『ヴェニスの商人』で初のシェイクスピア作品に挑む! 華優希インタビュー

時代を超えて愛され続ける数々の名作を世に残した演劇史の巨人、ウィリアム・シェイクスピアの最高傑作のひとつ『ヴェニスの商人』が、主演に草彅剛を迎えて12月6日~22日東京・日本青年館ホールで上演される(のち、12月26日~29日京都・京都劇場、2025年1月6日~10日愛知・御園座で上演)。

演出を手掛けるのは、第21回読売演劇大賞・最優秀演出家賞に輝き、現代演劇界で最も実力のある演出家の一人である森新太郎。古典の常識を覆す新しいアプローチで、歴史ある名作を現代のエンターテインメントに生まれ変わらせる森が、草彅演じるシャイロックをはじめ多彩な登場人物たちをどう舞台で躍動させるのか、いま大きな注目が集まっている。

そんな舞台で、シャイロックの娘ジェシカ役として初のシェイクスピア作品に挑む華優希。美貌の娘役トップスターとして宝塚花組で活躍し、退団後も確かな演技力で存在感を放っている華に『ヴェニスの商人』に懸ける思いや、稽古場で得る刺激をはじめ、宝塚時代にトップコンビとして舞台を創り、3年ぶりの共演を果たした柚香光とのステージ『TABLEAU』で感じたことなどを語ってもらった。

シェイクスピア作品には宝石のような言葉が散りばめられている

──シェイクスピア作品に初出演と伺っていますが、これまでシェイクスピアについて、どんな印象を持たれていたのでしょうか。

初めてシェイクスピアに触れたのが、宝塚の雪組さんで上演されたミュージカル『ロミオとジュリエット』でした。私が宝塚を目指そうと思ったきっかけでもある作品なので、強い憧れがありました。宝塚に入ってからも宝塚音楽学校の授業や、演劇の勉強としてシェイクスピアに触れる機会もあったのですが、やはり今まで自分がやってきた舞台は現代的なものが多かったこともあって、台詞や言い回しがシェイクスピア作品とはずいぶん違っていましたから、単純に難しいなという気持ちもあったんです。プレイする側としても、受け取る側としても。でも今回改めて『ヴェニスの商人』を深く読んでいくうちに、すごく素敵な言葉が、まるで宝石のように散りばめられているんだと感じて。まだまだすべてを拾いきれてはいないと思うのですが、そうしたひと言、ひと言を大事にやっていきたいなと思っています。

──そんな新たな視点を持たれたなかで、改めてこの『ヴェニスの商人』という作品全体の印象はいかがですか?

登場人物それぞれのストーリーがしっかりと書かれていて、ひとつのテーマだけではない、様々なものが組み合わされた作品だなという印象を受けています。特に「喜劇」と聞いていましたが、お稽古が始まって台本を読み進めたり、演出の森新太郎さんのお話を伺ったりしていくうちに、この作品には「喜劇」としてだけでは受け取れない要素がたくさんあると思うようになって。シェイクスピアの時代にはなかったものが多く生まれているいまの時代、現代の私たちには多様な感じ方がありますから、そこは森さんのお導きのもと、自分でもしっかり掘り下げて、どう表現してお届けするかを見つけていかなければと思っています。

──確かに私も個人的には『ヴェニスの商人』はどちらかと言うと、悲劇に近いように感じていました。

そう思ってしまいますよね。これを喜劇とするには、シャイロックに対してあまりにも酷いのではないだろうかと。

──その辺りの解釈も森さんのマジックで、新たな面を観させていただけるのでは?と期待していますが、演じるお役柄、シャイロックの娘のジェシカについてはいかがですか?

草彅剛さんが演じられる主人公のシャイロックはユダヤ人で、その娘役。 ジェシカとしてはその父に反発して、父の行動や考えに思いを致しつつも、恋人を選び、愛して駆け落ちをする役どころなので、ジェシカ自身の気持ちの流れ、父に対する思いもですし、彼女にとっての価値観として何が一番大きかったのか、というところもちゃんと考えていきたいです。
ただ、やはり登場人物のなかでは若いキャラクターなので、恋人のロレンゾーと共に、若さ故のエネルギー、まだ何も知らないからこその輝きも大事に演じていけたらいいなと思っています。

──確かに若いからこその考え方というのはあるでしょうし、そういったことも含めて演出の森さんからの言葉で印象に残っているものはありますか?

ひとつ一つの台詞に関しての解釈や、どの言葉を大事にしなくちゃいけないかということを、スーッと理解できるように伝えてくださるので、本当にありがたい時間をいただいていると思いながらお稽古しています。自分がこうだと思っていたことも、森さんのお話からそうではないんだな、と感じることもとても多くて。何よりも、森さんが私だけではなく、皆さんにお話をされているなかで「僕、この言葉が好きなんだ」ですとか「松岡和子さんの翻訳の、ここの訳し方が大好きなんだよね」などのお話がとても多くて、シェイクスピアの言葉や作品への愛が随所に伝わってくるんです。そうしたひと言一言が素敵だなと思いますし、森さんが「好きだな、面白いな」と思われているところを、自分もしっかりキャッチできたらと思っています。

毎日が刺激的な稽古場

──お話を伺っていると、本当に刺激的なお稽古場なのだなと感じますが、そのお稽古を共にしている共演者の方々も多士済々ですね。

本当に皆さんが素晴らしくて。もう本読み初日からなんてすごいんだろうと思うことの連続でした。自分が今まで育ってきた土壌とは違うところでやってこられた方々なんだなということも感じましたし、自分の力不足も痛感するからこそ、もっとお稽古を頑張りたい、少しでも皆さんに追いつきたいと思わせてもらえる毎日が刺激的で。特にみなさんがお稽古をとても楽しんでいらっしゃって、お芝居を創り上げていく過程からなんとも素敵なので、自分も置いていかれないようにより一層頑張らなければと思っています。

──そのなかでも、ジェシカの恋人であるロレンゾー役の小澤竜心さんとは、先日華さんがゲスト出演された、宝塚花組の元トップスター柚香光さんのファーストコンサート『TABLEAU』で共演されていますが、その時にも『ヴェニスの商人』のお話などもされたのですか?

『TABLEAU』の時には、直接ご一緒するシーンがなかったこともあって「よろしくお願いします」「頑張りましょう」というご挨拶をさせていただいたくらいだったのですが、年齢的にはお若いですけれども、芸歴はとても長い方なので、すごくしっかりしていらっしゃるんです。私が居やすいような空気を自然に作ってくださってとても居心地がいいので、一緒にお芝居させていただけるのが嬉しいです。

──頼もしい恋人役でいらっしゃるのですね。また華さんは『千と千尋の神隠し』や『キングダム』など、台詞劇の舞台にも立たれていますが、今回の初シェイクスピアを含めて、ミュージカルとの表現の違いをどう感じられていますか?

別のエネルギーがいるなと感じていて、ミュージカルで歌う時って感情が昂って、もう言葉では伝えきれない!となった時に歌うことが多いと思うんですが、会話劇はその全てを台詞で伝えなければいけない。音楽の力をほとんど借りることができないというのが、ミュージカルとは大きく違っていて、別の集中力やエネルギーがいるなと思っています。でもそこに落とし込んでいくことがとても楽しいので、特にシェイクスピアの先ほども申し上げました、宝石のような言葉の数々にエネルギーを注ぎ込んでいきたいです。

大切なことを思い出したいま、新たな気持ちで挑戦を

──『ヴェニスの商人』の東京公演は日本青年館ホールでの上演ですが、華さんがこの舞台に立たれるのは、宝塚時代の『はいからさんが通る』初演以来ですよね?

そうです、そうです!知っていてくださったんですね、嬉しいです。本当に『はいからさんが通る』以来の日本青年館ホールなので、個人的にはついに戻ってこられた!という気持ちがあります。大好きな作品でしたし、新装になったばかりの舞台に立たせていただけたことも忘れられない思い出なので、少しでも進歩した自分として舞台に立てたらいいなと思っています。

──『はいからさんが通る』は本当に素晴らしい舞台だったので、拝見する側としても感慨がありますが、花組でコンビを組まれた柚香光さんと先ほどもお話させていただいた『TABLEAU』で久しぶりに共演されていかがでしたか?

本当に幸せな時間でした。舞台では3年ぶりにご一緒させていただいたので、はじめはどんなふうになるんだろうと自分でも想像がつかないところもあったのですが、やっぱり当時の曲を一緒に歌わせていただき、表現させていただいているとその時の思いがパーッと蘇ってきて。もちろん柚香さんも更に輝きを増され、私も宝塚という場所を離れて3年の間に、様々な経験をさせていただいてきたので、同じではないのですが、それでも当時からずっと抱いていた柚香さんへの感謝や尊敬の気持ち、こんな風にお稽古をさせていただいていたな、こういう風に目線を交わし合わせてもらっていたな、などのあれこれが昨日のことのように思い出されました。退団後ありがたいことに、色々な作品で、素晴らしい方々とご一緒させていただいてきましたが、まったく別の次元で私は本当に柚香さんの隣で娘役をさせていただくことが大好きだったんだな、自分の人生の中でとても大事な時間だったんだということを改めて思い返すことができました。もちろんずっとわかっていたつもりだったのですが、身に染みてそのことを感じました。

──そうした「華優希」さんが生まれたところと言うのでしょうか、その時の気持ちを改めて思い返されたところで、同じ日本青年館ホールではじめてのシェイクスピア作品というのは、とても素敵なタイミングですから、楽しみにしている方たちがたくさんいらっしゃると思います。是非皆さんにメッセージをお願いします。

初めてシェイクスピア作品に挑戦できることがすごく嬉しいですし、そうした機会を、いま言ってくださったように、大切なことを思い出させてもらったところで気持ちを新たに挑戦できることに感謝しています。私自身はまだまだこれからなのですが、草彅剛さんを筆頭に、共演者の皆様が本当に素晴らしい方々ばかりなので、きっと素敵な『ヴェニスの商人』の世界をお届けできると思っています。是非、楽しみにこの世界を体験しにいらして下さい!

■PROFILE■
はなゆうき〇2014年宝塚歌劇団入団。組まわりを経て花組に配属。美貌の娘役としていち早く頭角を現し『はいからさんが通る』のヒロイン花村紅緒『ポーの一族』のメリーベルなど次々に大役を演じ、2019年『恋スルARENA』で花組トップ娘役に就任。明日海りお、柚香光、二代のトップスターの相手役として、多くの舞台で活躍した。2021年『アウグストゥス-尊厳ある者-』『Cool Beast!!』を最後に宝塚を退団後は、その表現力を活かし舞台はもちろん、新たなフィールドへ活躍の幅を広げている。近年の出演舞台作品に『マドモアゼル・モーツァルト』『キングダム』『千と千尋の神隠し』などがある。

【公演情報】
『ヴェニスの商人』
脚本:ウィリアム・シェイクスピア
訳:松岡和子
演出:森新太郎
出演:草彅剛
野村周平 佐久間由衣 大鶴佐助 長井短 華優希 小澤竜心 忍成修吾 ほか
●12/6日~22◎東京・日本青年館ホール
●12/26~29◎京都・京都劇場
●2025年1/6~10◎愛知・御園座
〈料金〉S席13,000円 A席9,500円 車椅子席13,000円(全席指定・税込)
〈公式サイト〉https://venice-stage.jp

【取材・文/橘涼香 撮影/中村嘉昭 ヘアメイク/イワタユイナ スタイリスト/杉山朱美 衣装/HATRA パンプス/Christian Louboutin】

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