いつまでも色褪せない不朽の名作『東京物語』を演じる! 愛月ひかる・内海光司 インタビュー
名作映画を朗読劇として立ち上げるシリーズ「Classic Movie Reading」。今回はシリーズ初となる邦画で、小津安二郎監督の「東京物語」を上演する。
物語は尾道に暮らす老夫婦が、東京にいる子供たちに会いに20年ぶりに上京するところから始まる。両親の突然の来訪を喜びながらも、長男の幸一や長女の志げは自分の生活で忙しく、両親に不実な態度を取ってしまう。戦死した次男の妻・紀子はそれを見かねて2人を東京観光に連れ出し、自分のアパートで精一杯もてなす……。
戦後日本の変わりゆく世相を背景に、ある家族の姿を描いたこの作品について、長男の幸一役を演じる内海光司と次男の妻・紀子役の愛月ひかるに語り合ってもらった「えんぶ」2月号よりインタビューを公開!
温かい人情だけでなく人間の滑稽さも
──この作品への出演が決まったときの感想からいただけますか。
愛月 私は残念ながら映画は拝見していないのですが、とても有名な作品ですし、しかも紀子は原節子さんという大女優が演じられた役ですから、プレッシャーを感じています。それに私は宝塚を退団してから何作か舞台には出ているのですが、日本人女性の役を演じるのは今回が初めてで、そこも大丈夫かなと。
内海 大丈夫でしょう。紀子役にイメージがぴったりですよ。
──内海さんはこの作品について詳しいと伺っていますが、どんな印象がありますか?
内海 映画が公開されたのは1953年ですから70年も前の作品ですが、いつまでも色褪せない不朽の名作というのは、こういう映画を言うのだと思います。令和の今でも刺さるものがあって、親子の関係とか、遠くなっていく故郷のこととか、みんな思い当たることがあるんじゃないかな。
──両親が尾道からはるばる訪ねてきますが、子供たちはそれぞれ仕事や自分のことで忙しくて、ちゃんと相手が出来ないというのが切ないですね。
内海 そこで一番ちゃんと面倒をみてくれるのが戦死した次男の妻の紀子で、血が繋がってない人のほうが愛があるんですよね。
愛月 そこは私も素敵だなと思いました。自分にとっては義理の両親である方たちに、本当の親のように接することができる。紀子は私が思い描く理想の女性像という気がします。そして昭和の家族関係の良さみたいなものも感じます。
内海 この映画の面白さは、そういう温かい人情だけでなく、人間の滑稽さも描かれていることもあると思うんです。両親が突然やってきたけれど、子供たちにはそれぞれ仕事もあるし、自分たちの家庭のルーティンもある。そこが乱されてバタバタする様子はちょっと笑えるし、兄妹で押し付け合うのが可笑しいんです。兄さんがどこかへ案内してよ、いやお前が付き合ってやれよ、みたいな。
愛月 (笑)。
内海 だから逆に狭いアパートで義理の両親を一生懸命にもてなす紀子には、ほっとした気持ちにさせられるわけです。
愛月 紀子という人もやっぱり孤独なのかなと思います。亡くなった夫のことを忘れられないし、引きずっているところがあって、夫にできなかった分の愛情をその両親に注いでいるのかなと。
内海 応援したくなるようなキャラクターだし、この物語を観ている人が救われる部分ですよね。
──内海さんは長男の幸一役をどう演じたいですか?
内海 幸一は医者で開業したばかりだから忙しいし、優柔不断というか肝心なことは妹たちにまかせっぱなしで、個人的にはもっとしっかりしてほしい人だなと(笑)。そういう幸一という人間のもどかしさがうまくお客さんに伝わればいいなと思っています。
時代を超えて伝わるものを届けたい
──おふたりは初共演ですが、お互いの印象は?
愛月 有名なアイドルの方なので、お会いするまで緊張していたのですが、すごく気さくで優しい方でほっとしました(笑)。
内海 僕のお芝居の初舞台は東京宝塚劇場なんですよ。まだ宙組さんが出来ていない頃で、今の劇場に建て替えられる前で、宝塚だけではなく普通のお芝居も上演していたんです。僕は男なので宝塚歌劇に入るのは無理だったけど、宝塚の劇場の舞台に立てたので夢は叶ったんです(笑)。
──内海さんは俳優としての活動歴が長いですね。
内海 僕が芝居を始めた頃は、まだ数人しかやっていなくて、お芝居の舞台ってなんぞや? みたいなところから始まったんです。芝居の面白さが分かり始めたのは30代になってからで、10代、20代の頃なんか毎日同じことをやるのが退屈で(笑)。そこからずっと続けてこられたのは、周りの人たちのおかげで感謝しかないです。
──愛月さんも宝塚時代からお芝居については定評がありました。
愛月 お芝居はすごく好きでした。本当は男役志望ではなかったのですが、身長で決められて男役になってしまったので、最初は男の人の声を出すのが恥ずかしくて(笑)。でも私は宝塚が大好きでしたので、昔の名作などを授業で演じることができたりすると嬉しくて、お芝居がどんどん楽しくなっていきました。ただ、わりと直感型なので、綿密に考えるというより場面のイメージを考えて、そこで自分がこう見えたらいいなというような感じで作っていました。今、退団して3年になりますが、共演する方たちから改めてお芝居についていろいろ学ばせていただいています。
──宝塚時代は外見から作り込んでいたと思いますが、今回は初めて普通の女性の役ですね。
愛月 この衣裳や髪型に少しは助けてもらえると思いますし、あとは紀子という人の気持ちをどう表現するかですね。気持ちの入り方などは男性も女性も関係ないと思いますし、それは退団後に出演した舞台やオーディオドラマなどの経験からも感じています。
──内海さんは演じる役がとても幅広いのですが、いろいろな役を楽しんでいるという感覚でしょうか?
内海 それはありますね。犯人役も面白いですし、サイコパスの役などはいくらでもやりようがありますから。もちろん演出家さんと相談の上ですが、最終的には自分が判断して演じます。そして1つずつ引き出しが増えていくのがお芝居の面白さで、だからこれまで演じたことがない役がくると、よし! 引き出しが増えるなと思います。
──今回はお二人にとって初めての役どころでとても楽しみです。最後にこの『東京物語』を観てくださる方へのメッセージをお願いします。
内海 親子愛だったり兄弟愛だったり、血の繋がっていない家族の愛もありますし、さまざまな人間ドラマが描かれていますので、若い方から年配の方まで沢山の方に観ていただきたいです。朗読劇という形は僕らの言葉から想像力を膨らませていただけるので、稽古からその世界観をきちんと作っていきたいと思っています。
愛月 私もそうですが映画を観ていらっしゃらないお客様にも、この作品に描かれている家族の繋がりやお互いを思い合う心などは、時代を超えて伝わるものがあると思っています。それを心を込めてお届けしたいですし、きっと何かを持って帰っていただけると思っています。
【プロフィール】
あいづきひかる〇千葉県出身。2007年宝塚歌劇団に入団、宙組に配属。二枚目から悪役まで幅広い役を演じ分ける男役スターとして人気を博す。専科を経て星組に組替後、21年『柳生忍法帖/モアー・ダンディズム!』で退団。以降は舞台を中心に活躍中。最近の出演作品は、『Dramatic City〝夢〟』、ミュージカル『ファンタスティックス』、朗読劇『ジョルジュ&ミッシェル ショパンを創った、ふたり』、『ベルサイユのばら50~半世紀の軌跡~』、『RUNWAY』など。
うちうみこうじ○東京都出身。1987年に光GENJIのメンバーとしてレコードデビュー。歌番組を中心にドラマやバラエティなど幅広く活動。解散後は俳優として舞台を中心に活躍中。近年の主な出演舞台は、『浪漫舞台新装「走れメロス」~太宰治~』、『淡海乃海- 現世を生き抜くことが業なれば-』、オリジナルミュージカル『流星の音色』、神津恭介シリーズ『呪縛の家』、音楽朗読劇『手紙』、『真夜中のオカルト公務員 The STAGE』など。
【公演情報】
Classic Movie Reading Vol.4『東京物語』
脚本:鈴木智晴
演出:野坂実
出演:愛月ひかる 中尾隆聖 白石珠江 斉藤レイ 平田裕香 広瀬登紀江 馬場良馬/内海光司
●2/5~9◎三越劇場
〈お問い合わせ〉stage.contact55@gmail.com
〈公式サイト〉https://tokyostory-reading.com
【インタビュー/宮田華子 撮影/中村嘉昭】
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