ノサカラボ『ゼロ時間へ』上演中! 紅ゆずる・鳳翔大 インタビュー
「ミステリーの女王」アガサ・クリスティーの野心作で、舞台化はもちろんテレビや映画化もされている人気作『ゼロ時間へ』が、10月3日から三越劇場でノサカラボ『ゼロ時間へ』上演中だ。(10月9日まで、そののち10月13日・14日に大阪 COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールで上演)
この作品『ゼロ時間へ』は、1944年に発表され、常に殺人から始まる従来のミステリーの常識を覆したと評される同名の、小説が原作となっている。翻訳は小田島恒志と小田島則子、演出は、ノサカラボの代表で、『アガサ・クリスティ作品』や『神津恭介シリーズ』など重厚な作品のみならず、シチュエーションコメディでも手腕を発揮する野坂実が手掛ける。
出演は、主演に原嘉孝、共演に紅ゆずる、一色洋平、鳳翔大、水石亜飛夢、細見大輔、岡部麟、大高雄一郎、旺なつき、中尾隆聖と個性と実力を兼ね備えた10人が顔を揃えた。
《あらすじ》
9月のある日、休暇を過ごすため、イギリスの田舎にある貴族の邸に集まった親しい人々。次の朝、邸の主であるレディー・トレシリアンが死体で発見される。凶器はゴルフクラブ。だがクラブに付いていた指紋の持ち主ネヴィルには彼女を殺す動機がないうえに、アリバイがあることが判明、捜査は暗礁に乗り上げる。いったい犯人は誰なのか? そして、殺人の動機は?
この作品で、原嘉孝扮するネヴィル・ストレンジの前妻オードリーを演じる紅ゆずると現在の妻ケイ役の鳳翔大。宝塚歌劇団では同期だった2人が、22年ぶりに共演するこの作品と役柄を稽古中に語り合ってもらった。
舞台で共演するのは初舞台以来
──22年ぶりの共演ということですが。
紅 初舞台以来ですね。
鳳翔 そのあとは所属する組が違ったので。
紅 卒業してからイベントで一度一緒になりましたけど、そのときも一緒に舞台に立ったわけではなかったし。
鳳翔 初舞台もダンスだけだったから、一緒にお芝居するのも宝塚音楽学校の文化祭以来ですね。
──ではこの話があったときは嬉しかったでしょうね。
鳳翔 めちゃめちゃ嬉しかったです。お話をいただいたとき、決まっているキャストの中にさゆみ(紅の本名)の名前があったので、内容もちゃんと読まずにすぐ「お引き受けします!」と(笑)。やっぱり22年ぶりですから、ちょっと胸熱です。
紅 私もすごく嬉しかった。同期からも絶対に観に行くねと連絡が来ていて、絆を感じます。
──そんなお二人が共演する『ゼロ時間へ』ですが、紅さんはノサカラボのアガサ・クリスティー作品は、昨年の『ホロー荘の殺人』に続いて2度目の参加です。
紅 クリスティーの作品はミステリーなんですけど、事件の推理や仕掛けを解くのが目的というより、登場する人たちの人間関係とか人間模様を重視している作品が多いのですが、私はそこが好きなんです。
鳳翔 私もミステリーは大好きでいろいろ読むのですが、クリスティー作品は人間相関図が本当に面白くて、謎解きだけでなく人間関係の面白さでお客様を引っ張っていく作品だなと。それだけに今回演じる側になって、人間をかなり作り込まないといけないことをすごく感じています。
──『ホロー荘の殺人』では、紅さんは一見地味な女性が、突然、内側の狂気を噴出するという役を好演していました。
紅 あのガーダという人は、自分というものを持ってないし、何を考えているかわからない女性で、でも憎悪が彼女を変えたというか、持っていた本質が姿を現したんでしょうね。そういう意味ではこの『ゼロ時間へ』も、犯人の中にある別の人格の犯行とも言えるのかなと。そしてこの物語は最初のほうで1つの殺人が起きるのですが、それを解決したことが結末ではないんです。そのあとに、タイトルの『ゼロ時間へ』という意味はこれだったのか! という結末が待っていて、そこがすごいなと。
鳳翔 本当にすごい作品ですよね。たぶん観た方たちも、犯人がわかったうえで最初からもう一度観たいと思われるのではないかと。だから演じる側としても、伏線となるような会話や表情はちゃんと意識して演じたいし、また、それを自然に見せていくことが必要だと思っています。
主人公ネヴィルの元妻と現在の妻
──鳳翔さんの役は、主人公ネヴィルの現在の妻ケイで、この屋敷には夫に連れられて初めて来ています。
鳳翔 ケイはこの屋敷の人たちには、ネヴィルを奪った女性として嫌われていますし、そのうえ夫からもぞんざいに扱われて、いろいろツライ状態です(笑)。でもケイ自身にはそこまで嫌な部分もないし、悪い人間ではないんですよね。ただちょっと不器用で、階級的な劣等感もあって、前妻のオードリーに必要以上に嫉妬心を燃やすので、夫によけい疎まれてしまう。そういう女性なので、観ている方にもわりと理解していただけるのではないかと思います。
──ケイはいつもボーイフレンドのテッドと一緒にいますが、恋人ではないのですね?
鳳翔 演出の野坂実さんによると、「単なるボーイフレンドで深い仲ではない」とのことでした。ケイにとっては一番心を許せる友人だと思います。
──紅さんのオードリーは、ケイのこともあってみんなに心配される存在ですが、途中で彼女の別の一面も見えてきます。
紅 オードリーには、一緒に育ったエイドリアンとトマスというロイド家の兄弟がいて、エイドリアンはすでに亡くなっているのですが、オードリーとネヴィルの離婚の際の重要なキーパーソンで、彼との関わりの中にオードリーの本当の姿もあるんです。オードリーはそのことでネヴィルや周りに負い目があるので、いろいろ面倒なことでも断れなくて、消極的に生きているという感じです。
──ケイのことはどんなふうに思っているのでしょう?
紅 貴族社会に紛れ込んだ異物という感覚で、オードリーにとってはどうでもいい存在で、逆に妻なのだからネヴィルをちゃんと惹きつけておいてほしいとさえ思っているんです。
鳳翔 ケイにはそこがわからないので、まともに自分を相手にしない高慢で計算高い人みたいに思ってしまうんです。しかもネヴィルがあからさまにオードリーを追いかけたり、扱いに差をつけるので、余計苛立つんです。そういう3人の関係を見ておいていただくと、犯人がわかったとき「なるほど!」と思うので、しっかり演じたいですね。
──演出の野坂実さんから、それぞれ役について具体的なアドバイスは?
紅 稽古の最初に「お姫様みたいな感じでやって」と。でもそれは本当にお姫様みたいに演じるということではなくて、私が今までやったことのない新しいキャラということで、それに挑戦することなんだと思いました。
鳳翔 ケイについては「陽気で天真爛漫な感じで」とおっしゃっていました。やはりオードリーと正反対な部分にネヴィルが惹かれたので。この屋敷に来てからみんなに嫌がられて(笑)、自信を失いそうになりますけど、可愛いところがちゃんとある、愛すべきおバカさんという感じなのかなと。
紅 かなりチヤホヤされてきたと思う(笑)。
鳳翔 そう!(笑)テッドもいつもそばにいてくれるし、モテるし社交的だから怖いもの知らずで生きてきちゃった。そういう若い女性なので、無邪気にがんばります(笑)。
タイトルの『ゼロ時間へ』の意味
──俳優としてのお互いについては、今どう感じていますか?
鳳翔 さゆみはめちゃめちゃ頭がいいんです。それで役への入り込み方がすごい。そこは男役時代も女優になってからも変わらなくて、さゆみ本人の魅力がそのまま女優としての魅力になっていると思います。すごくナチュラルにお芝居をしていて、それを見て私もがんばろうと思えるし、学べるところがすごくあります。
紅 なんかすごい誉めてくれてる(笑)。
鳳翔 宝塚時代からいろんな役をやって、どれもちゃんと出来ていたのは人間力があるからだと思うんです。人間力は音楽学校時代からだし。学校時代はすごく仲良かったよね。
紅 大ちゃんたら、駅の向かいのホームで帽子を振りまくって(笑)。「本科生に見られたらどうすんの」と思っていたら、ちゃんと見られてて(笑)。
鳳翔 めちゃくちゃ怒られました(笑)。
紅 巻き込まれて一緒に怒られました(笑)。あの天真爛漫さはそのままケイだね。それも学校時代の途中からで、急にパーッというキャラクターになったから面白かった。でも日本舞踊が得意でいつも白い着物で目立ってて、同期の中で出来る人という感じだった。演劇の授業でも、私は大関(弘政)先生に「あんたは一生、動く大道具よ」と言われたけど(笑)。
鳳翔 (笑)。
紅 大ちゃんはけっこう誉められてて、同期ながらすごいなと思ってました。
──そんな同期のお二人が、22年ぶりに同じ舞台を踏む『ゼロ時間へ』が楽しみです。最後に観てくださる方へメッセージをいただけますか。
鳳翔 数ある演劇の中でもミステリー作品はそんなに多くなくて、私も初めての出演ですが、すごく面白い作品で楽しんでいます。少ない人数ですが、とても濃いメンバーで、宝塚の大先輩の旺なつきさんをはじめ、お芝居の達人の方とご一緒して身が引き締まる思いです。ケイとしてはずっと感情的になっていますが、その中にも可愛さや愛せる部分を出していきたいです。私は相手役がいるお芝居も初めてなのですが、今回いきなり2人も相手役がいて嬉しいです(笑)。ぜひお客様もこの『ゼロ時間へ』を楽しんでいただければと思っています。
紅 この作品の世界はイギリスの上流階級なので、会話ももってまわった言い方が多いのですが、それを発する気持ちにはちゃんと意味があるので、そういう世界観を楽しんでください。そして東京は三越劇場ですので、あの素敵な額縁舞台のクラシカルな雰囲気にどっぷり漬かっていただきたいです。その中でオードリーとネヴィルとケイの三角関係の実態を想像していただいたり、オードリーの複雑な過去から何かを感じていただければと思っています。そして、タイトルの『ゼロ時間へ』という言葉通り、衝撃的な結末へと向かっていく物語をお楽しみください。
■PROFILE■
くれないゆずる〇大阪府出身。元宝塚歌劇団星組トップスター。日本初演のブロードウェイミュージカル『THE SCARLET PIMPERNEL』の新人公演で主演したパーシヴァル・ブレイクニー役で一躍時の人となり、トップスターとしてのお披露目公演で同役を演じるなど、宝塚に数々の伝説を残した。19年退団後は、舞台、映像と活躍の幅を広げている。近年の主な舞台作品は、『熱海五郎一座』、『エニシング・ゴーズ』、『アンタッチャブル・ビューティー』、『ホロー荘の殺人』、『NOISES OFF』、Classic Movie Reading『風と共に去りぬ』、詩楽劇『沙羅の光』〜源氏物語より〜、『新生!熱血ブラバン少女。』など。
ほうしょうだい〇兵庫県出身。元宝塚歌劇団雪組・宙組の男役スター。『ベルサイユのばら〜オスカルとアンドレ編』ジェローデル役、『一夢庵風流記 前田慶次』直江兼続役、『るろうに剣心』相良左之助役など多数の作品に出演。2017年7月『幕末太陽傳/Dramatic “S”!』で退団。その後、舞台、ミュージカルを中心に活躍中。近年の主な舞台作品は、『ふたり阿国』、『I ’m Here 』、ミュージカル『SUPERHIROISM』、舞台FOCUS『イッツショータイム!!』、ドラマティック・レビュー『うたかたのオペラ」、銀河劇場プロデュース『ブルーピリオド」The Stage 、『白豚貴族ですが前世の記憶が生えたのでひよこな弟育てます』、『HUNTER×HUNTER』THE STAGE2 など。
【公演情報】
ノサカラボ『ゼロ時間へ』
原作:アガサ・クリスティー
翻訳:小田島恒志・小田島則子
演出:野坂実
出演:原嘉孝 紅ゆずる 一色洋平 鳳翔大 水石亜飛夢 細見大輔 岡部麟 大高雄一郎 旺なつき 中尾隆聖
●10/3~9◎東京公演 三越劇場
●10/13・14◎大阪公演 COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
〈料金〉前売・当日 9,800円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉nosakalabo.christie@gmail.com
〈公式サイト〉https://nosakalabo.jp/zero/
〈公式X〉 https://x.com/zerojikan_stage
【取材・文/榊原和子 写真提供/ノサカラボ】