
人間の苦悩を深く描いたシェイクスピアを代表する悲劇『ハムレット』が、5月9日に開幕する日生劇場での公演(30日まで)を皮切りに、鬼才デヴィッド・ルヴォーの演出によって、新たな姿をあらわす。
王子ハムレットには、歌舞伎のみならず多方面で活躍し成長著しい市川染五郎。ハムレットは祖父の松本白鸚や父の松本幸四郎もこれまで演じたことがあり、高麗屋として三代にわたって縁のある、大切な役に挑む。ハムレットの恋人オフィーリアには、今作が初舞台となる當真あみ。ハムレットの叔父であり母の再婚相手、また父の敵であるクローディアスには、様々な作品で存在感を放つ石黒賢。ハムレットの母ガートルードには、元宝塚歌劇団花組トップスターで初めてストレートプレイに挑む柚香光。オフィーリアとその兄レアティーズの父であり宰相のポローニアスにベテランの梶原善など、個性豊かなメンバーが集結し、ルヴォーの描く『ハムレット』の世界に血肉を与える。
2月下旬、その製作発表記者会見が都内で行われた。市川染五郎・當真あみ・石黒賢・柚香光が出席。限られた数ではあるが一般のファンも見守るなか、注目度がうかがえる熱気あふれる会見となった。それぞれから挨拶の後、質疑応答に移った。

【挨拶】
市川染五郎 『ハムレット』は、私の家にとってとても大切な作品です。その作品に挑戦させていただく、第一歩を踏み出せるのが嬉しく思います。ルヴォーさんの演出を受けて稽古に入るのはこれからですが、どんな『ハムレット』になるのか。ポスターからも、今までのハムレットとは違うなという感じがあると思います。演出もこれからどうなっていくか私自身も楽しみにしています。
當真あみ 舞台が初めてで、何もかもわからないことだらけですが、本当に楽しみという気持ちがすごく強いです。緊張もありますが、それも含めていろんなことを楽しんで、舞台作品と向き合っていけたらなと思っています。
石黒賢 人生は本当わからないもの。まさか私がシェイクスピアの作品に出演することになるとは思いもしませんでした。初めてのことだらけです。シェイクスピアも初めて、今日いらっしゃる俳優の皆様とも初めて共演をします。外国人の演出家と仕事をするのも初めてです。どんなことになるかわかりません。頑張りたいと思います。
柚香光 私も初めてのストレートプレイで、本日は多少緊張しておりますが、よろしくお願いいたします。
【質疑応答】

──染五郎さんは、お祖父様、お父様と三代続けて『ハムレット』を演じます。今日は指輪を。
染五郎 はい。これは祖父が『ハムレット』を演じた時に着けていた指輪で、祖父から直接いただきました。本番でも着けられたら着けたいなと思って譲ってもらいました。お守り代わりのような感じで今日も身に着けております。祖父も父も、最後の試合のシーンのためにフェンシングを習ったそうで、「フェンシングをやらなきゃね」ということだけ言われました(笑)。
──これからアドバイスを期待されていますか。
染五郎 やはり演出も違いますし、演出が違うと、いろんな解釈も変わってくるでしょう。歌舞伎の外のお仕事に関しては、そんなにアドバイスはありませんが、こちらから、稽古に入った段階からまた発見や疑問があれば、やはり経験者である祖父と父には、いろいろ話を聞きたいなと思っています。
──白鸚さんが1999年にデヴィッド・ルヴォーさんの演出、松岡和子さんの翻訳によるシェイクスピア作品の『マクベス』に主演されています。同じ演出家、同じ翻訳家と組んでらっしゃるので、すごく具体的なことが聞けそうですね。
染五郎 そうですね。祖父は『ハムレット』だけではなく、シェイクスピア劇、いろんな檄をやっておりますし、シェイクスピア劇自体への向き合い方や取り組み方みたいなものも、祖父から感じられたら。
──今日は皆様の初顔合わせです。當真さんにお会いしてどんな印象を持ちましたか。
染五郎 本当に透き通るような…後ろが見えるぐらいな透明感で、そこにまず圧倒されました。とても素敵な皆さんとご一緒させていただけるので、とても楽しみにしていました。やはりお会いして、皆さん柔らかい方ばかりで。今日はいらっしゃいませんが、梶原善さんは昨年12月に歌舞伎座に出演されていて、ひと月毎日ご挨拶程度ですが、お会いさせていただきました。善さんもすごく楽しく、柔らかい方。今日は皆さんとお会いできて、柔らかい空気感で、この作品にチームで向かっていけるんだなと思いました。
──お隣は敵役で、一応父親役の石黒さんです。
染五郎 敵対するのは舞台上だけで、普段は本当に優しくて、今日もお会いしてまだ数時間しか経っていませんが、裏でもちょくちょくお話させていただいたり。これからまた皆様と距離が縮まって、さらに良い空気になっていけることはとても楽しみです。
──お母様(柚香光)はどうですか。
染五郎 やはり歌舞伎と宝塚って、ちょっと似ていますね。歌舞伎は男性が女性を演じることがありますし、宝塚は女性が男性をやるということで、そういう意味でわりと比べられることも多いと思います。そのなかでやってらっしゃったオーラをすごく感じましたし、そんな柚香さんの息子でいられるように、考えたいです。
──柚香さんはじっと染五郎さんを見ていらっしゃいましたが、息子で頑張りたいと仰っていますが。
柚香 私が今見すぎて、全然こっちを見てくれなかった(笑)。親子役をさせていただき、とても光栄ですし、やはり宝塚という女性だけのなかで男性を演じていた私と、歌舞伎で活躍されている染五郎さんで親子役をさせていただけるのは、そこに何か特別な、その2人にしかない親子関係を作っていけるんじゃないかなと思います。

──當真さんから見た染五郎さんの印象は?
當真 お会いするのは今回初めてですが、舞台を一度だけ観に行かせていただいたことがあります。その時は、ずっと一つの物事を続けられているという姿と、それを柔軟にどんどん変えていく、そういうところが本当に素晴らしい方なんだなと、いろんな作品を拝見して思っていて、そんな方とご一緒させていただけるので、たくさん私が知らないものを学べる機会があるのだろうなとワクワクしています。
──當真さんは今回初舞台です。どんなお気持ちですか。
當真 舞台をさせていただくのを1年前くらいに聞いて、1日1回、頭に思い浮かべるくらいずっと「やるんだ」という気持ちが頭の中にありました。今日、実際にこうして皆さんにお会いして、より緊張も増しましたが、素敵な皆様と1ヶ月稽古をして舞台が踏めるのは、すごく楽しみだと思っています。
──ハムレットの染五郎さんが実際にお隣に並んでみて、どんな気持ちですか。
當真 先ほど初めましてとご挨拶させていただき、年齢が少しだけ近いというのもあって、今まで他の作品にいても先輩方がたくさんいるなかで、そういう方がいらっしゃるのがすごく安心にも繋がっています。舞台を経験されている素晴らしい方々ばかりなので、皆さんのお芝居を見て、感じるところをたくさん吸収していきたいです。
──當真さんは、初舞台の時にこういうことをしたらいいよとアドバイスをくれた先輩はありましたか?
當真 以前ドラマでご一緒させていただいた、上白石萌音さんの舞台を最近観に行ったのですが、舞台をやるんですとお話したら、「本当に楽しんで。緊張もすると思うけど、そういう空気も含めてすごく楽しいと思うから、ガチガチに固まらず、いろんなことを柔軟に取り組んだら楽しいんじゃないかな」と仰っていただきました。

──力強いアドバイスですね。石黒さんは、まさか自分がシェイクスピアをと仰いましたが、シェイクスピアはどんなイメージですか。
石黒 私は先入観とかが嫌いですが、やはり少し敷居が高いもの、なかなか理解することが難しいものなのかなと、漠然と思っていた時期はありました。でも改めて松岡さんが翻訳された原作を読んで、やはり言葉の使い方が全く素晴らしいなと。『ハムレット』のなかには「メメント・モリ」という言葉があります。「死を思え」つまり「生を感じろ」ということです。やはりそういうことがすごく底流にある作品ですし、そういうことを大事にしていきたい。クローディアスはハムレットのお父さんを毒殺して、自分が王になって妃を嫁にしてというとんでもない奴ですが、葬式に対する人々の居方も、喪服を着て悲しい顔をしていても本当に悲しんでいることではないという、そういうところが、やはり人間の本質的なことを端的に突いていて、読み物としては当然面白いし、活字で書かれたものを今度は舞台という3Dに立ち上げた時、我々は非常に重い責任を負っているなと、改めて身が引き締まりました。
──染五郎さんが息子、奥様が柚香光さんというキャスティングですが。
石黒 さっき染五郎さんが仰いましたが、柚香さんがやはり宝塚を背負ってきたトップの方はすごく雰囲気がある方だなと思いましたし、私の演じるクローディアスが「この人を妃にしたい」と思う魅力に溢れている人だなと思いました。

──柚香さんは、今回ストレートプレイが初めてですね。またこの座組にどんな印象を持たれましたか。
柚香 宝塚歌劇でも、ミュージカルやお芝居、ショーなど、いろいろ演じさせていただきました。いつかストレートプレイに挑戦させていただけたらと夢には描いていましたが、卒業して、まさかこんなに早くこの機会をいただけると思わなかったので、お話を伺った時は、ひゃあ~~と(笑)。本日皆様とお目にかかり、こんなに素晴らしい方々とご一緒できるのは本当にありがたく、なんて幸せなことなんだろうと思いました。私も全身全霊でぶつかって、ガートルードというお役を皆様と一緒に舞台上で作っていきたい。個人的には、卒業してから鬼になったり、のちの王になる女子高生とか、常に剣を振るう役が多かったので(笑)、今回はガラッと雰囲気が変わって、背筋がぴんと伸びるような舞台になりますので、身を引き締めて挑みたいと思います。
──『ハムレット』の象徴的な台詞「to be or not to be」は、様々な訳の表現があると思います。今の染五郎さんにとって「to be」はどんな言葉に置き換えられるでしょうか。
染五郎 どういう解釈で演じるかを、あまり言葉で説明はしたくないので、舞台で演じる姿を見て感じていただきたいというのが大きいですが、一つ思うのは、「生きるべきか死ぬべきだ」というよりも「自分がどうあるべきか」という問いかけ。どう生きたらいいのかという解釈が一番、自分のなかで、今の段階ではしっくりきております。生きた上でどういう決断をするべきなのか、そういう感情なのではないかなと思います。
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──『ハムレット』のイメージからすると、斬新なビジュアルが発表されています。衣裳を着た時や撮影時に感じたことなどは?
染五郎 衣裳合わせの時にびっくりしました。「ハムレット…?」と思って。実際に海岸で撮影しましたが、少し曇り空で、ゴツゴツした岩があって、そこに波が打ち付けているシチュエーションで撮影できて、それがハムレットの、どんどん揺れ動いていく感情をすごく表したポスターになったのかなと思います。

──この時も、お祖父様の指輪を着けてらっしゃいました。當真さんはどうでしたか。
當真 青というイメージをあまり持っていなかったので、実際に自分の衣裳を着てみて、皆さんがどういうふうになっているのかものすごく楽しみでした。できあがったものを見た時に、歴史を積み重ねながらも、新たなものを取り込んでいくような雰囲気を感じて、また新しいものができていくんだなと、すごくワクワクしました。
石黒 衣裳とかのおかげで乗せてもらって、非常に楽しい撮影でした。できあがりを見た時に、これは僕の主観ですが、イギリスは伝統がある国ですが、すごく進取の気質に溢れている。ロックが生まれたのもイギリスだし、常にぶっ壊して新しいものを作っていこうよという気概にあふれていて、やはり新しい『ハムレット』を作りたいんだろうなという思いをとても感じました。
柚香 まず染五郎さんのポスターを拝見した時に、本当に私も驚きました。こういうイメージがルヴォーさんの頭の中に広がっているんだなと、ドキドキしました。じゃあこれがオフィーリアさんと同じように、作品としてのクローディアスさんやガートルードだったらどんなイメージになるんだろうと想像するのもすごく楽しくて、今からどんな世界観が今回の『ハムレット』を作り上げていくんだろうと、ポスターでまずぐっと引っ張られました。
──それではお客様に向けてメッセージをお願いします。
柚香 皆様とこのような機会をいただけて、自分で改めていろんなことが整理されて、『ハムレット』を今から作るぞー!という思いがあります。ハムレットが30歳前後で、私の実年齢もほとんど一緒で、ガートルードは40歳すぎという年齢ではないかと思いますが、一回り以上のガートルード、母親役をさせていただくのは、自分にとっては挑戦。柚香にガートルードをさせてよかったと、皆様に思っていただけるようにつとめてまいります。
石黒 私にとって本当に大きなチャレンジです。柚香さんのお話にもありましたが、石黒をよんでよかったな、石黒にクローディアスをさせてよかったと思っていただけるように。そして、やはりお芝居はお客さんが自分の時間とお金を使って足を運んできてくださるもの。お客様の誠意にちゃんと応えなきゃいけないと思います。死ぬ気で頑張ります!
當真 いよいよ『ハムレット』が動き出すんだなと強く感じ、とてもワクワクしています。観に来てくださる皆様にもそういう気持ちをたくさん届けていけるように頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。
染五郎 『ハムレット』は若者の苦悩を描いた作品だと思われがちですが、柚香さんが仰ったように、30歳前後ではないかとも言われています。若者の苦悩、葛藤というよりは、あくまでもデンマークの王子として生まれた宿命、生まれ落ちた環境、そのなかでどう生きればいいのかに悩み、葛藤する男の話。そういう解釈で今おります。ですので、若いからこその危なさといったところにやたらフォーカスするのではなく、ハムレットという人物の本質、心の部分をきっちり積み上げて作っていきたい。また先日、デンマークに行ってきました。『ハムレット』はエルシノア城が舞台ですが、そのモデルのクロンボー城が実際にあり、ハムレットとその時代の空気や実際のシチュエーションの空気感を感じてきたところです。そうした自分の経験や感じたものを注ぎ込みながら作っていけたら。生きた演劇、現代に生きるハムレットを目指して進めたい。ぜひ皆様足をお運びいただければと思います。

【公演情報】
『ハムレット』
作:ウィリアム・シェイクスピア
演出:デヴィッド・ルヴォー
翻訳:松岡和子
出演:市川染五郎 當真あみ 石川凌雅 横山賀三 梶原善 柚香光 石黒賢
●5/9~30◎東京公演 日生劇場
●6/5~14◎大阪公演 SkyシアターMBS
●6/20~21◎愛知公演 名古屋文理大学文化フォーラム
〈公式サイト〉https://hamlet2026.jp/
【取材・文/内河 文 写真(C)松竹】



