新宿梁山泊公演『愛の乞⾷』『アリババ』間もなく開幕! 金守珍・安田章大インタビュー

歌舞伎町のネオンの川に船出して行く!
アングラ演劇に魅入られている安田章大が、アングラの雄・唐十郎の『少女都市からの呼び声』に主演してから2年、その時と同じ金守珍演出のもと、憧れのテント公演『愛の乞⾷』『アリババ』に挑む。
取材は新宿梁山泊の事務所であり稽古場兼劇場の「芝居砦・満天星」で行われた。稽古場の柱は宇野亞喜良が塗ったもの。壁には宇野の描いた絵もある。
廊下や階段、部屋のあちこちに梁山泊の記録のみならず、金がかつて所属していた状況劇場のポスターや舞台写真、リビングのような部屋に入ってすぐの目の前には恩師である唐十郎の写真が飾ってあった。
途中、金は唐の直筆の戯曲ノートも見せてくれて。安田はそういうものを宝物のように愛おしげに眺めていた。
金と安田からほとばしる演劇、及び唐十郎愛。(このインタビューはえんぶ6月号より転載)
唐十郎さんのいう「特権的肉体」とは何なんだろうと
──安田さんはこの稽古場に来たのは初めてですか。
安田 ついこの間、今回の配役のための座内オーディションがあった時に一度お邪魔しました。演劇の歴史が詰まったような場所ですよね。
金 この稽古場ができた時に旗揚げ作として、唐さんの初期作『愛の乞食』と『アリババ』を上演したんです。唐さんからこの稽古場に「芝居砦」と言う言葉をもらって、「満天星」は小田島雄志先生から。稽古場とは子宮のようなもので、赤ん坊が十月十日を過ごすように、稽古をして花園神社に向かう。ここはそういうアジトですね。
安田 『唐十郎血風録』にエピソードが書かれている『腰巻きお仙』の舞台写真やポスターなどが並んでいて、『アリババ』の初演の写真もあって。なかなか入れないところに入れたことに喜びを感じています。金さんに唐さんが大学ノートに書かれた直筆の戯曲も見せてもらって、そのびっしりと消しゴムをかけずに正確にまっすぐ書かれた小さな文字列にも驚きました。そこには譜面のようにメロディの強弱も感じます。
金 唐さんの追悼も李麗仙の追悼もこの部屋でやったんですよ。その時の写真が階段に貼ってあります。
──安田さんは唐さんの著書『血風録』を読んでいるんですね。
安田 好きな本です。持ち歩いて、外でお酒を引っかけながら読んだり、移動の電車のなかで読んだり。家でも読んだり。本に書いてあること、書いていないことを、金さんの口から生きた言葉で聞けることが嬉しくて。そばで聞いていると思わずニヤニヤしちゃうんです。
金 次第に当時を語ることのできる人がいなくなっているけれど、時代は変わっても当時の息吹は変わらないし、まだ生き字引も残っています。(テーブルの上に乗った像を指して)大先輩・大久保鷹さんがいらっしゃるので、鷹さんに恥ずかしくないように僕も気を引き締めないといけない。今回上演する『アリババ』の宿六は、唐さんが鷹さんに当てて書いたものです。革命の夢ばかり追っているけれど、お金は全然稼がないという人物ですね。鷹さんは60代になってもこの役をやっていて、しかも日本全国ツアーしているんですよ。
──安田さんは大久保鷹さんと同じ役をやるのですね。
安田 唐さんの戯曲は誰かに当てて書いたものがたくさんあるんですよね。唐さんの歴史を紐解くためにも、いろんなアーカイブの映像を様々なツテを頼ってゲットして観ているところです。これが面白くて仕方がない。鷹さんをはじめとして、この人だからこんなふうに作れたのだと思います。じゃあ、僕がやったらどうなるだろう。当然ながら鷹さんがやられたようにはならないでしょう。僕がやった時どういう化学変化が起きるのか、それも面白さだし、その体験を、今度は僕が次の世代に渡すことになる。それが僕にとっては光栄な役割だし嬉しいです。決められている道じゃないところに行くからこそ、新しい変化が起きるのだということは示していきたいです。そして、聞かせてもらった演劇の歴史は自分の知識とともに渡す必要があるとも思っています。
──安田さんはテント初挑戦になりますか。
安田 おかげさまで、初挑戦です。幸せです。
──テント芝居は何回かご覧になっていますか。
安田 あります。2014年にシアターコクーンの『ジュリエット通り』で唐さんの息子さんの大鶴佐助と共演をして、佐助が僕のことを「にーにー」と呼んで慕ってくれるようになって。舞台中もほぼ僕の家に泊まっていたのですけれど、その時に一緒にテントに観に行きませんかと誘われたのがきっかけでした。僕が最初に観たアングラ劇は劇団離風霊船の『赤い鳥逃げた』で、立てないほどの衝撃を受けたんです。その後にテント芝居を観て完全にやられました。観終わった後に自分が今まで生きていた世界は偽物だったのか、それとも今観終わった世界がその先、僕たちが本当に生きていく世界なのか、はたまたこの芝居を観ていた最中は、僕はどこの空間にいたのかとか。不思議な世界に連れ込まれて終わってから立ちあがれず、涙が流れてよくわからない感情に襲われたのが初めての体験で。そこからアングラ演劇やテント公演を観たい、出たいという感情が昂って。唐十郎さんのいう「特権的肉体」とは何なんだろうか。その人が持っている役柄を生かして、その肉体をしっかり使い切って、土臭さのような、香り立つお芝居をしろということなのか。映画『シアトリカル』でも唐さんが「もっと匂いをさせなきゃダメなんだよ」と言っていますが、そういうお芝居がどんどん好きになっていきました。自分が舞台を見た時に役者さんとはどういう人が好きなのかなと考えた時に、スキルを持っている人ではなく、ちゃんと匂い立たせることができる役者さんが僕は好きなんだと気づき始めて。そこからズボズボとハマっていって、その流れで金さんが2年前に『少女都市からの呼び声』でご一緒させてくださった、というのが大きな流れですね。
唐さんの紡がれる言葉は無性に言いたくなる
金 佐助君と安田君が仲が良いっていうのは意外な偶然だったけれど、安田君の噂は10年くらい前からずっと聞いていたんですよ。 Bunkamuraのプロデューサーの加藤真規さんからすごい役者だと。数年後、やっと出会えたという感じでしたね。芝居のキャッチボールが安田君とはできるんです。投げたらすごい球を返してくれる。唐十郎の言語を咀嚼する優れた消化能力があって、ちょっとびっくりします。
安田 唐さんの紡がれる言葉は無性に言いたくなる言葉なんですよね。綺麗かつ何かを含ませていろんなものを抱き合わせながら言葉を表現していくので、誤読できるのも魅力です。その誤読が僕はすごく好きだったりして。でも、唐さんの中にはもしかしたら自分なりの答えもあるかもしれないんですけど、誤読の余白も残してくれていて。みんながみんな誤読をしていくと、今度はいろんな正解が生まれる。たとえ同じ人がやっても同じものを毎回できるのかといえば、そうでもなかったりすると思っていて。その日の自分のテンションや体調によってもたぶん捉え方が変わるだろうし。
金 安田君にはファンの方が大勢いて。アイドルとアングラの融合なんてね、嬉しいことを言ってくれた。そうか、アイドルとアングラの融合、いいなと思いました。『少女都市〜』のカーテンコールで、お客さんにアングラを語り継ぐために力を貸してほしいと呼びかけてくれたのも嬉しかったですよ。アングラというものは風俗として生まれ、すぐに消え去るものであり、文化ではないと思われていたけれど、今や文化になりました。例えば昨年やった『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』で第32回読売演劇大賞最優秀作品賞をいただきましたから。中村勘九郎さんが出てくれたし、そういった意味で歌舞伎精神を引き継いでいると思います。アングラは100年経ったら立派な日本の文化で、現代歌舞伎だと僕は誇りを持っています。
安田 僕は残念ながら唐さんの出演した舞台をほとんど観られていません。ただ、コロナ禍で、佐助と妹の美仁音が2人、浅草九劇で公演をやった時、最後に唐さんが突然出てきて、本当の一瞬だけでも場が制されましたよね。あんな場の制し方ができる人って、なかなかいない。あの破壊力はやはり唐さん自身が生きた証しそのままが出ているのだと思うんですよね。ブレずに生きてきたからこそのものだと。もっと匂い立たせろよというのはそういうことなのかなと思って。だから、幸運にも金さんと出会い、唐さんの戯曲を演じるチャンスを得た僕は、唐さんや金さんのたどってきた演劇の歴史を体現してさらに誰かに伝えていかなきゃいけない。唐さんの世界を知らない人にもこの文化を広げ、発信していくっていうことなのだと思っています。
──2年前、安田さんが『少女都市からの呼び声』に主演した時、花園神社のテントでも別バージョンを上演していましたよね。
金 あの年は3本の『少女都市からの呼び声』をやりました。すべて演出も役者も変えて。六平直政が主演した花園神社のテントと安田君主演のTHEATER MILANO-Zaと、ザ・スズナリの若衆公演では若手の柴野航輝が主人公の田口を演じました。一人の演出家がすべて違う色でやっても全然動じない戯曲なんですよ。以前、僕はオーストラリアでも学生と、『少女都市〜』を全く違うベクトルに広げて上演したこともあります。つまり、唐十郎の世界とは万華鏡のようなもの。わけが分からないけれど、いろいろな角度から見ることのできる球体のようなね。紙の上で読んだ時と、立体になった時とではまったく様変わりする。裏側から見ても上から下から見ても、やるたびにも違うんです。今回の『愛の乞食』『アリババ』もたぶん、安田君がやると芝居砦・満天星旗揚げ公演とは全然違う作品になると思うんですよ。今からもうワクワクします。
──『少女都市〜』のテント版もご覧になっていますか。
安田 観ました。スズナリ版も観て、自分がやったMILANO-Za版よりも若衆公演が一番良かったと言っちゃいました(笑)。その時、鷹さんがいらっしゃっていて、金さんがいらっしゃって。状況劇場を引っ張ってきた先輩たちと今から頑張って食いついていくんだという、若手のみんなとのエネルギーの混ざり合いがとても心地よくて面白くて。しかも、みんな、ただただギラギラしているのではなく、自分の匂いや見せ技を自覚して自分が生きてきた過去をちゃんと使いつつ、自分らしさを体現していることがすごく素敵やなと思って。いや、もうこれが一番やん!と心から思ったんですよ。
──悔しい気持ちにはならなかったですか。
安田 悔しいという気持ちは全然なかったです。こういう芝居を観られたことが嬉しくて仕方なくて。僕、金さんにも伝えたことがありますが、新宿梁山泊のみんなのことがめっちゃ好きで。好きすぎるくらいなんですよ。エネルギーがすごくあって。でもただがむしゃらに頑張っているだけでもなくて、どうしたらもっとより良くできて盛り上げられて、時には収益も出せるのかどうかまで考えながら劇団活動をしている。金さんのことが好きなんでしょうね。それを感じたのが『少女都市』の稽古初日の本読みの時でした。
生まれるべくして生まれなかった者たちの叫び声
──『愛の乞食』と『アリババ』と2作同時にやることはなかなかハードなのでは。
安田 以前、稽古場で金さんがこんな面白い戯曲があると教えてくださって。読ませていただいて。令和の今、上演したほうがいい作品ですよ、という話をしたことがあったんです。この作品が生まれて長い月日が経ったけれども何も解決していない問題がある。むしろより無視されるようになって、ちっとも対峙しきれていないじゃないかと。だからこそこの2作をやった方がいいよねという話をして。自分でやりましょうと言ってしまったので、どんなに大変でもやるしかないです(笑)。
金 2000年、2001年もその形式でやりました。2作のテーマは似ているんですよ。25分か20分のインターバルが休憩時間で、その間にセット転換して全く違うセットでやります。『少女都市〜』という完成形に出たので、ここからはいったん源流に戻ろうという話を安田君にしたら、そのことを覚えていてくれて、今回実現することになりました。『アリババ』と『愛の乞食』に書かれていることは唐さんの永遠のテーマなんですよね。生まれるべくして生まれなかった者たちの叫び声です。『番場の忠太郎』や『母を訪ねて三千里』のような親を探すという普遍的なテーマで、それは『少女都市の呼び声』に至ります。長い時間のなかで試行錯誤があって、李麗仙さんに対するラブレターの時期もあったし、麿赤兒や土方巽などの本当のアングラのピカレスクロマンですか。そういう悪の華のようなものも取り入れながら、唐さん特有の江戸っ子の人情ドラマが紡ぎ出されていく。その変遷を安田君と源流から流れていってみたいと思って。長期的な展望の中でこの人に僕自身が賭けたいなと。
安田 今、台本を読んでいますが、2作分のセリフを覚えるのは大変なのは大変です。『アリババ』の宿六はとにかくひたすら前向きに走り続ける役なので、飛ばし続けるから必然的にセリフ量も多くなるんですね。唐さんの作品で僕が大事にしたいと思うのが、男性がちゃんと女性を立てていることなんですよ。ストーリーの中で必ずそれは僕がやらなきゃいけないことだと一番肝に銘じているところです。どれだけ宿六がたくさんセリフをしゃべっても、ヒロインがちゃんとど真ん中にいて、僕が花を添える形にならないと唐作品は成り立たないと思うんです。その信念は誤読しないでちゃんと届けられるようにしたいと思っています。
──テント公演はキャパがそんなに多くなく、『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』もチケット争奪戦でした。今回安田さんがテントに出演されると大変なことになるのでは。
安田 もちろん僕のファンの皆さんにも観てもらいたいですが、やっぱり紫テントのファンの方、唐十郎さんのファンの方、アングラ演劇を好きな人がいらっしゃるので、僕のファンの方といいバランスで観ていただけるといいなと思っていて。じゃないと大切な文化を逆に廃らしてしまうことになりそうで。僕を個人的に好きな人が観に来てくれるのはありがたいけれども、ちゃんと今まであった伝統文化の流れを好きだった人を取りこぼしたくないなあというのが個人的意見です。
金 だからいつもより公演日数が倍近くあるんです。そのため7月に食い込んでいて。今までは、テントですから暑くなったらできなかったのですが、今回は冷房の導入を検討中です。新しいことにチャレンジして少しでもお客さんに快適な環境で見ていただきたいですね。
──以前、中村勘九郎さんに取材した時、これまで何度も宙乗りをやってきたけれど、「花園神社での宙乗りはこれまでのどの宙乗りよりも気持ちよかった」とおっしゃっていました。
金 綺麗でしたね。今回の仕掛けとしては、やっぱり最後には期待してほしいですよね。また僕も誤読して、今までやっていないことをしたい。例えば、安田君はヒロインを大事にしたいと言うけれど、ヒーローの存在もやっぱり大きいし。彼がどう旅立っていくのかも大事な部分で。宿六は最初、夢ばっかり語って金を稼がないどうしようもない人間で、でもだんだん目覚めて海賊になっていくという流れなんですよ。最後にはジョン・シルバーになってほしいわけ。唐さんの初期作に『ジョン・シルバー』シリーズがあってゆくゆくはそこにつながりたいんですよ。あの下駄箱の上に帆船があるじゃないですか(部屋の外の下駄箱を指差す)。あれに乗ってあの都会のネオンの川に流れて行ってほしい。
安田 歌舞伎町のネオン。ネオンの川っていいですね。
金 ネオンの川に船出して行くピカレスクロマン!

■PROFILE■
やすだしょうた○兵庫県出身。2004年に(関ジャニ∞)現SUPER EIGHTのメンバーとしてCDデビュー。以降、個性あふれる楽曲を次々と発表している。音楽活動のほか、俳優としてドラマ・映画・舞台とジャンルを問わず活躍。2023年には眼鏡ブランドとのコラボで監修したサングラスを発売するなど活動は多岐に渡る。現在、『EIGHT-JAM』(EX)、『ありえへん∞世界』(TX)にレギュラー出演。近年の主な出演作品に、【映画】『嘘八百 なにわ夢の陣』、【舞台】『あのよこのよ』、『少女都市からの呼び声』、『閃光ばなし』、『リボルバー~誰が【ゴッホ】を撃ち抜いたんだ?~』、『忘れてもらえないの歌』、『マニアック』など。
きむすじん○東京都出身。東海大学電子工学部を卒業後、演出家・蜷川幸雄に師事し蜷川スタジオに所属。『近松心中物語』などに出演し、演劇の基礎を学ぶ。1978年より唐十郎主宰の「状況劇場」に参加。87年に新宿梁山泊を創立し、演出を手掛ける。89年には小劇場として初の韓国公演を行い、第17回テアトロ演劇賞を受賞。94年、フランスアビニョン演劇祭正式招待作品『少女都市からの呼び声』で文化庁芸術祭賞受賞。その後もドイツ、中国、韓国などに招聘されて高い評価を受けた。98年に『飛龍伝』で読売演劇大賞演出家賞受賞。01年には日韓合作映画『夜を賭けて』で監督を務め、毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人監督賞、日本映画監督協会新人賞を受賞。また22年には第57回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞した。

【公演情報】
新宿梁⼭泊第79回公演 唐⼗郎初期作品連続上演
『愛の乞⾷』『アリババ』
作:唐十郎
演出:金守珍
出演:安⽥章⼤ 金守珍 ⽔嶋カンナ 藤⽥佳昭 二條正士 宮澤寿 柴野航輝
荒澤守 宮崎卓真 原佑宜 寺⽥結美 若林美保 紅⽇毬⼦ 染⾕知⾥
諸治蘭 本間美彩 河⻄茉祐 芳⽥遥 町本絵⾥ 森岡朋奈 とくながのぶひこ
●6/14~7/6◎新宿・花園神社境内特設 紫テント
〈お問い合わせ〉新宿梁山泊チケット窓口 stage.contact55@gmail.com
〈公式サイト〉https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/aino-alibaba2025.html
【インタビュー/木俣冬 撮影/中村嘉昭 ヘアメイク/山﨑陽子(安⽥章⼤) スタイリング/袴田能生(安⽥章⼤)】