観終わってエネルギーをもらえる作品に! 『燃ゆる暗闇にて』 佐奈宏紀インタビュー
スペインの巨匠と謳われる劇作家アントニオ・ブエロ・バリェホが、盲学校を舞台に人と人が起こす化学反応や対立・葛藤を繊細に描き、人間の普遍的なテーマに切り込んだ傑作、『燃ゆる暗闇にて』。1950年に発表されたこの作品が、2023年韓国で戯曲のイメージを覆すほどのロックテイストで、魂の叫びが響く新作ミュージカルとして生まれ出た。
そんな作品が2024年10月に日本初上陸を果たすにあたって、強力なスタッフ、キャストが集結。その一人として、盲目を意識しないという指導により秩序を保っていた学校に、自分自身の真実に向き合うべきだとの信念を持ってやってくるイグナシオ役を、坪倉康晴と共にWキャストで演じる佐奈宏紀が、作品と役柄への深い考察を語ってくれた「えんぶ10月号」のインタビューをご紹介する。
役作りが決してブレないように
──いまの段階で、まず作品に感じている印象から教えて下さい。
まずベースの部分として、これは一筋縄ではいかない作品だと感じました。登場人物のほとんどが盲目なので、動きや表情も自分で作り込まなければいけませんが、その上で作品の持つ独特の雰囲気もしっかり出していく為には、一人ではなくキャスト全体で作っていく空気感が大切になっていくと思います。ですからこれまでに立たせていただいてきた舞台よりも、一層独特なものになるのではないかなと思っています。
──目が見えないという設定自体に、戯曲を書いたバリェホがスペインの歴史背景の暗喩を込めたとも言われていますが、あくまでお話の成り立ちとしては、ひとつの秩序のなかに新しい人が入ってくることによって、ドラマが動くオーソドックスな展開ですが、その新たに登場するイグナシオ役についてはどう考えていますか?
おっしゃる通りで、物語のセオリーとして定番の展開ではあるのですが、そうしたよくある話だからこそ、この作品の持つテーマがよりシンプルに伝わってくると思っていて。その大事なメッセージに大きく関わるのがイグナシオなので、彼から発せられる言葉、単語の一つひとつにまで重みと説得力がある人物にしたいなと思っています。
──辛いことを見ないようにして自分を守るのは、誰しもに経験のあることかなと思いますが、そこにきちんと向き合って前に進むべきだというイグナシオの強さについてはどうですか?
二つ大事だと思っていることがあって、ひとつはこの作品においてイグナシオが保っている正統性、僕は決して正義ではないと思いますが、自分の考えがあくまでも正しいと信じている部分を、まずしっかりと創らなくてはいけないなと。それは俳優・佐奈宏紀としても普段から意識していて、やっぱりこの仕事は色々な人生を生きないといけないので、僕本人が迷いを持っていると、それが結局役に乗ってしまうんです。ですからいつも自分の役作りや、演劇に対する美学みたいなものは絶対にブレないように、その分たくさん勉強して、調べて、自信を持てるようにしているので、そこはイグナシオを演じる上でも大切になるなと。もうひとつは、この物語って決して正義と悪ではなく、イグナシオに対立している側の意見も至極真っ当なんです。読めば読むほど、どちらの意見にも理解が深まって単純にどちらが正解だとは言えない。だからこそどうしても折り合いがつけられないこともある、というのが大事なメッセージなのかなと思っています。僕自身は争うことがとても苦手で、誰かと揉めそうだと思った段階で、そうならないよう会話を重ねる方なので、イグナシオについては気持ちの中でせめぎ合うものもあるのですが、彼も自ら争おうとしている訳ではなく、針ねずみのように武装することで、なんとか己のアイデンティティを保とうしているのではないかと思うので、そこをもっと紐解いていきたいです。喧嘩がしたい人ではないはずなので。
韓国ミュージカルの持つパワーに度肝を抜かれた
──共演者の皆さんについてはどうですか?
カルロスの渡辺碧斗とはミュージカル『テニスの王子様』以来の共演なので、すごく嬉しくて一緒にこの作品と同じ韓国ミュージカルの『ラフへスト〜残されたもの』を観に行ったら本当にいい作品で! 二人で大感激したし、韓国ミュージカルの持つパワーに度肝を抜かれて、結構ビビったんですけど(笑)、この作品に出演する前に二人でそれを感じられたのはすごくいい経験だったと思っています。それからドニャ・ペピータ役の壮一帆さんのラジオに呼んでいただけて、色々お話できたのですが、壮さんも演じる上で感覚に頼りすぎるよりも、理論的に納得がいくまでしっかり研究する方で、すごく楽しく会話させていだたけたので、稽古に入るのを楽しみにしています。Wキャストでイグナシオを演じる坪倉康晴くんとは初共演で、まだお会いできていないのですが、僕は同じ役を別の人が演じる過程を観られて、様々な発見があるWキャストが大好きなので、彼と一緒に同じ人間を創る上でたくさん話し合えたらいいなと思っています。
──また、この作品がミュージカルになることで生まれる魅力は、いまの時点でどんなところだと思いますか?
作品が伝えたいことが、より伝わりやすくなるんじゃないかなと思っています。スペインの戯曲ということもあって、台詞を文字として読むと言い回しや表現が結構オシャレなんですね。それが素敵なところでもあるのですが、役柄が本当に考えていることに理解が追いつかない部分もあって。でも役柄のいまの感情をメロディーラインに乗せて歌うことで、心情がストレートに伝わるんです。やっぱり舞台はその1回しか観にいらっしゃれないお客様もたくさんおられるので、1回の観劇で作品の魅力が伝わるミュージカルという形がすごくいいなと思います。
──お話を伺っていると、作品に対する期待が高まりますが、佐奈さんご自身が俳優として今後叶えたい夢や、ビジョンはありますか?
色々と夢はあるのですが、これ決して媚びている訳ではないんですけど、ずっと「えんぶ」の表紙になるのがひとつの目標としてあって。
──それは嬉しいです! ありがとうございます。
いえ、とてもハードルが高いのはわかっているんですが、三浦宏規や立石俊樹が表紙になったじゃないですか。みんな昔からの仲間なので、僕もちゃんと実績を積んでいつかはと思っています。その為にも一つひとつの舞台を頑張っていきたいです。
──遠からず撮影現場でお会いできたらと思いますが、まずこの作品『燃ゆる暗闇にて』を楽しみにされている方たちにメッセージをお願いします。
一見暗い闇を含んだお話に感じられると思いますが、観終わったあとにエネルギーをもらえる作品になっています。自分ともう一度向き合う為に、また他人と向き合えるようになる、そんなきっかけになる物語を作り上げられるように稽古を重ねていくので、楽しみにしていてください。
【プロフィール】
さなひろき〇愛知県出身。俳優として舞台・映像と幅広い活躍を続けている。主な舞台主演作品に、舞台『銀牙 -流れ星 銀-』『Paradox Live on Stage』など。その他、『最遊記歌劇伝ー外伝ー』、地球ゴージャス三十周年記念公演『儚き光のラプソディ』、映画『アキはハルとご飯が食べたい 2杯目!』など話題作にも出演。さらに作詞・作曲を手掛けた「Natchi/夜風に」でCDデビュー。12月7日には自身の3rdワンマンライブも控えるなど、積極的に音楽活動も行っている。
【公演情報】
ミュージカル『燃ゆる暗闇にて』
In The Burning Darkness
Original Script by Antonio Buero Vallejo
Book & Lyrics by Sung Jong Wan
Music by Kim Eun Young
演出:田中麻衣子
音楽監督:落合崇史
翻訳:吉田衣里
上演台本・訳詞:オノマリコ
出演:渡辺碧斗/佐奈宏紀 坪倉康晴あ(Wキャスト)/
熊谷彩春/コゴン 高槻かなこ/雨宮翔(GENIC) 松村優 菅原りこ
日髙麻鈴/壮一帆
●10/5~13◎サンシャイン劇場
〈公式サイト〉https://musical-moyuru-kurayami.jp/
【取材・文/橘涼香 写真提供/エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ】