【小野寺ずるの女の平和 WEB】02 劇作家・演出家:大石恵美(ダダルズ)
お役者/糞詩人である小野寺ずるが表現の世界で闘う女達にインタビュー。
彼女達の過去現在未来を聞きだし、想いを馳せながら
私たちの平和は、女の平和は、表現の世界に身を投じる我々の望む世界はなんなのか。を夢見る連載。
劇作家・演出家:大石恵美
2020年秋。演劇ユニット・ダダルズの公演『おいなりさんラジオ』を観た。
あれから時間が経ってもあの愛しい劇をたびたび思い出す。
男と女がつまらないラジオを録っている。
彼らのことを必要としてる人は地球のどこにもいないかのような哀愁。
二人のぎこちなさすぎる会話は平地でつまづきながら空気の足りないボールを捕りに行くような滑稽さ。
作演出、役者の渾然一体感、奇妙な切実さに、私は興奮の落涙・・・
「これを作った人と話してみたい」今、実現!
大石恵美との一筋縄ではいかなすぎる初対面・脱線脱輪対談!さぁぺろりんちょ!!
(※2021年1月取材/撮影)
笑っていいのかわからない
ずる 大阪ご出身ですか?
大石 大阪の生野区ですね。
ずる 喋りづらいことは喋らなくて大丈夫ですので。
大石 ありがとうなあ(変なタメ口)
ずる ・・・それは何ですか?自分のペースを作るためのコミュニケーションのジャブですか?
大石 (笑)多分距離を近くしたいんじゃないですかね?
ずる あ、嬉しい、遠ざけるためのジャブだったらどうしようと・・・
大石 スルーする人もいるんです、チラッと見るけどそこには触れない。その様子は見るかもしれないですね。
ずる 試されてるんですね?業務連絡なのに何の脈絡もなく布団の画像送ってきた時もやっぱり試してたんだ。
大石 (笑)試してないですよ。
ずる 返しが上手にできなかった。
大石 クイズですか? って返された時は確かに怖かったです。
ずる 私が怒ってると思ったんですか?唐突すぎて不安になったんですよ?
大石 (笑)動揺されてるんだなあって。
ずる ・・・。
大石 まあまあ・・・ぺろりんちょ!
ずる ・・・今度は何ですか?指揮者が演奏の終わりに拳を握るみたいなことですか?
大石 間が怖くて。ぺろりんちょ、とか、まあまあ言うてますけど、とか間を埋めるためのブリッヂみたいに使っちゃいますね。
ずる ああ。場面転換ってことですか。
大石 回してかんと。大阪は間がなく、いかにどう答えるか、話しながら次の展開を考えてることが多かった気がします。その癖なのかな。だから間ができたりすると焦ってしまう。まあテキトーに言ってる部分もあるんですけど(笑)。
ずる 大阪の影響が大きいんですね、てことはお笑いも好きなんですか?
大石 好きですね。兄が『ごっつええ感じ』のDVD全部持ってて中学の時めちゃめちゃ見てました。
ずる どのコントが好きでした?
大石 松本人志が馬になってるコントですね。その馬、体が半分くらい腐ってて、そこに小学生の男の子が来て「こいつ腐ってる!」って言うんですよ。どぅるどぅるグロく腐ってて。
ずる やだ・・・。
大石 馬は「こっち見んな!」って怒ってるのに、子どもは気持ち悪いってイジるだけで馬は結局助けもされないってコントなんです。痛々しくて気持ち悪い、笑っていいのかわからないものが多かった気がする。そのラインを突こうとしてる感じが好きでしたね。
ずる 笑っていいのかわからない、か。大阪で過ごして
大石 ぺろりんちょ。
ずる ぺろりんちょして、大学で上京ですか?
大石 はい。映画もめっちゃ好きだから映画を学びたくて立教の映像身体科に入りました。で、在学中に映画美学校にも入って。
ずる 在学中に演劇を作ったりは?
大石 自分が怠慢なのもあるんですけどないですね。映画を1、2本作ったりはしたんですけど。
ずる どうして演劇を?
大石 脚本を書き出したのは大学なんですけど、自分の書くうだうだしてる台詞が映画だと合ってないなって思ったんです。間とか。映画だと自分のやりたいこととは違う形になっちゃうのでそれで演劇に。
「これ言っていいんかな」試される言葉の面白さ
ずる 公演の美術が怖かったですね、猿のおもちゃとか、玉もありましたね。
大石 あれは私の光る玉ですね。
ずる 配置も不思議な・・・。
大石 その人なりの思考や順序がある配置が好きです「なんやねんこれ」みたいな。
ずる 絶妙なおかしみが伝わってきて、でもあれをいざやろうとするとあざとくなったりでなかなかできない。ダダルズはサービス精神がないまま観る側に傾いてくるような奇妙な絶妙さを感じます。
大石 役者さんの力なのかなあ。
ずる まさに、笑っていいのかわからないけど面白い観劇体験でした。台詞も妙にリアルでイキきらない色気を感じます。例え話なんですけど「髪にゴミついてるよ」ってゴミとってもらった後に顔を見つめられたら「恋だ」って察知できるけど、ゴミとった後に私じゃなくてゴミを見つめられたら「何?」ってなるじゃないですか。そういうどっちつかずな気になり方ができる。なかなかシュート打てないバスケのピボット状態。役者さんも体裁ではなく本気でシュートを打とうとしてる感じがまた素敵で。
大石 次どの一手が来るのかを保留にされて決着がつかないと「お?」ってなるんですかね?「ここまで踏み込んでいいのかな、次は引くのかな」とかの駆け引きというか。次どこにいくのかわからない状態が面白いけど、その状態を保つのって本当に難しい。
ずる その状態に見えました。座組で面白いが共有できている感じも心地良かったです。普段は何を面白いと思ってるんですか?
大石 人と人が対面した時に出てくる言葉が面白いと思ってますね。相手に対して「これ言っていいんかな」って自分の視点もあって、相手の視点もある。そこで出てくる言葉って色んなもんに晒されて出てくる言葉だと思ってるんですけど、そこで人がどう選択していくかが面白いと思ってます。自分も試されてて、相手も試されてる言葉。それをどう台本で切り取れるかはいつも考えてますね。
ずる 読んで感じました。変な位置の句読点とか、ここ繋げるんだ、とか面白くて。
大石 書いてる時、できるだけその状態に自分を持っていって書いてます。「人がかなり見てるぞ、自分もこれ言っていいんか?」って人の視点と自分の視点の板挟みになりながら書くのが書いてても面白い。そういう台詞が好きですね。
宣伝したくないけど観てほしい?
ずる 今は何のお仕事を?
大石 コールセンターです。あ、でも今月クビになって。
ずる え?もう一回言ってください。
大石 今月クビになって。
ずる あ、ああ・・・今後どうなっていきたいとかあります? 脚本で稼ぐとか。
大石 継続して活動していきたい、今やってることをもっと細かくして突きつめたいです。でも大きい所でやる劇でもないし、それでお金を、とかもなくて自分にはハングリー精神がないですね。
ずる 私、観てすごく面白いと思ったから、コロナもあったけれど、観てる人数が少ないのが残念で・・・。
大石 宣伝とか自分の見せ方が難しい・・・私、宣伝から「なんやねんこれ」みたいな何も言わないような見せ方をしちゃう。宣伝沢山やるのと自分の作品が合ってない、みたいなのもあるけど、大前提として宣伝するのが恥ずかしい。
ずる わかります。私もいつも嫌だなと思いながら宣伝してます。
大石 (笑)そうですよね。
ずる でもその野心ない感じがまた良いんだろうなぁ。でも人に見せたいからお金使って公演うってラジオにしたりしてる、でもこの面白さを目撃した人は少ない、でも作風的には近い空間で少人数が真剣に観てるっていうのも合ってる気がして・・・勝手にジレンマ。
大石 そうなんですよ、でも続けて行く時に今のままだと厳しい。今の状態でお金に困らないで作り続けられたら最高なんですけど・・・。
ずる 今後どうなっていくんだろう・・・。
大石 私だってそう思ってますよ・・・。
ずる 自由にやりゃあ良いだけなのかもしれないけど、私の薄汚い商人根性が・・・。
大石 いや、でも続けていくには大事ですよ。
ずる 昔、金持ちが奴隷を闘わせて観て楽しむみたいな遊びがあったじゃないですか。
大石 ・・・?
ずる 秘密遊戯みたいな。『ジャンゴ』って映画で暖炉の前で人間奴隷を殺し合いさせてた、それを金持ちが観てる。
大石 ・・・。
ずる ああいう風になれば良いんじゃないかな?
大石 え??どういうこと?
ずる だから大石さんが作品を突き詰めて、唯一無二の見せ物を作る。今まで通り少人数が狭い空間で観る。歌舞伎みたいな席代で二人芝居を一席2万5千円とかで売る。
大石 伝統芸能にするってことですか?でも客層が・・・。
ずる 頭のおかしい金持ちばかりの客席。
大石 嫌だな(笑)!でも本当にお金のことは悩んでたからなぁ。
ずる ダダルズはテアトロコントは呼んでもらえたわけですよね?そこで私みたいに興味を示した人もいる。実力じゃないですか。
大石 おおきにな。だからたまに大きいとこ呼ばれてっていうのが良いですよね。自分からビラ撒いてっていうのは恥ずかしいから宣伝をしてるってバレないような宣伝できないかな。
ずる だから私去年考えたんですよ、宣伝の仕方。意味がないのに執拗にやるっていうのが気味悪くて良いな、と。私は漫画とポエムを毎週ただただ出してますよ。でも私のポエム、多分誰も求めてないんですよ。でも執拗にやるんです。金にならん意味もねぇ義理堅くやるだけの活動。「あいつ毎週なんかやってる」って気になるじゃないですか気味悪くて。
大石 それ良いわ。
ずる ”なんかやってる”って状態が一番恐怖を与えますからね。
大石 確かに怖い。ビビらすには良いかもしれん。なんかやってみよかな。
(雑談が脱線してしばし)
ずる まずい、今回のインタビュー楽しくなっちゃってまとまりない。
大石 楽しかったですね。ありがとうございました。
ずる 終わらせないで?まだありますよ?好きな映画とかあるんですか?
大石 急(笑)。北野武の『3-4×10月』って映画です。この映画のカラオケのシーンがカッコ良くて(ウィンク)。
ずる あ、ウィンクだ。・・・ふぅん(自分のノートを見る)
大石 何?そのノートになんか書いてあるの?
ずる 普段は何を面白いと思って生きてるんですか?
大石 それさっき聞いたやん!
ずる あれ(笑)?
大石 しかも映画の話一切膨らまんやん!
ずる じゃあ何を喜びに生きてるんですか?
大石 え?寝ることです。死にたいまではいかないけど生きていたくないってのがあって、死に一番近い状態って寝てることじゃないですか。だから、寝る。
ずる あ、もう大丈夫です。ありがとうございました。
大石 何やねん(笑)!
大石恵美の平和
みんながあたたかい蒲団(やベット)で寝られること
プロフィール
大石恵美 (写真右)
おおいしえみ◯ダダルズ主宰。
2018年『MからSへ』で旗揚げ。
おもに会話劇を創作している。
HP:dadaruzu.site
X@dadaruzu_net
著者プロフィール
小野寺ずる(写真左)
おのでらずる◯気仙沼生まれの脚本演出、お役者、糞詩人、ド腐れ漫画家。
個人表現研究所・ZURULABO所長。
HP:http://zurulabo.oops.jp
X@zuruart
【漫画連載】日刊SPA!『小野寺ずるのド腐れ漫画帝国』
https://nikkan-spa.jp/spa_comment_people/小野寺ずる?cx_clicks_article=1_backnumber
構成・文・撮影◇小野寺ずる