ミュージカル『9 to 5』間もなく開幕! 明日海りお インタビュー

明日海りお主演のミュージカル『9 to 5』が、いよいよ10月6日に幕を開ける。

1979年のアメリカ・ロサンゼルスを舞台に、大企業に勤める三人の女性社員が手を組み、横暴な振る舞いを続けるハラスメント社長を懲らしめる痛快ミュージカル・コメディで、東京は10月6日~21日に日本青年館ホールで上演。のち10月25日~28日には大阪・オリックス劇場、11月1日~3日は福岡・キャナルシティ劇場、11月7日~8日に静岡・静岡市清水文化会館(マリナート)大ホールでも上演される。

1980年製作の映画「9 to 5」(邦題「9時から5時まで」)をもとに、2009年にアメリカで初演されたこのミュージカル版では、原作映画の主題歌がヒットした歌手ドリー・パートンが音楽・歌詞を手がけ、彩り豊かな音楽の魅力もあいまって大好評を博し、トニー賞、グラミー賞にノミネートされただけでなく、ロンドン・ウエストエンドでも上演されるなど、大きな反響を集めてきた。

今回の日本版では、数々のミュージカル作品でヒットを飛ばし続けている上田一豪が演出を担当。新たな日本版の上演に大きな期待が集まり、追加公演も決定するなど、この秋大注目の作品だ。

その舞台で、シングルマザーとして日々の生活に追われながら仕事と家庭を両立し、社内で確固たる地位を築きながら、社長の横暴に悩まされているヴァイオレット役を演じる明日海りおが、稽古に励む毎日で感じる役柄や、作品の魅力を語ってくれた。

コミカルな表現のなかに役の背景をきちんと持って

──お稽古たけなわと伺っておりますが、稽古場の様子から教えていただけますか?

演出の上田一豪さんがまずは場面転換や、振付、芝居、作品全体の大枠を作ろうと急ピッチで進めてくださっているので、今は一応最後までの形が暫定的ではありますが出来上がったところです(※取材は9月中旬)。でも細かな芝居を噛み合わせたりはしていないですし、まだみんな慣れていないので、それが原因による面白い間違いが次々起こって、みんなで大爆笑しながら進めている、とても楽しい稽古場です。

──そうしたまず作品の全体像が見えるお稽古の進め方というのはいかがですか?

先に外組ができていればきっと何回も通すことができて、ペースも掴みやすいと思うので、役の感情が流れやすくなるなど、利点がたくさんあるのが嬉しいです。一方で、もっと中身を濃く、特に役のベースの部分を自分でしっかりと深めていく作業が必須になるなと思っています。

──その深めていきたい役柄については、いまの段階でどう捉えているのですか?

物語が動き出すオープニングから、ヴァイオレットはベテラン社員として、テキパキとなんでもこなしますし、周りの方も動かしていけるとてもかっこいい人なんです。シングルマザーで、仕事のことも家のことも必死に頑張っていて。でも物語がどんどん先へ進んでいくと、別所哲也さん演じる社長のミスター・ハートに対して、ひょんなことからとある行動に出てしまい、そこからはもう大パニックで、どうする?どうする?という事件が次々と起こっていくんです。

ヴァイオレットは会社の中で頑張っても頑張っても報われず、日本でもよく言われる「お茶くみ」、作品のなかではコーヒーをいれることを当然のようにずっとさせられている。そういう苦労の中で、絶対私は負けない、泣かないと思って、仕事も家のことも自分が何とかしなきゃと、必死に踏ん張って生きているんだと思うんです。

でもそれを象徴する場面がコミカルに描かれていて、私のなかに彼女の苦悩や葛藤がきちんとないと、ただただ楽しく終わってしまうので、後半の平野綾さん演じるドラリー、和希そらさん演じるジュディと三人でのやり取りや、ヴァイオレットを慕ってくれる内海啓貴くん演じるジョーとのナンバーに深みが出ないともったいないと思うので、どんな役でも大切にしていることですが、ヴァイオレットという役柄の背景を大切にすべきだと思っています。ヴァイオレットの、今は亡くなってしまった旦那様との関係性、日々どんな風に過ごしていたのかは、いま一人で育てている息子の存在につながってくるので、丁寧に掘り下げていきたいです。

──そのどんなにキャリアが上でも女性がお茶を入れるのは当たり前、という風潮などは実際に経験してきた方がとても多い、今日的な物語だと思いますが、改めて楽曲を含めて作品全体についてはいかがですか?

先ほどもお話ししましたように、上司からのハラスメントや、女性が職場で軽視されている状況に鬱憤がたまっているという設定ではあるのですが、それが決してキリキリしたものではなく、とてもコミカルに描かれていき、スカッとする結末に進んでいくので、気軽にご覧いただける作品だなと思っています。ドリー・パートンさんの楽曲が色々アレンジされて使われているのですが、どの曲も本当にキャッチーなメロディーでノリが良くて、熱い気持ちになれる曲もあれば、柔らかく包んでくれるような曲もあります。また、躍動感のあるダンスナンバーや、キャストがひとつになって歌い上げるナンバーもある、とても見応えのある、美味しいミュージカル作品だなと。そうした作品の良さをちゃんとお届けできれば、きっとご満足いただけるのではないかと思ってます。

人はいつでも新しい扉を開いて成長できる

──明日海さんは今年『王様と私』でアンナ先生を演じられていて、歴史あるミュージカルですが、明日海さんのアンナ先生を拝見して、これまで以上に、先生はお子さんを守る為に頑張っている人なんだな、ということを強く感じてとても新鮮でした。

ありがとうございます! 今年はシングルマザー役が続いていて、私自身は子供を持ったことはないのですが、守るべきものがあるからこそ、ヴァイオレットさんもアンナ先生も様々な困難に直面しても踏ん張ることができたんだと思うんです。二人とも決して完璧な女性ではなくて、弱音を吐きそうになる時もありますが、新たな絆によってそれまでとは違う考え方ができるようになり、一歩前に踏み出すことができる。そういった母親であっても、いくつになっても、人は新しい扉を開いて成長できるんだよというストーリーなので、ヴァイオレットは特に今の時代の人ですからビシッとスーツを着こなしたバリバリのカッコいいベテラン社員だけではなく、もっとリアルな人間らしいところに行けたらいいなと思っています。

──お話を伺うほどに、多くの人が共感できるキャラクターだなと思いますが、共演者の皆さんはいかがですか?

皆さん本当に個性が豊かで、ポジティブな人ばかりで。上田一豪さんの演出が「まず、どんどんやってみて下さい。違うと思ったら言いますので」というスタンスでいてくださるので、みんなが色々挑戦しやすいですし、そのチャレンジを楽しんでやっているのが伝わってきます。別所さんはすごく嫌な役なんですけど(笑)、とっても楽しそうに演じていらっしゃいますし、内海くんのジョーは、出番としてはポイント、ポイントなのですが、強烈なスパイスを利かせてくれています。また、アンサンブルの皆さんは本当に出ずっぱりで、歌って踊って、場面転換もして芝居をもするので、体力と集中力のいる舞台だと思うのですが、皆さん元気いっぱいで、作品のパワーの源になってくれているなと感じます。

──宝塚歌劇団の後輩で、今回が退団後初の舞台になる和希そらさんは、花乃まりあさんの同期生ですね?

そうなんです。私の相手役だった花乃まりあちゃんと同期で仲が良かったので、必ず舞台を観に来てくれていた可愛い後輩としての印象が強かったのですが、今回初めてご一緒したらすごく冷静で、落ち着いた大人っぽい人なんだ!と。勝手にもっとやんちゃなイメージを抱いていたのですが(笑)、とてもクールで、でも優しくて、宝塚を卒業して初めての舞台なのにものおじしないのがすごいなと思っています。私が退団後初めて出た舞台の時は、宝塚ではお互いをよく知っているメンバーばかりの稽古だったのが、「はじめまして」の方がほとんどで、半分は男性ですし、何もかもが宝塚のお稽古場とは違うことに、もっとビビッていた(笑)と思うんです。でも和希そらちゃんはすごく落ち着いていて、ちゃんと自分の力を発揮していて、なんて頼りがいのある後輩なんだろうと思います。

──きっと和希さんも明日海さんがいらっしゃることで、安心できているのではないですか?

いや~それがあんまり役に立っていない先輩で(笑)。でも平野綾ちゃんと三人でずっと出ているので、やることがたくさんあって、いまはまだいっぱいいっぱいなんですが、それでもとにかく三人でいると楽しくて、和気藹々とやっているので、お互いにどんどん高め合っていけるのが楽しみです。

──ますます作品への期待が高まりますが、では改めて舞台を楽しみにされている方たちにメッセージをお願いします。

ドリー・パートンさんの曲を聴いているだけでも元気になれますし、そこに今回、藤林美沙さんとZoooMさん、二組の振付による踊りが付くことによって、彩り豊かなリズム感、グルーヴをより感じとっていただけると思います。ミュージカルナンバーの一つひとつをショーのように楽しんでいただけますし、みんなで大合唱のところは演じていても本当にソウルフルで。お衣裳もすごくポップで綺麗ですし、舞台装置もとてもカラフルで、少しレトロ感もあって、芝居の世界観にピッタリなものになっています。

ミュージカルファンの方にはもちろんですし、ミュージカルは初めてという方にも、わかりやすい物語と、愛らしいキャラクターが、躍動していく作品なので、本当に何も考えずに気楽に飛び込んできていただけたら、皆様を笑顔にして差し上げられる舞台になっていると思います。その為にも、初日までに全員で一致団結して頑張りますので、ぜひ観にいらして下さい!

■PROFILE■

あすみりお〇静岡県出身。2003年宝塚歌劇団で初舞台。2014年花組トップスターに就任。『エリザベート』『ベルサイユのばら』など、宝塚歌劇を代表する多くの作品で主演を果たし『ボーの一族』のエドガー・ポーツネルで演じた永遠の少年の美しさが大反響を呼んだ。2019年退団後はミュージカルの大作などの舞台出演はもちろん、映像でも多くの作品で活躍している。近年の主な舞台出演作品に『ガイズ&ドールズ』『エリザベス・アーデンvs.ヘレナ・ルビンスタイン -WARPAINT-』『精霊の守り人』『王様と私』などがあり、2025年2月~『昭和元禄落語心中』への出演が控えている。

【公演情報】
ミュージカル『9 to 5』
原作:20世紀フォックス同名映画
脚本:パトリシア・レズニック
音楽・歌詞:ドリー・パートン
翻訳・訳詞・演出:上田一豪
出演:明日海りお 平野綾 和希そら
内海啓貴 飯野めぐみ 別所哲也 ほか
●10/6〜21◎東京・日本青年館ホール
〈料金〉S席14,500円 A席9,500円/平日ソワレS席14,000円 A席9,000円(全席指定・税込)
〈公式サイト〉https://9to5.jp
〈お問い合わせ〉サンライズインフォメーション 0570-00-3337(平日12:00~15:00)
●10/25〜28◎大阪・オリックス劇場
●11/1〜3◎福岡・キャナルシティ劇場
●11/7~8◎静岡・静岡市清水文化会館(マリナート)大ホール

【取材・文/橘涼香 撮影/中村嘉昭】

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