
階級社会を背景に、親と子、兄弟の絆、人間同士の運命を描き、高い普遍性を持ち続けるミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』が、東宝製作作品としては約16年ぶりに3 月9日~4月2日、東京日比谷のシアタークリエで上演される(のち、4月10日〜12日、大阪・サンケイホールブリーゼで上演)。
本人たちの全くあずかり知らないところで運命に翻弄される双子の兄弟と、その母親たちがたどるドラマは、英国初演から40年を経ても色褪せないばかりか、現代社会をも映し出す力を持つ、卓越した作品だ。
双子を身ごもり生活苦から新たな命を育てられないと悩むミセス・ジョンストンがやむなくある“契約“を交わすことになる裕福な家庭の夫人、ミセス・ライオンズを演じる瀬奈じゅんが、作品や役柄に臨む想いや、自身の子供時代のことなどを語ってくれた。
大人の俳優が子供を演じるからこそのリアル
──作品全体に感じている印象から教えていだけますか?
重いテーマですし、辛い結末を迎えるのですが、とても人間味と生命力にあふれる作品だなと感じています。ミュージカルナンバーも作品に寄り添ってくれる、とても心地いい曲なので、演じていてストレートプレイをやっているような感覚になる瞬間もあります。何よりもキャストがみんな性別や年齢を越えて、表現することに生き生きしているんです。この作品では大人の俳優が子供を演じるのですが、こんなにも効果があるんだなと。実年齢に近い子役を使わないことが、かえってリアルになる不思議を感じています。逆もしかりで、若い方が年配の役を演じることも、年齢や性別を超えた演劇のリアルさだなと。
──とても興味深いお話ですが、そのなかで演じるミセス・ライオンズ役についてはどう感じ、何を大切に演じたいと思っていらっしゃいますか?
あまりウエットになりすぎないようにしようと思っています。役柄がずっと悩んでいて、笑顔がない、心穏やかではなく、ともすると一人芝居になってしまいかねないので、気をつけないとお客様を置いてきぼりにしてしまう恐れがあるんじゃないかと。ウエットになりすぎず、ちゃんと伝えるべきことを伝える役目を全うしたいと思っています。
──そんなミセス・ライオンズが育てるエディー(エドワード)と、ジョンストン家で育つミッキー(マイケル)、二人は実は双子の兄弟とは知らずに出会い、親友になり、階級社会のなかでその関係が変容していきますが、今回二人を演じるのは、ひと組が小林亮太さんと山田健登さん、もうひと組が渡邉蒼さんと島太星さんという、組み合わせ固定のWキャストですが、2組の俳優さんたちと演じていらしていかがですか?
もう全く違うんですよ。彼らがそれぞれに表現したいことが明確に伝わってきて、受け取る感情も全然違うのでう「この人はこういうふうにやりたいんだな」「この人はここでこう思うんだな」というのがすごく伝わって、私はその度に新しい発見をいただいています。製作発表会見で演出の日澤雄介さんがおっしゃった通り、別々の2つの作品をやっているような感覚です。
──お話を伺うと、これは両パターン拝見しなければと思いますが、その子供たちの実の母親であるミセス・ジョンストンを演じる、瀬奈さんと同じ宝塚歌劇団ご出身の安蘭けいさんとのお芝居はどうですか?
とうこさん(安蘭の愛称)は私がこうしたいと思うことをすぐキャッチしてくださるし、私もとうこさんが表現したいことが明確にわかるので、お芝居をしていて飛び込んでいきやすいんです。受け止める大きさを持っていらっしゃるのでとても楽しいですね。また、とうこさんに対してだけではなくて、これはいつも思うことなのですが、やっぱり同じ釜の飯を食った仲間と言いますか、同じ故郷を持っているというのは、パッと通じ合えるものがあるんです。同じ世代ではなく、宝塚時代には一緒の舞台に立っていなかった方でもそれは変わらないので、私にとって大きな財産だと思っています。退団して以来、こうした舞台で宝塚出身の方と共演させていただく度に感じることなので、いい故郷を持ったなといつも思います。

いま演じる意味のある作品
──それは観劇する側にも嬉しいことで、瀬奈さんと安蘭さんの共演なんだ!とワクワクしますが、先ほどもおっしゃったように、子供時代も大人の俳優の方々が演じる作品ということで、瀬奈さんご自身の子供時代はどんなお子さんだったのでしょうか。
通知表などに先生からの言葉が書かれているじゃないですか。そこに必ず「大人をとてもよく見ているので、嘘がつけません」と書かれていたんです。それがもう毎回だったので、私すごく嫌な子供だったんだなと思います(笑)。
──いえいえそんな!子供って結構大人の顔色を見て行動しますから。
いや、私はね、大人の顔色を窺っていた、というよりも観察している子供だったんですよ。
「この人って大人なのにこういうことするんだ」とか、「こんなこと言うんだ」というような感じで、すごく斜めに見ていたと思います。
──大人に対してアンテナを張っていた?
ある意味正義感が強かったんだと思うんです。例えば「大人なのにこんな差別をするんだ」と見ていて、それを口に出したりはしないのですが、やっぱり目は口ほどに物を言うで、大人には私がそう感じていることがわかっていたんだと思います。だからすごく生意気な、扱いにくい子だっただろうなと。
──そこからご自身が大人になって、変化を感じたりはしましたか?
変化は感じました。大人になってというよりは、宝塚に入ってからですね。やっぱり自分から人に心を開いていかないと、理解してもらえないし、仲良くもなれない。人間関係ってお互いを理解するところから始まりますから、私がいつまで経っても人を観察だけしていたら、仲良くなれるものもなれないなと思って、ちゃんと心を開こうと。そこからむしろ天真爛漫になったと言うと言い過ぎかもしれませんが(笑)、確実に大人を斜めに見ていた子供時代とは変わっていきました。
──トップスターになられてからは特に、しっかりと全員を率いていらっしゃるなと感じていましたが、では宝塚に入られてからの変化が大きかったのですね。
私がトップスターになって、一番できなかったことってリーダーシップだと思いますよ。
──ご自身ではそう思われる?!
はい、元々「私についてこい!」というタイプではなかったのに、リーダーシップを出さざるを得ない立場になったのが、かなり大変でした。
──とても自由に舞台の中心に立たれていた印象が強いので、客席からはとてもそうは見えませんでした。『エリザベートTAKARAZUKA スペシャルガラコンサート』でも、霧矢大夢さん、大空ゆうひさん、宇月颯さんなど、当時の月組の方たちが、瀬奈さんを中心にすごく団結しているなと。
そう見えているとしたら、人に恵まれたんだと思います。
──そのお考えも素晴らしいですね。また、この作品の製作発表会見の場で、瀬奈さんご自身のお子さんについて、時代の変化を感じられるというお話をされたのにも感動しました。
実は会見の場で子供たちの話をするかどうかについてはとても悩んだのですが、今回私が演じるミセス・ライオンズが子供をもらう側の役柄で、私自身が特別養子縁組で2人の子供を授かっている。そのことを私の本意ではないところで役柄と重ねて、物語に入れなかったりする方がいらっしゃるとしたら申し訳ないなと思ったんです。あの場でお話しすることではなかったのかもしれませんが、でもだんだん理解が深まっているいまだからこそ、お話しした方がいいのかなと思いました。実際にいま私はありがたいことに子供たちのことをオープンにしていられますが、この作品のなかでのミセス・ライオンズはそれができない、そういう時代だったんですよね。旦那さんの考え方も含めて、周りの理解がない時代を生きてきた人たちのことを、この作品をやっていて改めて感じますし、私の環境はすごく恵まれているんだなと思います。
──親子の関係、そしてLGBTQなどについても、社会の受け止め方がどんどん変わっていっているんだ、ということを演劇が思い出させてくれるのは、素敵なことですね。
そういう意味でも、この作品はいま演じる意味があるものだ、と強く感じるので、精一杯取り組んでいきたいです。
──舞台の完成を心待ちにしています。最後に改めて作品を楽しみにされている方たちにメッセージをお願いします。
親子や兄弟姉妹など、家族の絆や、血の繋がりについては誰しもが感じ、経験していることだと思います。だからこそ、この『ブラッド・ブラザーズ』が描いている物語は、ありえない話ではないと思うんです。確かに台本がものすごく良く書かれているので、こんな出来すぎた話ってないよね、と思われるかも知れませんが、もしかしたらとても身近に、すぐ近くに転がっている話でもあるんじゃないか、と私は思います。ですから、血がつながっているということについて、家族というものについて、更に友情についても、考え直すきっかけになる作品だと思います。ただ一方で、そうしたことを全く考えることなく、単純にミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』という「作品」を楽しんでいただくこともできますし、むしろそうしていただけたらいいなと思います。確かに悲劇ではあるのですが、エンターテイメントとして楽しんでいただけますし、そうできるようにみんなで一丸となって稽古を進めていきたいです。何よりも若さ溢れるキャストが素晴らしくて、若さってすごいなと日々思うので、若いキャストの活躍と、もちろん大人のキャストもみんなすごく魅力的ですから、是非楽しみにしていただければと思います。

(プロフィール)
せなじゅん〇1982年宝塚歌劇団に入団。花組を経て2005年月組トップスターに就任。数々の代表作を残し、ミュージカル『エリザベート』では在団中、トート、エリザベート、ルイジ・ルキーニの主要三役を務めた。2009年退団後は舞台を中心に活躍。東宝版『エリザベート』でもエリザベートを演じたのをはじめ、多彩な舞台、また映像にも活躍の場を広げている。近年の主な出演舞台作品に『モンスター・コールズ』『天保十二年のシェイクスピア』などがあり、8月『ディア・エヴァン・ハンセン』への出演が控えている。

【公演情報】
ミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』
脚本・作詞・作曲◇ウィリー・ラッセル
演出◇日澤雄介
出演◇小林亮太/渡邉蒼(Wキャスト)山田健登/島太星(Wキャスト)
小向なる 秋沢健太朗
東山義久 戸井勝海
瀬奈じゅん 安蘭けい ほか
●3/9〜4/2◎東京・シアタークリエ
●4/10〜12◎大阪・サンケイホールブリーゼ
〈公式サイト〉https://www.tohostage.com/blood_brothers/
〈問い合わせ〉東宝テレザーブ0570-00-7777
【取材・文/橘涼香 撮影/中村嘉昭 ヘアメイク/松元未絵】



