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加藤藤健一事務所『請願』まもなく開幕! 加藤健一・増子倭文江・堤泰之 インタビュー

増子倭文江・加藤健一・堤泰之

加藤健一事務所の2025年ラインアップの締めくくりとして、老夫婦の愛と核兵器問題を見事に融合させたブライアン・クラーク作の二人芝居『請願』が、12月3日〜14日に下北沢・本多劇場にて上演される。本作は11年ぶりの再演で、共演には、加藤健一事務所作品には初登場の増子倭文江、演出は加藤健一事務所では『サンシャイン・ボーイズ』や『灯に佇む』などでおなじみの堤泰之が担当する。

ロンドンの高級住宅街で穏やかに暮らす老夫婦。退役軍人の夫・エドムンドと、病弱の妻・エリザベス。ある日、エドムンドは核兵器反対の請願署名にエリザベスの名前を見つけて憤る。退役後もなお国家への忠誠を貫くエドムンドにとって、妻の行動は決して見過ごせるものではなかった。夫婦の議論が進むなか、互いに知らなかった真実が明らかになっていく────。

今なお世界を覆う核兵器という影を背景に、とある老夫婦の愛が静かに深まりゆくこの物語で、退役軍人のエドムンドを演じる加藤健一、その妻エリザベスの増子倭文江、そして演出を手掛ける堤泰之が作品や役柄について話し合う。

夫婦愛の視点でもう一度上演したいと

──この作品は加藤さんにとっては11年ぶりの再演になりますが、今回上演しようと思った経緯は?

加藤 この作品は夫婦愛の話なんですが、同時に「核保有」についての問題も語られます。今こういう世界情勢になったからこそ、どうしても上演しておきたいという思いがありました。前回の上演時は、アメリカではオバマ大統領が核保有を削減するという提言をした時期でしたから、僕自身この作品でそれを大きく打ち出したいと思っていたのですが、後で読み返すうちに、これはやっぱり夫婦愛の話だなと。その視点でもう一度新しい形で上演したいなと。それもあって今回、増子さんと堤さんにお願いしました。

──堤さんは加藤健一事務所公演では、『サンシャイン・ボーイズ』のようなコメディも『灯に佇む』のようなシリアスな作品も演出しています。この作品にはどんなふうに取り組もうと?

堤 僕は最初はコメディ班だと思っていたんですが、いつのまにかシリアス班でもやるようになりました(笑)。この作品は出演者が二人で、そのお二人が素晴らしい俳優なので、僕のやることはあまりないのですが、そのうえで出来ることは、いかにお客さんに飽きないで観てもらえるかということで。ずっと夫婦が室内で話をするだけなので、そこにいかに動きをつけて、お客さんを惹きつけていくかが僕の仕事だと思っています。

──1980年代のロンドンの高級住宅街の屋敷ということで、舞台セットもかなり豪華ですね。

堤 大豪邸なんです。エドムンドは退役軍人なので、応接間に勲章とか詔勅の辞令とか、大英帝国時代のインド地図とかそういうものを飾って、エドムンドという人物の背景を想像できるようになっています。ただ、この夫婦は社会的にはセレブなんですが、夫婦関係においてはちょっとセコかったり、嫌らしかったりするので(笑)、そういうギャップも面白がっていただけるといいなと思っています。

──増子さんは、二人芝居は初めてだそうですね。

増子 一人芝居とか二人芝居とかあまりにもたいへんそうなので、私は一生しないだろうと思っていたのですが、こんな出会い方をしてしまって(笑)。本を読んでみたら、このままだったら核で世界が滅びるという、エリザベスが自分の死を目前にしているからこそ感じている想いがとても印象的で、私も年代が近いことで残りの人生を誠実に動いていかないといけないなと。そこが私にこの作品をやらなくてはいけないと思わせてくれたところです。でも引き受けてみたらやはりたいへんで(笑)。

──加藤さんは一人芝居や二人芝居はお得意ですね。

加藤 得意というわけじゃないけど、いろいろやってます。

増子 だから私はおんぶにだっこです(笑)。

自分の死を意識したときに誠実になる

──今回、増子さんをエリザベス役にと思ったのは?

加藤 出ていらっしゃる舞台はよく拝見していて、いつも良い女優さんだなと感動していましたし、いつかご一緒したいと思っていたんです。それでこの作品を再演しようと思ったとき、すぐに増子さんがいいなと。

──エリザベスは最初は普通の主婦ですが、晩年近くなってから政治に目覚める女性です。

増子 もともと本人にそういう素養があったからだと思いますが、オープン大学の通信講座を受けたりするうちに、何が大事なのか、何をしなければいけないのかということが、はっきりしてくる。それで自分の死というものを意識したときに、ものすごく誠実になるのだと思います。何かを残していかなくてはいけないと。彼女のキャラクターではまだわかりにくいところがあるんですが、そこはとてもわかります。

──「この世界の現実とか自分が不安に思っていることから目を逸らしてはいけない」というようなセリフもありますね。

増子 そのためにもちゃんとしようと。そういう感覚は、私にとっても他人事ではないんです。女優という仕事の中でも、できることがあれば表現していかなくてはいけないと思いますから。

──そんな妻の変化に衝撃を受けるエドムンド役ですが、加藤さんはどう演じようと?

加藤 難しいですね。軍人という堅さと、意外に子どもっぽい部分とがあって、その出し方について堤さんにいろいろ指摘していただいているところで、自分の中には柔らかさしかないし、子どもっぽい部分ばっかりですから(笑)。でもとても良い話なので、またエドムンドはやりたいなと思っていたんです。

──エドムンドは親の代から軍人で、そこに誇りを持ってきた人ですね。妻の行動が理解できないのも仕方ない気もします。

加藤 父親は元帥という最高位まで行った人で、そんな人を親に持つとか想像できないのですが。ただ、彼は妻と根本的な部分で違っているわけではなくて、意見の相違は「核保有」についてだけで、国を護るという意味で「核の抑止力」は有効だと思っているわけです。2025年の今となってみればもう抑止力どころか、いつ使用するかわからない状況になっていますが、当時も今も軍人の中には「核」をなくすことなど考えられないという人がほとんどじゃないかと思います。そういう人の妻が「核兵器反対」の請願署名をしたことが許せなかったのでしょうね。

──堤さんは、エドムンドという人をどう捉えていますか。

堤 全体的に言えばピュアなんだと思います。父親は元帥だし、自分も大将まで行った人なので、その立場からの戦争とか核についての考えかたはそんなにおかしなことは言ってない。ただ、であるがゆえに妻に対しての接し方がちょっと歪になっている。そこが見えてきたら面白いんじゃないかと思っています。

加藤 エドムンドは請願に署名した妻にずっと怒りをぶつけていますが、それはおそらく世間体なんですね。一番自分に賛成してくれなくてはいけない妻が反対しているなんて、世間がどう見ると思ってるんだと。50年以上一緒にいて一度も反対したことがなくて、政治的なことでも味方だとばかり思っていた妻が、まったく反対のことを思っていた。そして行動したことが許せないんでしょうね。

喧嘩ではなくあくまでも議論

──そんな夫に真正面からぶつかるエリザベスはすごい女性ですが、実は二幕のほうで他の男性との恋愛の話も出てきます。

増子 彼女は夫をとても愛していたし、信頼していたと思うんです。でもたぶん満たされない何かがあったのかなと。エリザベスのセリフに「あなたには愛人がいたわ」という言葉がありますが、彼を戦争と軍隊に取られていた。「ずっと私はひとりだった」というセリフもあるように、物理的にも心理的にも孤独だったんじゃないかと思います。

加藤 エリザベスは「戦争に行っているとき、あなたは生き生きしている」と言うんですが、エドムンドから言えば、一生懸命働いて良い家や家具を買って与えている。それで満足してくれという、よくサラリーマンの方にもいるような考え方なんでしょうね。

堤 昭和のモーレツサラリーマンにはよくいたタイプですよね(笑)。

増子 二幕でエリザベスが「こんなに喋ったのは30年ぶり」と言うんですが、それはいつもはほとんど喋ってなかったということで。本当に怒濤のようにエリザベスは喋るんですよね。それは彼女の中では、夫への愛の確認でもあるのかなという気もします。

堤 だから僕としては、ふたりが喧嘩して言い合っているようにはしたくないんです。イギリス人は議論をするのが好きですからね。あくまでも議論であって、感情的な言い合いにはしたくない。ただそれぞれがこの議論によって感情が動くし、気持ちも変わっていく。そこがこの芝居の一番の面白さだと思います。

──基本的にこの夫婦の中には、お互いをリスペクトする気持ちがあるのでしょうね。

加藤 エドムンドは「君以外の女性に目を向けたことはない」と言いますからね。

増子 それも2回ぐらい言うんですよね。

堤 でも同時に、エリザベスが「浮気していただろう」とも言うんです。ずっとそれを知ってて黙っていて、でもここで言う。そういうところがエドムンドの子どもっぽさというか歪な部分であり、人間くささかなと。

加藤 たぶんエドムンドにしたら、本当はもうその話はどうでもよくて、妻の余命を知った悲しみの中で、へんな怒りのようなものが、一度に溢れてきたんじゃないかと。

堤 そういう意味では、エリザベスも余命のことを夫に黙っていましたからね。

増子 私もそこはちょっとわからないところです。

加藤 お互いにそういう歪なところがある夫婦なんでしょうね。でもこの夫婦は、相手を認め合う気持ちがあるし、エリザベスの病気のこともあって、平和協定ではないけれど、最終的にはお互いをもっと理解していこうとする。そこがとてもいいなと思いますね。

「この二人だとこうなるんだ!」という面白さ 

──今稽古中ということですが、いかがですか?

堤 このお二人なので、とにかくお任せしているという感じで、僕はあまり言うことがないです(笑)。

加藤 増子さんとキャッチボールをずっとしているわけですが、その返ってくる球がすごく面白くて、キャッチボールのし甲斐がありますね。「増子さんいい球投げるな」という(笑)。

増子 いえいえ、加藤さんがドーンとしていらっしゃるから、何をやっても安心です。きちんと受け止めてくださるので。でも二人芝居って本当にたいへんですね。

堤 セリフがとにかく膨大ですからね。

加藤 しかも日常語ではなく核とか戦争とかそういう話が多いので。でも二人芝居ならではの魅力というものがあって、この作品なら、作者のブライアン・クラークが書いてくれたドラマを観せるという部分と、役者を観せるという部分があって、物語で感動してもらうのと同時に、「この二人だとこうなるんだ!」という、もう1つ別の楽しみ方がある。落語の独演会じゃないけれど、この人はこうやるのか!という面白さなんです。

増子 それなんとなくわかります。役だけじゃなく、なんかその人自身とか、人間関係なども見えてきちゃうんでしょうね。

──ますます公演が楽しみになりました。最後に改めてお客さまへのメッセージをいただけますか。

増子 大人の芝居だと思います。それは別に若い人たちは観なくていいという意味ではなくて、大人の視線とか感覚に堪える芝居で、そういう作品はそんなにありませんので、ぜひ観ていただきたいです。そしてシリアスな芝居のようですが、この夫婦二人のズレの可笑しさなどは堤さんがちゃんとピックアップしてくださるので、そういう豊かな芝居に稽古の中でちゃんと育てていきたいと思っています。よろしくお願いします。

加藤 ものすごくセリフ量が多くて二人で機関銃のように喋る芝居で、内容も濃いのですが、お芝居そのものは休憩15分を入れても2時間ぐらいですので、気軽に楽しみに来てください。

堤 加藤さんと増子さんを観ていただく芝居です。僕は40数年演出という仕事をしていますが、一番ダメ出しの少ない芝居です。何も心配していません(笑)。

加藤健一・増子倭文江・堤泰之

■PROFILE■ 
かとうけんいち○静岡県出身。1968年に劇団俳優小劇場の養成所に入所。卒業後は、つかこうへい事務所の作品に多数客演。1980年、一人芝居『審判』上演のため加藤健一事務所を創立。その後は、英米の翻訳戯曲を中心に次々と作品を発表。紀伊國屋演劇賞個人賞(82、94年)、文化庁芸術祭賞(88、90、94、01年)、第9回読売演劇大賞優秀演出家賞(02年)、第11回読売演劇大賞優秀男優賞(04年)、第38回菊田一夫演劇賞、第64回毎日芸術賞(22年)、他演劇賞多数受賞。2007年、紫綬褒章受章。第70回毎日映画コンクール男優助演賞受賞(16年)。2024年、春の叙勲 旭日小綬章受章。2025年12月『芝居狂 役者・加藤健一』を刊行(中村義裕著/東京堂出版)。

ますこしずえ○栃木県出身。1982年から2023年まで劇団青年座で活動。舞台やドラマで活躍中。第22回読売演劇大賞優秀女優賞受賞(『ボビー・フィッシャーはパサデナに住んでいる』『地の乳房』)、第27回読売演劇大賞優秀女優賞受賞(『荒れ野』)。最近の出演舞台は、『楽園』(新国立劇場)、『闇に咲く花』(こまつ座)、『ヒストリーボーイズ』(CEDAR)、『フロイス─その死、書き残さず─』(こまつ座)、『ザ・ヒューマンズ─人間たち』(新国立劇場)。今後の出演予定に、舞台『大地の子』(明治座) 、TVドラマ『令和版 渡る世間は鬼ばかり』(BS-TBS)が控える。

つつみやすゆき○愛媛県出身。劇作家・演出家。東京大学教育学部中退。在学中よりネヴァーランド・ミュージカル・コミュニティにてオリジナルミュージカルを創作。1992年、プラチナ・ペーパーズを設立し、幅広いジャンルの脚本・演出を手がける。 また1995年にスタートさせたオーディションシステム「ラフカット」は若手役者の登竜門となった。加藤健一事務所公演では、『誰も喋ってはならぬ!』『煙が目にしみる』『Out of Order~イカれてるぜ!~』『サンシャイン・ボーイズ』『灯に佇む』などを手がけている。

  
【公演情報】 
加藤健一事務所『請願』
作:ブライアン・クラーク
訳:吉原豊司
演出:堤泰之
出演:加藤健一 増子倭文江
●12/3~14◎下北沢・本多劇場
〈料金〉前売6,600円 当日7,150円 高校生以下3,300円[当日券のみ取り扱い、要学生証提示](全席指定・税込)
〈チケット問い合わせ〉加藤健一事務所 03-3557-0789(10:00~18:00 ※公演期間中は10:00~18:00)
〈公式サイト〉http://katoken.la.coocan.jp/122-index.html

【構成・文/榊原和子  撮影/松山仁】