
1996年宝塚歌劇団雪組による日本初演以来、宝塚のみならず日本を代表する大人気ミュージカルとして輝き続ける『エリザベート』。
実在のオーストリア皇后エリザベートを、黄泉の帝王トート、またの名を“死”が愛した、という大胆な設定から織りなされる「愛と死の輪舞」は、いまも多くの観客を魅了し続けている。
そんな作品が宝塚初演から30周年を迎えた2026年、長い歴史を繋いで作品を輝かせてきた伝説のスターたちが集結し、日替わり、回替わりの豪華絢爛な夢の饗宴が繰り広げられるのが、『エリザベート TAKARAZUKA30周年 スペシャル・ガラ・コンサート』だ。
キャストの組み合わせ表を見ただけで、どの回を観劇するかの嬉しい悲鳴が上がるスペシャル企画のなか、2018年の月組公演で黄泉の帝王トートを演じた珠城りょうが、このスペシャル・ガラ・コンサートに初登場を果たすことも大きな話題となっている。
2026年2月時点で、宝塚での『エリザベート』上演史のなか、最も新しいトートである珠城が、当時の思い出とガラ・コンサートへの意気込み、また宝塚退団後の俳優としての歩みなどを語ってくれた。
“死”ではあるけれど、感情が見えるトートを
──珠城さんは『エリザベートスペシャル・ガラ・コンサート』への出演は、今回が初となりますが、出演を決めた想いから教えて下さい。
私は月組で2018年に上演した『エリザベート』でトート役をさせていただいたのですが、今回初演から30周年という記念の、節目の年のガラ・コンサートにお声がけいただいたので、ぜひ参加できたらと思いました。きっとファンの皆さんにも喜んでいただけると思いましたし、幸いそういうお声も多くいただいているので、良かったなと思っています。
──みなさん、大喜びされているというお話を私も伺っていますし、今回30周年ということでより多彩なキャストになっていますが、珠城さんご自身が楽しみにされていることは?
もちろん「はじめまして」の方もたくさんいらっしゃるのですが、エリザベート役の夢咲ねねさんやルキーニ役の宇月颯さんなど、ご縁のある方々とは役柄的にも結構しっかり絡めるので、すごく楽しみにしています。皇太子ルドルフ役の柚香光ちゃんも、学年が一期下なので、舞台でこそあまり絡みはありませんでしたが、音楽学校時代のご縁もありますから、どういう科学反応が起きるのかを、とても楽しみにしています。
──そんなトート役をはじめて演じられた2018年月組公演のこともお伺いたいのですが、いま振り返ってどんな思い出が?
当時はやはりとても苦労しながら作っていった記憶がありますね。自分としても『エリザベート』という作品にあのタイミングで挑戦するというのは結構ハードルが高いことでもありましたし、曲も難しかったです。トートという役を自分のなかで掴むのにも結構時間がかかったので、トライ&エラーを繰り返しながら、模索しながら作品に向き合っていたなという印象です。
──確かに黄泉の帝王、またの名を“死”ということで、宝塚版ではタイトルロールはエリザベートですが、主役はトートで、自由に解釈しようと思えばどこまでも可能なのかな?というところが、より難しいのではと拝察しますが、珠城さんご自身のトート像としては、最終的にどこにポイントを置かれたのでしょうか?
感情の揺らぎをきちんと表現したいと思ってアプローチしていたので、その辺をかなり意識して表現するようにはしていましたね。なのでクールには作らなかったんです。“死”ではあるけれども、感情がちゃんと見えるトートとして作っていました。と言うのも、潤色・演出の小池修一郎先生が「トートとエリザベートとフランツの三角関係の愛の物語としてしっかり描きたい」とおっしゃられたのが大きかったと思います。「黄泉の帝王という存在自体はこの地球ばかりか、宇宙を飲み込むほどの強大な力だから、ものすごいエネルギーを持っている。だからクールである必要はない」というお話もされたので、私が演じるトートはクールさを求められているわけではないんだなと思ったので、そういったところからも自分なりの表現を模索していきました。
──いまのお話で腑に落ちたと言いますか、珠城さんのトートですごく印象に残っているのが衣裳もですが、特に赤のスカーフを使われましたよね?
使いました。2幕の頭です。
──珠城さん以前の宝塚のトートって、その方のイメージカラーがウィッグにも入っていましたが、ちょうど珠城さんのひとつ前の上演、2016年の宙組公演で朝夏まなとさんがトートを演じられた時に「トートはやはり暖色系というわけにはいかないから、例えば赤はちょっと使いにくいので、代を重ねてだんだん色がなくなっている」という趣旨のお話を小池先生が制作発表会見でなさったんですよ。
そうだったんですね。
──そこに珠城さんが赤を身に着けて登場されたのが、すごく鮮烈だったんですが、宇宙を呑み込むほどのエネルギーのあるトートというお話で、あくまでも連想ですが、あぁだから赤だったのか、という気持ちになりました。
トートって歴代色々なパターンがあって、ヘアスタイルもシルバーベースの方やブラックの方もいらっしゃいましたが、私はブロンドベースだったんです。当初、私自身トートはシルバーやブラックというイメージがあったので、最初にウィッグが来た時に「私、金髪なんだ」と、ちょっと驚いたんです。小池先生の中では、私にはシルバーよりもブロンドの方が合うということだったのかもしれませんが、確かに上下真っ赤な衣裳も1枚着ていたので、そういう意味では新しかったのかなと。
──赤のイメージがずっと心に残っていたので、いまとても嬉しいお話を伺えました。その2016年公演でトートを演じられたところから考えると10年が経ちます。宝塚ご卒業後も多彩な活動をされていて、様々な蓄積もおありだと思いますが、このガラ・コンサートのトートにはどういったお気持ちで臨まれますか?
ありがたいことにたくさんの経験を積ませていただいてきましたが、そのなかでも自分が作り上げたトート像というのは、試行錯誤の末に私ならではのトートの解釈として、自分のなかで落ち着くことができたなと思っていたので、トートを再び演じる上でも、当時のトートをベースに、というところは変えずに、自分が行き着いた解釈をもう少し育てて行けたらいいなと思っています。でも自分のべースは変わらなくても、一緒にお芝居をする方が変わると影響され方も変わってくると思うので、例えば夢咲さんのエリザベートと一緒にやってみると、また違う感情が生まれてきたりは絶対にすると思いますから、その部分は自分でもとても楽しみです。スケジュールの関係でどうしても東京公演には出られなくて、大阪、愛知公演だけなのですが、是非東京の皆様にもご覧いただけたら嬉しいです。
──個人的にもうチケットを押さえております。
嬉しいです!ありがとうございます。

『エリザベート』を愛の物語にした「愛と死の輪舞」
──名曲揃いのなか難しい質問だとは思いますが、最もお好きなミュージカルナンバーを挙げていただくことはできますか?
それは確かに悩みますが、やっぱり私は「愛と死の輪舞」が好きです。トートの心情を一番表しているのはこの曲だと思いますし、前奏のタララ、タララ、というメロディが流れただけでキュッとする感覚があります。
──宝塚バージョンの為に書き下ろされた楽曲で、“死”という誰もが逃れられない絶対の存在が、生きたエリザベートに愛されたいと願う、というものすごいパラドックスに陥る、宝塚版ならではの愛を求めるトートが誕生した楽曲でもあるので、のちに東宝版にも取り入れられた時にはちょっと驚いたくらいでした。
そうなんですね。私は「愛と死の輪舞」というテーマ曲があってこそ『エリザベート』が宝塚バージョンに、愛の物語になったと思っているので。
──あ、それはその通りだと思います。
ですから逆に「愛と死の輪舞」がないバージョンって、どんな切り口になっているんだろうと、気になるところではあります。
──エリザベートとトートの関係性自体のアプローチが少し違うかな?と思います。でも東宝版、韓国版でも歌われますし、ハンガリー版、更に近年では歌詞は異なりつつウィーンでも歌われているので、楽曲としてもどんどん育っている感覚です。それも含めて、とにかくいま『エリザベート』は大変な人気演目で、上演される度にチケット争奪戦になるのですが、そんな作品の初演から30年の歴史に連なられていかがですか?
個人的には私がトートをやって以来、宝塚で上演されていないので、次は誰がトートを演じるんだろうというのをすごく楽しみにしているところです。きっと宝塚ファンの方も上演を待たれていると思いますし、私自身も早く宝塚の新たなトートに出会いたいなと思います。何よりも、これほど大きな作品に関わらせていただけたのは、ありがたいことだったなと感じています。

──また珠城さんは、宝塚退団後舞台作品だけでなく、映像作品にも多く携わられていますが、両方をされていることで感じる違いや、得るものについてはどうですか?
一番の違いと言うと、舞台は長い稽古を重ねていくので、その中で作品が育っていったり、自分自身も変化していくところが非常にあると思うんです。更に本番をやる回数が多いので、持久力も必要になると思っていますし、お客様の反応がダイレクトに感じられることで、自然に変化していくものがあるのも、舞台の醍醐味ですよね。一方の映像に関しては、本番の前にほんの数回しかトライできない、リハがあってもうすぐ本番なので、すごく瞬発力が必要になります。その一瞬で100に持っていかなきゃいけないのですが、それが101になるのか98で終わるのかは、その時の自分次第なんです。そういった点での持久力と瞬発力が、舞台と映像それぞれの現場で求められる全く違うもので。ただ私は舞台をずっとやってきていたので、映像の現場でも最初は相手の出方を探ってしまうと言いますか、舞台での稽古のようにどういう感じでアプローチしていけばいいのかと、様子を伺ってしまうところがあったんです。でも映像の現場は、とにかくその一瞬で全てを出すことが、すごく大事なんだなとここ数年で学びました。いまはどちらも楽しみながらやっています。
──双方から得たものがフィードバックされて、ご自身にとっていい影響になっている?
間違いなくそうですね。両方やってきて良かったと感じますし、これからも舞台、映像それぞれに呼んでいただけるように頑張りたいです。
──2025年は年末に『忠臣蔵』、2026年もこの『エリザベートガラコンサート』と共にオリジナルミュージカル『ラパチーノの園』、またドラマ『VIVANT』(TBS系)の続編も放送されるなど、大きなお仕事が続きますが、2025年1年を経た、2026年をどう見据えていますか?(※取材は2025年中)
2025年あっという間だったんです。宝塚を退団して4年半やってきて、自分の歩みだったり、目指している方向性など、こっちに進んでいいのかな?と思ったりすることも度々あったんです。
──それは、そうだろうと思います。
でも2025年の1年を経て、これでいいんだと思えるタイミングが何度もあって。例えば『忠臣蔵』も、阿久里(瑤泉院)という重要な役をさせていただけることが光栄ですし、ビジュアル撮影時点から、私はお着物を着させていただけるのがすごく嬉しくて大好きなんですが、意外と宝塚時代にも和物はやっていても、あんまり位の高い役をやっていなくて(笑)。退団公演の『桜嵐記(おうらんき)』の楠木正行が、最後に出陣するところなどは比較的豪華な着物を着せていただけたのですが、それくらいだったので、阿久里の豪華で高貴な打掛は、もうそれだけで身が引き締まりました。やはり俳優を何年もやっていても『忠臣蔵』に出られるというのは、そうそうない幸運です。そんな風に様々な現場で、自分にとってとてもいい形で気持ちが流れ始めたのがこの1年、20025年でした。やっぱり俳優という仕事は求められないと居場所がないじゃないですか。だから、ずっと私を応援してくださるファンの方々の期待に応えられているのだろうか、大丈夫かなと案じたこともありました。でも、どのお仕事もひとつとして手を抜いているわけでもなければ、人生って元々紆余曲折があるものですから、私の人生を私がどうしたいのか、というところを1番大切にしたい、そこに立ち返ることができたんです。そこを出発点にしつつ、自分に関わってくれる人たちがよりハッピーでいてくれたり、幸せな気持ちでいてくれたら、自分にとってもそれが一番幸せなんじゃないかと思えた、これまでの4年半の歩みは全く無駄じゃなかったなというのを、ここに来て改めて感じることができたので、人としてすごく成長できたと思います。ですから、ここからの2026年も更にパワーアップしていきたいと思っています。
──素晴らしいですね。そうしたタイミングでトート役再びというのも、大きな巡り合わせになりそうですね。
そうなんです。ですから、いまの良い精神状態でこの『エリザベート TAKARAZUKA30周年 スペシャル・ガラ・コンサート』に臨めるのが、本当に良かったと思いますし、初演から30周年の祝祭の時に、ご一緒する皆さんと、ご覧いただくお客さまに良いエネルギーをお届けできたらいいなと思っています。いままで宝塚を応援してくださっていた方はもちろん、東宝バージョンは観たことがあるけれども、宝塚バージョンは観ていらっしゃらない、という方にも宝塚の『エリザベート』を知っていただくきっかけにしていただけたら嬉しいです。ガラ・コンサートならではの組み合わせもたくさんあるので、どこを選ぶか皆さん大変かもしれませんが、是非この機会にできるだけたくさんの方に、劇場に足をお運びいただきたいです。私は梅田芸術劇場メインホールと御園座への出演となります。劇場でお待ちしております!

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【公演情報】
『エリザベート TAKARAZUKA30周年 スペシャル・ガラ・コンサート』
脚本・歌詞◇ミヒャエル・クンツェ
音楽・編曲◇シルヴェスター・リーヴァイ
構成・演出・訳詞◇小池修一郎
演出◇中村一徳
出演:一路真輝 麻路さき 高嶺ふぶき 稔幸 香寿たつき えまおゆう 姿月あさと 和央ようか 湖月わたる 月影瞳 彩輝なお 朝海ひかる 大空ゆうひ 瀬奈じゅん 水夏希 大鳥れい 霧矢大夢 音月桂 北翔海莉 白羽ゆり 凰稀かなめ 夢咲ねね 望海風斗 明日海りお 真風涼帆 珠城りょう 柚香 光 美園さくら 星風まどか
初風緑 彩吹真央 愛月ひかる 出雲綾 朱未知留 寿つかさ 越乃リュウ 緒月遠麻 晴華みどり 光月るう 純矢ちとせ 宇月颯 蒼羽りく
白妙なつ 琴音和葉 夏樹れい 和海しょう 紫りら 晴音アキ 颯希ゆうと 蓮つかさ 朝霧真 綺城ひか理 花宮沙羅 花束ゆめ 村上すず子
宝塚歌劇団特別出演:美穂圭子 悠真倫 小桜ほのか
(※キャスト出演日詳細は下記公式サイト参照)https://www.umegei.com/elisabethgala30/
●2/6~20◎東京・東京国際フォーラム ホールC
●2/28~3/15◎大阪・梅田芸術劇場メインホール
〈料金〉S席16,000円 A席:10,000円 B席:6,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 0570-077-039(10:00~13:00、14:00~18:00)
●3/23〜25◎愛知・御園座
〈料金〉S席16,000円 A席10,000円(未就学児入場不可)
〈お問い合わせ〉御園座チケットセンター 052-308-8899
【取材・文・撮影/橘涼香 スタイリスト/米田由実 ヘアメイク/Saaya(Rouxda.)】



