ミュージカル『You Know Me~あなたとの旅~』樋口麻美・吉沢梨絵 インタビュー

樋口麻美 吉沢梨絵

二人だからこそ演じられる女性の友情を大切に表現したい!

訳詞家・翻訳家としても大活躍を続ける高橋亜子が、自身の母と生涯に渡って旅を続けた親友との縁をもとに描くオリジナルミュージカル『You Know Me~あなたとの旅~』が11月19日からシアター代官山で上演される。

性格は正反対だが、深く互いを理解し、支え合い、昭和から令和を生きた二人の女性の、高校時代から晩年までを描く物語だ。そんな作品で共に主演を務める樋口麻美と吉沢梨絵が、やはり長い縁を持つ二人ならではの、作品に向けた思いを語り合ってくれた「えんぶ10月号」のインタビューをご紹介する。

ひと言で言えば「エモいなぁ」と 

──お二人共劇団ひまわり出身ということで、シアター代官山での主演公演は感慨深いのでは?

吉沢 本当にそうなんです。麻美ちゃん何歳で入ったんだっけ。

樋口 小学校二年生。

吉沢 私は五、六歳だった、変わってないよね。座席の感じとかそのまま。

樋口 そうなのよ。この間久々に入らせてもらったら涙が溢れてきたの、思い出がありすぎて。そこで梨絵ちゃんと一緒に主演させてもらえるなんて、こみあげてくるものがたくさんあるよね。

──その主演作品『You Know Me~あなたとの旅~』の印象についてはいかがですか?

樋口 高橋亜子さんからまずいくつか題材の候補のお話を伺ったのですが、「これは私の母の話なんですが」と内容をお聞きした時点で涙が止まらなくなったくらい素敵なエピソードで。しかもそれをお子さんの亜子さんがミュージカルとして書かれるということにもグッときました。女性の友情が丁寧に描かれているものって、年齢を重ねるほど染みると言うのか。

吉沢 わかる。みんなそれぞれ境遇も変わってくるじゃない? それでも変わらない絆が、どんなに大切かが響いてくるんだよね。

樋口 そうそう。しかも全く性格の違う対照的な二人が高校生時代に出会って、心を通わせ、支え合って歩んでいく晩年までが描かれているので、どんな世代の人にも届くものになっていると思います。

吉沢 『マンマ・ミーア!』のお稽古で、この曲には死を意識しはじめる年齢だからこその切なさがある、という演出を受けたでしょう? でも、当時はあまりピンと来なくなかった?

樋口 へ~そうなんだ、っていう感じだった!(笑) 

吉沢 そうだよね! それがだんだんわかってくる年齢になって、二人の女性が長い期間の旅路を共にする作品を、お互いにゆかりのある場所で演じられる。自分の人生も全てオーバーラップするような本をいただいたことが、驚きでもあり必然のようでもあって、ひと言で言うならエモいなぁと。

樋口 出会いの全てに感謝だね。

昭和の家庭の常識で悩んでいる人はいまもきっといる

──それぞれ演じる役柄についてはどうですか?

吉沢 私が演じる百合絵さんはとても活発で、自分の中にある種の正義があって、それを信じて突き進める人なので、そこは私自身に似ているかな? と思います。特に、信念を貫き過ぎるが故に見えなくなるものもあることに気づいた時に、ちゃんと反省する。その部分がまるで私の反省文みたいだなと。

樋口 そうなんだ!(笑)

吉沢 そうなの(笑)。でもそういう生命エネルギー、果てしない生き抜く力を持っている人が、麻美ちゃん演じる菜々子さんに出会って、自分でもわかっていなかった自分に足りていない部分、とても大切なピースを得て、人生の深みを与えてもらっていくんです。麻美ちゃんは菜々子さんよりもっとパワフルだと思うけれど、私たちも同じ役を演じることが多かったし、常に麻美ちゃんが先輩だったから、折々にもらう言葉に助けられてきたのね。なかでも私は「上手く歌えますように、踊れますように」といつも考えてしまっていたところに、「役を信じて、自分を信じてやれば大丈夫」というメッセージをくれて。それが演じるとはどういうことなのかの変化になったし、相手の言葉によって人生観が変わるシーンがこの作品のなかにもあるので、自分の実体験も含めてお届けできたらと思います。

樋口 私の演じる菜々子さんは「ザ・昭和」な女の人で。旦那様が絶対で、自分の意見も言えずに虐げられ続ける。芝居で言うと受け身になるのかなと思いますが、そういう女性が百合絵さんとの出会いで変わっていき、手に職をつけて自立の道を探っていくところまでの変化をきちんと出していきたいです。ただ私はこういう女性を演じたことがなくて、強い女ばっかりだったから、大丈夫かなと思うんだけど。

吉沢 でも想像できる気がする。菜々子さんの秘めていたものが、いざ蓋を開けて噴出する時のエネルギーの表現が、麻美ちゃんきっとすごいだろうなって。

樋口 いまだったら男尊女卑と感じられることも、昭和の家庭では常識だったと思うし、気持ちの蓋を開けるか、開けないかのところで悩んでいる方は、いまもきっといらっしゃると思うので、大切に演じたいです。

お芝居の嘘が嘘じゃなくなる

──そんな縁の深いお二人は、お互いの魅力をどう感じていますか?

樋口 とにかく大好きなんです! 梨絵ちゃんの歌も芝居も全部好きで、どうしてこんな表現ができるんだろうと。劇団時代からそうだったんですが、この間『ひめゆり』という舞台に出た時に、梨絵ちゃんの出ている映画の『ひめゆりの塔』を見返したら、彼女のシーンで号泣して。やっぱりこの人天才だと思いました。全部手放してしまえるんですよね。私は考えて、考えてある意味こねくりまわしてしまう方だから、表現がストンと全部飛んでくるのに、毎回感動してワクワクします。だから今回の百合絵さんもどんな表現が出てくるのかすごく楽しみです。

吉沢 恐縮至極でございますが、麻美ちゃんこそね、稽古場で座っただけで魔女役なら魔女だし、少女役なら少女なんです。苦労して悩んで作ったからこそできるようになっていると理解しているけど、もうそこに宇宙ができている、人に非ず感があります。私が一生の財産だと思っているのが、日下武史さんとご一緒させていただけたことなんですが、麻美ちゃんはその日下さんに通じる人間を超えたことができる体になっている。だから、ファンタジーがファンタジーじゃなくなるし、お芝居の嘘が嘘じゃなくなる。そういう世界に持っていってくれる麻美ちゃんとなら、とても近い時代の日本を描いた作品世界を、嘘がなくお届けできるだろうと思っています。

樋口 縁あって関われる人を大切にすることが、ひいては自分も大切にすることなんだ、という思いが詰まった作品を、高橋さんはじめ強力なスタッフ陣と共に、この二人だからこその舞台をお届けできるよう頑張りますので、是非観にいらして下さい!

■PROFILE■
ひぐちあさみ〇東京都出身。劇団ひまわりを経て高校2年生で劇団四季オーディションに合格。1998年『オペラ座の怪人』で初舞台。以降『ライオンキング』『夢から醒めた夢』『アイーダ』『南十字星』『クレイジー・フォー・ユー』『ウェストサイド物語』『ウィキッド』『コーラスライン』『キャッツ』『壁抜け男』『李香蘭』など数々の作品で主要な役を演じた。『マンマ・ミーア!』では、ソフィとその母親ドナ・シェリダン役を演じ、両役を演じた世界初の女優となった。退団後もコンサートやミュージカルなど幅広い活躍を続けている。近年の主な出演作品に『WEST SIDE STORY in STAGE AROUND』『SHOW-ISMS マトリョーシカ』ミュージカル『ジェイミー』『ひめゆり』などがある。

よしざわりえ〇東京都出身。劇団ひまわりに入団後子役として映画、テレビドラマに出演。1997年角松敏生プロデュースでCDデビュー。2002年劇団四季入団。『マンマ・ミーア!』『夢から醒めた夢』『ふたりのロッテ』『赤毛のアン』などで主要な役を演じる。09年退団後は『レディ・ベス』など話題作に出演し、『マザンナ、我が町』で第23回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞。近年の主な出演作品に舞台『りんご』『46番目の密室』ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』などがある。

【公演情報】
オリジナルミュージカル『You Know Me ~あなたとの旅~』
脚本:高橋亜子
音楽:福井小百合
演出:横山清崇
出演:樋口麻美 吉沢梨絵 谷口あかり 小多桜子 吉田純也 東山光明
●11/19〜24◎シアター代官山
https://www.youknowme.jp/

【インタビュー/橘涼香 撮影/中田智章】

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