『サヨナラソング―帰ってきた鶴―』上演中! 鴻上尚史・小関裕太・太田基裕・安西慎太郎 インタビュー

鴻上尚史
無様でも生き延びませんかと伝えたい
鴻上尚史のプロデュースユニット「KOKAMI@network」の第21回公演『サヨナラソング―帰ってきた鶴―』が、9月21日まで新宿・紀伊國屋ホールにて上演中だ。(9月27日・28日にサンケイホールブリーゼにて大阪公演)
本作は「生きのびること」をテーマに、日本の民話『鶴女房』のその後の世界と、ある家族を中心とした現実の世界が交錯していく。
現実世界では宮瀬陽一、物語世界で与吉を演じるのは、鴻上尚史作品に初参加となる小関裕太。現実世界では相馬和彦、物語世界で馬彦を演じるのは、ミュージカル『スクールオブロック』(23年)で鴻上演出を経験している太田基裕。現実世界では結城慎吾、物語世界で吾作を演じるのは、『朝日のような夕日をつれて2024』(24年)に出演した安西慎太郎。
稽古の最中、鴻上と3人の俳優が生きている実感を語り合った。(現在発売中のえんぶ10月号「演出家と話そう」より転載)
現実世界と物語世界で2役を演じる3人
──まずは『サヨナラソング─帰ってきた鶴─』の構想を思いついたいきさつを鴻上さんに伺います。
鴻上 始まりは、精神科医のきたやまおさむさんと話していて、「『鶴女房』の去っていく鶴はかっこいいけれど残された男は可哀想だよね」と聞いたときにイメージやストーリーが膨らんだという感じかな。分断と不寛容の時代、死ぬことが一見かっこよく語られることもあると思うけれど、無様でも生き延びませんかということが伝わればいいかなと思って書きました。
──その台本を読まれて小関さん、太田さん、安西さんはどんなふうに思われたのか。それぞれの役のどこを大事に演じているか教えてください。
小関 残される側の思いに寄り添ってくれる作品だと感じました。観て感じることは人それぞれだとは思いますが、「生き延びること」が大きなベースになった作品なので、ポジティブな気持ちで帰っていただけるといいなと思っています。役については、僕ら3人、それぞれ2役を演じるんです。僕は現実世界では作家の宮瀬、物語世界では与吉を演じます。与吉はおっちょこちょいですが愛らしい人物。宮瀬はプライドが高い純文学を追求する作家。これを描きたいという強いポリシーを貫き通しそれが彼を苦しめてもいます。
太田 今の時代、インターネットから様々な情報が入ってきて、そこには苦しい話、辛い話、マイナスな話も多いですよね。でもどんなことがあっても生きていれば何かしら選択肢はあるし、そこに希望は生まれる。希望がお客さんに届くといいなと思っています。役柄は、物語世界の馬彦はザ・資本主義みたいな社会で生きていて、村を存続させるために考えたことが結果的に悲劇を生んでしまう。現実世界の相馬は、出版社を存続させるためにも頑張らなきゃいけない気持ちもあるし、元作家志望ということもあってクリエイターの気持ちもわかるから、板挟みにあいながらどう自分らしさを保っていくか悩んでいます。2つの役にはどこか重なる部分があるような気がしています。
安西 生きること、生き延びることがテーマだと聞くと小難しい物語に感じますよね。でも台本を読んだら、すっと入ってきたんです。僕がコロナ禍のときに経験したことも思い出しました。役で言うと、2役できることが役者としてはとても嬉しくて、あざっすっていう感じです(笑)。
鴻上 そうなんだ(笑)。
安西 ひとつの作品の中で2役をやるのは大変ですが、そういうときのほうが役者って輝いたりするんじゃないかと思うので。現実世界では、とある企み?を持っている家庭教師の結城で、物語世界では、与吉のことをすごく愛している友人で、彼の一番の理解者でありたいと願っている青年・吾作を演じます。どちらもすごく楽しくやらせていただいています。
狙いや意図はオープンにする鴻上演劇
鴻上 2役だとやりがいがあるものなの?
小関 僕は10年くらい前、同じ公演で、日によって演じる役が変わる経験をさせてもらったことがありました。喧嘩しているふたりのどちらもやって、それぞれの立場に立ったのでそれはとても大変でした。僕は一人の一生を背負うことにやりがいを感じるので、複数の役すべてに全力を注ぐのは、もちろん楽しいですが、ヘビーですね。
太田 僕もコメディで6役を演じ分けた経験もありますが、今回の2役はそれとはちょっと違います。生きている時代も言葉遣いも違うので、その演じ分けに奮闘しています。さっき言ったように、この2役には共通点もありそうで。意図的に俳優が勝手な共通点を作ることによって面白さが膨らむかもしれないと思って試しているところです。
鴻上 2役が楽しかったら何役ぐらいまで楽しいんだろう? 5役とか? 8役とか?
太田 極論を言えば、何でも楽しいのかもしれないですね。いや、キャパオーバーすることにやりがいを感じて嬉しいのかもしれないな。例えば、僕は子役が本番で声が裏返るのが大好きなんですよ。予定調和じゃない音が出るのが好きで。
鴻上 それは自分のキャパオーバーじゃないよね(笑)。自分のキャパオーバーはどうなの?
太田 自分のキャパオーバーはいやですが(笑)、そういうときこそリアルに「生きてるな」って実感がありますよね。自分のキャパシティ内でやっていても、先に進めないからあまり面白くない。オーバーすることによって少しずつ自分の可能性を広げていける気がします。いやだなって思いながら頑張る。生きるってそういうことかなと思って。
──鴻上さんは2役を彼らに託した狙いみたいなのはあるのでしょうか。
鴻上 『鶴女房』の帰ってきた鶴と男を巡る話だけだったら、民話のお芝居みたいになるからさ。それはどうだろうと、企みとしてはちょっと甘いなと思ったので、昔話を書いた作家がいて…という仕掛けを思いついた。そしたら結果、一人2役になった。これね、いまはまだ早替えを経験してないから、3人とも割とのんきにしているけれど、1分40秒くらいで和装から洋装に、洋装から和装に早替えしないとならないので、たぶんそのうち俺に文句言うと思います(笑)。着替えて出て、着替えて出て、を繰り返していると、いま、俺はなんのためにここにいるんだ?とわからなくなってくると思いますよ(笑)。
──演出家さんの中には演出の狙いを俳優さんにあえて伝えない方もいると聞いたのですが。
鴻上 演出するにあたって隠すことはないから、思ったことは言います。もちろん傷つくこととかそんなことは言いませんけど(笑)。狙いや意図はオープンにしています。
小関 質問もしやすいです。
太田 分からないことを聞いたらちゃんと答えてくれるので助かります。なんで分からないんだろう?となるとどんどん萎縮しちゃうので。
鴻上 それで傷つく俳優さんは多いからね。自分で考えろ!と言われると困るよね。
──昔から鴻上さんの稽古場は開かれた空間だったのでしょうか。
鴻上 もしも鴻上は厳しいという誤解があるとしたら、それは昔、「第三舞台」は大学の学生サークルから始めたので、遅刻する奴とかセリフを覚えない奴とかいたわけです。スタートはプロ意識がない人たちにプロ意識を持ってもらわなきゃいけなかったから厳しかったわけですよ。でもみんなプロになってからは怒らなくなったから、急に優しくなったと不満顔でしたよ(笑)。

鴻上尚史のものを作る脳の原動力は好奇心
──皆さん、鴻上さんに質問はないですか?
安西 なんでもいいですか。今回、生きることとか、生き延びることがテーマですけど、鴻上さんが日々生きている中で、この瞬間幸せだなって思うことは何ですか?
鴻上 今のこの時期だったら、一日の稽古が終わったときに、「ああ、今日はいい稽古だったな」と思っているときは幸せですよ。積み上げてきた手応えがあるときは楽しいですね。
小関 幸せと通じる質問かもしれないですが、僕、鴻上さんと通っているジムが同じなんですよね(笑)。
鴻上 更衣室で会ったんだよね。
小関 そうなんです。そのジムで鴻上さんはいろいろ情報収集されているんですよ。人の話を聞くのが好きだとおっしゃって。鴻上さんのように作る人の脳の中は、何が作る原動力になっていますか。
鴻上 やっぱり好奇心じゃないですかね。そのジムでは一対一のパーソナルトレーニングを行っていて、パーソナルトレーナーが付いてくれるんだけど、裕太は毎回、同じ人を頼んでいるよね。俺は順繰りに違う人を頼んでいて。若者、アラサーぐらいの人が多いかな。アニメオタクがいて、筋肉オタクがいて、一人ソロキャンプオタクがいたりして、彼らから情報収集していくんですよ。知らないことは面白いよね。だから、マニアックなものを持ってない人は指名しなくなる(笑)。いや、でも大体みんな何かしら面白いところがあるね。一見普通の顔をしていても、実はアベンジャーズシリーズを毎日見ているとか。
太田 鴻上さん、トレーナーの話ばっかり聞いて、トレーニングしてないんじゃないですか?(笑)
鴻上 話しながらトレーニングしているんだよ。もっくん(太田)も鍛えた体をしてるじゃん。トレーニングって飽きない? 鏡の前でずっとダンベルをやっている人がいるじゃない。なんで飽きないんだろう?と思って。
小関 僕は向かう先が必ずいつもあるので、飽きないです。広背筋を鍛えることで、お芝居にも歌にもダンスにも有効なんです。筋肉を大きくしたり固くしたりするのではなく、柔らかく使える筋肉を作ることで疲れにくくなるし、声も出しやすくなるんです。
鴻上 広背筋だけ鍛えられるの? 大胸筋はやらないんだ?
小関 やらないです。胸筋を鍛えると背中が引っ張られちゃうんです。まず広背筋をつけて、後で胸筋をつけるのが理想です。
鴻上 もっくんは胸筋がすごいね。ダンベル? ベンチプレス?
太田 いや、全然やってないんですよ。筋肉がつきやすいだけで。筋肉のつき方には個性があるんですよ。
──太田さんは大胸筋、小関さんは広背筋、安西さんは何筋?
鴻上 しんた(安西)は去年の『朝日のような夕日をつれて2024』で、初めて出会った日から今日までになんと12・5㎏痩せた。「太ったら今回の稽古初日に帰れって言うからね」と脅して(笑)。
安西 せっかく作品が決まったのに稽古できないのはやばいですから(笑)。
──鴻上さんから改めて3人に期待すること、今回、新たに見られる3人の魅力みたいなことをお話しください。
鴻上 裕太はもう十分上手いけれど、もっとうまくなってほしいんだよね。裕太の芝居をずっと見続けているお客さんが、この芝居を見て、ひと皮じゃなくて50皮ぐらいむけたねって言ってくれたら嬉しいなと思う。
小関 僕自身もそう思っていたので、嬉しい言葉です。
鴻上 もっくんはミュージカルだけでなく、ストレートプレイのもっくんもいいよねという風に、もっくんを応援しているお客さんに思ってもらいたいとすごく思います。
太田 この作品に貢献できるように頑張ります。意義のあるものにしたいです。
鴻上 しんたは……痩せて良かったねとお客さんが思ってくれるといいなと思います。
安西 ハハハ、オチみたいじゃないですか(笑)。最後まで体だけでなく心に向き合っていきたいと思います。
鴻上 でもまだ分からないからね。初日が開いてほっとしたら毎晩ラーメンとか食いだすんじゃない?(笑)
太田 初日が開いたら鴻上さんはいないですよね。
鴻上 それがいるんだよ。もっくんが出てくれた『スク―ルオブロック』のような外部主催の公演ではフェードアウトすることもあるけれど、サードステージの公演は僕が代表だし、最後まで見届けるからね。
【プロフィール】
こうかみしょうじ○愛媛県出身。早稲田大学在学中の1981年に劇団「第三舞台」を結成(2011年解散)。『朝日のような夕日をつれて』『天使は瞳を閉じて』、『トランス』ほか数多くの作品を発表。97年に演劇ワークショップのリサーチのため渡英。海外公演では、『TRANCE』(07年)、『Halcyon Days』(11年)をイギリスで上演。俳優育成のためのワークショップや講義を精力的に行うほか、表現、演技、演出などに関する書籍を多数発表。作・演出だけでなく、小説家、ラジオパーソナリティ、映画監督など多岐にわたる分野で活躍中。
こせきゆうた○東京都出身。子役として芸能活動をスタート。その後、ミュージカルや舞台、様々のドラマや映画に出演。最近の出演作品は、【舞台】『キングダム』(23年)、『ジャンヌ・ダルク』(23年)、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』(24年)、【ドラマ】『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS)、『御曹司に恋はムズすぎる』(関西テレビ)、『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ) 『いつか、ヒーロー』(朝日放送テレビ) 、【映画】『モアナと伝説の海2』(24年日本語吹替版・声の出演)など。
おおたもとひろ○東京都出身。ミュージカルや舞台の人気作品を中心に確かな演技力と歌唱力で存在感を発揮している。最近の出演作品は、【舞台】ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズ、演劇調異譚「xxxHOLiC」シリーズ、ミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』、『音楽劇 ライムライト』、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』、ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』など。
あんざいしんたろう○神奈川県出身。俳優としてだけでなく自身で企画・プロデュース・主演を務めた一人舞台『カプティウス』(20年)を上演するなど活動の場を広げている。最近の出演作品は、【舞台】『哀を腐せ』(23年)、『演劇【推しの子】2.5 次元舞台編』(24年)、『朝日のような夕日をつれて2024』(24年)、『しばしとてこそ』(25年)、【映画】短編オムニバス『Moirai(「母と牛と」)』(25年)など。

【公演情報】
KOKAMI@network vol.21『サヨナラソング―帰ってきた鶴―』
作・演出:鴻上尚史
出演:小関裕太 臼田あさ美/太田基裕 安西慎太郎
三田一颯・中込佑玖(Wキャスト) 渡辺芳博 溝畑藍 掛裕登 都築亮介
●8/31〜9/21◎東京公演 紀伊國屋ホール
〈チケット問い合わせ〉サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日12:00〜15:00)
●9/27・28◎大阪公演 サンケイホールブリーゼ
〈チケット問い合わせ〉キョードーインフォメーション 0570-200-888(平日12:00〜17:00)
〈公式サイト〉https://www.thirdstage.com/knet/sayonarasong/
〈公式X〉@sayonarasong
【インタビュー◇木俣冬 撮影◇中村嘉昭 [小関]ヘアメイク◇堀川知佳 スタイリスト◇吉本知嗣 [太田]ヘアメイク◇車谷結 スタイリスト◇小島竜太 [安西]ヘアメイク◇武井優子 スタイリスト◇中村剛(ハレテル) [安西]衣装協力/Kiryu Kiryu】