激しい恋愛史がつづく作中でほっとするのは、実和子が友人2人と語り合うシーン。村田寛奈とうらじぬのが、世代ごとに役柄を変えながら実和子の友人役を演じる。取材時は、20代前半と、30歳手前の彼女たちが会話する場面の稽古が行われた。

20代前半の場面では、シーシャバーでシーシャ(水タバコ)を吸いながら恋話をしていた。シーシャの煙たい雰囲気も合わさり、少し大人びた印象。仲の良い友人同士だからこそ生まれるのであろう、いい哀愁を帯びていた。

30歳手前の3人は、カラオケスナックを舞台に描かれる。変わらず恋話に花が咲きながらも日常生活に言及する台詞もあり、そこで生まれていた会話は、本心を共有しつづけた友人同士だからこそ語ることのできる、かけがえのない、心からあたたかいと感じるものであった。

彼女の半生をドキドキしながら辿っていく我々にとって、友人たちのシーンは安心する場所であり、思わず自身の友人に想いを馳せたくなるような見どころでもあると感じた。

「この3人のグルーヴ感を強調したい」と、山西はそれぞれの立ち位置や、台詞を繰り出すタイミングに指示を出し、村田とうらじはそれにしっかり応えて芝居を変化させていく。稽古の終わりには、彼女たちのシーンがより一層まとまっている感覚を受けた。

また、稲川悟史、斎藤友香莉、山本真莉も、実和子の家族をはじめ、彼女をとり巻く人物として登場する。その関わり方も非常に魅力的。稽古では3人一緒になって身体の動かし方を丁寧に確認していた。実和子にとって心地よい伴走者であるように感じた。ぜひ注目してほしい。

”まとめ”が終わったとき、どのような気持ちになるのだろうか。登場人物たちの感情の機微にふれて揺さぶられていくうちに、嬉しくなる人もいれば、ドキッとする人もいるだろう。思い思いの感じ方を、劇場に集まった人たちとともに、味わってみたい。

村田寛奈×うらじぬの インタビュー

稽古終了後、実和子の友人を演じる村田寛奈、うらじぬのに話を聞いた。

──お疲れ様でした!稽古開始から2週間ほど経ちましたが、心境はいかがですか。

村田 久しぶりの舞台で、初めの頃は緊張していましたが、みなさん優しくて、良いコミュニケーションがとれています。

うらじ そうですね。今回、舞台上に出つづける俳優が多いのですが、みなさん互いの芝居を感じながら尊重してお芝居されています。いいクリエイションができて、日々感動しています。

──世代ごとに、異なる役柄で実和子の友人を演じていますが、なにか意識していることはありますか。

村田 役ごとにがらっと変えるのかなと思っていましたが、山西さんより「ありのままで、自分が大人になっていった感じでいいよ」とアドバイスをいただいてから、仲の良い友達として実和子と接しやすくなりました。

うらじ 私も村田さんと一緒で、年代ごとに雰囲気を変えようとはしていません。実和子の転換期となるようなパートで必ず我々が出てくるので、心休まる部分でありながらも、なにかしら影響を与えるというか、つついていくような存在でいたいなあと、心がけています。

村田 うらじさんにも、様々な提案をいただき、いっぱい助けてもらっています。

──どのような提案を?

村田 たとえば今日の稽古だと、シーシャバーで語り合う場面で、もう少しシーシャを吸う回数を減らしてみようと声をかけてくれたり、怒って暴れる場面では、私がやりやすくなるような動きを提案してくださいました。

うらじ 私こそ助けてもらっています(笑)! 提案をすぐ受けとめてくれるのがありがたいです。頼りにしています。この信頼関係が、舞台上にも表れたらいいなと思っています。

──特に好きなシーンはありますか。

村田 わりとふざけてますよね(笑)。

うらじ ねえ、そうだねえ。どのシーンも雰囲気が好きです。3人でふざけて笑っちゃうところとか。また、カラオケスナックの一連は我々の集大成というか、役柄は違うけれど、歳を重ねた友人同士が集まって、ああいう時間を過ごしている空気感が好きです。リアルに表現できるようにしたいです。

村田 学生のシーンもいいですよね。実和子も含めて、これから恋愛を経験していくピュアな世代。そのなかで私は、ちょっとませた学生を演じます。若々しいノリがすごい好きで、うまくシーンをつくれたらと思います。

──心の友と呼べる3人組、憧れますね。最後に、観劇される方へ向けたメッセージをお願いします。

うらじ  ”実和子だけが特別”ではなくて、こういうシーンは私にもある、あの人にもある、といった共感できる部分が散りばめられた作品だと思っています。みなさんが観たあとにどう感じたのか、聞いてみたいです。悲しい話なのか、希望の話なのか、それぞれの感じかたがあるなと思います。さまざまな人に体感してほしいです。

村田 うらじさんと同じく、実和子の恋の物語ではありますが、それぞれに自分の経験と重なってくるところがあるように思います。共感したり、懐かしい気持ちになったり。
観たあとは、もし自分が実和子と同じ境遇になったらどう感じるのかを、考えたくなる作品だと思っています。

【公演情報】


ピンク・リバティ 新作公演 『みわこまとめ』
作・演出:山西竜矢 
音楽:渡辺雄司(大田原愚豚舎)
出演:大西礼芳 三河悠冴 村田寛奈 うらじぬの 長友郁真 大石将弘(ままごと/ナイロン100℃) 池岡亮介 稲川悟史(青年団) 斎藤友香莉 山本真莉 
●8/29~9/8◎浅草九劇
〈公式サイト〉https://pinkliberty.net/miwakomatome/  
〈公式X〉@kodomopink

【取材・文:臼田菜南 写真:中島花子】

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