アーティスト・礼真琴の真価を感じる日本武道館コンサート『ANTHEM-アンセム-』
本年8月宝塚の男役としての集大成迎えることを発表している宝塚歌劇団星組トップスター礼真琴が、日本のライブパフォーマンスの聖地のひとつである日本武道館で、1月18日~21日まで礼真琴 日本武道館コンサート『ANTHEM-アンセム-』を開催した。
宝塚のトップスターが男役としての期限を定めてから自身の名前のついたコンサートを開催する、という流れは近年定番セレモニーのひとつともなっているが、そこで日本武道館を選択したのは真矢みき(現・真矢ミキ)、柚希礼音に続いて礼が僅かに三人目。それだけに、宝塚で経てきた道のりの回顧はある意味サヨナラショーに譲り、日本武道館でしかできない、しかも令和の日本武道館コンサートという形が非常に顕著に表れたステージになっていた。
そこには、国内の著名人気アーティストの大型ライブプロデュースを数多く手掛けているインターグルーヴプロダクションズの大田高彰を総合演出・ステージ制作として招聘し、こうした宝塚が通常行っている劇場でのショー作品とは異なる、コンサートライブステージのプロフェッショナルであるスタッフ陣が結集した力がまず大きい。ただそれだけではなく、礼とは直近のショー作品『Tiara Azul -Destino-(ティアラ・アスール ディスティーノ)』を共に創っている新進の竹田悠一郎を構成・演出に据え、日本武道館での特別なライブステージであり、あくまでも宝塚のライブパフォーマンスでもある、という巧みなすり合わせが生み出した、桁外れの迫力のなかに親しみも、礼と会場を埋めた観客、ファンとの心の交流もたっぷりとある流れが美しかった。
タイトルになった『ANTHEM-アンセム-』は“応援歌”の意味。礼真琴というスターが、宝塚人生に於いて続けてきた挑戦、その姿に夢をかけたファンと、背中を追って来た星組スターたち、双方にとっての魂に届く「応援歌」が繰り広げられていく。
圧倒的に広い日本武道館のステージに高さも使う大がかりなセットを組み、映像効果、炎などの特殊効果、照明、レーザーと圧巻の仕掛けがたて続くなかで、礼が歌い出した刹那、強く感じるものがあった。礼が昨年9月に発売したJ-POPカヴァーアルバム「REACH」に通じる、男役の歌声にとらわれない「アーティスト・礼真琴」の自由で伸びやかな歌声が発揮されているのだ。
だからその「REACH」から回替わりで選択された楽曲はもちろん、J-POPの多彩な楽曲からチョイスされた人生の応援歌と言った選曲が自由度を増していく。礼はもちろんのこと共演の暁千星、天飛華音をはじめ白妙なつ、ひろ香祐、紫りら、澪乃桜季、夕渚りょう、天希ほまれ、小桜ほのか、蒼舞咲歩、希沙薫、夕陽真輝、、奏碧タケル、都優奈、鳳真斗愛、綾音美蘭、世晴あさ、凛央捺はる、彩紋ねお、乙華菜乃、碧羽陽、和波煌の面々が時に闊達に、時に妖艶に広い空間を駆け回っていくエネルギーがあふれ出るばかり。こうしたライブステージではお馴染みの礼がトロッコで会場中を回る演出ももちろんあり、スタンド席、更に立ち見までぎっしりの観客にアピールし、魂のコール&レスポンスが続く様が楽しい。
その後、ひろ香祐が進行役を務める日替わりのトークタイムを挟んで、宝塚コーナーへ。礼が演じてきた数々の役柄の衣装とヘアメイクを共演者たちが再現。それも『柳生忍法帖』の主人公・柳生十兵衛役に新人公演で同役を演じた天飛が扮するなど、何かしらその役柄の扮装をするメンバーに意味がある演出の目配りがいいし、それぞれがソロを取り礼が加わっていく歌唱パートの構成も見事で、礼本人がこの短時間に着替えることが不可能なことを逆手に取って、過去演じてきた役柄たちがズラリと並んだ様は壮観。礼真琴が宝塚に刻んだ歴史が視覚化されている尊さを感じた。
そんな怒涛の宝塚メドレー後半は、礼が演じてきた悪役たち、ヴィランズを集めたメドレーへ。天衣無縫な明るさと、真摯な真面目さを根底に持つ礼だが、トップスターになってから、特に全国ツアーではダークヒーローも演じていて、本人は「何故その役柄が悪の道に染まっていったのか?」を掘り下げることに強い興味を感じていたそうだ。そんな思い出の役柄たちマサラ・ミュージカル『オーム・シャンティ・オーム』で、ここまでの悪役は通常の宝塚作品には出てこないなと思わせたプロデューサー・ムケーシュの「バラ色の人生」から『THE SCARLET PINPARNELL』の革命の理想を神格化しているショーヴランの「マダムギロチン」まで、異色のメドレーのなかに、礼が二番手スター時代から現在まで磨き続けてきた実力も感じられる豊かな時間になった。
ここから男役の真骨頂『エリザベート』の「最後のダンス」を経て、礼の心根にあるのだろう「男役・礼真琴」を見守ってきた全ての人々への感謝を感じる楽曲が続き、最後は自身の作詞による「souls」。夢が現実になることは、単なる成就ではなく新たな戦いだけれど、その試練を経て唯一無二になる為に、君が憧れの先へ進む気持ちを僕が絶やさない、という趣旨の明日へ向かう全ての人々へのエールを込めた歌詞の全てが、タイトルの『ANTHEM-アンセム-』に通じる、礼が伝えたい想いなんだな、と胸が熱くなった。感謝だけでなくあくまでもエールであること。それが礼真琴というアーティストの在り方なのだろう。既に宝塚の男役という枠から突き抜けつつある、そんな礼の真価を観る思いがした。
全体に礼と共にコブクロの「流星」をデュエットし、礼に続いて一人トロッコに乗り会場を回った暁の堂々とした姿、このライブステージで存在感をジャンプアップさせた天飛、妖艶な美女にも元気溌剌な少女にもなれる小桜ほのかの歌唱力と表現力、副組長という立場から落ち着きのある役柄を演じることの多い白妙なつが、溌剌と踊り歌う姿、礼の同期生ひろ香祐、紫りらとの絆、そして一人ひとりに大きな持ち場のあった下級生たちと、共演者も充実。礼にしか表現できない、そしてまだまだここからの日々にも進化を続けるだろう、表現者・礼真琴の日本武道館に相応しい、どんな特殊効果にも負けずに自身の背景にしてしまえる圧巻のライブパフォーマンスだった。
【公演データ】
礼真琴 日本武道館コンサート
『ANTHEM-アンセム-』
総合演出・ステージ制作:大田高彰(インターグルーヴプロダクションズ)
構成・演出:竹田悠一郎
出演:礼真琴 ほか星組
●1/18~21◎日本武道館
【公式サイト】https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2025/anthem/index.html
【取材・文・撮影/橘涼香】