【ノゾエ征爾の「桜の島の野添酒店」】No.125「陽の当たらない道」

前回、ベトナムの日差しの強さに少しだけ触れたが、東京もなんら変わらないじゃないかと感じる日々である。
歳のせいもあるだろうか、警報の聞きすぎだろうか。いや、実感として、実に暑い。熱い。痛い。
自転車通勤の多い私は、白い長袖を羽織り、ツバの広い麦わら帽子を購入し、首にタオルを巻き、似合わないサングラスをかけて出動する。
そして少しでも多くの日陰を求める。
街路樹のありがたさを痛感する。
街路樹と共に日陰を取り去った中古車販売店の罪の大きさは尚更強まる。
しかし、考えることは皆同じである。
こんなにも不自然に歩行者が片側に寄ることってあるだろうか。
普段はいかに日向な人生を歩もうと志す人々も、この時ばかりは我先にと日陰な道を歩むのだ。
前から来る人を、お互いに一瞬で見定める。
自分より若くてタフそうかどうか。
これはジョーク半分ではあるが、おばちゃんは自分から譲ることはまずしない。それが似合う。申し訳ない。でもそれでO Kです。
高校生くらいまでは、私の方が譲るべきだと思ったりする。
大学生男子くらいになってくると、そっちが譲ってくれと思ったりする。
同年代男性くらいになってくると、先に譲った方が器が大きいぜと思ったりする。
くだらないことで思考を支配されてしまうものなのだ、こうも暑いと。
でも嫌いじゃない。
程度こそあれ、全く暑くない夏よりは、しっかりと暑くなってくれる方が好きだ。
気がついたらお盆だ。
8月の終わりが見えてきているのを急に寂しく感じたりする。

著者プロフィール

ノゾエ征爾
のぞえせいじ○1975年生。脚本家、演出家、俳優。はえぎわ主宰。青山学院大学在学中の1999年に「はえぎわ」を始動。以降全作品の作・演出を手がける。2011年の『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞を受賞。

【次回予定】
・COCOON PRODUCTION 2023
「ガラパコスパコス 〜進化してんのしてないのか〜」
2023年9月10日開幕  @世田谷パブリックシアター、他
脚本・演出:ノゾエ征爾
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/23_galapacospacos.html

▼▼前回の連載記事はこちら▼▼
https://enbutown.com/joho/2023/08/03/nozoe124/

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