
2026年もまた熱く若々しい舞台を!
新年の浅草の風物詩として人気の公演、そして若手花形歌舞伎俳優の登竜門でもある「新春浅草歌舞伎」の2026年の公演が、1月2日に浅草公会堂にて華々しく幕を開けた(26日まで)。
出演する俳優にとって将来の持ち役となる可能性も見すえた演目と配役で、歌舞伎通にも新しいファンにも必見の公演だ。
その公演に昨年に続き出演する中村莟玉と中村鶴松は、共に一般家庭から歌舞伎界に入り、その才能を磨きながらこの浅草の舞台でも活躍してきた。また、19歳という若さで目覚ましい成長を見せている尾上左近も、昨年からの連続出演となる。左近は三代目尾上辰之助に、鶴松は初代中村舞鶴に、それぞれ襲名を控えていて、浅草には今の名前では最後の出演ということも話題だ。そんな三人に公演を前に挑戦する役やお互いについて語ってもらった。
「新春浅草歌舞伎」で得た大きな収穫
──まずは2025年1月の「新春浅草歌舞伎」を振り返って、それぞれどんな収穫がありましたか?
莟玉 先輩からどうぞ(笑)。
鶴松 (笑)、『絵本太功記 十段目』に関していえば、十次郎は(松本)幸四郎さんに教わったのですが、ちゃんとした大人の役を幸四郎さんに教わる機会が初めてだったんです。僕は普段は「中村屋」という枠のなかで公演に出ていますので、(中村)勘九郎の兄や(中村)七之助の兄に教わることが一番多い。今回は二人がいない状況で幸四郎さんに教わったことが一番大きな収穫でした。役としては、できないことだらけだったので「収穫」とは言えないかもしれませんが、出ている仲間もスター揃いのなかで十次郎を1ヶ月勤められて、勇気みたいなものはついたのではないかと思います。
──幸四郎さんに教えていただくなかで、これまでと違ったことは?
鶴松 ダメ出しをWordで箇条書きにして送ってきてくださって、それがすごく印象的でした。そんな経験はなかったので。今までの稽古では、わりとその場でダメをバーッと300個ぐらい言われて、覚えきれなくて、よくわからないまま「録音しておけばよかった」と思いながらやっていました。それが1つ1つ細かく丁寧に教えていただけて嬉しかったですし、こういう教え方もあるんだと思いました。
──莟玉さんはいかがでした?
莟玉 「新春浅草歌舞伎」は、僕が前名の梅丸時代から出させていただき、育てていただいてきた公演です。演目名のすぐ後の書き出し(最初に書かれる俳優名)に自分の名前が単独で来る経験も初めてでしたし、それを20代でできたことは、ものすごく贅沢で大きな収穫だったと思います。これを「新春浅草歌舞伎」だけのことにしてしまうのかどうかというのは本当に自分次第ですが、とりあえず演し物をするという経験のスタートをさせていただけたことがすごくありがたかったです。
──その嬉しさと一緒に、責任も感じられたのでは?
莟玉 そうですね。演目自体への責任は当然いつでもありますが、やはりそれ以上に、自分の演し物としてやるというのは、公演そのもののクオリティに関わることだということを改めて勉強させていただいて、それはとても貴重な経験だったと思います。新しいメンバーになって1年目だったということもありますが、引っ込み思案ではいられないというか、むしろそんな余裕なんかないという感じの1年目でしたね私は外の世界から歌舞伎の世界に入らせていただきましたが、今こうしてやらせていただいている身としては、「自分がだめだとこの公演ごとだめになる」という怖さを感じられたことは、当たり前ではなくとても得がたい経験でした。
──左近さんは?
左近 昨年初めて新春浅草歌舞伎に出演させていただき、一番印象に残ったのは、やはり『絵本太功記 十段目』の初菊をさせていただいたことです。昨年一年でいろいろな経験をさせていただいたなか、今もまだまだですが、当時は女方として本当に基礎の基礎もわからない状態でした。その状況で、莟玉さん、鶴松さんという女方の先輩がいるなかで初菊を勤めさせていただけたのは、本当にありがたい経験でした。莟玉さんが操、十次郎が鶴松さんだったので、日々、まずは可憐で可哀想な初菊を演じなければいけないと思っていました。お役自体は(中村)時蔵のお兄さんに習いましたが、女方として先輩のお二人にいろいろお聞きしながら一緒に舞台に立たせていただけたのは、本当にありがたく、励まされたような気持ちでした。
──お父様の尾上松緑さんはご覧になって何か仰っていましたか?
左近 何も言わないというとちょっと語弊がありますが、『春調娘七種』の曽我五郎では舞台稽古に来てくれました。女方とは反対に五郎のような荒事は曾祖父の二代目松緑からうちが得意としています。もちろんそういった家の芸も継いでいかなければならないので、まだまだ父にも教わることが多いのかなと思います。
鶴松 五郎もやって、初菊もやっているんだもんね。
莟玉 すごいよね、しかも同じ部でね。
左近 だから早拵え(はやごしらえ)だったんです。まだ初菊から五郎だったら何とかなりそうでしたが、逆でしたからもう…。
莟玉 大変だよね。
左近 大変でした。汗もひかないまま、かお(化粧)をしていました。
それぞれの新たなチャレンジ
──今回のそれぞれの役についてもお聞きします。莟玉さんは『藤娘』を、「藤音頭」ではなく「潮来出島」の振りで踊られると会見で仰っていました。それはお父さまの梅玉さんとも相談されて?
莟玉 もちろんです。お役のお話をいただいたとき、「潮来出島」でと言ってくださっていますが、どうでしょうか?と聞きましたら、「僕はそれでやったほうがいいと思うけど、藤間のご宗家のご意見を伺ってみなさい」と言われ、藤間勘祖先生にご相談しました。「藤音頭」はショーアップされた大人な振りですが、「潮来出島」は日本舞踊のお稽古曲でもあって、小さい子のお稽古では、ご宗家も「藤音頭」の前に「潮来出島」から始められることもあります。勘祖先生は「どっちみち今のあなたがそんなに上手に踊れるわけがないんだから、大成駒(六代目中村歌右衛門)のやり方を残すほうにフォーカスしたほうがいいんじゃない? あなたたちぐらいしかやる人がいないのだから、やっておいてちょうだい」と仰ったので、やらせていただくことになりました。「潮来出島」は、めったに本公演ではかからないので。
──拝見するのが楽しみです。鶴松さんの『傾城反魂香』のおとくは、中村橋之助さんが平成中村座でご覧になって「一緒にやりたいね」と約束されたそうですね。
鶴松 パンフレットなどでもお互いに言っていて、国ちゃん(橋之助)と「これを一緒にやろう」と約束した演目のなかで、一番に出てくるのが『傾城反魂香』というぐらい、子どもの時から二人で話していたことなので、ようやくできる嬉しさがあります。でも又平もおとくも本当に難しい役どころで、特に僕や国ちゃんが目指している、型よりも心で芝居をすることが追求されると思います。どちらに転ぶかわかりませんが、できる限りお客様に涙を流していただいて、感動して最後はハッピーオーラで帰っていただけるように勤めたいです。
──左近さんは、『石切梶原』の梢についてはいかがですか。
左近 梢は、今年の初菊に引き続き、時蔵のお兄さんに教えていただきます。今年の10月に『義経千本桜』の通し狂言がかかって、そこで半月ですがお里を勤めさせていただきました。お姫様の役はいくつかさせていただきましたが、娘役はそれが初めて。覚悟はしていましたが、女方というのは大変なんだなとその時に痛感しました。着物はベラベラまとわりつくし、お里は最大限にいろいろ頑張って動き回っても、最後はずっとうずくまっていなくてはいけないし…。時蔵のお兄さんには「お里をやったら、お前は女方が嫌いになるよ」と言われました(笑)。もちろん嫌いにはなりませんが、お里をさせていただいて、自分には女方としてのスキル、実力が全く足りていないなと、壁にぶち当たった感覚があって、当たり前ですが、声の出し方や形、動き方など全てにおいて、なおいっそう勉強しないといけないなと思っていました。そのなかで、若手の勉強の場である「新春浅草歌舞伎」で、また娘役である梢をさせていただき、その壁に再度挑めることは本当にありがたく、努力をしたいと思っております。

ナチュラルで良い空気感の一座
──新しいメンバーになってからの、一座の雰囲気などはいかがですか?
莟玉 特に「雰囲気を作る」ということでもないのですが、みんながそこにいる時のナチュラルな空気感というのは、橋之助さんがすごく大事にしているポイントで、みんなが自然体でいたことが一番良かったんじゃないかと思います。
鶴松 本当に素敵なメンバーで、これからみんなスターになっていく人たちですから、そのなかで埋もれないように、今後自分も頑張っていかないとと思いました。若手として「新春浅草歌舞伎」に出ていた人たちが、各々別の劇場でいろいろな舞台をやって、また集まったときは一緒に良い舞台を作り上げていく。そこで肩を並べていける役者になっていかないといけないと思っています。
左近 橋之助さん、莟玉さん、鶴松さん、この世代の方々が本当に良い空気感を作ってくださいましたし、すごく入りやすかったですね。2026年も少しメンバーは変わりますが、兄さんたちがいてくださるので、僕は本当に安心して舞台に打ち込めます。
──お互いのことについても伺いたいのですが。俳優同士としてこの人のこういうところが良いなと感じることなどは?
莟玉 まず、つる(鶴松)は中高が一緒で、2学年先輩ですが、僕の1年前に部屋子になっていて、ご本名で出演している時からもうスーパースターでした。お客様もご存じだし、幕内も当然みんな彼の存在を知っている。いつも中村屋のおじ様(十八代目中村勘三郎)の舞台に出ていて、うちの親の梅玉とも『義経千本桜』の義経と安徳帝で共演していましたから、自分から見たらとても遠くにいる存在でした。つるが部屋子になった時は、そもそも部屋子の登場自体がすごく久しぶりでしたし、まだ僕も部屋子になることを知らなかったので、驚いたのを覚えています。その後、自分も部屋子になりましたが、だいたいどの役もつるがやった後に回ってくるので、映像を見ては「上手い!ハードルが高すぎる」とずっと思わされていました。普段は座組が一緒になることが本当にないので、自分もいろいろお役を経験して、もういい加減追いついただろうと思ってつるの舞台を観に行くと、「え!もうそんなところにいるの?」みたいな。よく「ライバルは誰ですか」という質問がありますよね。僕のなかでは、悔しいとか「この人に負けたくない」と思えてこそライバルなので、そう思えるのはつるしかいないですね。本当にお尻を叩いてくれてありがとうございますという感じです。怠けがちな自分が、この人を見ると悔しいと思える。この間、つるの自主公演の「鶴明会」に出させてもらって、それを改めて感じました。
鶴松 丸(莟玉)が言った通り、今は養子となっていますが、ずっと部屋子同士として、文字通り切磋琢磨してきた関係性でした。実際にあまり同座することがなく、遠いところで「丸も頑張っているから、自分も頑張らなきゃ」と思っていました。多分、お互い良いライバル関係で、刺激を与え合っていたと思います。それで、久しぶりに「新春浅草歌舞伎」で一緒になって、昨年は「鶴明会」にも出てくれたし、三谷かぶきの『歌舞伎絶対続魂』でも一緒になったし、今までを考えたら1年に3回も共演できるなんて、ありえないことでした。丸は、天性の役者が持っているべきものを全て持っている。僕はわりと外側から埋めていくような、考えちゃうタイプですが、丸は役になったらその場でポンといろんなことができるし、華もあるし、僕にないものをたくさん持っているので、嫉妬することもたくさんあります。でも良い関係性で、これからも「丸がいてくれるからこそ、負けてられないな」という気持ちになれますね。
莟玉 大河(左近の本名)は、19歳でもうこんなにしっかりしている。今の年齢で大役続きというのは恵まれているなと思うと同時にとても大変だろうなと思います。でもその経験をするに足りうる役者さんだからこそ大役が来るわけで、大河はそこを認められた人だと僕も強く思います。また、お父さまの松緑兄さんやお祖父さま(初代辰之助/三代目松緑)、そして曾祖父さま(二代目松緑)をものすごく尊敬していながら、プラスアルファで女方もやりたいという自分の正直な気持ちも大事にしている。それはちょっと前まではいなかったスタイルで、そういう存在がいることで、彼よりさらに後輩の人たちの中には気持ちが楽になる人もいるんじゃないかと、僕は勝手に思っています。プライベートの性格も含めて大好きな後輩ですね。
鶴松 僕たち三人は、みんな立役も女方もやるんですよね。ただ、両方やれば「兼ねる役者」かというと、どっちもしっかりできなきゃいけない。僕ももう30歳で、どっちか決めないといけないのですが、今でも両方やりたい人間なので、その大変さもすごくわかるんです。左近さんは、どの役を見ても19歳では考えられないくらい、本当に基礎がしっかりしていて、お化粧や衣裳の着方など、年齢が上がるほど「これでいいや」と少し疎かになりがちな部分も、人一倍研究されている。今年の「新春浅草歌舞伎」では同じ楽屋でしたが、その姿に、自分も忘れていた気持ちや姿勢を思い出させてもらいました。
左近 こういうお話って、なかなか先輩を前に言いづらいのですが。
莟玉・鶴松 たしかに(笑)。
左近 まず莟玉のお兄さんは、あまり遠慮せずに言うと、僕はめっちゃ好きで。
莟玉 ほう! 嬉しい(笑)。
左近 『勢獅子』という踊りに出させていただいた時に、大人の役をさせていただくようになってから初めてぐらいでお兄さんとご一緒したのですが、隣にいて、役でちょっと話しかけたりするとめっちゃ可愛くて、超照れちゃうんですよね。
鶴松 それ、シンプルにわかる(笑)。
左近 三谷かぶきを観ても「なんでこんなに可愛いんだろう」と思っていました。でもそれは単にビジュアル的なものだけではなくて、やはり役になりきる技術や、その人から滲み出るものなので、そういったところは本当にまだまだ自分に足りない、勉強しなければならないところです。『勢獅子』では「この人にふさわしい男になりたい」と思いながらやっていましたが、それからいろいろあって、僕も女方をさせていただくようになって、だんだんそこから離れていきそうで。
莟玉・鶴松 (笑)。
左近 その時とはまた違う形ですが、こうやってご一緒させていただく機会が増えて、本当に嬉しく思います。ずっと見ていたい、勉強させていただきたい先輩です。そして鶴松さんは、今年の「新春浅草歌舞伎」でほぼ初めてご一緒して、第一印象は「めっちゃ熱いな!」と。しかも本当に汗をかかれていて。
鶴松 それ、ただの汗っかきの話をしてるだけじゃん(笑)。
左近 違う、違う!(笑)。一緒にお芝居をしていると、僕が手を抜いているみたいに見えるのではないかというぐらい、とてつもない熱量でお芝居をされている。いろいろな役をさせていただくなかで、僕はまず「この役をやっていないかな」と調べてしまうのが十八代目の勘三郎さんなのですが、鶴松さんにはやはり「中村屋の血」が濃くあると思っています。そこで修業をされて、中村屋の色を持っている先輩で、本当にエネルギッシュ。十八代目の勘三郎さんは、女方をなさるにしても、もちろんお綺麗ですが、やはりエネルギーが一段とすごくて、女方ながら、見得の切り方ひとつでも本当に格好良い。後輩の僕なんかが言うのはおこがましいですが、やはりそういうものを鶴松さんにも感じます。本当に素敵で、お人柄がとても良いので、ついつい甘えてちょっと変なことも言ってしまいますが(笑)、人としても尊敬する、こういう大人になりたいと思う方です。
鶴松 まあよしとするか…(笑)。
莟玉・左近 (笑)。

全身全霊をかけて、お客さまを楽しませたい!
──皆さんの関係性も垣間見えて、ますます公演が楽しみになりました。最後に、劇場にお越しになるお客さまへメッセージをお願いいたします。
莟玉 メンバーが変わってから、2年目の公演です。1年目に「新春浅草歌舞伎」はこういう感じかとわかってくださったお客さまにも、改めて公演そのものを楽しんでいただけるラインナップになったと思います。僕らの世代がいかにお客さまを楽しませられるか、全身全霊でやっているところを観に来ていただけたら嬉しいですし、今年なんらかのきっかけで歌舞伎に興味を持ってくださった方にとっては、「これが歌舞伎だ」と思っていただけるような狂言だてになっています。「歌舞伎を観るきっかけがなくて」とよく言われますが、「新春浅草歌舞伎」は他の劇場に比べてお値段がお手頃という大きな強みもありますので、ぜひ劇場におみ足をお運びいただけたらと思います。
鶴松 若手だけでやるというのが、この新春浅草歌舞伎はメインなので、若手らしいパワーのある舞台をお届けしたいです。お正月に浅草に行って「観に来てよかった」と思っていただけるよう頑張ります。
左近 このチームとしてのお話はお兄さん方が仰ってくれたので、ちょっと個人的な話をさせていただきます。昨年の「新春浅草歌舞伎」では、僕は立役も女方もやらせていただきました。今年は、最後の演目の舞踊まで一貫して女方をさせていただきます。先ほども申しましたように、まだまだ自分に足りていないところを「新春浅草歌舞伎」という若手の修業の場で勉強させていただけることを非常に嬉しく思います。もちろん、自分の修業というだけではなく、それをお客様に楽しんでいただき、喜んでいただかなければなりません。『相生獅子』や『藤娘』、『男女道成寺』など、華やかで、あまり難しく考えなくても楽しめる舞踊作品もたくさんございますので、ぜひお客様に楽しんでいただけたらと思っております。

【公演情報】
「新春浅草歌舞伎」
出演◇中村橋之助 市川男寅 中村莟玉 市川染五郎 尾上左近 中村鶴松
●1/2~26◎東京 浅草公会堂
チケットホン松竹(10:00-17:00) 0570-000-489
チケットWeb松竹(24時間受付)
〈公演サイト〉https://www.kabuki-bito.jp/theaters/other/play/951
【取材・文◇内河 文 撮影◇松山 仁】



