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舞台『みんな鳥になって』上村聡史・中島裕翔・岡本健一インタビュー

上村聡史・中島裕翔・岡本健一

今、この時代に生きていることを伝える

ワジディ・ムワワドの魂を揺さぶる壮大な叙事詩が、また世田谷パブリックシアターの舞台に立ち現れる。
その舞台『みんな鳥になって』は、「約束の血」シリーズ『炎 アンサンディ』、『岸 リトラル』『森 フォレ』の世界観を引き継ぎながらも、リアルタイムに世界が抱える問題に真正面から切り込んだ力作。作者のムワワドが、2016年にパリ・国立コリーヌ劇場の芸術監督に就任後、初めて発表した作品で、その後も再演を繰り返し彼の代表作の1つとなっている。
この公演で初めてムワワド作品に出演する中島裕翔と、「約束の血」シリーズには全作出演の岡本健一が、演出家・上村聡史を囲んで話し合う。。(このインタビューはえんぶ6月号より転載)

ワジディ・ムワワドの決意を感じる作品 

──今回のこの作品は、「約束の血」シリーズではないのですね。

上村 同じワジディ・ムワワドの作品ですが、また違う風合いになっています。これまでの3作はカナダで創作していたのですが、彼がパリの国立コリーヌ劇場の芸術監督として就任した際、1本目に作った作品が本作です。ワジディはそれ以前に一度フランスに住んでいたことがあったのですが、滞在許可の更新を拒否されカナダに移住せざるを得なくなったという経緯があり、それが今度はパリに招かれる形で作品を創ることになった。そのときの決意を感じる作品で、それまでのちょっと寓話性が強い、もちろん現実も踏まえたうえでの寓話性が強かった3作に比べて、イスラエルという固有名詞も明確に打ち出し、とても強い決意を持って作った作品だと思います。

岡本 上村くんが上演を決めたときは、まだ状況が今みたいではなかったんですよね。

上村 そう。もともとくすぶっていた地域ではあるけれど、白井晃芸術監督と上演を決めたときは、対立が今みたいに激しい時期ではなかったです。

──そんな作品にいよいよ挑まれるわけですが、岡本さんは「約束の血」3部作に全部参加されています。やはりある種のチーム感みたいなものがあるのでは?

岡本 いや、そういうものは逆に持たないほうがいいと思っているんです。毎回、前にやっているから安心とかいう意識はまったくないし、安心感が一番危険だと思っているので。だから今回も初めて参加する人と同じようにゼロの状態です。

中島 その言葉を伺って安心しました(笑)。やはり出来上がっている空気のところに入るのはちょっと緊張しますから。

──中島さんはこの作品を読んだときに、どんなことを感じましたか?

中島 一見日本人に馴染みのないことばかりが起きているようにも思いますが、今、世界のどこかで現実に起きていることで、そこに関心を向けてフォーカスしていくのはすごく大事なことなのだなと。台本の中にすごくリアリティがあるワードや場所が沢山出てきて、実際にこういう状況の中で生きている人がいると考えると、どこまでこれを自分事にしていけるかというところが一つの課題だと思っています。

──上村さんは今回、中島さんへのオファーはどんな思いから?

上村 中島さんは、『WILD』という作品を拝見して、とても潔い表現をされているなと。そしてその潔さの中に光もあるし、影もあって、とても色彩があった。今回のエイタンという役は、作家が今一番こう生きてほしい、こうあってほしいという願いを込めた役で、家族を思う気持ちもあるし、その反面、自分ひとりがここにいればいいという選択をしなくてはならない。そして最終的にその決意をしていく役なので、そういう意味で中島さんが表現された光と影みたいなものを通して、作家のメッセージを伝えることができればという思いがありました。
中島 オファーをいただいたとき、『WILD』でそんなふうに感じたとおっしゃってくださって、すごく嬉しかったです。あの作品で初めて本格的な舞台に出たのですが、3人だけの芝居で、かなりセリフの応酬があって、初回にして強烈な舞台だったんですけど、そのもがいている自分を見て、そういう印象を持ってくださったことは、とてもありがたいと思いました。そして上村さんがおっしゃったように、人はアイデンティティーとか自分を構成するものに縛られていくのか、そこから自分を開放していけるのかという、観てくださる方が一番感じるであろう疑問をストレートにぶつけていく人物がエイタンだと思っていますので、そういうところを真っ直ぐに表現できればいいなと思っています。

岡本健一の内在する怒りが劇世界とフィットする

──エイタンの父のダヴィッドは敬虔なユダヤ教の信者ですが、この役を岡本さんに演じてもらおうと思ったのは?

上村 ダヴィッドは一見ヒールのような印象でスタートしていくのですが、彼もやはりこの社会がこの世界が、この時代が生んだ犠牲者でもあるわけです。振り幅がかなり強烈な役どころになってくる。岡本さんはそのあたりのリアリティをどう持ち込むのかとても楽しみです。

岡本 ムワワドさんの言葉はいつも本当に新鮮で、読んでいるとその人物の発想とか考えにどんどん惹かれていくんですよね。今回も最初はエイタンの喋っている言葉から読みはじめて、ワクワク感がすごくて面白いなと思って読んでいたのですが、どんどん進んでいくうちに……最後の方はちょっと嗚咽状態になるというか、読むのにかなり苦労しました。あまりにも衝撃が強すぎて。でもそこで思うのは、これは物語だけど、こういうことが実際に起こっている人たちが現実にいるということで。だから肉体と精神をどれだけ使っても、この物語の人には追いつけないような気もするのですが。でもやはり読み物ではなく、上演するために書かれているものですから、これを自分たちなりのリアリティを持って、舞台で表現していくことが大事だと思っています。

──岡本さんとの初めての作品もムワワドでしたよね。ムワワドさんの作品は、そういう意味では演じる側への負荷はすごいのかなと。

上村 最初の『炎 アンサンディ』で岡本さんとご一緒したのですが、俳優たちが劇場という空間で声を発するって、なんて尊いことなんだということを、その作品で初めて認識しました。こんな複雑でこんな残酷なシチュエーションを、それでも表現しなくてはいけない。でもそれが声として劇場で広がったときに、お客さんに届いたときに、声を発するということに可能性を感じました。それまでは演出の手つきというか、どう舞台上に俳優が存在するかということばかり気にしていたのですが、そのうえでそれを声として、どう表現していかなくてはいけないかということに気づかせてくれた。それを踏まえて、この作家の作品はその残酷さの中にもセリフというものが確立されているので、いろんな負荷を好転させて表現したいと思っています。

──岡本さんはこのシリーズでも役柄の幅広さとその演じ分けを見せてくれましたが、上村さんにとって信頼感は大きいでしょうね。

上村 ムワワドの作品に岡本さんが関わってくれて、なにがその劇世界とフィットするかというと、ムワワドは愛を信じている部分があると同時にその反面、相当な怒りを持って描いているんです。その怒りと、健一さんの中に内在している怒りといいますか、表現者として世界にどう立ち向かっていくかというところが、とてもいい地点でクロスオーバーしている。だからこそ毎回異なった役柄でも、高い温度を感じる印象があるのかと分析しています。

──今おっしゃったように、ムワワドさんの作品には国とか人種の違いを越えて、人間の感情の根源を揺さぶるものがありますね。

上村 この作品もそうですが、個人の愛憎というか、愛しているがゆえに傷つけてしまう。そしてそこから視野をどんどん引いていくと分断の問題が見えてくる。つねに個人的な愛憎と社会的な分断は連動していて、人を描くということは、今ある社会や世界、はたまた歴史や未来までも背負うことになると考えています。ただ個に立ち返った時、それでも人は悲しみの連続のなかで、喜びや愛に幸福感を感じ、期待を抱きます。ムワワドはそのあたりもしっかりと見つめているので、そういった部分も掬い上げ、見る人の感情を揺さぶっていければと思っています。

悔しさも悲しみも喜びも怒りも美しい中島裕翔

──中島さん、舞台でのお芝居にはどう向き合っていますか?

中島 これまではわりと体を動かす舞台が多かったのですが、今回はじっくりとお芝居に集中することが必要なので、俳優としてはとても幸せな現場だと思っています。

──上村さんから見て、俳優・中島裕翔に感じる可能性はどんなところですか?

上村 そんなことおこがましくて言えませんが(笑)、中島さんは表現が美しいんですよね。立ち居振る舞いが美しいだけでなく、悔しさも悲しみも喜びも怒りも。今回のように気持ちの負荷をかけないといけない作品を通して、光も影も含めた美しさの振り幅が大きくなるような気がします。

中島 ありがとうございます。この作品はステップアップの機会になると思いますし、それだけに追い込まれることもあるし、きっとプレッシャーも大きいと思いますが、その先で、自分はこういうことが出来たんだという自信になるように、共演の皆さんから盗めるものは全部盗むぐらいの気持ちでがんばりたいです。

──岡本さんは俳優としては大先輩ですが、俳優の面白さはどんなところですか?

岡本 俳優というより舞台の面白さと言ったほうがいいのですが、やはりライブということですね。自分の役とかその作品をお客さんの目の前で作り上げている感覚が、たまらなく面白いし気持ちいいんです。この『みんな鳥になって』という作品はこれから作っていくわけですが、これを舞台で演じているときにどういう感覚になるのか、どういう精神状態になるのか、まだ想像もつかないのですが、そこは楽しみでしかないです。

──最後に改めて伺います。この作品で届けたいものは?

中島 まだ稽古も始まっていない段階なので、それぞれの頭の中で行われている作業が沢山あるのですが、僕としてはこの作品を観ていただいて、いろいろなことを考えるきっかけになったら嬉しいなと思います。それを持って帰っていただくだけで自分がこの役をやる意味になるし、とくに同世代の人に何かパワーみたいなものを受け取ってもらえたら嬉しいです。

岡本 劇場に来てくれさえしたらいいんです。それ自体が生きている証ですし、この作品の中に書かれているように、自分が今生きていること、この時代に生きているということを確信して、それぞれ自分の生活に歩んでくれたらいいんじゃないかと思っています。

上村 この先の時間を仲間や家族、愛する人と過ごす人生もあるかもしれないし、あえて孤立を選ぶ人生もあるかもしれない。いろいろな選択があると思うけれど、『ここにいる、世界にいる』、それだけでいいんじゃないかと思える、そういうシンプルで当たり前のことを大切にしたくなる作品にしたいと思っています。

中島裕翔・上村聡史・岡本健一

■PROFILE■
かみむらさとし○東京都出身。2001年文学座附属演劇研究所入所、18年に同劇団を退座。現在、新国立劇場演劇部門芸術参与。09年より文化庁新進芸術家海外研修制度において1年間イギリス・ドイツに留学。紀伊國屋演劇賞、読売演劇大賞最優秀演出家賞、千田是也賞など多数受賞。近年の主な演出作品に、『グッバイ、レーニン!』、『白衛軍』、『デカローグ』、『夜は昼の母』、『エンジェルス・イン・アメリカ』、『野鴨』など。

なかじまゆうと○東京都出身。2007年、Hey! Say! JUMPのメンバーとしてデビュー。グループの音楽活動とともに、映画、ドラマ、舞台などで俳優としても幅広く活躍中。近年の主な出演作は、映画「#マンホール」、ドラマは「純愛ディソナンス」、「大奥」、連続ドラマW「ゴールドサンセット」、「秘密~THE TOP SECRET~」、舞台は『WILD』、『ウェンディ&ピーターパン』、『ひげよ、さらば』。

おかもとけんいち○東京都出身。1985年にドラマデビュー、88年には男闘呼組のメンバーとして歌手デビュー。映画、ドラマ、音楽、舞台、演出など多岐にわたり活動。読売演劇大賞最優秀男優賞、菊田一夫演劇賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、芸術選奨文部科学大臣賞など受賞。22年、紫綬褒章受章。近年の舞台出演作は『グレイクリスマス』、『建築家とアッシリア皇帝』、『尺には尺を/終わりよければすべてよし』、『夜は昼の母』、『Le Fils 息子』『La Mere 母』、約束の血三部作は全作に出演。演出作品に『ロミオとジュリエット』、『破戒』など。バンド「Rockon Social Club」、「ADDICT OF THE TRIP MINDS」で活動中。

【公演情報】
舞台『みんな鳥になって』
作:ワジディ・ムワワド 
翻訳:藤井慎太郎 演出◇上村聡史
出演:中島裕翔 岡本健一 岡本玲 那須佐代子 松岡依都美 伊達暁 相島一之 麻実れい
スウィング:近藤隼 伊藤麗 渡邊真砂珠
●6/28〜7/21◎世田谷パブリックシアター
〈お問い合わせ〉世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515(10:00~19:00)
●7/25〜27◎兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
●8/1〜3◎東海市芸術劇場大ホール
●8/8〜10◎岡山芸術創造劇場 ハレノワ 大劇場
●8/15〜17◎J:COM北九州芸術劇場 大ホール
〈公式サイト〉https://setagaya-pt.jp/stage/25004/

【インタビュー/宮田華子 撮影/中村嘉昭 ヘアメイク/FUJIU JIMI(中島、岡本) スタイリング/ゴウダアツコ(中島、岡本)】

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