「柚香光」の航海はじまる! Ray Yuzuka 1 st solo concert『TABLEAU』!


元宝塚歌劇団花組トップスター柚香光の卒業後初となるステージRay Yuzuka 1 st solo concert『TABLEAU』が大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティでの公演を終え、(9月11日~16日)、東京・東京国際フォーラムホールCで開催中だ(24日まで。のち28日~29日愛知・御園座で開催)。
ひときわ目を引く美貌と、高いダンス力、また全身全霊で役に没入していく芝居力など、数多の魅力で愛され続けた柚香光が、宝塚歌劇団のトップスター「男役」というカテゴリーから飛び出し「柚香光」という一表現者としてステージに現れた梅田芸術劇場シアター・ドラマシティでの初登場時の、目に前にいる観客と同じ空間を共にしていることに、心底喜びを感じていることがひしひしと伝わってくる姿は忘れ難い。シアター・ドラマシティに立つのは、柚香が花組トップスター披露公演として宝塚大劇場で再演された『はいからさんが通る』初演(2017年)以来とのことで「大好きなんです」を何度も連発していた劇場への想いと共に、柚香が舞台を、LIVEを如何に愛しているかが言葉の端々からまるでこぼれ出てくるようだった。


公演タイトルの『TABLEAU』には、「絵画」そして、生きている人間が絵画のように存在する「動く絵」という意味があるとのことで、柚香がこれまで描き出してきた一つひとつのステージと、これから進みゆく未知なる航海で挑戦してみたいこと双方の景色が、「TABLEAU」として提示されていくコンサートになっていて、とにかく全てが自由で軽やかで、男役としてまとっていたものを下ろしたのは間違いないはずなのに、不思議なほど変わらない自然体な柚香がそこにいた。


共演は、ミュージカル『RENT』での迫力の歌いっぷりと芝居が殊更印象深い塚本直。メインキャストがクリエイターの役柄のストーリーなだけに、所謂アンサンブルと呼ばれる面々が、時代のスター歌手の役柄を担うという稀有な作品での活躍が記憶に深い長谷川開。という、よくぞ揃えたなと思える実力派シンガー二人と、水島渓、鑓水海人、小澤竜心、小石川茉莉愛、大田志歩、畠中ひかりの非常にシンプルに言うなれば「いま」を感じさせる若手ダンサー。そんな「柚組」と称されているというメンバーと共に歌い踊っても、塚本のソロ歌唱と、柚香のダンスで幼馴染の男女の十数年に渡る軌跡を描く「Bang Bang」で一篇のドラマを演じても、「柚香光」は「柚香光」だった。もちろん成長しないという意味ではなく、スタンスとして在り様として、そして存在としてそれ以外に言葉がないのだ。「男役でなくなったから、それが何?」と言わんばかりに、全てのカテゴリーから飛翔して、いまそこに在る。


それは、様々な趣向で繰り広げられるダンスナンバーや、多岐に渡る楽曲、更に後半には幾多のドレス姿も見せれば、思わずあっと声が出るような選曲も多くある展開でも揺るがない感触だった。確かに「懐かしい柚香と、新しい柚香」が交錯しているはずなのに、全てがフラットで境界線がなく、ただ芸事に対するストイックな探求心と、とびっきりの個性が全てを柚香色に染めていく。そんな数々の「TABLEAU」を生み出す楽曲そのものが柚香の深い芝居心と同時に、いまの心境にも即しているのだろうなと感じさせる小林香の構成がなんとも心憎い。またステージ自体を「TABLEAU」に見立てて、舞台前面を四角く飾る額縁、舞台奥センター、そして階段上の装置部分と作りこまれたLEDパネルに、柚香本人をはじめ、楽曲に合わせたカラフルな映像が映し出される美術の石原敬、照明の髙見和義・松田かおる、映像の石田肇ら、スタッフワークが秀逸。わけても終盤、楽曲の歌詞やメロディーに合わせて刻々と切り替わる和と光の洪水にも似た映像効果をたった一人で背負った柚香が、その圧倒的な眩さに全く負けないどころか、映像自体を自分のものにして発光している姿に感嘆する。


更に、大阪で星風まどか、東京で華優希というそれぞれ3公演ずつのスペシャルゲスト、言うまでもなく柚香とトップコンビを組んだ相手役二人をゲストに迎えての特別バージョンでは、柚香からこれもまたごく自然にプリンス感が醸し出されていく。深い絆と信頼が伝わるトークに、当時の情景が呼び覚まされる歌唱とダンスとに、重ねた時間が浮かびあがる、これもまた貴重な「TABLEAU」だった。


そんななかで、どの曲で何色にとか、どの曲で振ってなどの縛りがまるでなく、周りに迷惑をかけない範囲で自由に使って、自由に楽しんで構わない、というこれもまたなんとも柚香らしい、ライトリングやマフラータオル、Tシャツ等々、の趣向をこらしたコンサートグッズが揺れる客席と、その光景を見つめながら「すごく綺麗ですね!」と相好を崩す柚香の姿から、何度もフラッシュバックしたのが、2020年1月柚香が花組トップスターとして所謂プレ披露を果たした『DANCE OLYMPIA』の「TABLEAU」だった。まだこの年に脅威のスピードで新型コロナウィルスのパンデミックが世界を覆うとは想像できていなかった、いま振り返るとコロナ禍以前の最後の輝きだった『DANCE OLYMPIA』。柚香をはじめとした花組スターたちが客席を走り抜け、観客とハイタッチを交わし、マフラータオルを回して、放り投げて一緒に踊ろう!と笑い合ったあの光景を、そこから続いた誰もが手を触れ合うことさえ憚れた年月の間、何度思い出したことだろう。パフォーミングアーツ自体が不要不急と言われ、人が集まることそのものが非常識だと白い目で見られたなか、ひと席飛ばしの千鳥配席、検温、消毒、マスク必須、飲食声出し厳禁の厳戒態勢でようやく開幕にこぎ着けた舞台が、止まらない感染によって突然閉じられてしまうことが幾度となく続いた。無観客配信のみでの千穐楽公演といういま思い出しても胸締め付けられる日もあった。この状況にだけは慣れたくない、これが当たり前だとは思いたくないと祈るしかなかった困難に次ぐ困難が立ちはだかる日々で、いつもまるで夢のようにキラキラと輝いていたのが『DANCE OLYMPIA』が見せてくれたあまりにも幸福な景色だった。


そのまるで遠い蜃気楼のような「TABLEAU」が、いま梅田芸術劇場シアター・ドラマシティから、ところも同じ東京国際フォーラムホールCのステージにやってきた、Ray Yuzuka 1 st solo concert『TABLEAU』として昇華されている、その感覚は一重に尊いものだった。もし様々なイベントや、交流ができる時代だったなら、という全くなかったと言ったら嘘になる思いを、この輝くステージで笑い、歌い、踊る柚香の姿が消し去ってくれた。何故なら柚香光は唯一無二のジャンルと言える存在だからだ。男役時代を回顧するのでも、惜しむのでもなく、それらすべてを糧にしたこの人がどんな冒険も自由な航海に乗り出したこと、その事実が大きな興趣を掻き立てていく。
似合うだろうという舞台はいくつも思い浮かぶが、きっとそうした想像も軽々と飛び越えた新たな世界を突き進んでいくに違いない。それはこのコンサートで見せてくれた様々な顔を思い返しても明らで、その向かう先にどんな景色が広がっていくのかが楽しみでならない。幸いにして御園座公演2日間のLIVE配信、また大千穐楽のLIVEビューイングも決まっている、この「柚香光」の可能性が詰まったコンサート、新たな航海のはじまりが多くの人の目と耳と心に届くことを願っている。


【公演データ】
Ray Yuzuka 1 st solo concert『TABLEAU』
構成・演出:小林香
出演:柚香光
塚本直、長谷川開
水島渓、鑓水海人、小澤竜心、小石川茉莉愛、大田志歩、畠中ひかり
Special Guest:
星風まどか(大阪公演・9月11&12日)
華優希 (東京公演・9月21日&22日)
●9/11~16◎大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ(※公演終了)
●9/21~24◎東京・東京国際フォーラム ホールC
●9/28~29◎愛知・御園座
【ライブ配信】
●9月28日(土)17:00 公演
●9月29日(日)13:00 公演 大千穐楽 ※アーカイブ配信なし
■視聴方法:
・PIA LIVE STREAM(ぴあ)
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2451551
・Rakuten TV
https://live.tv.rakuten.co.jp/content/485607/
■配信チケット料金(税込):各4,500円 各7,000円[公演プログラム郵送サービス付き]※送料別途必要
【ライブ・ビューイング】
●9月29日(日)13:00 公演 大千穐楽 ※来場者プレゼント付き
■会場:全国各地の映画館
■チケット料金:5,200円(全席指定・税込)
詳細 https://liveviewing.jp/rayyuzuka-tableau/


【文/橘涼香 撮影/岩村美佳】

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