
すべての方に「これが観たかった!」と感じてもらえる舞台を目指していく
小野不由美による、大河ファンタジー小説「十二国記」が、12月東京日比谷の日生劇場で、世界初演の日本オリジナルミュージカル『十二国記 ‐月の影 影の海‐』として幕を開ける。
1991年に刊行された『魔性の子』から始まり、翌年刊行された『月の影 影の海』でシリーズ化された「十二国記」は、30年以上に亘り熱烈な支持を受けながら書き継がれている日本が誇るファンタジー小説の金字塔。今回は大河小説のはじまりである『月の影 影の海』をミュージカル化。日本オリジナルミュージカルに精通した強力なクリエイター陣が集結し、我々が住む世界と、地球上には存在しない異世界とを舞台に繰り広げられる作品のなか、主人公の女子高校生・中嶋陽子を、現世の「陽子」と、異界に連れ去られた後の「ヨウコ」として、二人の女優が演じるのをはじめ、様々に斬新なアイディアが詰まった作品が紡がれようとしている。
その舞台で、「ヨウコ」を演じるのが、宝塚歌劇団元花組トップスターの柚香光。類い稀なビジュアルとダンス力、また深い芝居心で宝塚に旋風を巻き起こし、退団後も意欲的な舞台活動を続けている柚香に、東宝ミュージカル作品初主演となる作品に臨む想いを聞いた。
「わたしは、わたしだ」の深い言葉を大切に
──まずヨウコ役のオファーを受けた瞬間の気持ちはいかがでしたか?
東宝ミュージカルに主演でというお話でしたので、まずありがたくて光栄で、すごく嬉しかったというのが最初の気持ちでした。そしてそれだけに、プレッシャーも感じているのが正直なところで、身の引き締まる思いでおります。
──「十二国記」という作品の魅力についてはどう感じていますか?
ひとりの読者として感じたのは、自分自身の生き方を問いかけられる作品だなということでした。問題に直面したときの乗り越え方や、自分の欠点との向き合い方を、常に問われているような感覚で、すごい作品に出合わせていただいたと思っています。
──その世界の主人公、中嶋陽子の現世と異世界での存在を、柚香さんと加藤梨里香さんがお二人で演じられるというのも、今回の脚色の非常にユニークな点だと思いますが、異世界に迷い込んだヨウコを演じる柚香さんが、大切にされていることはなんですか?
梨里香ちゃんが演じる陽子のキャッチコピーが「あたし、家に帰るっ…!」で、私のヨウコが「わたしは、わたしだ」というところにも表れていると思うのですが、異世界に行ってから、置かれている環境が刻々と変わっていくなかで、どんな過酷な状況に直面しても「わたしは、わたしだ」ということに気づき、自分の中にその意識が太い芯として残ったのが、彼女の一番大きな成長であり変化なのではないかなと思います。現世にいる間は、親や先生、同級生など常に周りにいる人たちの顔色をうかがって、「いい人だ」「いい子だ」と思われるように、そこに価値観を見出して日々の振る舞いを選択していた彼女が「わたしは、わたしだ」と言えるようになった。それは本当に大きなことで、色々な気づきや思いが含まれているとても深い言葉だと思うので、ヨウコのなかに芽生えたその意識は大切にしていきたいです。
──想像していた以上に異世界のヨウコと現世の陽子の自問自答と言うのか、魂の会話が脚本のなかに具現化されていると感じましたが、お二人のなかで役柄の核を、どう共有していかれようと?
二人ひと役ということで、本当に二人で一人の人物を演じるんだということ、梨里香ちゃんとお互いに目線を揃えて稽古を続けていくことを、まず根底に置いて大切にしていきたいと思っています。その上で役柄の核となるものは、やはり原作へのリスペクトだと思っていて。演出の山田和也さんも、「二人が同じ言葉を同じように理解して役に向かっていくことがとても重要です」とおっしゃっているので、そこを強く意識することが大事だなと思っています。
原作世界をより深めていく
──そうした原作へのリスペクトというところに通じるのかな?と思いますが、原作書影のオマージュビジュアルが素晴らしい再現度で見惚れるほどですが、撮影された時のエピソードはありますか?
まず私自身あの書影が大好きで、こちらを見つめている目の力も含めて本当に素敵で、なんてカッコいいんだろうと感じていましたので、細かなところまでなんとしても再現したいと。背筋や腰や指先の角度、顔の振り返り、スカートのラインなど、全てを再現しようと思ったので、結構身体は筋肉痛になりそうな状態でした(笑)。スタッフの方たちとも「こうじゃないか」「もっとこうだよね?」と、意見を出し合いながら、第一番に書影へのリスペクトを大切に撮影させていたたぎましたので、素晴らしいと言っていただけて嬉しいです。
──拝見した途端「あぁ、本当に『十二国記』がミュージカルになるんだ!」という実感が湧いた瞬間でもありましたから。
ありがとうございます。あとはあの時点でのヨウコは、異界の海を渡ってボロボロになりながら戦っている、不安や葛藤や迷いがあふれているのですが「でも家に帰るんだ、わたしは絶対に生きて家に帰るんだ」という思いが何よりも強い、そういったヨウコの心情も表現したいと思いながら撮影していました。ですから私自身もこのビジュアルを前にすると、改めて「十二国記」の世界に導かれるような気持ちになります。
──そうした原作への強い想いというところで、宝塚時代にも『はいからさんが通る』『花より男子』『ポーの一族』など、大人気原作作品に多く出演していらっしゃいますが、オリジナル作品と原作がある作品とで、創り方に違いを感じるところはありますか?
やはり原作がある作品と、オリジナルで一から創るものとでは、演じる上でも大きな違いがあるなと思います。原作がある場合は、まずその原作が第一というところが根底にありますので、オリジナルのようにキャストの個性によって試行錯誤して、役を構築し幅を広げていくというよりは、原作世界をより深めていって、その魅力を具現化し、体現していくというところに最も意識がいくので、そこが一番大きな違いかなと思います。
一期一会の出会いから得るたくさんのもの
──これまでの原作がある作品での、柚香さんの見事な演じぶりに得心がいくお話ですし、『十二国記』への期待が高まりますが、ヨウコとして立たれる日生劇場の印象はどうですか?
日生劇場は観劇に伺う度に本当に素敵な劇場だなと感じてきました。劇場の持つ空気感がとても上品で、入った瞬間にこれから観る舞台への期待が一気に高まるというか、劇場に来たぞ!という気持ちが高まる香りがとても好きです。そんな劇場の舞台に今回初めて立たせていただけるのがすごく楽しみです。
──そんな新たな劇場、新たな作品というところで、前回「えんぶ」にご登場いただいた時にお話を伺ってから、この『十二国記 ‐月の影 影の海‐』に至る間に、劇団☆新感線の『紅鬼物語』、またゲストアーティストと言うより、ずっと世界ツアーをご一緒に回っていらっしゃるのでは?と見まごうほど、カンパニーのお一人として溶け込んでいらした『バーン・ザ・フロア2025』と、大きな舞台が続きましたが、一つひとつ新しいカンパニーに出会いながら、新しい劇場とも出会いながらという、いまの歩みについてはどうですか?
「はじめまして」の方たちと作品を創らせていただくのは、やはりすごく新鮮なことですし、様々な出会いのすべてから発見や教えがあるので、その時々のカンパニーの皆様とご一緒する一期一会の時間がとてもありがたいなと思っています。『紅鬼物語』の紅子は「鬼」という人ではない存在でしたけれども、だからこそ人間について深く考える機会をいただきましたし、『バーン・ザ・フロア2025』では、言語や文化を越えてダンスを通じて、音楽を通じて会話をする、という感覚を覚えることができました。そういった学びを一つひとつ得られるのは本当に嬉しいことですが、それと同時にひとつの作品が千穐楽を迎えたら、皆様とそこでお別れしなくてはならないことには、まだ慣れていないところがあって、いつもとても寂しくなってしまうんです。今回も梨里香ちゃん、太田基裕さん、牧島輝さん、相葉裕樹さんをはじめ、様々な経験を積まれた「はじめまして」の皆様とご一緒させていただけるので、共有できる時間の一瞬、一瞬を大切にしながら作品に向かっていきたいです。
──その成果を心待ちにしています。最後に是非楽しみにされている方たちにメッセージを。
観に来てよかったと、原作小説も素晴らしいけれどミュージカルもこんなに素晴らしいのかと、これが観たかった、こういう舞台に出会えてよかったと思っていただける、原作ファンの皆様、ミュージカルファンの皆様、どちらも「はじめまして」の方々、そして私のファンのみんな、全ての方にそう思ってもらえるよう、誠実に務めて参りたいなと思っています。是非劇場にいらして下さい! お待ちしています。
プロフィール
ゆずかれい〇2009年宝塚歌劇団に95期生として入団。華やかな容姿とスター性、卓越したダンス技術で注目を集めて躍進。2019年花組トップスターに就任以降は『はいからさんが通る』などの漫画原作作品から、宝塚歌劇の名作の再演まで様々な役柄を演じ唯一無二のトップスターとしての地位を確立した。2024年5月退団後は自身初のソロコンサート『TABLEAU』、宝塚OGが集結した『RUNWAY』、『マチュー・ガニオ スペシャル・ガラ ニューイヤーコンサート』劇団☆新感線 いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective『紅鬼物語』『バーン・ザ・フロア2025』と多彩な舞台で活躍を続けている。
インタビュー◇橘涼香
撮影◇中村嘉昭
ヘアメイク◇小林雄美(ヘア)/佐藤裕太(メイク)
スタイリスト◇宮増芳明
衣装◇グロッセ(人差し指、小指リング)
グロッセジャパン 03-6741-7156(月~金 10:00~17:00)




