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unrato#13『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』大石継太・天宮良インタビュー

大河内直子が演出を務める演劇ユニットunratoが2018年に日本初演、2019年に再演した名作『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』が6年ぶりに上演される。
ヒトラーが台頭した1930年代、アメリカとドイツで交わされる手紙から時代の激流や人間ドラマを描く二人芝居に、世代の異なる3チームが挑む。アメリカで暮らすユダヤ人マックス役の大石継太と、ドイツでナチズムに心頭していくマルティン役の天宮良に話を聞いた。

――お二人が出演を決めた理由を聞かせてください。

天宮 相手役が継ちゃん(大石継太)だったから!20代後半の頃、蜷川幸雄さん演出の『近松心中物語』で初めて共演してから、また一緒にやりたいと思っていました。以前に継ちゃんが『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』に出演したのは知っていて、面白そうな二人芝居だと気になっていたけれど、スケジュールが合わなくてどうしても見に行けませんでした。そしたら今回、偶然にもお話をいただいて。台詞が膨大なことはわかっていたけれど、継ちゃんが前回の役(マルティン)ではなくマックスをやるということで、覚えることに関してはフィフティフィフティだと思いました(笑)。
そして、戯曲の持つ特殊性や時代の持っているテーマ、どんでん返しになっていく構造を僕たち二人なら生々しく演じられると思い、挑戦することに決めました。

大石 マルティンに前回とは違うアプローチでチャレンジしたいという気持ちもありました。けれど、単純に「どうせなら違う役をやりたい」と思いました。いざやってみるとマックス役は大変!なぜかというと、相手からエネルギーを与えられることで、翻弄され、気持ちが転がっていくことが多い役柄だから。自分からの発動が少ない中で大切なシーンを表現するのは難しいです。しかもエネルギーの受け取り方は「手紙」だけ。相手の顔を見ず声だけを頼りにイメージを膨らませて演じることに挑戦しています。
出演できる作品の数が限られている中で、台詞の量や物語の内容も含め、こんなにもパワーを使って演じる役ができるのは幸せなことです。そんな作品にせっかく出会えたのだから、頑張ろうと思いました。

天宮 僕も同じ気持ちです。出演することで社会的にも自分自身にとっても意味のある、やりがいのある仕事を選びたい。そう考えたときに、この作品はある種、修行のようです。「本当にできるか?」と自分の奥底にある魂に聞いて「イエス」と結論を出しました。
それに、もし自分がやらなかったらほかの誰かがやることになる。客席から見たらきっと悔しいと思うんです。たくさんの俳優がいる中で僕を選んでいただいたことにしっかりと答えなければと思いながら稽古に臨んでいます。

――1930年代の物語ですが、どのような部分が現代にも通じていると思いますか?

天宮 僕の子どもたち世代(20代半ば~30代)が、家庭を持つことに対して、不安を感じたりリアリティが持てなかったりするという話を、最近よく聞きます。今の社会情勢で子どもを育てていくのは難しいと。そんな中で何かひとつ光のようなものが、明確ではなくてもぼんやりとでもあれば、縋りたくなるのではと思います。その光は宗教かもしれないし、もしかすると投資詐欺のような誤ったものかもしれない。マルティンにとってはヒトラーが光だったのではと考えています。「この人についていったら暗闇から抜けられるのでは」という希望。「本当に大丈夫かなぁ」と一瞬思ったとしても、悩んで止まっているだけでは状況が打開できなのであれば、希望のカードを握りに行くのではないでしょうか。マックスにとっての光はなんだったと思う?

大石 マックスはマルティンに縋っていた、というか、マルティンを信じていたと思います。けれど、マルティンからの情報は手紙に書かれた文字でしか入ってこなくて、悶々とした不安があっただろうな。しかも大切な妹も今、側にいない。彼は孤独だったと思います。
マルティンがヒトラーに心頭していくなんて、きっと思っていなかったはず。以前なら、親友であるマルティンに対して「それって違うんじゃない?」と言えていたのに、時代の波に飲み込まれて、本当の気持ちが言えなくなってしまった。マルティンにとっての自分の存在が薄れつつあると感じることもあっただろうな。マックスのように希望の光を失ってしまった人がいた時代を風化させたくないですね。

天宮 光を失くすとどめとなるような衝撃的な事実を、マルティンがマックスに伝えるシーンがあります。とても辛いけれど、僕がマルティンの状況だったら同じことをしてしまうかもしれない。

大石 僕はあのシーンをすごく素敵だと思います。マルティンにとって事実をマックスに伝えることはしんどくて、エネルギーが必要ですよね。マルティンはきっと、マックスに伝えると同時に、自分自身に対しても語っている。そしてマックスの苦しみも痛いほど感じている。けれどマックスは、マルティンの気持ちまでわかるだろうか?そう考えながら稽古をしています。マックスは自分の感情だけでもう、いっぱいいっぱいで、マルティンの状況や気持ちまでは踏み込めないのではと。今はそれがラストシーンへと向かうフックだと思っています。

――本作以外のお二人のことも教えてください。今まで見てきた中で印象的な演劇作品はありますか?

大石 もちろんたくさんあります。一つ挙げるとしたら、学生時代に大阪で観劇した『上海バンスキング』です。こんなに楽しいエンターテインメントがあるんだ!と衝撃を受けました。

天宮 僕はイギリスで観劇した『ウォー・ホース~戦火の馬~』です。大きなセットを使わず、籐で作った馬を人間が操作するのですが、見ているうちにどんどん本当に生きている馬に見えてくるんです。物語をリアルに表現する力が凄まじいと感じました。

――かつてお二人の心が動かされたように、本作が大切な作品になる方がたくさんいると思います。観劇するお客様に、どのようなことを感じてほしいですか?

大石 時代背景や社会的なメッセージをたくさん伝えられる作品だけれど、純粋に「書簡だけでコミュニケーションを取り合っている役者二人」を生で見ることで、何か感じたものを持って帰ってもらえたら嬉しいです。

天宮 見た人それぞれ違うものを感じ取る作品になるだろうと思います。自分の感覚を信じて、その瞬間に感じたことを大事にしていただけたら。そしてどんな感想を持ったか、SNSでぜひ聞かせてほしいです。

写真:交泰
取材・文:村田紫音

【公演情報】

unrato#13『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』
作:キャサリン・クレスマン・テイラー 脚色:フランク・ダンロップ
翻訳:小田島創志 演出:大河内直子

出演
Aチーム 大石継太×天宮良 
Bチーム 青柳尊哉×須賀貴匡
Cチーム 水田航生×鯨井康介

日程:2025年7月4日(金)~7月21日(月・祝)
会場:赤坂RED/THEATER
公式サイト:https://ae-on.co.jp/unrato/address2025/

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