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猿若祭二月大歌舞伎『きらら浮世伝』取材会レポートその2 横内謙介・中村勘九郎・中村七之助インタビュー 

中村七之助・中村勘九郎・横内謙介

横内謙介が先行して1人で初演時を語った取材会に、勘九郎と七之助が参加して、いよいよ3人での取材会へ。勘九郎と七之助から挨拶があり、引き続き質疑応答が行われた。

【挨拶】


中村勘九郎 (横内に)稽古、もう結構やりましたね? 昨日も2人と話しましたが、良い作品になるという手応えを感じております。これからまた今日も浅草(新春浅草歌舞伎)組、(新橋)演舞場組が終わって、こっちに駆けつけて、7時半から稽古して、9時半から黒衣の稽古で、本当にみっちり。歌舞伎は稽古が少ないですが、その中でも稽古をして皆様に少しでも楽しんでいただけるような作品作りをしています。ご期待ください。

中村七之助 読み合わせをして、稽古も10日ぐらいから毎日のように。私も近年新作を何本もやらせていただき、拝見もしていますが、その中でもちょっと誇れるような作品になると思います。まだ人が集まっていないので、これからもっと良い化学反応が起きて、素晴らしいものにどんどんなっていくんだろうなと。台詞、音楽などはもう今の段階で、ちょっと稽古していてもぐっとくる。点数の出ない職業の皆がもがいているという、歌舞伎役者としての重ね具合もすごく絶妙な作品で、歌舞伎座でやる意味がどんどん膨れているなと思います。自信作です。

【質疑応答】
──今感じている範囲で、37年前の作品、NHKの大河ドラマがライバルになるかと思いますが、そのどちらにもない今回の舞台ならではの魅力は?

勘九郎 それはもう横内さんです。今まで一緒にお仕事をしたことはありませんでしたが、稽古を重ねて、本当にビジョンがぶれないし的確ですし、すっとみんなの中に入ってくる言葉の数々をかけてくださるので、僕はそんなに稽古好きじゃないんですけども、結構楽しいです。

七之助 37年前は、やはりその時代のいろいろな分野の皆様が集まって、面白い化学反応が起きていた。だから当時観てくださったお客様や若い人たちが、あの舞台に圧倒されたという意見が多かった気がします。今回はもちろんそういう化学反応もありますが、絵師の仕事とか、点数の出ないものを世の中と闘いながら、試行錯誤を重ねて、いいものをとりあえず作る、お客様を笑わせる、見る者を楽しませるという熱い思いは、やはりこういう仕事をしている歌舞伎役者の根っこの部分なので、そのパワーが、僕は稽古を見ていて胸に突き刺さります。僕の台詞で言っていることは、先人たち歌舞伎役者、亡くなった名優たちに向けたもの。こういう人たちがいたな、この人は本当にそれだけをただ思って生きてきたという人間がいた。見てくださるお客様も、ちょっと前には演劇にコロナというすごい敵がいましたが、そういう敵とも戦って、今この時代をどう面白くしていくかと常に考えている人間たちの集合体の舞台です。なので、皆さんも絶対好きだと思います。その舞台裏や、いろんなことを思い出して刺さるものがいっぱいあると思いますので、ぜひ期待していただきたい。

横内 今コロナの話をしてくださいましたが、37年間で、蔦屋が何と戦うかというイメージが全然変わっています。その一つが、身分によって弾圧されたのではないという視点。3年前に、文化芸術は不要不急のものと言われました。寛政の改革も意味がないわけじゃなくて、これから飢饉や天災でものすごく民が飢える。その時に贅沢禁止なので、何の理由もないわけじゃない。でもその時に、やはり3年前に始まったコロナの意味は大きい。今回もろにその台詞で、安倍首相(当時)の「今は我慢してください」という言葉を思い出しています。だけど無用の長物だと言われる理由はないんです(頷く勘九郎)。やはり37年前は、そんな発想は全然なかった。今は同じことがその時に起きたとわかるけど、作っている側にとっては仕方がないとは思えない。しかもそれを生きる楽しみにしていた人はいっぱいいる。そこは歴史にずいぶん導かれているし、今やる意味は本当にあると思います。

──七之助さんは、歌舞伎でいろいろな遊女の役をやられていますが、今回出てくる遊女とどこが一番違う?

七之助 それぞれ家の理由があって売られてきたんですが、お篠は若き日の蔦屋重三郎に、偶然の出会いですが、絵草紙を渡されたことで、苦しい時も悲しい時も、重三さんが持ってくるそのキラキラとした絵に救われて、花魁という座までいく。遊女たちは、本物を見ることはできない時に、絵草紙とか浮世絵とか戯曲でいろいろな知識を得て、こういうものがあると常に考える。やはり寂しさの中に楽しさがあり、哀れさもある。そこはお篠も一緒で、そういうのが全て詰まっています。今回は請け出されますし、その後の重三との関係や、この女の人の生きる道も感じていただければ。

勘九郎 でも一番かわいそうなのは、芸術の犠牲になること。

横内 吉原をあまり素敵な場所みたいにいうと駄目ですが、すごいなと思うのは、花魁に文字を覚えさせ、楽器を覚えさせることで、重三が出す本を読めていた。これはやはり、どこかで自由や平等を生んでしまう。僕は言葉の人間なので、言葉にはそういう力があると信じています。同じことで笑った瞬間、ある垣根が消えたり壊れていったりする。特筆すべき点は、教養があって、言葉を知ってしまったから、廓の中にいるけど、心はもう自由になっちゃったという新しい花魁。でも、これ『べらぼう』でやっているんだよね(笑)。でもやはり大事なことだと思います。だから繋がる理由がとってもある。

──言葉によって繋がる?

横内 そう。重三が出す本、絵。そこが、遠い世界で全然自由のない人の心にも響いているという可能性は、寛政期の青春グラフィティの根幹だろうという気がする。

──蔦屋重三郎の人間的な魅力や、こういうキャラクターとして演じていきたいというのは?

勘九郎 とにかく刷り物が好きで、読み物、錦絵を出したい。でも最初は株(版元)の問題があって、いろいろな邪魔があって出せないのですが、みんなの支えがあって、耕書堂を日本橋に進出させてから、いろいろな新しい才能、絵師や作者を発掘してプロデュースするという人物です。刷り物が好きっていうのが、蔦屋のパワーの源なんじゃないかなと思います。とてもパワフルで、頭がいい人だったんだなと思います。やはり才能を見つけ出して、磨いて、世に出てヒット作を産ませるっていうのは、なかなかできることじゃないので、名プロデューサーだったんじゃないかな。その点で、父とかぶる部分もあります。その根本には歌舞伎が大好きだという力があるので、とても似ていますね。

──ちょっとお父さんのことも思い浮かべながら演じる?

勘九郎 どうですかね。でも父も33でこの蔦屋を演じて、この作品から得た部分もあるんじゃないかな。

横内 (勘三郎は)この公演で、垣根を本当にぶち壊したと思います。だって、アングラ俳優の若松武さんが出て、六角精児は黒衣で出て、第三舞台の小須田(康人)君は北斎で、美保純さん、川谷拓三さんがいた。セゾン劇場が新しい人たちとやりたいと言ったことで、渡辺えりさんや野田(秀樹)さんも、みんなが出会う場所になり、そのときに勘三郎さんも、もっといろんな人に出会いたいっていうメッセージを出したと思います。時代の流れもですが、その後いろんなコラボレーションが生まれていった。先駆者として、歌舞伎俳優もここまでやれるっていうのを見せてくれた。

勘九郎 お父さんが頭(鬘)を飛ばして、羽二重をとってそのままやりましたが、僕もパルコ歌舞伎の時に頭を飛ばした。堀部安兵衛を演じる当時の染五郎さんとの、最後のすごく大事な場面だったので、流れを切っちゃいけないから、僕も羽二重を取ってやりました。それを父は人づてに聞いて、すごく喜んでました(笑)。

横内 今回、歌之助さんあたりが飛ばしてくれれば(笑)。

勘九郎 歌之助も福之助も、横内さんと共にスーパー(歌舞伎)を作ってきているので、稽古日数は少ないですが、核心を捉えている。鉄蔵(葛飾北斎)はやはり一番、未来に向けて新しい時代を切り開いていく人物と描かれているので、その熱い魂はよく出ていると思いますね。

【公演情報】
歌舞伎座「松竹創業百三十周年 猿若祭二月大歌舞伎」
日程:2025年2月2日(日)~25日(火) 【休演】10日(月)、18日(火)
◎昼の部 午前11時~

横内謙介 脚本・演出
『きらら浮世伝(うきよでん)』
版元 蔦屋重三郎 魁申し候

蔦屋重三郎 中村勘九郎
遊女お篠 中村七之助
遊女お菊 中村米吉
喜多川歌麿 中村隼人
山東京伝 中村橋之助
滝沢馬琴 中村福之助
葛飾北斎 中村歌之助
十返舎一九 中村鶴松
女衒の六 市村橘太郎
彫り師の親方彫達 嵐橘三郎
摺り師の親方摺松 中村松江
西村屋与八郎 市村萬次郎
初鹿野河内守信興 中村錦之助
恋川春町 中村芝翫
大田南畝 中村歌六

〈公演サイト〉https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/926
 
【取材・文/内河 文 写真提供(C)松竹】

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